ブレない「信念」で突き進め|行動の量とスピードでキャリアを切り開こう

昭文社ホールディングス 取締役管理本部長 加藤弘之さん

昭文社ホールディングス 取締役管理本部長 加藤弘之さん

Hiroyuki Kato・大学卒業後、大手家電販売会社に入社し人事部に配属となる。その後、非上場企業を経て2007年に昭文社(現:昭文社ホールディングス)に入社。執行役員管理本部長、執行役員管理統括本部長、取締役管理統括本部長を歴任し、2020年4月からホールディングス制への移行に伴い現職

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就活ではブレないことが重要。自分の軸を貫こう

経理1本に絞って就活を進め、新卒で入社した会社で人事部に配属されてから26年間、ずっとバックオフィスの仕事にかかわってきました。

経理を目指すようになったのは、両親の影響が大きいと思います。実家が個人事業を営んでいたので、父や母が帳簿付けや売上計算などの事務作業をする姿を間近に見て育ち「自分もかかわりたい」と感じていましたね。

大学を卒業する頃には税理士になる夢を抱くようになり、経理関係の仕事に狙いを定め税理士事務所または経理の仕事に就けそうな会社を選んで就活しました。業界にこだわりはなく、総務系の求人に応募しまくり面接で経理の仕事に就ける可能性の有無を確認し、可能性が低い場合はその会社での就活を切り上げました。

営業職などとは異なり、採用数が少ない経理の仕事は狭き門だとは分かっていましたが、就職するならやりたい仕事に就きたかったし、仕事と楽しく向き合えなければ長続きしないと考えていたので、最後まで経理の仕事にこだわったのです。

その結果、総務系の仕事に就けそうな大手家電販売会社から内定をもらうことができました。念願の経理の仕事ができると心を躍らせながら入社しましたが、配属されたのは経理部ではなく人事部。

経理に絞って就活していたほど、経理の仕事にこだわっていたので正直落胆しました(笑)。しかし、やるだけのことはやったと思っていましたし、自分の気持ちに従ってブレずに就活した結果だったので、後悔はありませんでした

加藤さんのキャリアの変遷

「ブレないこと」と「頑固」は違うもの。周囲の意見を受け止めることも重要

配属発表で経理の仕事に就くことができず落胆していた私ですが、その後人事部の仕事をしていくなかで考えが変わっていきました。

給与計算や社会保険の手続きなどの業務を通じて税や社会の仕組みが分かることが面白く、経理志望だった気持ちを素直に切り替えることができましたね。結局、最初に人事に配属されたことが、会社を裏側から支える仕事全般に係る現在のキャリア形成につながったわけですから、いま思えば私の就活は成功でした。

就活に限りませんが、結果はともかくその過程において自分の考えや信念をブレさせないことは重要です。私も周りからは「お前は経理より営業向きだ」と言われましたが、経理志望は就活期間を通じ一貫して変えませんでした。

もちろんときには周囲の意見を聞くことも重要です。周りの人は自分のことを思って助言をくれているので、その声に従うことで良い結果につながることもあるでしょう。ブレないことと、頑固さやかたくなさとは似て非なるものなので、その点ははき違えないようにしてください。

しかし、何も考えず周囲の意見に流されるべきではありません。ブレないことは私の信条でもありますが、周りの意見をいったんは受け止め、自分の中で消化します。そのうえで採るべき意見は取り入れますし、自分で考えたうえで人の意見を取り入れたのであれば、自分で決断したことになるでしょう

「自らの手で会社を変えたい」。その思いが自分を突き動かした

昭文社ホールディングス 取締役管理本部長 加藤弘之さん

総務系の仕事を覚え自信も付き、経理・総務・人事・法務といった裏方仕事の重要性も分かるようになると、バックオフィスから会社を改革していきたいと思うようになりました。

営業や販売促進、企画、製造などは会社の成長に直結しているイメージですが、総務系の仕事にも会社を大きくしたり、より優れた会社にしたりできる力がある。そういう手応えを感じたからです。

とはいえ大手企業では一介の社員ができることは限られています。そこで7年ほど勤めた大手家電販売会社を辞め、人事制度改革を進めようとしていた小規模な非上場企業への転職を決意。

転職した会社は上場していないオーナー企業(経営者や配偶者、親族などで自社株を100%保有している会社)で、株主に左右されず経営者の考えが会社の運営に大きな影響を与えます。「自分が中心となって制度を変えたい」と考えていたので、自分の手で会社の改革に携わっている実感が湧き、とてもやりがいを感じましたね。

自ら会社を変える手触り感にやりがいを感じていた私ですが、非上場企業での改革がひと段落すると今度は「大きな舞台で改革に取り組みたい」という思いがでてきました。より大きな影響を与えるべく上場企業への転職を決め、そういう流れのなかで出会ったのが当社でした。

当時の昭文社は変革期を迎えており、役員が代替わりして40代社長が会社の変革に取り組む雰囲気がうかがえました。「上場企業だけれど新しいことにチャレンジできそう」と魅力を感じて当社への入社を決意し、期待した通り入社2年目から人事制度改革などに携わることができ、その後は事業構造改革にも参画しました。

バックオフィスの仕事の魅力

  • 経理・総務・人事・法務の業務を通じ企業を裏から支える

  • 会社の成長や企業改革において重要な役割を果たせる

バックオフィスの仕事は営業などと違い目立ちにくい仕事ですが、会社を左右する重要な分野です。「縁の下の力持ちとして会社を支えたい」「会社の中で重要な役割を果たしたい」という学生はバックオフィスの仕事も検討してみてはいかがでしょうか。

就活は何より情報量が重要。「勝手に企業訪問」もアリ

私は順風満帆と言えるキャリアを歩んでくることができたと思っていますが、幸運に恵まれた面があります。2回の転職ではどちらも会社選びに成功しましたが、それは良き上司や仲間に恵まれた幸運があったからこそ、結果的にどちらも満足のいく結果となったと考えています。

そもそも会社を選ぶことは簡単なものではありません。ましてや社会経験のない就活生にとって会社選びや企業分析は難度が高いでしょう。

社会人経験がない学生が自分に合う企業を見つけるには、企業とコミュニケーションをとる回数や時間を極力増やし、多くの情報を得るしかありません。そのためには説明会や面接だけでなく、OB・OG訪問や企業訪問なども積極的におこなうことが重要です。

たとえば関心や興味を持った企業があれば直接オフィスを訪ね、話を聞きたいと申し出る方法もあります。企業としても自社に興味を持ってくれる学生に対して悪い気はしないはずですし、受け入れてくれる会社は少なくないでしょう。いわば「勝手に企業訪問」ですが、臆せずトライしてみたらどうでしょうか。

本当に興味があればその熱意が伝わるものです。実際に訪問はできなかったとしても、メールでのやりとりなどで対応してもらえるだけでも意味があります。ちなみに当社では面接のあとに、そのままオフィスの雰囲気を確認したり、社員に質問する機会を提供したりするようにしていて、会社の情報を少しでも多く就活生に伝えられるよう工夫しています。

加藤さんが薦める企業情報を増やす方法

仕事に遠慮は必要ない。失敗は「新人の特権」ととらえまずは行動しよう

新入社員にもとめるのは臆したり遠慮したりせず、まわりにどんどん質問して、チャレンジして、行動することです。空気を読む必要などまったくありません。新入社員は右も左も分からない、それこそがアドバンテージなのです

何もわからない新人だから、何を質問しても失敗しても文句は言われません。この特権を使わない手はありませんし、特権を享受できる時間は長くはないのです。1年が過ぎて次の新人が入ってくれば立場が変わるのは当然でしょう。

プロ野球にたとえると、ドラフト上位で入団した新人は誰でも1年目は注目されチヤホヤされます。しかし次の新人たちが入団してくれば状況はまったく変わります。そのため、何もしなくても注目されるという新人の特権があるうちに、自分の経験値や実力をしっかり高めておかねばなりません。プロ野球だけでなく一般企業でも同じです。

居るのか居ないのか分からないような存在が一番良くありません。結果はどうあれ仕事で爪痕を残す新人であってほしい。周りに「あいつはやるぞ」と感じてもらえれば新人扱いはなくなりますが、その特権を失うのと引き換えに評価を得られるわけです。そういう意味では行動力やチャレンジ精神は、入社後の伸びしろを感じさせるという点で就活でもアピールポイントになると思います。

加藤さんからのメッセージ

失敗は許されますが、当然ながら致命傷になるような失敗は避けるべきです。とはいえ新人にとっては何が致命傷になるかわからない怖さがあるでしょう。何がいけないのかを知るためにも、質問や悩みがあればどんどん周りにぶつけて、分からないことや不安を相談していくべきです

本人が重大に考え過ぎているだけで、まわりから見れば致命傷でも何でもないことは往々にしてあります。失敗してしまったら誠意を込めて謝る。それさえできるなら挑戦に後ろ向きになる理由は何もありません。

そもそも新人が致命的な失敗をすることはまずあり得ません。致命傷となるのは会社が倒れかねないような失敗や、法に触れるようなコンプライアンス違反、それから文字通り命を落とすような失態です。新人がそのような重大局面に関与できてしまうようでは、そもそも会社の仕組み自体に問題があるわけで、責任を取るべきは会社の幹部ということになります。

経理や人事などバックオフィスの仕事は、間違いがないように手堅く進めるもので、挑戦とは縁遠い仕事だという先入観を持つ人もいるでしょう。しかし、これだけ変化の速い時代なので裏方の仕事にも変化への対応や挑戦する姿勢がもとめられます。

周到に準備し計画に時間をかけるよりも、まずはやってみる。やってみて不具合があれば修正して再度試す。その積み重ねと、スピード感がもとめられているのはほかの仕事と同じです。

考えるよりまず行動。悩んだら「やりたいこと」を優先しよう

自分が何をしたいか分からない。就活の軸が定まらない。そう悩む就活生も多いでしょう。自分がどんな仕事に就くべきかわからないときは、自分の得意な事柄や興味ある仕事を起点にまずは動き始めることをおすすめします。得意分野や興味の対象が明確でないのなら、単純に社名を知っている会社から就活をはじめたっていいのです。

肝心なのはとにかく動き始めること。まずは合同説明会でも何でも出掛けて行って参加してみる。行動せずに頭の中で考えているだけではいつまでたっても前へは進めません

また自分がやりたいことと自分ができることのギャップに悩む人もいますが、基本的に自分ができることは、おそらくいつでもできるはずです。しかしやりたいことは、やれる機会が限られ、そのときしかチャンスがない場合もあります。

ですから、できることより「やりたいこと」を優先すべきです。どうせやるなら、やりたいことにチャレンジして後悔を残さないようにしてください。

あとは就活においても周りに左右されない心構えが大切です。周囲より内定が遅ければ焦りを感じる人もいるでしょうが、そもそも就活は競うものではありません。就活の結果で人生がすべて決まると考えてしまうのも思い詰めすぎです。

最後に就活生の皆さんに伝えたいのは、「就活をやり切ってください」ということです。結果はどうであろうと「自分は就活をやり切った」と思えることが、その後の社会人生活に必ず生きます。あとから「あれをしておけば良かった」と後悔しないように、周囲の人と比べるのではなく、自分が納得できる選択をしてください。

自分を見失わず自分なりにベストを尽くす。やり切ったという思いと共に結果を受け入れる。そして、わくわく感と共に社会人生活の第一歩を踏み出してもらいたいと思います。

加藤さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:高岸洋行

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