キャリアは「気持ち」×「環境」で選ぶ|点を打った先にある予想外の未来を楽しむために

ワールド グループ執行役員 グループ人事統括室 室長 兼 デジタルリテール推進本部 副本部長 吉田 玲子さん

ワールド グループ執行役員 グループ人事統括室 室長 兼 デジタルリテール推進本部 副本部長 吉田 玲子さん

Reiko Yoshida・上智大学卒業後に司法試験に挑戦したが断念し、2000年アクセンチュアに入社。デロイト トーマツ コンサルティングを経て、AIGおよびメットライフ生命にてHRビジネスパートナーとなる。2012年にライフネット生命に転職し、上場を経験。その後2014年にマサチューセッツ工科大学に留学し、MBAを取得。2015年から米国ニューヨークで勤務。2018年に帰国し、産業革新投資機構に入社。2020年よりワールドに入社し、グループ人事統括室 室長として従事し、以降現職。2023年7月からはデジタルリテール推進本部 副本部長も兼任

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「世の中を隅から隅まで知りたい」その思いでレールを外れたことが始まり

世の中を知らない大人になりたくない」。学生時代、その思いが芽生えたことがキャリアにおける最初のターニングポイントです。カトリックの女子一貫校に通い、ずっと「箱庭の世界」で過ごしていたので、社会に出る時期になって急に大人になる不安を感じました。好奇心旺盛な性格もあり、世の中の隅々までを見てみたい、そういう仕事はなんだろう? と考えた結果、出た1つの答えが「検察官になりたい」という想いでした。

そこで大学卒業後、司法試験へのチャレンジを開始。当時は法科大学院がなかったので、独学で勉強しました。「3回受けてダメなら諦めよう」と決め、その通りの結果に。「無謀なチャレンジだ、痛い目に遭いそうだな」という予感はありましたが、手厚く守られて育ってきたことの反動もあってか、あえて挫折する道を選んでみたい気持ちもありましたね。そしてしっかりきっちり、挫折を経験できました。

3年間のチャレンジを終え、就職先を探し始めてからも社会の厳しさに直面。当時は既卒学生に門戸を開いている企業は少なく、就職サイトにログインすらできない状況でした。新卒として扱ってくれる企業もほとんどなかったので中途採用枠で応募したのですが、3年間無職という経歴の人間を採用してくれる企業を探すのは本当に大変でした。

無職になるとクレジットカードすら作れません。「肩書きがなくなると、社会ではこんなふうに扱われるのか」と学んだ場面も何度かあります。学生のほうがまだ社会的に尊重されていたなと思い、「今までの待遇は親の力によるものだったのだな、自分の力で生きていなかったのだな」と痛感しました。

レールの上を順調に進んでいたら絶対に感じられないことを学べた大切な期間だったと思っています

吉田さんのキャリアにおけるターニングポイント

悩み多き時期を経て「どこに行っても大丈夫」なマインドを確立 

司法試験にチャレンジした経験を含め、20代から30代前半にかけては多くの壁にぶつかりました。

学生時代は「対 自分」の戦いが多かったですが、社会人になると「対 社会」になり、自分ではコントロールできないことに多く出くわします。頑張ったことを正当に評価してもらえないこともあるし、得意なことを任せてもらえるとは限らない。「努力しても得られないものがある」と身をもって学んだ時期でした。

自分の弱みを受け止めたうえで「それでも私は大丈夫」と思えるにはどうしたらいいのか、気持ちの折り合いをどう付ければいいのか。その点を考え続けた結果、すべてをコントロールできるわけではないなら、自分のせいにするのも人のせいにするのも正解ではないと思うように。「その課題に対してどう向き合えたか」「そのときのベストを尽くせたか」だけにフォーカスしよう。自分に対しては正直でいよう。そんな自分なりのひとつの信念にたどり着きました。

この信念を確立したおかげで周りの環境がどうあっても気持ちがぶれなくなり、チャレンジがしやすくなりました。「どんな職場に行っても私は大丈夫だ」と思えるようになったのですね。

キャリアの悩みや不安を乗り越えるために必要なこと

「こういう職場なら安心して働ける」という感覚も人によって違うので、他人の評価や言葉に捉われすぎないこと。「自分がどう感じているか」に敏感でいることのほうがはるかに大切です。

自分の感情をきちんと認めて言語化してあげることは、キャリアのなかで悩みや不安を感じたときにも有効です

自分の感情を認めるのは、意外と簡単ではありません。特に「悔しかった」「むかついた」といった負の感情は認めづらいものですが、それを口にできると悩みは軽くなっていきます。自分だけの秘密のノートに書き出すだけでも効果があるので、ぜひ試してみてください。感情は的確に捉えてあげることが重要なので、インプットを重ねて、日本語では数多くあるといわれる感情を表す語彙を増やすことも有効だと思います。

私自身、若い頃は「なぜ自分にこんなことが起きるのか」と悲観的に悩むことも多かったですが、経験を重ねるにつれ「またきたな」「ま、こういうこともあるよね」とうまく対処できるようになっていきました。

最初のキャリアで失敗したと思っても、その先には約50年分のキャリアがあるので、自分次第でいくらでもリカバリは可能です。失敗や挫折の経験は、自分の芯となるものを築く良いきっかけにしてほしいなと思います。

実力以上の役割を与えられても、がむしゃらにやれば乗り越えられる

3年間無職という経歴の私に唯一、新卒生として門を開いてくれたのが、外資系のアクセンチュアというコンサルティング会社でした。当時は今ほどコンサル業界がメジャーな就職先ではなかったこともあり、帰国子女など個性的なメンバーが集っている会社で、とてもおもしろかったです。

コンサルの仕事は成長できそうだなという期待もありました。入れるところに入った形ではありますが、外向的で好奇心旺盛な性格や、冷静かつ着実に仕事をしたいと考える自分のタイプに合った1社目を選べた実感があります。

3年ほど経つと専門領域が欲しくなり、人間のおもしろさに興味を持っていたことから、同じく外資系コンサル会社であるデロイトトーマツコンサルティングに人事コンサルとして転職。合計8年間コンサルとして頑張りましたが、サバイバルな業界で結果を出すことに対する社内のプレッシャーも大きく、徐々に仕事がおもしろいと思えなくなってきたことから事業会社に移ることにしました。

そして2008年に保険会社であるアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の人事部門に入ったのですが、その矢先にリーマンショックが起こり、いきなりリストラ勧告や退職パッケージづくりを担うことに。翌年には同じグループのアリコに転籍しましたが、30代前半でマネージャーを担ったこの時期が、キャリアにおける2つ目のターニングポイントです

自分の力量以上のポジションで本当に大変でしたが、その分やりがいもあり、この時期に大きく成長できた実感があります。がむしゃらにやって、なんとかやり終えたという感覚でしたが、「実力があろうかなかろうが、その立場や環境に突っ込まれたら乗り越えられるものだな」というある種の自信は得られましたね。

保険業界の仕事をトータル5〜6年ほど経験し、担当案件にひと区切りが付いて「このまま同じ会社にいたくない、また次を見たい」と思い始めた頃のことです。MBAを取得した人の体験記をふと手に取って興味を持ち、そこから思い立って半年後にはマサチューセッツ工科大学に留学することに。申し込み期限もかなりギリギリでしたが、勢いで海外に出ていきました。

自分の能力を発揮できる環境で、思いがけないキャリアを楽しみたい

1つの会社にいると、やったことがある仕事は自ずと増えていきます。私は「常に新しいことをやっていないと、その場所にいる意味がない」と考えており、この後も数年ごとに転職を繰り返してきました。

転職前には、その業界の人の話を聞きに行ったり、経営者の発信を調べたりしながら、「私のような人材を必要としているか、不足を感じていそうか」を必ず確認します。自分の力を必要としていそうな企業だと思えたら、面接等で仕事のスピード感やコミットメント具合を確かめ、「自分と志向性が似通っている」と感じられるところを選んできました。

会社選びにおいて一番重要だと思うのは、自分の性質に則り、能力を発揮しやすい環境を選ぶこと。自分の特性を活かせる環境を選んだほうが、働きやすいだけでなく、周りからも評価されやすいからです。環境は自分の力でコントロールできないものなので、無用なストレスなく仕事ができる環境かどうかについても入社前に確かめるようにしています。

こう見ると計画的に物事を進めるタイプに映るかもしれませんが、計画的に思い描いた通りにキャリアを歩みたい、といった気持ちは一切ありません。「いろいろな点を置いていっているうちに、気が付いたら想像もしないキャリアを歩んでいた」というほうが楽しい、先が見える人生はつまらないと思っているからです。スティーブ・ジョブズ氏の「Connecting The Dots(点と点をつなぐ)」という話には非常に共感を覚えますね。

当社ワールドに来てからもいろいろな経験ができており、リアル店舗のサービス改善からECプラットフォーム事業など、自分が担うとは思っていなかった役割をいろいろと経験できています。「ランダムにいろいろな点を置いてきた結果、なぜかここにたどり着いていました」という感覚ですが、これからも次にやりたいことが見つかるたびに、次の場所へのチャレンジを続けていくつもりです。気持ちと環境と相談しながら、歩んでいくのだろうと思います。

吉田さんのアドバイス

2014年に留学をするまではずっと外資系企業で働きました。20代から30代にかけて在籍した外資系コンサル企業はキャリアの飛び級ができたので、司法試験で遅れた3年分のキャリアを一気に取り戻すことができたように思います。

一方で、外資系企業は基本的にジョブベースで採用するので、「あなたの仕事はここからここまで」という責任範囲の切り分けが明確です。簡単に周囲に頼れないので甘くない側面もありますが、そうした環境が好きな方は、外資系企業も検討してみると良いと思います。

多くの女性管理職の先輩を見ることができ、そのなかでロールモデルになる女性上司に出会えたことも若い頃に外資系企業で働いたことの財産ですね。今も判断に迷ったときには「こういう時、あの上司ならどう言うかな?」と考えることがあります。

歴史のある大企業やベンチャー企業、スタートアップ企業でも働きましたが、それぞれに良さと難しさがありました

ベンチャー企業は0から1を作り出すので、自分の手で新しいものを作りたい人は、そうした環境を選ぶとスムーズでやりがいがあると思います。ただ、やることが何もかも初めてなので、試行錯誤に時間がかかる可能性はありますね。

一方で、歴史がある会社には、環境の変化や予測できない出来事を乗り越えた経験という資産があります。入社すると「こういう場合はこう乗り越える」「この問題にはこう解決する」という、先人たちが培ったノウハウを一気に手に入れられるメリットがあります。

こうした会社で何か新しいことをはじめる場合、既にできているものを壊さなければならない場面が多く、ゼロから立ち上げるよりも難易度が高いかもしれません。

「自分の武器は何か」を常に意識し、やり通す力と情報収集力を磨こう

ワールド グループ執行役員  グループ人事統括室 室長  兼 デジタルリテール推進本部 副本部長 吉田 玲子さん

人事として多くの人を見てきましたが、社会で活躍する人には「結果が出るまでやり通す」「需要に対する自分の強みの活かし方を理解している」「学ぶ姿勢があり、情報収集力に長けている」といった共通点があるように思います。

留学後は米国ニューヨーク市でも働きましたが、一定期間で結果を出せなければお払い箱になるのが当たり前の世界。運もありますが、「今はここに集中すべき」ということに対して、結果が出るまでやり通す人だけが、会社に必要とされ続けていました。やりたいかやりたくないかにかかわらず、やると決めたからやり通す、という意志を持つことが大切なのだと思います。

またニューヨークは世界中から競争相手がやってくる街なので、「自分は他とは違う」ということをアピールできなければ生き残っていけません。他の人にはないスキルを身に付けなければと必死で勉強をしましたが、社会人になってからも勉強をする習慣を身に付けておくだけで付加価値となり、チャンスを掴みやすくなる気がします

武器を磨き続ける意識を持てたのは、コンサル業界の影響も大きかったです。コンサルは自分を売り込まなければ次のプロジェクトに入れてもらえない実力の世界なので、常に自分の強みを考える目線が身に付きました。2社目に移るときも「人事でITがわかる人」という売り込み方をしましたね。

学生時代の就職活動でも、ぜひ「どんな価値を出せる人間か」に向き合ってみてください。「これが好き、こんなことをやりたい」で自己分析を終わらせず、「こんなことを乗り越えてきた、やりきってきた」まで掘り下げていくと、そこに「自分がどんな価値を出せる人材になれるか」のヒントがあると思います。

ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を聞く企業が多いのは、そのエピソードから「その人に向いていることは何か」「この人はどんなことで価値を出せる人なのか」を探っているから。人事の立場としても、そのことについて知りたいと思います。

社会で活躍するために必要な力

勉強したことは決して無駄になりません。司法試験のために勉強した法律知識も、その後いろいろな場面で役立ちました。 その瞬間にはわからなくても、ある日突然その知識が必要になる局面に出会うことも多く、その積み重ねで、今までとは違う市場価値を出せる人間になっていけるのだろうと思います

勉強していると最新の情報が入ってくるのも良い点です。ビジネスの世界ではメディアあるいは自分のネットワークから、いかにタイムリーに必要な情報を取ってこられるかも重要なので、「同じ人と飲み歩く」といった生活をしないことも大切な気がします。

できるだけ多くの情報を得て、それを分析しながら「自分がどう対応できるか、どう対応したいか」を常に考え、時間がかかっても結果を出すことができれば、変化する世の中に必要とされ続ける人間でいられるように思います。

吉田さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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