「大抵のことはなんとかなる」マインドが自分を強くする|色眼鏡で見ず直感と覚悟で突き進もう
USEN ICT Solutions(USEN-NEXT GROUP)(ユウセン アイシーティー ソリューションズ)代表取締役社長 青柳陽一さん
Yoichi Aoyagi・1976年生まれ。1999年大学卒業後、USEN(ユウセン)に入社し有線音楽放送の営業を担当。2001年、新規事業として立ち上がったばかりの通信事業部門に異動しインターネット回線事業の営業に携わる。2009年USENネットワーク営業部部長、2012年USEN ICT事業本部本部長、2016年USEN執行役員・ICT事業部長を経て2017年12月より現職
企業詳細:コーポレートサイト / サービスサイト / 採用サイト(USEN-NEXT GROUP)
「大抵のことはなんとかなる」。震災の経験が自分を強くした
私にとって人生のターニングポイントは出身地の神戸で被災した阪神淡路大震災です。
当時私は高校生だったのですが、同級生の安否も不明で再会時にようやく互いの無事を喜び合うような状況でした。また一夜にして家を失ってしまった家族のことを考えると、大学進学どころではないと思い悩んだこともあります。
大震災の経験を経て、自分の意志や行動に関係なく思い通りにならないことがあると身に沁みてわかりました。一方で「大抵のことはなんとかなる」と思えるようになったことで、人間として強さを手に入れた気がします。
その考えは就職先を決める際にも大いに影響を与えました。
私が就活をした90年代末は就職氷河期で、かなり苦労しました。商科大学だったので、金融系ならリクルーター制度もあり、もう少し簡単に就職できたはずですし、実際に金融系の内定を早々にもらう同級生が少なくありませんでした。
それでも自分は金融系の仕事に就く気持ちになれず、それ以外の可能性を模索し続けてた結果、就活で苦労することに。そんななかで一番最初に内定をくれたのがUSENだったのです。
自分はすぐにでもUSENに入社するつもりだったのですが、当時のUSENは営業の厳しさで知られていたため親戚からも「仕事はかなり大変だぞ」と忠告されました。
それでも仕事である以上は楽しい事ばかりではないし、厳しいことがあるのは当たり前だと覚悟していたので、ためらいはありませんでした。何よりも大震災の経験で得た「大抵のことはなんとかなる」という思いが背中を押し、営業職としてUSENに入社することを決めたのです。
入社後の仕事はたしかにハードでした。主な顧客は飲食店だったので時間が不規則で、営業といってもネクタイを締めてオフィスの応接セットで商談というわけにはいきません。想像していた営業職とはギャップがありましたが、良い同僚や先輩に恵まれ救われた面もあります。
仕事終わりに皆で一緒に飲み歩いたり、仕事も遊びも全力投球。そんなふうに公私ともに時間を共有する仲間の存在が支えでした。仕事以外の時間や休みの日にまで会社の人間と付き合うなんて信じられないという人もいます。しかし私が思うに、休みの日に会いたくないような相手と仕事をする方がよほど嫌な毎日でしょう。
振り返ると、気持ちの良い仲間や頼れる先輩と力を合わせて仕事に取り組めたのは幸運だったと思います。
私自身が彼らにとっての良き仲間であるために意識したことは2つ。「決して弱音を吐かない」「人の悪口を言わない」です。
仲間に恵まれるためには、自分が相応の対応を心がけなくてはならない。それが仲間の信頼を得た理由の1つだったと思っています。
「有言実行」「当たり前のことは当たり前にやる」こそ活躍のカギ
そして入社して2年ほどしたときにキャリアにおけるターニングポイントとなる出来事が訪れます。
USENはもともと有線音楽放送というエンターテインメント事業を展開していたのですが、新たにインターネット回線事業に進出することになり、自分もその事業に加わることができたのです。
実は大学ではインターネットに関する卒論を書いたので、就活時にはインターネット関連の仕事に就きたいという思いもありました。しかしUSENに入社した時点でその思いは封印。一般論として放送事業と通信事業は親和性があるとされていましたが、自分がUSENに入社した当時は、この会社がインターネット関連事業に進出するとは想像していなかったからです。
そのためUSENが新規事業としてインターネット分野に進出すると聞き驚きましたが、「このチャンスを逃すまい」とすぐに手を上げました。
そこからインターネット回線事業の営業を担当することになり、仕事の内容もエンタメ事業から通信事業に大きく変わりました。さらに半年後には法人分野への進出に伴い、法人営業担当をすることに。
法人営業は契約金額も大きく大金を動かす仕事、しかもネクタイを締めて会社を訪問しオフィスで商談する営業です。かつて想像した格好良い営業のイメージにようやく現実が追いついた感じでしたね。
USEN入社後エンタメ事業で営業担当を務め、通信事業に移ってからも個人営業、法人営業に携わり、その後も営業部長、営業本部長、事業部長とずっと営業畑を歩んできました。その経験から、営業職に一番必要なことは「当たり前のことを当たり前にやる」ことだと確信しています。
逆にいえば、当たり前のことを当たり前にやれない人が多いということです。たとえば顧客に「今日中に連絡します」と約束しておきながら連絡しない人が実は多いのです。できないと分かっている約束ならしなければ良いのに、プレッシャーに負けて「今日は無理ですが、明日なら連絡できます」と言い出せず、結果的に相手にも迷惑をかけることになるケースを多く見てきました。
そうした小さな問題の積み重ねが大炎上につながっていきます。「当たり前のことを当たり前にする」。それこそが信頼を獲得し、成果を出すために必要なことだと思いますね。
社会では周囲の評価が自分の評価。活躍したいなら「できること」を重視しよう
自分は営業畑ひと筋でキャリアを歩んできましたが、営業の仕事が好きなわけではありません。むしろ「営業しかできなかった」と表現する方が事実に近いですね。つまり好き嫌いでなく営業に適性があったから結果を出してこられたわけです。逆に営業に適性があるのに、好きではないからという理由で営業を敬遠してしまう人もいます。
私から見ればもったいない話です。やりたいことと、できることは往々にして違うもの。いくら好きでも、自分にできない、向かないことを仕事にしては上手くいくわけがない。
とはいえ自分にできること、向いている仕事を自分で客観的に判断するのは難しいものです。だからこそ、仕事選びに関しては自己評価よりも周りの人の評価に耳を傾けるべきでしょう。
自分の好みがどうであろうと、社会に出れば周りの人々の評価がその人の評価になるので、仕事選びについても自己評価だけで判断するのはあまりおすすめできません。ぜひ「やりたいこと」と「できること」は違うものと心得て、できることベースで仕事を探すのも選択肢として取り入れてほしいですね。
“できるだけ”企業を理解したら「直感」と「覚悟」で突き進もう
会社を選ぶ際、入社後自分が何をするのかイメージできるように、可能な限り調べ上げることもおすすめします。入社後のイメージがつかないまま就職してしまうと「なぜいまこんな作業をしているのか」「なぜこれをしなければならないのか」と疑問が生じ、就職前と後のイメージのギャップに悩むことになりかねません。
できればインターンやアルバイトの経験を通じて、仕事や職場についてある程度イメージできるようにしておくと良いでしょう。また外から会社を見るのではなく、内側から見ることで会社の雰囲気やカルチャーを肌で感じることができます。
職場の雰囲気は会社によって異なり、しかも想像する以上に違いが大きい。各々が自分のデスクで静かにパソコンに向き合う職場もあれば、フリーアドレス制を取り入れ、社員が活発にコミュニケーションを取り合いながら仕事を進める職場もあります。オフィスの立地や社員の服装も違います。何が良くて何が悪いわけではなく、自分が馴染みやすい職場や、自分に合った企業カルチャーのある会社を見極めることが大切なのです。
口コミサイトも参考にはなりますが、口コミはどちらかといえば悪い情報が集まる傾向があります。それよりも、対象となる会社の現役社員の話が聞ければそれが一番。その意味ではOB・OG訪問は有効な手段なので最大限に利用すべきだと思いますね。
とはいえ手を尽くしても分からないことは分からない。分からないことがあると意思決定できないと感じる方もいるかもしれませんが、私から言わせると100%企業を理解できる万能な方法はありません。とりわけ社会経験がない学生の場合であれば、分からないことだらけで当たり前です。
また、すべて納得できるような「正解」が出るのを待っていたら時間がいくらあっても足りません。だからこそどんな会社や仕事も色眼鏡を掛けずにまずは見てみる、調べてみる。そしてある程度の割り切りとともに、最後は20数年間の人生で培われた自分の直感を信じて、覚悟を持って選ぶ姿勢が最も重要になるのです。
社会で活躍するのは「物事を前向きにとらえる人」「希少性の高い人」
どんな人材をもとめるのかは会社によって違います。たとえば学歴フィルターをかける会社は、それが必要なのであって、とやかく嘆いても始まらない。それが嫌ならフィルターがない会社を選ぶしかありません。
ちなみに当社では学歴を含め一切フィルターをかけません。エントリーに必要な情報は名前と連絡先だけ。採用側にとってフィルターなしの選考は大変な作業なのですが、フィルターのせいで優れた人材を逃すマイナス面が大きいと考えています。
変化の激しい現在の社会で活躍できる人材像は一通りではないはずですが、私が考えるに社会に出てからは「物事を前向きに捉えて動ける人」が強いと思います。仕事ですから辛いことにも出くわすし、挫折もあるでしょう。そのときに落ち込んだりマイナス思考で悩んだりするより、辛さも挫折もひとつの経験として前向きに捉える姿勢こそが活躍の原動力です。
就活においてもお見送りになるなど、うまくいかないこともあるでしょう。そんなときも「落ちた」のではなく、「新しい選択の機会をもらえた」くらいに考えるべきです。
そもそもどこに就職するかより、どこにいても何をするか、どうやって活躍するかの方が、キャリア全体を通して見ればよほど大切なことです。
また人材の価値は時代によっても変わります。たとえば昭和のビジネスパーソンは会社内外の多くの局面で我慢を強いられるのが当たり前で、我慢強さがことさら武器になることはありませんでした。
しかし時代が変わり、我慢できる人材自体が減少した現在では、我慢強い人材には希少価値があります。それが良いことか悪いことかは別にして、希少性も評価に含まれるということ。人が嫌がる仕事や、やらない事、できない事に取り組める希少性に価値が生まれるわけです。
色眼鏡で見ないこと。まずは興味のある仕事探しからはじめよう
自分が何をしたいのか。それが会社や仕事選びの基準として重要なのは言うまでもありません。たとえばキャリアを社会的地位や肩書だと捉える人は、名の通った世間体の良い大企業を目指せば良いし、がんがん働き成果を上げる喜びを実感するキャリアを望む人はベンチャーで働くという選択肢もある。要するに自分の気持ちを偽らないことが重要です。
それでも自分のキャリアの未来を見通すことはできないし、世の中の会社や仕事をすべて把握するなんてとても無理な話です。私自身、それなりに社会人として経験を積みビジネスの世界を生き抜いてきましたが、まだまだ知らない会社や仕事に出会って「こんな会社や仕事があったんだ」と刺激を受けることがあります。
たとえば製造業やサービス業で世間に広く知られた会社は数多くありますが、そういった会社を支えている部品会社などの取引先は知名度が低く一般消費者には馴染みがありません。
半導体メーカーは知っていても、半導体を作るための機械を製造しているメーカーはほぼ知られていません。同じように、完成品メーカーが有名でも、そこに素材や原料を供給するメーカーが、業界内で重要な存在であるにもかかわらず就活生の目が届かないことも多くあります。
業界や仕事選びは自分の興味からスタートさせれば良いでしょう。自分がかかわりたい仕事や進みたい業界が決まったら、その分野の有名企業だけでなく、その取引先や関連企業にまで視野を広げてみることをおすすめします。
仕事に対しても会社に対しても色眼鏡を通して見ないことが重要なのです。それができれば、それまで見えていなかった未来に続く新たな道を発見できるでしょう。
取材・執筆:高岸洋行