「いろいろなことを経験できる会社」で発想力を養おう|時代の変化に乗り遅れないキャリアの描き方
Bosque(ボスク) 代表取締役 熊取 祐介さん
Yusuke Kumatori・大学卒業後に2年間の留学を経験し、海外への興味が開花。帰国後は自動車整備士などの仕事を経験するも「再び海外に行けるような生活」を目指し、自分らしいキャリアを模索するなかで自宅で副業をスタート。2013年1月、28歳の折に正式に個人事業主となり、2015年11月にBosque(ボスク)を創業、以降現職。現在はWebメディア事業、Web広告事業を中心に、ECでの物販事業なども手掛ける
「たくさん海外に行きたい」その思いをかなえるために独り立ちを目指した
キャリアにおける最初のターニングポイントは、大学卒業後オーストラリアにワーキングホリデーに出かけたことです。
学生時代はアルバイトを掛け持ちして忙しく過ごし、学業に対しては「単位と卒業資格を取れればいい」程度に考えていた一般的な学生でした。しかし大学3〜4年生になっても働くことに興味を持てず、「就職までに時間が欲しい」と思ったことから、海外に出てみることにしました。海外渡航の経験は子どもの頃以来なかったのですが、周りに海外に出かける人が多く、話を聞いて興味を持ったのがきっかけです。
実際に出かけてみると、言葉、文化、生活習慣など何もかも違う環境に毎日ワクワクする日々でした。ずっと農園で働いていたのですが、2年間、本当に楽しかったです。スーパーマーケットに行くだけでも新鮮な発見がありましたし、英語力を完璧に磨けたわけではなかったですが、現地の人たちとの交流も楽しかったです。休暇にはバックパッカーとしていろいろな土地にも足を運び、世界中のさまざまな人に出会うことができました。
そうして「もっと他の国も見てみたい」という興味が開花し、そのためにお金を稼ごうという思いを固めて帰国をしました。
お金を貯めるため、帰国後は自動車の整備士見習いとして働き始めました。1年半やってみて、他の会社にも誘われるくらいには成長したのですが、「ずっとこの仕事をやっていても海外に行けるようなお金や時間を捻出できない」と感じるように。思い描いていたキャリアとのギャップを感じて、鬱々してしまった時期もあります。このままこの仕事を続けていたら、自分ではなくなってしまうと危機感を覚えました。
その状況を変えるため、何か自分の力でやれる仕事はないかと模索するように。両親に実家に帰らせてくれと頼み込み、アルバイトをしながら自分で副業を始めることにしました。
起業からキャリア観が一転! 仕事が「人生で一番おもしろいもの」に変わった
当時はちょうど成果報酬型広告のビジネスモデルが流行り始めた時期。副業を始めたタイミングも良かったこともあり、しばらくして月10万円ほどを稼げるようになりました。
さらに規模を拡大させるためには、記事の量やドメインの数を圧倒的に増やす必要があったのですが、月10万円の利益では十分な投資ができません。母親に「このビジネスを伸ばせる予感があるので、お金を貸してください」と頭を下げ、予算を投入しながらの規模拡大を目指しました。
たまたま利益率が良い業界だったこと、その事業に取り組んだ時期が良かったこともありますが、20代後半のこの時期が、人生で一番頑張った時期と言えるかもしれません。事業を順調に成長させることができ、帰国から5年ほど経った頃には、個人事業主としてこの事業一本でやれる目処が立ちました。その2年半後には、法人化も果たしています。
自分でも驚いたことですが、自分の会社を起業してからは「海外に行くより、会社をやるほうがおもしろいかもしれない」と思うようになりました。価値観が変化したという点で、ここがキャリアにおける2つ目のターニングポイントです。
会社をやっていると、事業を通じていろいろな人に会うことができます。海外に行くのが好きなのは「いろいろな人に出会えること」が一番の理由だったのですが、「日本のなかでも、おもしろい人にたくさん出会えるのだな」と発見しましたね。
海外への興味がなくなったわけではないのですが、人生の一番の目標ではなくなったということかと思います。会社が軌道に乗ってからは毎年2週間ほど海外に出かけており、旅行として楽しんでいます。
「新しいものを斜めから見ていたら、時代に乗り遅れる」と学んだ
自分の会社を立ち上げてから現在までの間に、一度だけモチベーションを失ってしまった時期があります。
割と最近のことですが、それまでやっていた事業のやり方が通用しなくなってきたことが理由です。Webの世界はトレンドの移り変わりが非常に早く、また後から規制やルールができる世界なので、それまでのビジネスモデルが突然成り立たなくなることがあります。そういった状況に陥ってどうすればいいかと、仕事への意欲が半減していました。
しかしいざ仕事をやらなくなると「やることがない。人生がおもしろくないな」と痛感。そこから「もう一回ちゃんと仕事に取り組んでみよう」と決心し、改めて目標を掲げました。再び仕事を楽しめるようになって現在に至ります。
以前はお金を稼ぐことが一番の目的でしたが、仕事は人生をおもしろくするために必要なものだと気づけたことは、キャリアにおける3つ目のターニングポイントです。
うまくいかなくなった理由も、落ち着いて分析してみました。一番の反省点は、SNSのトレンドに半信半疑で乗っからなかったこと。それまでSEOの領域で売上を作ってきましたが、今やSNSは広告手段としても見逃せない存在になっています。こんなに伸びてくるとは予想できず、手をつけるのが遅かったことで、市場のニーズに乗り遅れてしまいました。
この反省から「新しいことが出てきたら否定しないで、まずは乗っかってみよう」という教訓を得ています。
「こんなもの流行るわけがない」と斜めから見ていると、あっという間に時代から取り残されてしまうリスクがあるからです。最近でいえばAIの領域にも、早めに手を付けていろいろ試してみています。売上を立てるためにはAIの能力はまだまだ不十分だと感じますが、今のうちにあれこれ触っておくことは先々必ず役立つだろうと考えています。
新しいものに対して否定的にならないことは、どんな業界を選ぶにしろ、重要なスタンスだと思います。IT・Web業界は特にこの傾向が顕著ですが、デジタルの影響を受けない業界は今やないに等しいです。
「これから流れが来る」と言われている新しい分野や世の中で注目されているものには、学生のうちから積極的に目を向ける習慣を身につけておくのがおすすめです。
そして変化の速い社会を生き抜くためには「常識も世論も自分の考え方も、時代によって180度変わる可能性がある」という前提で物事を考えておいたほうが良い気がします。柔軟に物事を見たり考えたりできる人材に成長すると、時代に乗り遅れるリスクを減らせると思いますね。
「スピード」が最重要な産業もあれば、「質」が重要な産業もある
これから実現したいビジョンは、尖った能力がある方を積極的に雇用して活躍してもらい、強い組織を作ることです。
「なんでもバランス良くできる人を目指さなくていい」というのが私の持論。器用な人も組織には必要ですが、そういう人中心というよりは、1つ2つ得意なことだけが突き抜けている人たちを集め、その強みを上手に活かせる会社を作りたいと考えています。
たとえばコミュニケーション能力はどんな仕事でも必要だと言われることが多いですが、当社では必須ではありません。文章を書くのはものすごく上手だけど、コミュニケーションが苦手という人でも全然構わないと思っています。得意な分野を尖らせている人が多いと感じるハンディキャップを抱えた方々の採用も、積極的に採用を続けています。
私自身も、割とそういう気質があるほうだと自覚しています。リサーチなどの得意な仕事をやっているときに一番の充実感がありますし、そこに自分のエネルギーを全振りしたい思いがありますね。苦手とする事務的な実務作業に関しては、得意な人にお願いしようと考えています。
意思決定に関しては「考え抜く」よりも「とりあえず行動する」という姿勢を大事にしています。具体的には「まずは7割の完成形で良いから、マーケットに投げてみる」という考え方を大切にしています。
私がやっているWebメディアやSNS支援、EC事業に関しては、スピードが最重要だからです。修正もすぐに反映できるので、まずは世の中に投げてみて、ニーズがあるとわかってから改善に取り組むという順番を意識しています。一旦マーケットに投げてみると口コミやレビューなどからデータを取れるので、改善すべきポイントも掴みやすいです。
ただ、この考え方がフィットするかどうかは、業界によって違います。最初から100%の質にこだわることが重要な産業もある気がしますね。たとえば飲食店などは、最初から100%だと思える自信作を提供しなければ、1回の試食でお客様の足が遠のき、その事業を維持できなくなる気がします。
学生の人たちの中にも、私のように「トレンドに敏感になり、スピード感を持ってマーケットにかかわりたい」という人もいれば、「普遍的に良いものを追求し、質にこだわったモノづくりをしたい」という人もいるのではないでしょうか。性格的な相性から、向いている業界や企業を探してみるのも1つの観点かと思います。
「人を大切にする会社「興味の幅を広げられる会社」」に注目してみよう
これから就職活動に臨む人におすすめしたい良い会社の条件は、2つあります。
1つは、「人を大切にする会社」です。
あくまで私の意見ですが、業績が伸びる会社や成長する会社の条件は、社員や協働する人の人生や時間を尊重する意識がある会社です。社員を大切にしている会社かどうかは、いろいろな手段でリサーチできる時代なので、ぜひよく調べてみてください。
社員個人のプロフィールもかなり公開されていますし、連絡手段は探そうと思えばいくらでもあるので、強く興味を持ったら直接アプローチしてみても良いと思いますね。募集を出していなくても「インターンをやらせてほしい」と頼めば、迎えてくれる会社はあると思います。
そしてもう1つは、自分の興味の幅を広げられそうな会社です。
私がこれから活躍すると思うのは、人間にはできない技術やツールを活用して、クリエイティブな事業を生み出せる人。もっと言うならば、興味の幅が広く、そこから思いもよらない発想を企画して実行できる人です。そうなるためには時代を読む力を磨き、どんなことにも興味を持つ姿勢を心掛けることが肝心です。
上記の観点から、興味の幅を養うチャンスを与えてくれる企業を選ぶことが重要だと考えます。「この仕事だけをやってほしい」と職種を限定している会社ではなく、いろいろな仕事をやらせてくれる会社を選ぶのがおすすめです。そうした環境にいると、自然にスキルや経験値の幅が広がり、ひいては発想の幅も広がっていくと思います。
私自身もこれまで10年以上働いてみて、興味の広がりとともに、自分のキャリアの幅を広げることができてきた実感があります。これをやっていたらこっちにも興味が出てきて……という感じなので、キャリアを「積む」という表現にはかなり違和感がありますね。どちらかというとキャリアはアメーバ状に広がっていくような感覚を覚えています。
特定の分野の知識やスキルをコツコツと積み上げていくことが必要な職種もあるので、すべての人に当てはまるわけではないですが、こういうキャリアの描き方もあるよということは身をもってお伝えできるかと思います。
社会の変化のスピードが速くなっているので、最初からキャリアを完璧に設計しすぎなくても大丈夫です。「Web業界で働こう」程度のセンターピンは置いておいて良いと思いますが、「何年でどういう会社に行く」とまで詳細に決めすぎないほうが、時代に即した動きができる気がします。
どんなに計画を立てても予定どおりに進まない局面は多々あるので、自分で柔軟に変わっていける振り幅を持っておくことが大切だと思います。
取材・執筆:外山ゆひら