「ワクワク」は次元を超えた自分の正体|打算ではなく心がもとめるキャリアを選ぼう
メディロム 代表取締役 江口康二さん
Kouji Eguchi・大学卒業後、車の買取・中古車販売会社に入社。同社退職後、2000年にメディロムを設立。リラクゼーションスタジオ「Re.Ra.Ku」(リラク)を中心に全国に314店舗を構える(※2023年5月末時点)。オンデマンド・ダイエットアプリケーション「Lav」や、世界初充電不要の活動量計デバイス「MOTHER」の開発など、ヘルスケア領域で幅広い事業を展開している
子供の頃の「将来の夢」が人生の軸に
「宇宙大航海時代に宇宙開発をしたい」。小学4年生の頃に抱いた将来の夢が、大人になった今もキャリアの原動力となっています。
子供の頃は家庭は裕福ではなく、洋服はほとんどお下がりで、小学生からアルバイトをしていました。そんな幼少時代の私を不憫に思ったのか、小学4年生の時に母親から初めて誕生日プレゼントをもらいました。
それは白くて美しい天体望遠鏡でした。裕福ではないが、想像力と夢を持つ時間はたっぷりあり、望遠鏡で星を見ては「宇宙の果てはどこなんだろう」「その果ての向こう側には何があるんだろう」と思いを馳せていましたね。
多くの人が1度は同じことを考えたことがあるかもしれませんが、大人になるにつれて深い考察を忘れ、目に見えないものは信じなくなりますよね。ただ私の場合はその時の疑問が、宇宙開発をしたいという夢になり、今もなお追いかけています。
世界では宇宙大航海時代が幕を開けました。航空宇宙企業のブルーオリジンやスペースXなどを筆頭に、今まで国家でしかできなかった宇宙開発が民間に移っていて、誰でもできる時代へと変わっているのです。
最終ゴールを決めて逆算すれば人生の選択に迷いにくい
人間、夢や目標がないと道に迷い、無意味な時間を過ごしてしまいます。よく言われることかもしれませんが、まずはゴールを定め、それを叶えるよう選択していけば人生の選択に悩む機会は減るのではないのではないでしょうか。
私の場合、宇宙開発の夢から逆算し、高校や大学は物理学や資源学などを学べる学校に進学し、ファーストキャリアでは事業の経営ノウハウを学べるベンチャー企業に就職。JAXAや研究職などの道も考えましたが、宇宙開発を決定できる権限を持つまでには何十年と時間がかかるので、宇宙開発に投資する力をいち早く持てるよう自分で事業を立ち上げることに決めました。
ベンチャー企業を離職後はヘルスケア事業の会社メディロムを立ち上げましたが、これも「宇宙開発の投資に必要な資産を確保したい」という思いから、グローバル展開でき、かつ未だ成長の余地があった事業に着目したという経緯があります。
会社は劣悪な環境にもかかわらず胸の高鳴りを感じた
自分の中でファーストキャリアはベンチャー企業に行くということは決めていて、その他のこだわりはありませんでした。大学4年生の9月まで一切就活をせず、教授から促されて、求人広告が並んだ本で目に付いたベンチャー企業を受けました。
現在はベンチャー企業でも巨大な資本を持つ会社は多々ありますが、当時のベンチャーは零細企業(わずかな資本や設備で運営する企業)であり、どこも人手不足。面接のために会社に行くと、オフィスは狭く、壁はたばこのヤニで汚れ、部屋に入ると社員がにらみつけてくるような環境でした。
しかし、なぜか心がとてもワクワクしたのです。なぜ胸が高鳴ったのか、その理由はわかりません。でも、この環境を選んで悔いはないだろうと直感しました。
「私がこの会社を大きくします」。面接でそう言い放ったところ、面接官はとても驚いていました。(笑) しかしその後、「ぜひ江口さんと働きたい」と連絡をいただき、無事就活を1日で終えました。
心の声を無視したキャリアは続かない
このような経緯で入社した会社ですが、結局5年在籍していました。もちろんつらい経験も失敗もたくさんありましたが、今振り返ってみると、「心の声」に従った選択をして良かったと思っています。
入社のきっかけとなった「心の声」は、言葉では説明できない次元を超えた我々の正体で、これを無視した選択はいずれ後悔するのではないかと思います。
たとえば「給料が良いから」「福利厚生が充実しているから」などと条件で選んだ会社は、仕事そのものに関心を持てず、前向きに取り組めなくなり、続けることが難しいでしょう。条件で選んだ恋愛は続かないように、会社も条件で選ぶべきではないと思うのです。
「ワクワクすることなんて見つからない」と思う人もいるかもしれません。その場合は、まず大分類で「大企業でじっくり成長するキャリアを歩む」もしくは「ベンチャー企業で冒険をする」のどちらがワクワクするか考えてみてください。
大企業などでは先輩たちがすでに答えを持っていて、その通りに仕事をすれば満点を取れるケースが多くあります。ただ、やることが決まっている環境は、言い換えればイノベーションが起きにくい状況とも言えます。私の場合は正解が決まっている仕事に面白味を感じられなかったので、ベンチャー企業が合っていました。
もちろん大企業の形態が好きでワクワクするという人もいるでしょう。それはそれでまったく問題ないと思いますよ。
そのうえで、好きなことを考えてみることも大切です。たとえばTikTokに夢中になって何時間も見てしまうというのであればWebマーケティングの会社、ヘルスケアが好きで貢献したいなら自社が良いかもしれませんね。
模倣からはイノベーションは生まれない
日本の教育では暗記能力をテスト化し、正しい答えを覚えられたら「秀才」とされます。しかし、これは産業革命時代の、正解の真似が満点とされる労働集約型モデルと同じで、工場でモノづくりをする人を育てるための教育と似ています。
一方アメリカやインドなどの世界の教育は、問題解決能力やプロセス管理を鍛えるプログラムになっていて、ディスカッションやディベートなどを中心に頭を使って何かを生み出す教育にシフトされています。
この教育の違いにより、日本は後れを取り、今は身の回りの多くの製品やサービスがアメリカや中国産になってしまっています。
今世界で競争力を持つためには、教えてもらったことを真似するのではなく、自分の頭で解決できる、世界の教育体系と通ずる環境に身を置くことが良いと考えます。
自分の頭で考える環境としては、個人的にはベンチャー企業がおすすめです。ベンチャー企業は制度などが整っていないことが多いですが、その分いくらでもやりようがあり、イノベーションを作り出しやすいのです。
キャリアの原理原則は「石の上にも三年」
キャリアを成功させたいと思うなら、いつの時代も原理原則は同じなので、先人の教えを参考にしましょう。私も若い時に先輩たちによく言われていたのは「石の上にも三年」ということわざ。居づらい環境でも3年いれば見えてくる世界観があるという意味です。
当時はそれを聞いても「今はITの時代だよ。ぱっと稼いでどーんといくから」と反発していましたが、そう教えてくれた人と年齢が近づき、また同世代の人たちの昔と今のキャリアを見比べてみると、やっとその言葉の意味がわかりました。
最初に入った会社は、社員の人柄は良いとは言えず、仕事もトラブルやクレーム続きで人が次々に退職していきましたが、辞めていった人は大成しておらず、逆に3年以上残っていた人は、後に会社を上場させたりキャリアで成功しているように感じます。
1社目に5年在籍していた私も、後にメディロムをNASDAQに上場させました。自身の経験からも、キャリアを成功させるには嫌なことに向き合い、耐える力が必要だと思います。
問題を因数分解して大きなものから解決していこう
給料、福利厚生、仕事の難易度、人間関係など、すべてが自分の希望通りの会社はありません。不満があればそれに飛び込んでいって、何が原因でどうしたら解決できるのか、問題を因数分解して当たっていく勇気を持ち、ベストマッチ度を上げていくしかないのです。これはどの会社や仕事でも同じことです。
ただそこで、大きい問題からは目を背けて、小さい問題から少しずつ直そうとする人が多いのではないでしょうか。
しかし、まずは一番大きな問題から片づけることをおすすめします。他の問題はそれ以下ですから、一番大きい問題を片付けられれば精神衛生も良くなります。嫌なことは毎週・毎月起こるので、その都度問題を大きい順に並べて対処していきましょう。
忍耐力は自分でコントロールできる力で、誰でも鍛えられます。嫌なことがあって辞めるのは、一番簡単な出口です。でも、それはもはや何者にもならないという選択をしてしまっているのではないでしょうか。
もし転職したとしても、「自分が甘かったな」と考えられれば良いと思います。中心戦力になるなら、選んだ道を自分で正解にできるように3年以上頑張ってみてください。
今までもこれからも、忍耐力は最も大切な力になるでしょう。
人に与える体験価値が幸福をつくる
もう一つ、大切にしているのは、自社のクレド(従業員が守るべき信条や行動指針)でもある「ForYou精神」です。
皆さんは、人にプレゼントをしたときとプレゼントをされたとき、どちらの思い出が強く残っていますか。多くの人は、人にプレゼントをしたときではないでしょうか。「喜んでくれた」という経験、つまり体験価値は永遠に残ります。「For you」と「For me」では、「For you」の方が幸福度が永続的で高いのは明確です。
私の将来の目標は、宇宙空間に製薬工場を建設することです。
地球上で製薬を生成しようとすると重力と自転の影響を受けますが、それらの影響を受けない宇宙で製薬を作ることで、がんやアトピー、アルツハイマーなど難病への特効薬を作れる可能性が非常に高くなると言われています。
宇宙資源を使った産業は、観光などいくつかありますが、これらは限られた富裕層の人にしかアプローチできません。しかし、本当に助けを必要としている多くの人のためにならなければ意味がありませんし、それが私の使命だと感じています。製薬業であれば、多くの人を救えるのです。
自分のメリットを優先するのではなく、他者のために何ができるかを考えたり、他者の助けをすることが、結局は自分の幸せになると思っています。仕事でも私生活でも、人に与える体験価値を増やすよう物事に取り組むと良いのではないでしょうか。
取材・執筆:赤松真奈実