やりたいことをすべて叶えられるキャリアの歩み方|若手のうちはあえて“修行期間”にしよう

WACUL(ワカル) 取締役 竹本 祐也さん

Yuya Takemoto・京都大学経済学部を卒業後、2008年にゴールドマン・サックス証券に入社。投資調査部において株式アナリストとして鉄鋼業界を担当し、各企業の財務分析や業界分析、株式の投資価値の分析・評価をおこなう。2013年にA.T.カーニーへ入社。マネージャーとなり、メディア・テクノロジー業界を中心に担当。グローバル企業の長期経営戦略および事業戦略の策定、新規事業立案など、数多くのX-Techプロジェクトを手掛ける。2018年にWACUL(ワカル)に入社。コーポレート担当取締役として、シリーズCやIPOなどファイナンスやアライアンス等を牽引している

この記事をシェアする

キャリアの大きな決断では「自分の思い」を最優先に

家族や流行に影響を受けながら、自分らしいキャリアが形成されていきました。

父親の趣味は株式投資。父親は仕事から帰ると、すぐにケーブルテレビの株価情報番組を流していたので、おのずと株式に興味をもつようになりました。中学3年生の時、父親から「そろそろお前も投資をしてみないか」と言われました。「これからこういうことが起こるかもしれない」「それならこの銘柄はどうだろう」と議論するようになり、10〜20万円くらいあったお年玉の貯金を元手に、早くも投資を経験することになったんです。その後、ライブドア事件などもあり、証券会社や経営者、スタートアップなどに強い関心を持つようになりました。

その経験はキャリアにも大きく影響しています。高校生で将来のことを考えたときに、ライブドアの興隆を見たり、ハゲタカというドラマに触れたりしたことで、経営者や投資家に興味をもち、なかでも株式アナリストがかっこいいなと思いました。新聞記事ではあるアナリストが「⚪︎⚪︎社が買いだ 」と言ったからと株価が大きくあがっていたり、年度末には個人名での日経アナリストランキングが発表されていたりなど、個人として活躍していることに惹かれていたんです

大学は、経営者や投資家、株式アナリストなど、どのキャリアにも進めるようにと、京都大学の経済学部に入学。就活の時期になってもそういった想いは変わりませんでしたが、家族の勧めもあり、まずは日系の大企業に就職しようと思いました。

竹本さんからのメッセージ

父親は一般企業の営業で、母親も母方の祖父も公務員だったので、両親は「せっかく京都大学を卒業するなら、寄らば大樹の陰だから、日系の大企業が良いんじゃないか」と。私も最初はそのつもりでしたが、まわりの動向にも流されて、いつしか外資系の企業が気になるようになりました。

外資系企業は早くに採用面接がはじまるとのことで、練習がてら選考を受けてみることにしました。英語でのエントリーシートがいらなかったからという理由でエントリーしたゴールドマン・サックス証券の投資調査部、株式アナリストになれる部門に思いがけず受かったんです。

両親に相談すると、母親はゴールドマン・サックスなど当然知りませんでしたし、外資系企業はリストラがあると聞くので、日系の大手でいいのではないかと反対。父親は母親にも説得しながら「好きなようにしたら良いんじゃないか。もしダメだったとしてもあとから考えたら良い」と言ってくれて、最終的には母親も納得してくれました。

あとは自分の決断のみ。もし内定を承諾したら、他の職種や会社を受けることができないので、プロパーでしか社長になれないような日本の大企業のトップを目指す道は諦めることにもなります。内定を伝える電話で、投資調査部の部長から「アナリストになるなら決断力も大切だ」と言われました。どうするべきか葛藤した末に、思い切ってゴールドマン・サックスで株式アナリストになることを決意し、電話の翌日には内定承諾書へサインをしに、新幹線に飛び乗って東京へ行きました。

家族の意見を参考にしながらも、自分はこれをやりたい! という興味と衝動のもとで、大きな決断と覚悟を持ってキャリアのスタートを切りました。

チャンスの神様には前髪しかない」ということわざがヨーロッパにあるそうです。チャンスは目の前を通り過ぎた後にやっぱり挑戦しようと思っても後ろ髪がないので掴むことはできません。

自分には分不相応とかまだ早いとか感じるような、思いがけないチャンスが目の前に転がってきた時、それを掴む勇気が大切です。家族や周りの人の意見を聞いたからと言って、それに振り回されるのではなく、あくまで参考に留めて、何よりも自分の思いを大切にしてみてくださいね。自分の思いが、その後の原動力になりますから。

若手のうちは“修行”の期間。厳しい環境で仕事の基準値を高めよう

ゴールドマン・サックス証券には、業界のプロフェッショナルや、学びに貪欲で、良い意味で意識が高い人が多かったです。その環境に影響を受け、私も休日はオフィスに赴き、上司の過去のレポートや業績予想モデルからヒントを得て、自分なりに上司の真似事をしていました。担当業界だけれどカバーはしていない上場企業の業績予想モデルを作ってみたり、株価推奨のアイデアをひねりだしてみたりと、積極的な姿勢で仕事に取り組むことができました。

周りからもとめられるレベルもとても高かったので、自然と自分の“当たり前”の基準が引き上げられていたように思います。つい最近、当時の同僚と「もし19時に仕事が終わってしまっていたら何をして過ごせばいいんだろうって、逆に不安になるような思考になっていたよね」なんて話をしていました。

株式アナリストは、お客様の投資の意思決定をサポートする仕事です。自分の投資推奨によって、何億円もの投資が生まれたり、時価総額を何十億円と動かしてしまうこともあります。そのため、とにかくミスが許されない状況で、プレッシャーを感じることもありました。

そんななかでもやりきれたのは、周りに尊敬する人がいたおかげです。「周りの人たちのようにプロフェッショナルになりたい」という一心で、プレッシャーを跳ね除けて努力を続けることができました。完全にその人のようにはなれないにしても、いつも「今の自分に足りないものは何か」を考え、この人からは大局観の掴み方を学んで、あの人からは営業力を学んでと、とことん吸収しようと思っていました

今は修行の期間だ。いつかきっと花開くはず」。そう自分に言い聞かせていましたが、実際に当時の努力があってこそ今の自分がいると思います。新卒1〜3年目にどれだけ高い基準を自分に染み込ませられるかによって、だんだんと複利効果が効くことと相まって、周りとの差が開き、その後のキャリアにもつながるはずです。

竹本さんからのメッセージ

時にはキャリアを客観的に見つめよう。どんな仕事も優秀な人を真似ることが大切

株式アナリストとしてキャリアを積んでいくなかで、大きなターニングポイントが訪れます。

日系証券会社に比べると若いうちに業界の大企業を担当し、チームをまとめる立場にもなり、“学生時代に憧れていた株式アナリスト”になることはできました。しかしシニアアナリストになってみて、この業界で個人として突き抜けられるのか? と考えると、自分にはそこまでの才能はないという現実を突きつけられました。客観的・俯瞰的に見て、自分がトップになれる可能性は低い、そう感じました。そこで、このまま同じ業界で上を目指すのではなく、やりたかったことリストにある、新しい仕事に挑戦することを決めました。

次に選ぶ仕事として、経営者に近づくために、外資系の経営コンサルティング会社に転職。そこでも今までと同様に「周りの優秀な人から何を学べるのか」をずっと考えていましたね。

コンサルティング会社だったので、頭のなかを整理して分かりやすく話す能力に長けている人が多く、特にそこを吸収することができたと思います。周りに憧れる人や尊敬する人がいれば、どんな仕事でも前向きに成長していくことができますよ

また、証券会社の頃は自分の希望する先進性の高い業界の担当にはなれず、あまり興味をもてないレガシーな業界を担当。だからこそ次は自分で仕事を選べるようになろうと、まずは社内で信用や評判を得ていくことを意識しましたね。興味のある先進性の高い分野、デジタル関連のプロジェクトを担当している通信・メディア・テクノロジー担当チームのパートナー達に直談判して、自分を売り込んだのです。

するとそのチームに属するコンサルタントとのある小さなプロジェクトをやりきったことをきっかけとして、最終的にはその通信・メディア・テクノロジー担当チーム所属のマネージャーになることができました。

何者でもない人間が「これをやりたい」なんて騒いだところで「わがままで、めんどくさいやつだな」と思われるのが関の山です。順番は間違えずに、自己主張はあくまで信用や評判を貯めてから、その貯金を使ってすることが大切です

竹本さん流 キャリアのポイント

やりたいことをすべて叶えることもできるマインドとは

コンサルティング業界でマネージャーとしていくつかのプロジェクトをこなしていき、プリンシパル(委託者)、パートナーと更に上を目指していく準備をしようとパートナーから話していただいたタイミングで、これから先のことを考えました。

コンサルティングファームでの生活は順調でしたし、その勢いのままパートナーを目指す道もある一方、やりたかったことリストの他のことに挑戦してみてからでも遅くないかなもしその挑戦に失敗したらまたここに戻ってくればいいじゃないか、と思いました。次は、経営者にチャレンジしてみようとスタートアップに何社か面談をしてみました。

そして、あるAIスタートアップからCOOとして内定をもらって、それを受け入れるかどうか悩んでいた時、大学のゼミの後輩から、後輩自身が代表取締役社長をしているWACUL(ワカル)でCFO(最高債務責任者)を探していると声が掛かり、一歩踏み出してみることにしました。

2018年にWACULに入社し、取締役兼CFOに就任。当社ではAIを活用したマーケティングDX(デジタル・トランスフォーメーション)のプラットフォーム「AIアナリスト」など、マーケティングDXの支援サービスを提供しています。CFOとして、証券会社での経験とコンサルティングファームでの経験という、今までのキャリアで培ってきたことを経営者という立場で活かすことができています。

竹本さんのキャリア変遷

私のキャリアは「やりたいことがたくさんある」という状態からスタートしました。やりたいことがなかったら、自分らしいキャリアを設計することも難しいと思うので、まずは「自分が何に興味があるのか」「どんなことに好奇心が湧いてくるのか」を考えてみてくださいね。ちなみにやりたいことは、「マーケティングをやりたい」というように具体的でも、「人を喜ばせたい」というように抽象的でも大丈夫です。色々な仕事や会社を見て、それが実現できそうならそれでいいんです。

ちなみにやりたいことは何個あっても大丈夫です。ファーストキャリアでは「どの仕事を選んだら良いんだろう……」と悩むかもしれませんが、これから何十年とキャリアを歩んでいくので、将来的にはそのすべてを叶えられる可能性もあります。

私も株式アナリストからはじまり、経営コンサルタントを経て、取締役CFOになりました。まずは1つやりたいことを選んで「他のことも将来できたら良いな」という心持ちでいましょう。

やりたいことを積み重ねていくと、いつしか「個性的な強み」が身に付いていきます。最近では「キャリアには専門性が重要だ」という話もよく聞きますが、これはなにも弁護士や会計士といった職業的な意味合いだけではなく「コミュニケーション能力」や「人を動かす力」、「分かりやすく話す力」なども当てはまります。少しずつで大丈夫なので、自分ならではの強みを増やしていけると良いですね。

就活はありのままの自分で。社会ではとにかく頑張ることから

就活のポイントは、自分をさらけ出すことです。自分を取り繕って選考に受かったとしても、ずっとそのままで働き続けることはできませんよね。どこかで気持ちが折れてしまう、違和感を抱えたままになる、なかなか成果が出せない……と、会社と自分、お互いにとって不幸なことになってしまいます。

そうなるくらいならば、ありのままの自分で就活をして「こんな人間ですが、貴社に合いますか」というマインドで臨んだほうが良いと思います。そのうえで「この学生のようなタイプはうちで活躍する/しない」というのは、企業担当者の方が学生自身が妄想するよりも、ずっと精度高く判断できると思います。とはいえ、企業も学生を選んでいるので、自分の良さや強みをしっかり伝えることも忘れずに。そのうえでご縁がなかった場合は、単純にその会社に合わなかっただけだととらえましょう。

竹本さんからのメッセージ

社会人になったら、まずはとにかく頑張ることですね。憧れの企業に就職したとしても、どれだけ周りの人がスマートに見えても、実際にはみんな泥臭く努力をしているもの。そして、努力をすればするほど、きちんと見返りがあることも伝えておきたいです。それは目先の話ではなく、数年後、数十年後に「仕事が楽しかった」「あのとき頑張って良かった」と思えるということです。

もしかしたら途中で、この仕事に向いていないかもしれない、才能がないかもしれないと感じることもあるかもしれません。一生懸命頑張ったうえでそのように感じたら、思い切って転職するのも良いでしょう。

目の前のことに頭を使いながら泥臭く努力をするときどき俯瞰して自分のキャリアを見つめる。このような意識を持っておくと、自分らしいキャリアが作られていくと思います。

就活やキャリアについて悩んだら、ぜひ気軽に相談をしてほしいです。Twitterで受け付けているので、いつでもメッセージをいただければと思います!

竹本さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:志摩若奈

この記事をシェアする