自分と向き合い、感情を掘り下げて、挑戦の一歩を|人との出会いをきっかけにキャリアを切り開こう
センターグループ 代表取締役社長 下地 輝希さん
Teruki Shimoji・宮古島生まれ。23歳まで沖縄県内を出ずに過ごす。上京後、通信業界などを経て帰郷し、叔父が経営する企業に就職。翌年2016年独立し、センターグループを設立。海外からの海ぶどう・カカオの輸入販売、島らっきょうの生産販売を手がける
企業詳細:コーポレートページ
調べて掘り下げて、挑戦のハードルを下げよう
宮古島の出身で、23歳になるまで沖縄県を出たことがありませんでした。パニック障害もあり、飛行機に乗るのが怖かったのです。ところが上京した幼ななじみが東京で成功し、20代前半で大企業の部長職にまで昇進していると聞き、東京で働くことに俄然興味を持つようになりました。
中卒の友人が自分よりも稼いでいるなら、自分にもチャンスがあるのではないかと。今思えばとても浅はかな考えだったと思います(笑)。
とりあえず飛行機に乗れるよう改善方を必死で調べて、なんとか上京。何が良かったのか、比較的大企業に就職することができ、法人向けのネットワーク営業の仕事につきました。しかし、初めての沖縄以外での生活、会社員としての仕事……。自分にとっては初めてづくしで、決して楽ではなかったです。メンタルのバランスを崩すこともあり、上京して2年くらいは毎日のように落ち込んでいた気がします。
振り返ると、その業界が特に興味があるわけでも無く、完全にお金目的でした。それが今につながる道の一端を作ったので後悔はないのですが、自分は本当に心の底からお金を稼ぐ為だけが目的だったかは疑問です。慣れない生活で心が疲れ切ってしまった時に、もっと違う働き方や暮らし方を考えるべきだったかもしれません。
自分のように臆病な人間は、何かに挑戦するのは怖いことだし、最初の一歩を踏み出せないことも多いでしょう。そんな時には納得するまで調べ、自分が考えていること悩んでいることの根本はなんなのか、徹底的に考えてみましょう。
本当は自分は何をしたいのか、なぜ悩んでいるのか、もとめていることは何なのかを理解し、心から納得できればなんとか足を踏み出せるものです。いつでも考え方を確認する、自分を見つめ直す癖をつけておけば次のステップに挑戦しやすくなるはずです。
もっと根本的に自分がもとめている、奥深い事は何かをチェックするのも良いと思います。自分の感情や状態はどうなのか。定期的にゆっくりと向き合ってみましょう。落ち込みすぎたりする前に、自分がどんな感情を持っているのか見つめてみる。それだけで気持ちが割と安定し、次の行動に向かう準備になります。
気づきと提案で「フラットかつ合理的な組織」を作る
しんどい毎日を救ってくれたのは、先に転職した上司でした。彼の誘いに乗って自分も彼の転職先へ。飲食店向けのパッケージ、備品等を扱う企業に入社しました。
この会社の仕組みを体験できたことが私のキャリアに大きな影響を与えました。転職した会社は、前の会社より小規模な会社でしたが、社内の雰囲気がフラットで自由に意見が交わされ、さまざまな課題を非常に合理的に解決されていました。そのような仕組みが作られている環境を目の当たりにし、まさに目から鱗が落ちるようでしたね。
問題への対処やお客さんへのフィードバックなど仕組みにすることで事態を前進させることができており、フラットで合理的な職場はとても働きやすく、少しずつですが成長を感じる事ができました。
社内の仕組みや制度がアップデートされていく環境の中では、小さな気づきや提案がキーになっていた気がします。
自分が問題点に気づくこと。そして、改善点を提案すること。それらが共有され、ブラッシュアップされることで、問題は改善されるのでしょう。これから社会に出る皆さんにも、気づきと提案で問題を解決していく力を身につけていってほしいですね。
人との出会いや縁がチャンスを運んできてくれる
東京の素晴らしい会社で経験を積みながらも、どこかで「いつかは沖縄に帰る」という気持ちがありました。そして帰るのであれば「島に貢献できる大人になっていたい」という気持ちもありました。気づけば上京して10年が過ぎていました。
ちょうどそんなタイミングで、沖縄で事業をしていた叔父から会社を手伝って欲しいと声がかかったのです。社会人経験を積んだ今なら、多少は貢献できると思い帰郷。もともと父親が個人事業主で、自分もいつかはビジネスをしたかったんですよね。
ふと、島で過ごしていた時期を思い返すと、父の事務所、自宅に来客がとても多い環境でした。多くの方が仕事もプライベートも充実している感じがして、自分も大人になったらこんなふうに楽しく過ごしたい、と考えていたのです。
そんなことを思い返しながら、叔父が残した会社を運営し、さまざまな経営者と知り合いながら自分の事業を形にしようと奮闘しました。
その結果、今度は叔父の会社を離れ、新たに海ぶどうを輸入販売する会社を譲り受けることになりました。この承継も、人の縁がつないでくれたものです。その後、新型コロナウイルス感染症の影響で自分の会社の不調に喘いでいた時期には、島らっきょうの畑や器具を貸してくれた知り合いもいて、これを新たな事業として育てました。
全て人の輪が運んでくれたきっかけです。自分ではどうにもならなかったり、変化が欲しかったりするときに、信頼できる人が人生を変えてくれることがあるんです。だからこそ、臆病にならずに人付き合いを楽しみたいですね。
信頼を得るためには、まずは相手が得するコミュニケーションを心がけよう
人とのコミュニケーションで大切にしているのは、相手が少し得をするように計らうこと。自分だけが良い思いをしようとせず、相手の方が得したと思えるような、そんな人間関係であれば、信頼を得ることができると思っています。
とはいえ、最初からうまくできていたわけではありません。信頼していた人に裏切られたり、相手の機嫌を損ねてしまったり。失敗はたくさんありました。だからこそ、本当に信頼できる人と、長く付き合えるような関係づくりを目指して、相手も楽しい気分でいられるような付き合いに努めてきたんです。
そういえば昔、母親に言われたことを思い出します。先輩、友人にご馳走してもらったり、良くしてもらったと感じたら、翌日ちょっとした飲み物やお菓子を差し上げて、感謝や友好の気持ちを示すと良いよ、と。
自分が楽しい、うれしいで終わらせず、相手も楽しくてちょっと得した気分になれるような、そんな関係を目指すことが回り回って自分の“得”にもつながります。特に沖縄は人付き合いが濃厚で、知り合い同士であることが大きな意味をもちます。どうせ付き合うなら楽しく、信頼できる人と、良い繋がりを築きたいですよね。
トラブルは「10倍嫌なこと」を妄想して乗り切ろう
今の会社を軌道に乗せるまでに、大小のトラブルや困難がありました。なかでも新型コロナウイルス感染症流行の影響は本当に大打撃でした。当社は海外の海ぶどうを輸入しているのですが、まず海外から仕入れができない。さらに観光客も来ない。飲食店も開いていない。売り買いが何一つできなくなってしまいました。
それでも新型コロナウイルス感染症による影響はいつか明けると信じ、今はその準備期間だと考えることで心を落ち着けていました。暗い気持ちになっても事態は好転しないと開き直っていましたね。
そんな折に取引先の社長さんから、島らっきょうの栽培・販売という新事業に至ったので、開き直りも対処法としては間違っていなかったのではと思っています。
本当に辛い時は「現在成長中……」と言い聞かせ、それでも辛い時は「今起こっていることの10倍嫌なこと」を考えること。
「それよりはマシだ」と思うことで、必要以上に落ち込むことを防げます。少し冷静になって、客観的に状況を把握できるような気もします。決してポジティブな方法ではありませんが、自分の心を守り、冷静に対処するためには、かなり使える方法だと思うんですよ。ぜひ本当にしんどい時、思い出してください。
落ち着いたら、良くなる為に行動を。やはり行動が早い方が良い方向に進むと信じています。
取材・執筆:鈴木満優子