今ある興味が10年後も同じとは限らない|個性を活かせる会社で「将来やりたいことが実現できる力」を養おう

CyberOwl(サイバーアウル)代表取締役社長 田中 啓太さん

CyberOwl(サイバーアウル)代表取締役社長 田中 啓太さん

Keita Tanaka・大学卒業後、2012年にサイバーエージェントに入社。新卒1年目にサイバーエージェントグループ全体、インターネット広告事業本部内のそれぞれで最優秀新人賞を受賞。同年10月にインターネット広告事業本部のマネージャーに昇格した後、11月にグループ子会社であるCyberSS(サイバーエスエス)(現:CyberOwl〔サイバーアウル〕)の代表取締役社長に就任、以降現職

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「若いうちからなりたい自分になるために努力を惜しまない」。内定先の先輩との出会いが人生を変えた

キャリアにおける最初のターニングポイントは、サイバーエージェントに入社したことです。

学生時代はサークルや社会人チームに所属し、大好きな野球ばかりをやっていました。体力には自信があったので、当時は公務員試験を受けて、消防士にでもなろうかという程度に将来のことを考えていました。消防士の野球リーグがあると知り、仕事しながら野球ができるなら最高だなと思ったことが理由です。

そのため就職活動に対するアンテナは低かったのですが、周りが就職活動を始めるなかで「(あなたも)やってみたら? 」と友人に言われ、年収順のランキングで上の方にあったサイバーエージェントを一番最初に受けてみることに。そして運良く内定をいただいたのです。 

内定後の7月からは、週に5日の頻度で内定者アルバイトをすることに。この時期に新人トレーナーだった3歳上の先輩に出会えたことが、仕事に対する意識が変わる大きなきっかけになりました。

ある日、先輩にサイバーに入ってどうなりたいのかと聞かれ、私は「4〜5年後に役職者になることができたら良いですかねぇ」と適当に答えてしまいました。すると先輩は「そんな感じなら、今すぐサイバーはやめて大企業に行ったら? 」とひと言。1年目からでも役職に就ける会社にいるのに、そんな志でいいのか。本当にどうなりたいのか考えろよという叱咤激励の言葉だと理解しました

その日から毎日お風呂で20分間、真剣に将来を考えてみました。そこで見えてきたのが「自分の責任で取り組める仕事がしたい」という気持ちでした。誰かに指示されてやるのではなく、自分がやる気になったときに思いきり仕事をしたい性格なので、社長という目標がベストではないかという結論に至ったのです。

そして先輩に「1年目で社長になりたいです! 」と伝えに行くと良いねと受け止めてくれ、そのためにはどんなマインドでいるべきかなどのアドバイスも授けてくれました。先輩は毒舌キャラで社内でも有名な方でしたが(笑)、私はその厳しい口調がまったく気にならず、だからこそ厳しい環境でも頑張ることができ、1年目から社長に就くことができたのだと思っています。

先輩に出会い、若いうちからなりたい自分になるために努力を惜しまないこと。そうすれば、なりたい自分になれるということを教えてもらえた点で、サイバーエージェントに入ったことは大きなターニングポイントだったと思います。

無理してやりたいことを探すより、やりたいことができたときに実現できる力を身に着けよう

学生時代の私はITや広告業界に興味があったわけでもなく、サイバーエージェントに受かった理由は自分でもよくわかりません。 ただ1つだけ挙げるならば、構えることなく、自分の素の状態で面接に臨めたことは良かったのかなと思います。

採用をする側になってよく思うことですが、自分を取り繕っていない人には自然と目が向きます。事前に準備してきたような話を聞いていても、あまりその人の本性が見えてきません。趣味や友達関係の話などを唐突に振ってみると、そこで素の人間性が見えてくることが多いですね。

取ってつけたような目標や憧れを語る必要もないと思います。昨日までサークルの活動のことばかり考えていたのに、突然スーツを着て「御社の事業に興味があります! 」なんて言っても、説得力は出ないからです。

例外はもちろんあります。たとえば中学時代から格闘技の熱烈なファンで、「AmebaTVに入って格闘技チャンネルを変えたいです! 」というくらいの筋金入りの憧れならば別ですが、そういうものがないときは、無理やり憧れを作ったり、やりたいことを探したりする必要はないと個人的には思っています。

田中さんからのメッセージ

やりたいことが明確でないなら、やりたいことが出てきたときにやれる人間になっていればいいだけです。今ちょっと好きなものがあっても「10年後もずっと興味があるか? 」「それが人生かけてやりたいことなのか? 」と問われたら、自信を持ってハイと言えない人は少なくないはず。無理に考えた目標で未来を決めつけず、自分を取り繕わずに就職活動に臨むことをおすすめします

こんなふうに言うのは、自分自身もまだ「人生をかけてやりたいこと」が見えていないからです。今の仕事には大いにおもしろみや楽しさを感じていますし、その時々でやりたい事業はありますが、その興味が10〜20年続くかどうかは自分でもわかりません。人生で一番長くやってきたのは野球なので、球団社長をやってみたいなとは思ってますね(笑)。

でもその野球ですら、兄がやっていたからなんとなく始めただけで、兄がバスケットボールをやっていたら、自分のやりたいことはバスケットボールの仕事だったかもしれません。興味を持つきっかけなど、その程度の些細なこと。結果的に長くやっていたから自分はこれが好きなのだな、やりたいことなのだなと自覚するに至っています。

今この時点で興味があるのは、教育の領域です。子どもが夢を持てる国にするためにできることをやっていきたいと考えていますが、これが本当に人生をかけて心を動かされ続ける事業なのかどうかは、これから次第だと思っています。

「個性を受け入れてくれる会社」かどうか。一生懸命さこそ周りから応援される秘訣

私が採用時に重視しているのは人間性です。わかりやすく言うならば、にじみ出る“いいやつ”感があるかどうか。「素直だな、気持ちがいいやつだな」と思える人だと興味が湧きますね。仕事で成功するには周りの人に応援されることが必要なので、人間的な魅力がある人と一緒に働きたいというのが私の持論です。

周りに応援される人の必要条件は、とにかく一生懸命やっていることだと思います。スキルが足りなくてもいいので、目の前の課題に対してなんとかしようと一生懸命に頑張っている人は、周りから手を差し伸べてもらえることが多い気がします。

ただし、上司の前でだけ頑張っているふりをするのでは意味がありません。野球でたとえるなら、監督の前だけで素振りをするのではなく、本番の試合で力を出すために人の見えないところで適切な努力ができるかどうか。

そうした陰の努力は、不思議とにじみ出てくるものです。リモートワークになって普段の姿が見えなくなっても、会議資料などのアウトプットを見ると一生懸命に向き合ってくれたのだなということはちゃんと伝わってきます。

そんなふうに自分の人生のリソースを使って仕事に向き合ってくれている社員を見ると、成果を出して評価されてほしいし、給料もたくさんもらってほしい、幸せになってほしいという思いが強くなりますね。

「会社との相性」を考えるときのポイント

また就職活動では、企業との相性も重要です。ポイントは自分が調べた中で入りたいと思った会社ではなく、面接や面談、インターンなどを通して「自分の個性を受け入れてくれる会社」を選ぶことだと思います。

どんなに自分がこの会社が好きなんだと思いながら前向きに頑張っても、その会社の文化や、その文化に馴染んでる人たちと考えが合わない可能性もあります。こういったときはどうしても成果が出づらいです。一方、自分の個性やスタイルが会社の文化とマッチしていると働きやすく周りからの協力も得やすいので若いうちに成果が出る可能性が高くなります。 

素の自分で面接に臨んで落ちたならば、落ち込む必要は一切ありません。それは単に、その会社の風土と合っていなかっただけ。世の中にはいくらでも仕事がありますし、会社も無数にあります。日本の会社に合わないならば、海外に飛び出したって構わないわけです。ぜひ自分の個性を受け入れてくれる会社を探し出してみてください。

𠮟咤激励で目が覚めた。自分で決断したことの「失敗」は「成功」よりも得るものが大きい

CyberOwl(サイバーアウル)代表取締役社長 田中 啓太さん

私の話に戻りますが、内定者時代に社長になると決めてからは、決めたことはやり遂げたい性格ということもあり、ものすごい勢いでアルバイトを頑張りました。入社後もその勢いを止めずにガンガン仕事をして、1年目で新人賞を獲得。そして1年目の終わりに子会社の経営にチャレンジしてみるかと上層部に打診をいただいた会社が、当社CyberSS(現:CyberOwl )です。チャンスを逃すまいと「やります! 」と即答して今に至ります

23歳にして経営にチャレンジすることになったわけですが、最初の2年ほどは黒字化はできているものの、事業は“鳴かず飛ばず”という状態でした。

創業3年目に金融メディア事業をスタートし、ここで初めて事業戦略を真剣に立ててみることに。今リスクを取らないとリターンもないだろうと判断し、3億円を投資して10億円の利益を得る計画を立てたのですが、実際には半年間で5億円以上使ってしまったのです。赤字が膨らみ、またその金額の大きさにも萎縮してしまい、かなり弱気な心境になっていました。

その状況をサイバーエージェント本体の投資委員会で説明し、今後どうするのかを問われたとき、私は先輩がこう言っていたから、こうしていくのがいいのではないかと説明しました。すると取締役の中山豪氏から「社長は誰なの? 」という言葉が飛んできたのです。投資育成事業の一環でチャレンジさせてもらっていたことなので、「事業の成功はもちろん大事だが、自分たちはお前の成長のためにお金を使っているのだから、お前が自分で決めろ」といった趣旨のことを伝えられました。

そこで私は目が覚め、社長としてやっていく一段上の覚悟が決まりました。この決心ができたことが、キャリアにおける2つ目のターニングポイントです。

そこからは自分がやるべきこと、社内に任せることをはっきりさせ、目の前の仕事を着々とやり遂げることで、半年強の短期決戦でマーケットNo. 1のメディアに成長させることができました。

今は部下たちが悩んでいる話を聞く立場になったのでよくわかるのですが、逃げ腰なマインドは会話の節々に表れます。私も赤字に悩んでいた頃、いろいろ考えすぎて頭の中がぐちゃぐちゃになり、丁寧に言い訳をしながら逃げ道を作っていました。

自分がラクになれそうな解決策もいくつか提案いただいていたので、ラクな案に逃げてしまいたい気持ちもあったのは事実ですが、そんな自分にハッパをかけてくれた中山さんには心から感謝しています。

チャンスをもらって挑戦させてもらっているなら、ビビるな、逃げるな」というメッセージは、本当に私のためを考えてくれているからこその激励だったと思っています。

田中さんのキャリアにおけるターニングポイント

この経験から学生の人に伝えたいのは、自分で決めることの大切さです。

誰かに言われたとおりにして成功させるより、自分で決めて失敗したほうが、はるかに多くのことを学べます。それがわかっているので、私も社員から答えをもとめられたときはおそらくAだろうと思っても、あえて言わないようにしています。

指示を出すべきときには出しますが、育成においては、本人が100%考え抜いてBだと決めたならば、ギリギリまでその成り行きを見守ります。もしかしたらBで成功するかもしれませんし、仮に失敗したとしても「次はああいう決め方をしないでおこう」という貴重な学びを得てほしいと思っています。

就職活動でも「〇〇にこう言われたからA社にした」といった決断をしないことは、とても大事だと思います。自分の軸を見失い迷路に入ってしまう瞬間もあるでしょうが、安易にラクな選択肢に逃げず、最後は自分で決断することを大事にしてください

本当に自分を思ってくれている人は誰か? 厳しい言葉にこそ愛情がある

直近のターニングポイントは、2019年に社名を変えたタイミングです。当時の私は事業が軌道に乗ったことで少し調子に乗ってしまい、誰も何も言ってくれない腫れ物のような状態に陥っていました。

そこで「俺は見逃さないからな」と言って、次の目標に引き上げてくれたのがサイバーエージェント本体の副社長・岡本保朗氏です。ポテンシャルがあるのに、今のままじゃもったいないと声をかけてくださり、気合と根性だけでやっていた私に、トップとしてのスタンス、経営やマネジメントのテクニックなどをすべて教えてくださいました。

一番感銘を受けたのは「社長が目指すところ次第で、会社のサイズは決まる」というアドバイスです。普通に聞くと当たり前のことなのですが、経営をずっとしてると見失いがちなことを心に刻み込んでもらったような感覚でした。時間を使ってさまざまな話をして、一旦できるわけがないと思うような目標を掲げて、信じてやってみようという話にまとまりました。当時の50倍もの営業利益規模を目標にしたのですが、3年経った今、その目標の半分(25倍)にまで到達できています。

私もそうでしたが、若くて知識がない頃は、どんなアドバイスも正しく聞こえてしまうもの。周りの情報や意見を鵜呑みにしてしまうこともあるでしょう。就職活動もそのような状況に陥りやすいタイミングだと思いますが、そんなときは「本当に自分のことを考えてくれているのは誰だろう? 」と一度立ち止まってみてください。

情報を精査し、本当に自分のことを考えている人の声に気づくことも、良いキャリアを歩んでいくために大事なポイントだと思います。

田中さんからのアドバイス

これからは「どれだけ社員の皆と大きな目標を目指せるか」というビジョンを追いかけていきたいです。

経営で一番大事なのは、社員のエネルギーを元気玉みたいに集め、皆の力をひとつに合わせること。そのためにはトップの人間がこれをやっていればこうなるという目標を、できる限りシンプルに提示し、風通しの良い状態を作ることが必要です。上述した岡本副社長にも「取り組むべきことは多くあるが、ここに注力すれば突破口になる」という優先順位を示せるかが重要だよと教わりました。

そのためには、私自身が事業のポイントをしっかり整理できている必要があります。以前は手を広げすぎてコントロールできなくなっていた部分もあったので、しっかり整理して絞って取り組むようにしたところ、毎年急成長を遂げることができるようになりました。

20代の頃はメディアで取り上げられるようなすごい経営者になりたいといったモチベーションもありましたが、今は「すごいことをやっていれば、評判は自ずと付いてくる」と思えるようになりました。自分のことよりも、若手社員たちが成長して仕事が楽しいと言ってくれる瞬間に、何よりのキャリアの充実感がありますね。

田中さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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