「働く意義」こそが仕事を面白くする|キャリア選びは自分らしさを第一に考えよう

ブレインマークス 代表取締役 安東 邦彦さん

ブレインマークス 代表取締役 安東 邦彦さん

Kunihiko Ando・大学卒業後、建設機械レンタル会社に入社。その後、24歳で独立して通信販売会社を設立。テレビ・ラジオショッピング・新聞・雑誌広告を中心とした通信販売事業を手がけ成長させたあと、営業担当取締役として、ITベンチャー立ち上げに参画。2001年に中小企業支援に特化したコンサルティング会社、ブレインマークスを設立し、以降現職。現在は年商1億から5億円で伸び悩む中小企業を中心に「年商10億円を実現する仕組みづくりを支援」している。その独特のコンサルティング手法で、年間70講演を超える講演をこなす傍ら、経営塾、個別コンサルティングをおこなっている

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就活で“なんとなく”は厳禁。覚悟を持って本気で取り組もう

自分は“なんとなく”就職先を決めて後悔したので、学生の皆さんには本気で仕事探しをしてほしいですね。

私が就活生の頃は、売り手市場で内定をたくさんもらっていたこともあり、自身の就活や就職に対する覚悟が足りていなかったと思います。「どんな人生を送りたいのか」「自分にはどのような会社が合っているのか」などを考えず、なんとなく建設機械のレンタル会社に入社し営業職に就きました。

入社してみると、その会社は「社員同士で競争しながら売上を伸ばす」という社風で、それが自分には合わなかったんです。働くことへの覚悟もできていなかったので、厳しい環境に適応することにもとても苦労しました。それでも自分なりに頑張り、ある程度の成果を出しましたが「やっぱりこの会社では自分らしくいられない……」と思う日々が続きました。

また、「営業の在り方」そのものにも疑問を抱くようになりました。ずっと営業成績はよかったので、社内ではもてはやされるのですが、お客様の前では頭を下げて商品を買ってもらう。このギャップは何なのだろう、何が正解なのだろうと思い悩んでいたのです。

「周りの人に勝つこと」ではなく「誰かの役に立つこと」を意識して仕事がしたい。その思いから入社して1年半後に退職を決意しました。自身の就活やファーストキャリアには心残りがあるので、ぜひ皆さんには最初から本気で仕事探しをしてほしいと思っています。

「笑顔でモノを買ってもらえる営業」との出会いが人生を変えた

ブレインマークス 代表取締役 安東 邦彦さん

退職後は生計を立てるためにエアコンを取り付けるアルバイトをはじめました。ある日1人のお客様がエアコンが綺麗な状態にもかかわらず買い替えていたので、理由を尋ねると「ジャパネットの高田社長が言うから間違いないと思って」と返ってきました。皆さんもご存知のジャパネットたかたは、当時は主にラジオショッピングをおこなっていて、それを聞いたお客様がエアコンを購入していたんです。

別のお宅に伺った際も早々にエアコンを買い替えている方がいたので「もしかして高田社長のファンですか? 」と聞くとやっぱりそうだと答え、「高田社長に言われたらみんな買っちゃいますよね(笑)」と笑顔で言うんです。これは今までやってきた営業と全然違うものだと感じ衝撃を受けました

同時に「自分もこういう会社を作りたい! 」と思い、アルバイトをしてお金を貯め、通販会社を起業しました。最初は折込チラシでの販売からスタートし、ラジオやテレビ、インターネット販売へと事業を広げていきました。

特に印象に残っているのは、目の前でお客様が喜んでくれたことです。アルバイトを通じてエアコンのつけ方を知っていたので、ラジオやテレビで商品を紹介するかたわら、自分自身でお客様の家にエアコンなどの取り付けにも伺っていたのですが、お客様の喜ぶ姿を目の前で見ることができたのはとても嬉しかったですね。

また、自分から売り込むのではなくお客様からの問い合わせを受けて販売する手法だったので「お客様にとって必要なものを正しく流通できている」という実感があり、人生ではじめて仕事が面白いと感じられるようになったのです。

売上のためではなく、お客様のために働くことは、どのような仕事であっても意識してみると良いのではないでしょうか。

安東さんが思う「笑顔でモノを買ってもらえる営業」とは

お客様に喜ばれたい人は「+αの価値」を提供できる仕事を選ぼう

「お客様に喜んでもらえる仕事がしたい」という方に、おすすめの仕事の選び方があります。これは意外かもしれませんが、「絶対的に必要な仕事」ではなく「なくても良いけれど必要とされる仕事」のほうが、お客様に喜んでもらえていることを実感しやすいでしょう

たとえば航空会社に対して、お客様の多くは「飛行機は予定通り運行するもの」と思っていますよね。鉄道会社も同じで、むしろ電車が定刻通りに出発しないと文句を言う人さえいます。本当は普段から社員の皆さんが努力をしているからこそ、いつも通り動いているのですが、そこに気付いてくれる人、感謝をしてくれる人はあまりいないでしょう。

その一方で、当社のようなコンサルティング会社や通販会社は、インフラ系の会社に比べると絶対的に必要な存在ではありません。しかし、当たり前ではないからこそ、モノやサービスを提供したときにお客様から感謝や喜びの声をいただけることが多いんです。事業としては不安定な面もありますし、お客様にもとめられるレベルは高いですが、「喜びを感じられる」という点ではとてもおすすめです

「安定的に世の中にインフラを提供したい」のか、「不安定だけれどプラスアルファの喜びを提供したい」のか。どちらが自分らしく働けそうかを考えてみてくださいね。

ずっと変わらないキャリアの軸は「自分らしく働くこと」

通販会社の経営はとても面白く売上も伸びていましたが、社会人経験が浅いまま起業したこともあり、苦労する場面も多くありました。最終的に自身の実力不足を痛感し、経営から退くことを決めました

そんな私を見かねた経営者仲間から「インターネットのビジネスを一緒にはじめないか」と声を掛けてもらい、IT企業の立ち上げに参画することに。1997年当時はインターネットの黎明期だったので、世の中の急速な変化を肌で感じながら、どんどん事業を拡大させていきました。周りは優秀な人ばかりで、いろいろなことを教えてもらいながら、ひと回りもふた回りも成長することができましたね。

しかし仕事をしていく中で、この業界は自分には向いていないと感じるように。間違いなく勢いはありましたし、周りにはチャンスがゴロゴロ転がっていて、ものすごいスピードで会社も成長していました。その反面、仕事に対して自分もみんなも雑になっていて、そのことに違和感を覚えるようになったのです。

この仕事のやり方は、自分らしくない」。そう思い、自分らしく居られる仕事をするために、ブレンマークスの前身となる会社を立ち上げました。

安東さんからのメッセージ

尊敬する人ができたら直接会いに行ってもいい。自分の理想を追いもとめよう

2回目の起業をしてから約10年、売上は順調に伸びていき、社員もどんどん増え、会社が軌道に乗ってきました。

しかしある社員が退職したのを皮切りに、示し合わせたようにほとんどの社員が退職するという事態が起きてしまったのです。自分のすべてを賭けて経営に力を入れていましたが、それでも上手くいかなかった。「やっぱり自分はダメなんだ……」と自己否定することしかできず、そこから2年くらいは仕事に対してやる気になれない日々が続きました。

そこからまた這い上がれたのも「自分らしくお客様の喜びのために働きたい」という気持ちが強かったから。まずは経営を立て直すために、経営のコンサルティングを受けてみることにしました。最終的には20社以上から有益なアドバイスをたくさんいただきましたが、どこかしっくりきませんでした

というのも日本のコンサルティング会社は、採用の課題は採用コンサルティング会社、ITの課題はITコンサルティング会社といった「専門特化型」が多く、中小企業向けに体系的なアドバイスをくれる会社とは出会えなかったのです。

そんななかでたまたま見つけたのが、マイケルE.ガーバー氏の「邦題:はじめの一歩を踏み出そう」という本です。彼はアメリカのコンサルタントで、そこには自分が体験してきた経営の苦悩に対するアンサーが明確に書かれていました。

「ぜひ本人から学びたい! 」と突き動かされ、渡米して彼の講義を受けました。そこで言われたのは、「ほとんどの中小企業の経営者は我流で経営している」ということ。「どんなスポーツでも楽器でも、正しいやり方を学んで実践をして自分のものにしていくのに、経営だけはみんな我流でやって失敗するんだ」と話していて、その通りだと深く納得したのです

そして本人からコンサルティングを受けることを決め、アメリカで学んで日本で実践するということを繰り返すと、どんどん経営が上達し、安定的にビジネスを伸ばしていけるようになりました。

周りには私と同じように悩んでいる中小企業の社長が多くいたので、ぜひこのノウハウを多くの人に知ってもらいたいと思いました。ガーバー氏に「あなたに習ったことを日本で広めたいです」と直談判し、ライセンス契約を締結。それ以来、ブレインマークスで彼の教えの日本版を広めています。

安東さんのキャリアにおけるターニングポイント

仕事を面白くする「働く意義」とは

就活では「自分らしくいられる業界を選ぶこと」がとても大切だと思います。

私の場合は「これから新しい世界が生まれそうだ」とワクワクする業界のほうが、自分らしさを発揮することができました。通販会社を立ち上げたときも、IT企業を立ち上げたときもそうです。常にそのときどきの新しい業界に挑戦してきたように思います。そのような先進的な業界には、面白い人や情報、仕事が集まってくるのでとても刺激的です。

また、社会に出てから大切にしてほしいのは、仕事に対して意義を持つことです。一見意義と聞くと難しい言葉のように聞こえるかもしれませんが、これは難しいことではありません。

どのような仕事も「人を豊かにする」「人を便利にする」「人を幸せにする」、このいずれかに当てはまります。そもそもビジネスは社会を良くするために存在しているので、「自分の仕事がどのように人の役に立っているのか」という視点を持つことで、おのずと仕事に対して意義を持つことができるのです。

自身の経験を通して思うのは、人はやはり「売上のためだけ」に気持ちよく働くことはできないということ。売上を伸ばすにしても、「売上=どれだけ人の役に立ったのか」ということを忘れないことが大切です

それだけで、仕事は格段と面白いものになりますし、モチベーションを維持し続けることができます。世の中の活き活きと働いている大人はみんな、この「仕事の意義」を実感している人ばかりです。ぜひ若手の頃からこのポイントを押さえて仕事に励んでみてくださいね。

安東さんのキャリア観の変化

ビジネスに勝敗はない。個性を発揮して自分のファンを増やそう

仕事をするうえでは人と比べないことも大切です。ライバル意識を持って働くことが合っている人もいると思いますが、そうではない人は無理に競争しようとしなくて大丈夫ですよ。

というのも、スポーツやゲームの世界では必ず勝敗が付きますが、ビジネスはそうではありません。ビジネスはたとえると芸能界のようなもので、それぞれの個性を発揮して、それぞれのファン、お客様を抱えるものです。

そのため、わざわざ周りと比べて競争する必要はなく、それよりも「どうしたら自分の個性を活かして、お客様に貢献できるのか」を考えることが重要です。そうすることで自分らしく他者に貢献できるようになり、どんどん仕事が面白くなっていきます。

最後に伝えたいのは、若いうちの苦労は必ず自分のためになるということ。楽な仕事や環境を選ぶのではなく、多少厳しくても「自分らしく成長できるところ」を選んでくださいね。その先に、自分らしさを発揮しながら、前向きに仕事を楽しめる未来が待っているはずです。

安東さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:志摩若奈

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