一人ひとりが株式会社「自分」の社長|目標設定と振り返りでキャリアを切り開こう

noco(ノコ) 取締役 多田 雅斗さん

noco(ノコ) 取締役 多田 雅斗さん

Masato Tada・京都大学理学部卒業。2012年にじげんに入社。2016年、mixtape合同会社を設立。翌年同社を売却。2019年、リクルートライフスタイル(現:リクルート)に入社。データエンジニアとして機械学習基盤の開発に携わる。2022年4月、nocoに入社。取締役 CPOに就任

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過去にとらわれる必要はない。レールがないなら自分で作ればいい

振り返ると、大学の専攻ではない職種の選択や新卒入社の会社では募集枠のないポジションで採用されるなど、従来型にあてはまらない学生時代と就活の時間を歩んだように思います

キャリアのスタートはエンジニアですが、大学では化学を専攻していました。学園祭の出し物がきっかけでプログラミングに出会い、そこでプログラミングの面白さにはまっていったのがエンジニアとしてのスタートでした。実は大学生になるまでパソコンは所有しておらず、大学で初めて自分が自由にできるパソコンに触れることが出来たのですが、そこで溜まりに溜まっていたパソコン熱が爆発したようにも思います(笑)。

当時は世界の著名なSNSが日本に入ってきた時代だったこともあり、東京で情報系を学びたいなと考え、大学院への進学を機に上京。そして社会勉強の目的を兼ねてじげんが募集していた長期インターンに参加し、同社が私のファーストキャリアとなりました。

当時エンジニア職での募集はなく、総合職の募集のみだったのですが、代表から「やりたいことがあるならもっといろいろやった方がいいんじゃない」と声をかけていただき、「プログラミングもできる人材」として内定を頂いたのを覚えてます。自由な社風やカルチャー、枠にとらわれない選考による人材採用などに魅力を感じたことが同社への入社の決め手になりましたね

ファーストキャリアがすべてだとは思いませんが、社会人の最初の数年で出会った人たちとは今でも深いつながりがあり、かけがえのない時間を過ごせたと思います。何もわからない社会人1年目、2年目を一緒に乗り越えた同期は唯一無二の仲間であり、そんな仲間と辛苦をともにしながら事業に向き合った時間を過ごせたのはとても貴重な経験でした。

多田さんからのメッセージ

「何を」するかより「誰と」するか。積極的な行動で価値観の合う人を見つけよう

noco(ノコ) 取締役 多田 雅斗さん

学生時代は自分で起業することはまったく考えていませんでした。しかし新卒で入社した会社では、数多の起業家を輩出していたこともあり、次第に起業への意識が芽生えてきました。そんな折に出会ったのが、現在、noco(ノコ)で一緒に働いている代表の堀辺でした。

堀辺とは、年齢も歩んできたキャリアもまったく違うのですが、人生のトップ3に入るほど価値観が近い存在です。そんな堀辺と「何か自分たちで作ってみたい」と意気投合し、知人のデザイナーを誘い、3人でmixtape(ミックステープ)合同会社を設立。クラウドサービスを開発・運営するインターネット事業会社を起業しました。

起業した仲間とともに、自分たちで何かを作り上げていくのは本当に楽しかったですね。夜な夜なファストフード店やカフェで自分たちが作りたいサービスについて話し合っていたのですが、価値観を尊重しあえるからこそ、お互いのアイディアをブラッシュアップしていくことで面白い事業構想が生まれてきました。

社会にでると、さまざまな価値観を持った相手と仕事をすることが多くなります。しかし、だからこそ新卒で入社する会社や組織、何か新しい事業を立ち上げる際は、同じ方向性や価値観、課題に向き合う熱量を持っている人たちや組織を選んだほうが良いと私は思います

新卒は社会人経験が無く、入社期は右も左もわからないことが多い。そんなときに同じ価値観や課題感を持っている人がいない環境だと、組織の考えと自らの行動を重ねることに悩み、何を目指せばいいのかを見失ってしまうこともあるでしょう。そのため自身のキャリアのロールモデルとなる人と同じ環境で過ごすほうが、自分の目指すべき場所の解像度がより高まるのではないでしょうか。

自分自身と同じ価値観を持つ仲間を見つけるには、何事にも積極的に自ら行動し、参加・関与していくことをおすすめします。幅広い層に向けて発信している会社説明会をはじめ、インターンやOB・OG訪問などにも積極的に参加して、実際に現場で働いている人と近い距離感でぜひ話してみてください。

その会社に所属する人たちとのコミュニケーションを通じて、組織やチームの文化、雰囲気を垣間見ることができ、自分の価値観やキャリアのポートフォリオに合うかどうかの判断につながると思います。私の場合は、ビジネス向けのマッチングアプリも利用して、さまざまな業界の方とカフェでお会いすることで、業界や職種への見聞や理解を深めるのと同時にリレーションを広めていました。

「過去」への後悔に向き合うことが「未来」へのエネルギーになる

実は、私は人生において後悔していることがあります。それは仲間とともに起業した会社を売却したこと。これは今でも夢に出るくらい後悔していますね(笑)。

会社売却の後悔の念は、現在役員を務めるnocoに入社する動機にもなりました

創業した会社を売却後、私はフリーランスを経てリクルートライフスタイル(現:リクルート)にジョインしましたが、「会社を売却する前にもっと選択肢があったのではないか」と自問自答を繰り返していました。というのも、自ら立ち上げた会社と事業が会社譲渡後に急激な成長を果たしていたからです。喜ぶべき話ではありますが、もっと事業の可能性と向き合っていたら、もっとこうしていたらと自責の念にかられましたね。

私の人生の目標の1つが「歴史に爪痕を残す」こと。社会人としては、事業で成功すること、事業を通じて世界や社会を変えることで歴史に爪痕を残せると思っています。だからこそ自分でまたゼロから事業をやってみたいという思いがずっと心の中にありました。

そうした過去への悔恨や果たせなかった自責の念などのもやもやを抱えていたころ、共同創業者であった堀辺から「手伝わないか」と声をかけられたのです。同じ志や熱量をもった仲間とふたたび事業を興してみたい、挑戦したいと思い、nocoに参画しました

過去の後悔や自責の念と向き合うことは、決して簡単なことではありません。しかし、後悔があるということはきっと自分がなし得たいこと、果たしたいことができなかった、ということ。だからこそその後悔に向き合い続けることで、自分の思い描く人生を歩むこと、自ら望むキャリアを自分自身で描くことができるのではないでしょうか。

多田さんのキャリアにおけるターニングポイント

就活では食わず嫌いしないこと。情報量を増やして「自分軸」を見極めよう

就職先の企業を選択するうえでは価値観が合う人がいることに加えて、「自分軸」で判断することも大切な要素だと思います。

私が中高生の頃、社会的に信頼がある、また業績が安定しているからという理由で両親からいろいろな職業を勧められてきたのですが、正直なんでそんなこと言うのだろう、と当時は訝しく思っていましたね(笑)。

今は何が起こるか予測がつかないVUCA(未来の予測が難しいこと)の時代ですので、この業界に就職すれば生涯安泰というのは神話であり、安定した業界や職種というものは存在しないと思います。

だからこそ、自分のキャリアや選択には自分自身が責任を持たないといけませんし、自分がしたいこと、なし得たいことは何かの解像度を高めていくことが大切だと思います。自分軸を見極める手段として、会社説明会やインターンなどに積極的に参加してみるのも良いでしょう。とにかく、自身のキャリアと重なるものがあれば、積極的に行動することが重要です。

新卒時代に教わった言葉に「量質転化」というものがあります。「量をこなせば、質も上がる」という言葉の通り、クオリティを高めるには、数をこなす必要があると思います。それは営業職でもマーケティング職でも、プログラマーでも、そして自分自身への理解もすべて同じなのではないでしょうか。さまざまな業界の企業を研究し、コンタクトを取れるのは就活や新卒期に与えられた特権とも言えますので、フットワーク軽く、とにかく行動してほしいと思います。

また自分軸を見つけるポイントとして、さまざまなチャネルから情報を増やすこともおすすめします。「家族や先生が言っていたから」という理由だけで入社する企業を選ぶ学生もいますが、それは自分で考えて選択した「自分軸」とは言えないと思います。

もちろん、友人・知人、第三者の意見や考えを参考にするのは悪いことではありません。私も家電を買う際はもっぱら比較サイトや動画サービスでおすすめされている商品を買いがちですし、誰かの意見やレビューを参考にすることで得られる知見もあるでしょう。ただし、他責思考に陥らないためにも、さまざまな情報や意見をフラットに集めながら、自分自身の考えに責任を持つということが必要だと思います。

多田さんがおすすめする情報収集の方法

たとえばAさんが言っていることと、Bさんが言っていることにギャップがある場合、「じゃあ、Cさんの意見はどうだろう?」というふうに、情報のチャネル数を増やしていけば偏向した情報に陥りにくくなりますよね。何より大事なのは、複数の情報をもとに「自分」で判断すること。他者は自分の人生の選択に責任を取ってくれないので、最後の決断は自分自身ですることは忘れないでほしいし、決して諦めないでほしいですね。

溢れんばかりの情報や価値観のなかから自分の軸を導きだしたら、その軸に当てはまる会社や組織、チームを絞っていきましょう。ぜひ確固たる自分軸を見つけるためにも、嗜好性だけに頼らず多角的な情報を集め、ときには自らその情報を積極的に取りにいきながら自分で判断してほしいと思います。

正解がない世界では「主体性」がもとめられる。自分の人生をマネジメントしよう

現在は取締役として経営に携わっていますが、会社の経営と人生のかじ取りは似ていると感じています。

会社の多くがミッション、ビジョン、バリューを設定し、ホームページなどを通じて宣言しています。そして掲げた目標とずれている場合には、何が要因かを分析して、軌道を修正する。それと同じように、自分の目標を目に見えるところに掲げて、月単位や年単位で可視化し棚卸していくことで、目標からずれていないかや現在の立ち位置を常に確認することができます。

自分の人生の方向性を見失わないためにも、10年後どうなりたいのかを曖昧でも良いので明文化して、自室の壁など目に見えるところに貼っておくのもおすすめです。毎日壁に貼っているキャリアの目標やマイルストーンを見ながら、今いる自分の立ち位置の確認をしたり、外れている場合は修正策を考えることで目標に少しずつ近づいていくはずです。また、そもそも目標設定を刷新するなどのキャリアの再構築のきっかけになることもあるでしょう。

現代はキャリアそのものが多様化しているので、何が正解と言えるのかがわからない時代です。私も複数の会社や事業の経験を通じて、最終的に「事業の成功を通じて、歴史に名を残したい」という人生の目標の設定と、それを達成するために新しい仲間やチームとともに事業と向き合っています。

学生の皆さんにも、自分の人生の「社長」として、人生の目標に対して臆することなく、目標に向かってパッションを持ち続けるキャリアを歩んでほしいと思います。

多田さんが送るキャリアの指針

取材・執筆:乾花穂子

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