ワインもキャリアも焦らずじっくりと|「心が動いた瞬間」にこそヒントがある

モトックス 代表取締役社長 寺西 太亮さん

モトックス 代表取締役社長 寺西 太亮さん

Daisuke Teranishi・大学時代の海外留学を経て、ワインに強く関心を持つ。帰国後、ワインとお酒の専門商社である家業を継ぐことを決意。大学卒業後、新卒では大手ビールメーカーに入社し、営業と経理を経験。その後モトックスに入社し、2018年より現職

この記事をシェアする

「心が動いた瞬間」を逃さず、生き方やキャリアに活かそう

当社モトックスは家族経営で、私は4世代目の社長になります。ただ学生時代は家業を継ぐイメージを持っておらず、当初は、正直に言えば一般企業の会社員になりたいと思っていました。

そんななかで大学時代に留学をし、ワインの名産地であるフランスのブルゴーニュ地方に行く機会がありました。そのとき、父親の紹介でワイナリーのオーナーさんと一緒にランチに行くことに。他愛もない会話をしていると、食事と共にワインが運ばれてきました。

するとその方は、そっとグラスを手に取り、光に当てて色合いを観察し、香りをじっくり感じ……そしてやっと口に付けて心ゆくまで味わいを嗜んでいたのです。

その姿に見入っていると、「あなたはこの香りをどう思う?」「この食事との相性はどうだろうか」などと話し掛けられ、ワインを隅々まで語らう時間に移りました。感じたことを伝えたり、オーナーさんの感じたことを聴いたりして、「この豊かな時間はなんなんだ……」と驚きを隠せませんでした。この体験がきっかけとなり、「この豊かさを多くの人に届けたい」という想いが自然と沸き上がり、そしてそれはいつしか「モトックスに入社したい」という気持ちになっていました

帰国後、父親にその想いを伝えると、父親はうれしそうな素振りを見せながらも、今までたくさん苦労をしてきたからこそ、私にはあまり継がせたくないという思いもあったようで……。「特別扱いするわけでもないし、大変な場面もたくさん経験することになるぞ」と念を押されましたが、「それでも自分なりに頑張るから」と伝え、モトックスへ入社することになりました。

大きなきっかけはふとした瞬間に突然訪れるもの。自身のこうした原体験を振り返ってみても、「心が動く瞬間」を見逃さないというのは、キャリアや生き方を考えていくうえでもとても大切だと思いますね。

成長への「貪欲さ」と「認識力」を忘れずに

今までのキャリアでは自身の役割をしっかり果たすことと自己成長に重きを置いて歩んできました。

大学卒業後、まずは自分の経験値を高めるために、大手ビールメーカーに入社して営業と経理を3年ほど経験しました。この期間は「学べることは何でも学ぼう」という気持ちでがむしゃらに頑張っていましたね。皆さんも社会人になってすぐは大変かもしれませんが、よほど理不尽なことでなければ、かなり厳しい環境だったとしても、頑張り抜くという姿勢も大切なのではないかと思います。

その後、家族ぐるみの付き合いがあるフランスの生産者のもと、ワイナリーで働かせてもらうことに。そこで経験を積んでからモトックスに入社し、最初は社員の一員として奮闘。キャリアアップを経て、2018年、代表取締役に就任しました。

今まで働いている中でとても忙しくて大変だった時期もあります。そのときは自分を振り返る余裕がない時期もありましたが、それでも都度ひと段落して我に返ってみると、想像以上に自己成長していることに気付いた経験がたくさんありました。「頑張ったから今の自分があるんだな」「今までできなかったことができるようになっている!」という気付きあり、そう気付いたときはしっかり自分のことを褒めてあげました。

夢中になっていると自分の成長に気付かないこともあると思うのですが、ときには立ち止まり、自分のことを認めてあげてくださいね。歩み続けていくためには、なによりも自分で自分を認めてあげることが大切ですから。

寺西さんからのメッセージ

今すぐじゃなくて良い。じっくりと自己成長しよう

仕事において大切にしているのは、当社の経営理念である「Serviceable Company(サービサブル・カンパニー)を目指す」という考え方です。

この意味は「役に立ちたいと思う心とそれを実現する資質を持つ」ということ。誰かの役に立ちたいと思うことに加え、実現するために行動することが大切だと常々言っていますし、自分にも言い聞かせています。ただこれは「今すぐに実現できなければならない」ということではなく、「今できないことがあったとしても、誰かの役に立つことを目指し続けよう」という方向性を持って成長することです

これはワインにも共通することで、ワイン作りは数日、数カ月で完成するものではありません。新しいワインを作りはじめても倉庫で熟成する期間があるので、だいたい5~7年後くらいに世に送り出すことになります。焦ることなくじっくりと向き合うことが大切なのです。

このワインとの向き合い方は、自分たちの向き合い方でも同じ。今できないことがあっても、これからの人生で着実に成長していけば良いのです。自分のことを長い目で見て成長し、周りの人や会社、そして社会に貢献していきましょう。

寺西さんのキャリア変遷

毎日の積み重ねで未来は創られる。目の前の一つひとつを大切に

もう1つ大切にしていることがあります。それは「日々チャレンジする」というもの。ワインの生産者の方が口をそろえて言うのは「ワインには1日として同じものはない。だから毎日が新しいチャレンジである」ということです。毎日の温度や空気、風の入り方や強さなど、何かしらに必ず変化が生じます。どれだけ長年ワインを作っている人でも、毎日が新鮮に映るのです。

当社は創業100年以上になり、これからも歴史を重ねていくことと思いますが、数十年後、数百年後といった遠くばかりを見ているわけではありません。毎日一歩一歩、できることを積み重ねていく。その結果として、きっと数百年続いていくだろうという見方をしています。

皆さんも遠くの未来のことを考えると、なかなかイメージが付かなかったり、不安になったりすることもあるのではないでしょうか。しかし実際には毎日の積み重ねによって未来が創られていくものです。遠くばかりに目を向けるのではなく、目の前のことにも意識を向けて、今できることにまずは一生懸命取り組んでみてくださいね。

寺西さん流自己成長のポイント

就活はこだわりすぎず素直な自分で挑もう

モトックス 代表取締役社長 寺西 太亮さん

就活のポイントは「こだわりすぎない」ということです。何か本気でやりたいことがある人はそれを大切にしてもらえたらと思いますが、「そこまでの想いはないかもしれない」という方は、特定の業界や仕事、会社にこだわりすぎないほうが可能性が広がります。

とくに具体的な理由はないけど良いなと思った、なんとなく憧れる、そういったところだけに最初から絞ってしまうのは控えておきましょう。そうするとどうしても自分のなかだけの根拠なき「理想像」が作られ、入社後にリアルな実態を知ることでギャップが生まれやすくなってしまいます。視野を広くして、多角的に進めることがおすすめです

また、就活には「素直な自分で挑むこと」がとても大切です。ときには内定をもらいたいがために「偽りの自分」を演じてしまいたくなるかもしれませんが、就活はゴールではなくスタートです。会社のために自分を偽ってしまうと、入社後に大変な思いをすることになってしまいます。背伸びすることは大事ですが、できるだけありのままの自分で、素直に就活に取り組んでみてくださいね。

自分から仕事に興味津々になってみよう!

社会で活躍していると思うのは、周りからの見え方で言うと「活き活きしている人」ですね。当社で活躍している新入社員を思い浮かべても、みんな目が輝いていてプラスの活力が溢れ出ているんです。

そのような人に共通するのは、自分の仕事にワクワクしながら興味を持っていることだと思います。最初から興味を持てる仕事だったというパターンもあれば、一度は「興味がないかもしれない」と思っても、自ら好きになる努力をしたというパターンもあると考えています。受け身ではなく積極的に「興味を持ってみよう」という意識を持つと、その姿勢によって、結果的に活躍することにつながるのではないでしょうか

もし就活で壁にぶつかることがあったら、ひとりで抱え込まずに周りの人に相談してみてください。就活では自分に向き合う場面が多々あると思いますが、それを自分だけで解決しなければいけないという決まりはありませんから。そして、成長には時間が掛かるものなので「今これを乗り越えたら新しい自分が待っているかも!」というふうに前向きにとらえてくださいね。焦らず、じっくりと進んでいきましょう。

寺西さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:志摩若奈

この記事をシェアする