「目的意識」を持てば、ブレない信念が生まれる。意見を発信する力を磨いてキャリアを切り開こう

三和建設 執行役員 アシスト本部長 森本 育宏さん

三和建設 執行役員 アシスト本部長 森本 育宏さん

Ikuhiro Morimoto・大学卒業後、トーヨー工業(現:トーヨーキッチンスタイル)に入社。社会人サッカーリーグで現役のプレイヤーを続けながら、製造管理業務を5年間経験。2003年1月に三和建設に入社。入社後は財務・経理、総務部門を統轄し、社内基幹システムや社内業務フロー改善のプロジェクトリーダーを務める。経営企画室長などを経て、2022年10月より現職

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「人としての基本」を大切にすると良いキャリアにつながる

キャリアにおける最初のターニングポイントは、サッカー選手としてのキャリアを断念し、社会人としてサッカーを続ける選択をしたことです。

学生時代は高校、大学とサッカーで進学をして、卒業後はプロ選手になることを目指していました。全国大会でも成績を残していたのでプロチーム加入のチャンスもいただいたのですが、建設会社を営む父の強い反対もあり、記者発表の直前に合意に至れない結果に。それでもアマチュアとして現役を続けようと思い、社会人サッカーリーグのチームのスポンサーを務めている企業への入社を決めました

それがファーストキャリアとなる、システムキッチンや厨房機器を手掛けるトーヨーキッチンスタイルです。入社してからは平日の昼間は製造管理の仕事をし、夜は火曜から土曜まで毎日サッカーの練習に明け暮れ、土日は試合もする、そんな生活を5年間続けました。

森本さんのキャリアにおけるターニングポイント

アマチュア選手というフラストレーションもある一方で、会社では大変良い上司に恵まれたと思っています。

若くして開発主任になった方で、その方にビジネスの基礎を叩き込んでもらえたことが、今につながる財産になっています。うまくいかないときにも部下を叱ることなく「これからどうする?」を未来志向で考える方で、現在は同社の社長を務められており、今でもお付き合いがあります。

その方を含め、振り返ると学校の先生やサッカー部のコーチ、先輩、上司などに引き立てていただけることの多い人生を歩んできました。経営の素養やマネジメント目線がある人に可愛がっていただけるのは、経営者の父に育てられたことが関係しているのかもしれない、ということは社会人になって気づいたことです。

たとえば携帯電話を持っていなかった高校時代、父は門限にたった5分遅れただけでも「駅から電話しろ!」と怒る人でした。当時は解せませんでしたが、そうした誠実な言動の積み重ねによってビジネスにおける信頼関係は築かれていく、ということが今ではよくわかります。

人との信頼関係を築くためにアナログな行動も疎かにしないことも、父から学んだことです。今の仕事でいえば、職人さんへの指示なども一方的に送りっぱなしにはしません。メールで伝えた後は必ず現場に顔を出し、直接細かい確認事項を話すことで関係を築いていますし、そうすることで齟齬を回避することもできます。

そのほか、2枚舌を使わず相手によって態度を変えないことや、時間を大切にしたいので文句ばかり言って他人のパフォーマンスを下げるような人とは付き合わない、といったことも心がけています。

公明正大に、良い人たちと良い関係をきちんと築いていると、上の方にも可愛がっていただけますし、キャリアのスタートダッシュの様相が違ってきます。これから社会に出る人も、まずは「人としての基本」を大切にすることから始めてみると良いと思います。

森本さんからのメッセージ

目標は、目的を定めることから始まる。ブレない信念を持とう

2つ目のターニングポイントは、当社・三和建設に入ろうと決めたことです。

30歳手前になると現役選手を引退し、チーム運営やサッカー指導者の道に進むことを考え始めました。その話を家族に相談をしていたときに、経営が芳しくない状況であることを聞いたのです。家業にかかわるつもりは一切なかったですし、家族も「戻ってこなくていい」というスタンスでしたが、この話を聞いたときには「助けなくては、力にならなくては」と自然に思いました。思わぬキャリア変更となりましたが、迷いはありませんでした。

入社後は利益を残せる仕組みに作り替えるため、経理などを幅広く勉強し、父や長兄とともにあらゆることに尽力しました。

一番手応えを感じたのは、基幹システムを大々的にリプレイス(既存のシステムを新しくすること)したプロジェクトです。 責任者として3年をかけて完成させ、結果的にこのシステムは会社の立て直しに貢献するツールの1つとなりましたが、そこに至る過程には並々ならぬ苦労がありました。

大幅に業務フローを変え、システムに多額の投資をするとなれば、社員の仕事にも影響します。当然ながら「これまでどおりでいいじゃないか」という社内からの強い反発はありました。しかし私は「これで絶対に会社を良い方向に持っていける」という自信があったので、システムベンダーと社内との間に立って良好な関係を構築するために奔走しました。

信念を貫けたのは、何より「目的が明確だった」ことが大きいと思います。もし会社の命令だけでやっていたら、反発を受ける過程で嫌になっていたことでしょう。

目的を持つことの大切さは、学生の人にもぜひ伝えたいことです。

目標と目的を混同しているケースは少なくないですが、両者は大きく違います。目標は「いつまでに〇〇円の利益を出す」「チームで売上トップを出す」など定量的に立てられるものなので、職場や組織全体でも共有しやすいです。

一方、目的は人それぞれバラバラです。「なぜその仕事をするのか」の理由の部分になるので、目的を明確にできている人は、本当の意味で主体的に動くことができます。「自分はこの目的に向かっているから、こうするのが正しい」という信念にもつながるので、ぶれないキャリアを歩み、ぶれない仕事をするためには目的が必要なのです。

目標と目的の違い

意思決定においても「自分が考える“目的”に近い選択肢はどれだろう?」という考え方をします。そのように考えると、ベストなシナリオ(最適解)が導き出され、続いてそのシナリオを実現するための課題が見えてくることで“目標”の設定ができます。

また複数の課題が出てきた場合は、より大きくて大変な課題のほうから手をつけます。課題というのは絡み合っており、大きな課題を解決したら小さな課題は自然に消えていた、ということが少なくないからです。

学生時代にも就職活動と卒論など複数の問題が重なる時期があるかと思いますが、「自分の目的を達成するために、一番大きくて大変な問題から取り掛かってみる」という優先順位を意識してみるのがおすすめです。 

同調のコミュニケーションはもとめない。自分の意見を遠慮せず発信できる人になろう

就職活動に取り組むときには、できるだけ早い時期に「自分が働く目的」や「なりたい姿」を明確にすることが肝心です。「自分はこういうことをやりたい人間だ」という目的が明確になると、目的がフラッグシップ(目印や象徴)になり自然と周囲に理解者が集まってきます

一方、目的がぼやけていると、相手からも「何を考えている人なのか」が見えにくく、雰囲気で判断をされてしまいます。面接官になんとなくの雰囲気で評価されてしまわないためにも、「自分はこういう人間です、こう考えています」と言える状態で臨んでほしいです。私も採用によく立ち合いますが、自分の意見を言ってくれる人がいるとそれだけで注目しますし、「なぜそう思ったの?」と背景やそれまでの経験を知りたくなります。

また就職活動では、「会社が掲げている目的」にも注目してみてください。大半の会社は理念やビジョンとして掲げていますが、それらのメッセージに自分の目的と重なる部分があれば、その組織に属する意味を見出せると思います。

会社と自分の目的が100%一致している必要はなく、違和感も多少であればあってOKです。一部分の違和感であれば会社を良い方向に改善する原動力にもなりますし、そのために努力できる人であれば、大きな問題にはならないはずです。

何より重要なのは、会社の目的だけに追従する“会社の信者”にならないこと。あくまで「自分のキャリアの目的をかなえるために、その会社で仕事をする」というスタンスでいることが、満足いくキャリアを歩むためには必須です。

目的意識を身に付けるために大切な2つのこと

  • 遠慮せずに自分の意見を言える人間になること

  • 相手からの過剰な反応をもとめないこと

目的を明確にできる人間になるには、学生時代から「自分の意見を遠慮しないこと」、そして意見を言ったときに「過剰な反応をもとめないこと」を心がけて過ごすのがおすすめです。

自分の意見を発信するときには、少なからず責任が伴います。人が責任を持てるのは、自信を持って言えることだけ。普段から「自分はこういう人間だ、こういう考えで生きている」という目的を意識していなければ、遠慮せずに意見を言うことはなかなか難しいです。

そして自分の意見をぶれさせないためには、同調のコミュニケーションを過度にもとめない姿勢も重要です。わかりやすい例で言えば、相手から「大変だね」と言ってほしくて「疲れた」と発言するような、同調や共感を前提とした会話をしないということです。

また「自分はここだけには自信がある」と言えるものを考えてみる作業も役立つと思います。たとえば私はサッカー選手時代、試合中に一度もバテたことがないことを強みと自覚し、そこに重きを置いてフィジカルの強化に取り組んでいました。「プレイのテクニックは平均的なものだけれど、持久力だけはチームの誰にも負けない、これで貢献するんだ」という目的意識を持って試合に臨んでいました。

ただし、自分の強みを見つけたときには、くれぐれも「自分はこういう人間だから、これしかできません」という思考にはつなげないでほしいです。卒業後の人生のほうがはるかに長く、社会に出てから知識やスキルを身に付けていく時間はいくらでもあるからです。

「ここだけには自信がある」と伝えつつ、自分の可能性を狭めることなく「入社後はこういうことをやってみたいと考えている」といった形で発信をすると、多くの面接官の心に響くのではないでしょうか。

森本さんからのメッセージ

自分の目的に合った会社を探す目線を持とう。「目に見えにくい情報」が鍵になる

三和建設 執行役員 アシスト本部長 森本 育宏さん

採用責任者を長年務めてきて思うのは、「石の上にも3年」という言葉はあながち間違いではないということです。

1年程度の経験ではどんなスキルも「ある」と言えるほど身に付かないですし、2年程度でもその仕事の表面をさらった程度で、深いところまでは達せません。しかし1つの仕事を3年間やれば、スキルもある程度身に付き、会社や業界の課題も見えてくるので、ステップアップの転職ができるようになります。

そう考えるのは技術が必要な業界の人間だからかもしれませんが、転職前提だとしても、ファーストキャリアの会社はせめて3〜5年は在籍する前提で探したほうが良いと個人的には思います。

また就職先を選ぶ際は、ぜひ積極的に情報を取りに行く姿勢も持ってほしいです。多くの人は「目に見える情報」で入社を決め、「目に見えにくい情報」が見えたときミスマッチが生じて退職します。条件面に惹かれて入社しても、会社の価値観や雰囲気が合わないと感じて辞める人が大半だということです。そうならないためにも、できるだけ「目に見えづらい情報」を取りにいく意識を持って、かつ自分で正解を見つけにいく努力が必要です

世の中には有象無象の情報があふれていますが、有力な志望先があれば、自分から乗り込んでいって自分の目で確かめてみること。「〇〇業界はこうだ」といった情報も鵜呑みにせず、自分の目的に対して有意義だと思える業界、良いポジションにあると思える会社をしっかり見極めてください。

森本さんからのメッセージ

ワークとライフは相乗効果を及ぼし合う。片方に偏らないことが大切

人は仕事だけでもプライベートだけでも、幸せになれない気がします。「ワークライフシナジー」という言葉のとおり、ライフとワークはシナジー(相乗効果)を及ぼし合うもの。大事なのは、両者のバランスを取ることです。比重やバランスはライフステージによって変わってきますが、「どちらかだけ」と考えず、かつ、自分のパフォーマンスを100%発揮させてくれる家族や仕事仲間と一緒に生きていくことが一番理想的な形だと思います

私自身、過去には仕事を言い訳にして自分の生活をおろそかにしていた時期がありました。しかしそれでは良くないと気づき、生き方を変えてからようやく真の満足感を得られるようになった気がします。

キャリアにおいてもっとも充実感を感じるのは、新しいことに取り組んでいるとき。好奇心が強く、飽きを感じやすい人間なので、やったことがないことに取り組んでいるときが1番楽しいです。最近はM&Aなどにも注力していますが、今後も「あれをやってみよう、これをやってみよう」という姿勢でチャレンジを続けていきたいです。

当社は創業77年目を迎えましたが、特にこの15年間でいろんなチャレンジをおこない、その間に社内の景色も大きく変わりました。常に順風満帆だったわけではなく、特に父から兄にトップが交代した時期は大変でしたが、痛みを伴いながら変化を続けてきたことにより、人材育成などのさまざまなノウハウが蓄積されてきました。

今後はこのノウハウを業界内に共有していくことにも注力していきたいです。建設業界にはまだまだ未来があると感じていますし、生まれたときから身近にあった業界なので、貢献したい気持ちもあります。まずは身近な人たちに対して、セミナーやコンサルティングを実施していきたいです。会社としても「つくるひとをつくる」というメッセージを掲げていますが、業界全体の組織づくりや働きがいづくりに貢献することが私自身の今後のビジョンです

学生の皆さんもぜひ自分が夢中になれる仕事を見つけていただき、仕事もプライベートも充実させて幸せな人生を送ってほしいと思います。

森本さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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