身近な「興味」にキャリアのヒントはある|個性と感性を軸に企業を選ぼう
Whatever(ワットエバー) Producer / CEO 富永 勇亮さん
Yusuke Tominaga・立命館大学在学中、2000年にAID-DCC(エイド・ディーシーシー)の設立に参画し、COOとして在籍。2014年4月にdot by dot(ドット・バイ・ドット)を設立し、2018年からPARTY New York(パーティー・ニューヨーク)のプロデューサーを兼務。2019年1月に合弁会社のWhatever(ワットエバー)を設立し、CEOに就任。シェアオフィス“WHEREVER” を運営するなど、クリエーター同士のゆるやかなネットワークをつくることをライフワークとする
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学生時代の「興味」がキャリアの指針になる
大学時代のゼミ活動でクリエイティブな分野にかかわったことが、人生における大きなターニングポイントになりました。
ゼミでは京都の伝統的な建築物である「町屋」を研究テーマにしました。当時は空き家が問題視されはじめた頃だったので、実際に住民の方にインタビューをしながら「魅力的な町づくり」についてリサーチを進めようと思ったのです。
研究を続けているうちに明らかになったのは、建物としての価値は失われているかもしれないけれど、町屋の雰囲気を全面的に打ち出すことで町全体の価値を高めることができるということ。
そこで、まずは外国の方やクリエイター、アーティストなど、町屋の文化とシナジーを生み出しそうな方に住んでもらうことにしました。もっと多くの人に遊びに来てもらおうと、町屋のレンタルサービスを開始し、それを広めるためにインターネットでの情報発信やイベント開催などをおこなった結果、少しずつ町屋の文化を広げていくことができたのです。
この経験を通して、インターネットの可能性を感じるとともに、クリエイティブな活動への興味がどんどん湧いてきました。そして「この世界で生きていこう」と決意し、大学時代の先輩や後輩と会社を立ち上げることにしたのです。
学生の中には今何をしたいのかがわからず、就活で悩みを抱えている方もいるでしょう。そういった方にこそ、自分が興味のあることから就職先を決めるという選択肢もあることを覚えておいてほしいですね。
キャリアは選択と決断の連続。芯を持ちつつ、ときには柔軟に変化しよう
会社を立ち上げたは良いものの、1年ほど経つと資金繰りが上手くいかなくなってしまい、その会社は解散となりました。借金もあったので経営者としてやっていくのは諦めようかと思ったこともありましたが、「もう一度頑張ってみよう」と覚悟を決め、再度起業にチャレンジすることにしました。
別のメンバーでAID-DCC(エイドディーシーシー)を立ち上げ、そこから14年にわたってCOOとして経営にかかわりました。その会社は今でも、大手企業のグループ会社として、最先端のクリエイティブに携わっています。
そして2014年には独立をし、dot by dot(ドット・バイ・ドット)を設立。デジタルクリエイティブの会社として4年間経営するなかで、「デジタル」の領域を超えていかなければと思うようになりました。
というのも、今までインターネットの発展と共にキャリアを歩んできて、最初の頃は「デジタルそのもの」に価値がありました。でもいずれ、デジタルが活用されることは当たり前になり、将来的にはプラスアルファで新しい価値が必要になることは予測できていたのです。
「ついにそのときがやってきた」という感じで、大きく舵を切らなければと思い、会社の事業を変えていくことにしました。
具体的には、デジタルの活用のみならず、コンテンツやエンターテイメントなどの領域にまで入り込むこと。グローバル展開を意識しながら、自社プロダクトを作ることを決めました。会社を拡大するための新たな挑戦として、PARTY New York(パーティー・ニューヨーク)とPARTY Taipei(パーティー・タイペイ)を経営統合して、Whatever(ワットエバー)を立ち上げました。
現代は変化が早く、どんどん流行が変わっていく時代です。だからこそ、芯を持ちつつも、その時々にあわせて柔軟に変化し続けていくことが必要なのではないでしょうか。
学生時代の頑張りはキャリアにつながる。積極的に「自分」をアピールしよう
クリエイティブ業界の会社で欠かせない「発想力」を磨くコツとしては、地道に感じるかもしれませんが、毎日考え続けることです。すでにあるものに対しても疑問を抱き、「自分だったらどう考えるのか」「もっと良いものにするためには」などと、さまざまなことに意識を向けて考えるようにしましょう。
当社は会社内でも発想力を磨いてもらえるようにと、「Make whatever.Rules, whatever.」を掲げています。ルールは無用で、何でも作るという精神です。1つのスタイルや価値観にとらわれていると、斬新なアイデアが思い浮かばず、最高のアウトプットを生み出すことはできないのではないでしょうか。
また、この業界で結果を出していくためには、個人で発信していくことも大切です。クリエイティブな世界では最初はほとんど大きな仕事が回ってこないと思うので、自分が作ったものを評価してもらうためには積極的なアピールが必要なのです。
私も若手の頃、個人でも参加できる賞レースに参加し、そこでグランプリを獲ったことで少しずつ名前が知られていきました。待っていても仕事のチャンスはなかなかこないので、自分からアピールすることが大切だと思います。
就活生のうちから行動できることもたくさんあります。まずは、どんどん自分の作品を作っていくことです。昔よりもいろいろなツールや手法があり、制作のハードルは下がっていると思うので、学生のうちからチャレンジしてみましょう。そして今であれば、InstagramやTikTokなどで気軽に作品を発信してみると、将来のキャリアにもつながるかもしれません。
実際に当社の採用活動においても、学生さんの学歴よりもポートフォリオを重視しています。自分の世界観を思い切り表現すると目に留まりやすいですし、幅広いジャンルのものを作ると「いろいろな場面で活躍してもらえそう」だと思われるのではないでしょうか。
クリエイティブ業界を志望するなら、就活準備だけでなく、「ポートフォリオを充実させること」にもぜひ意識を向けてみてくださいね。
日常に溢れる「アウトプット」には企業選びのヒントがある
自分に合った企業を見つけるコツは、普段から目にしているモノやサービス、イベントなどの「アウトプット」から会社を選んでいくことです。
たとえば好きな映画があるとしたら、大手の制作会社はパッとわかると思いますが、詳しくクレジットを見ていくと、中小企業や個人名などがたくさん出てきます。さらにそれぞれの会社名や個人名をリサーチすると、「どのシーンを手掛けたのか」までわかることも。ここまでくるとかなり解像度高く、自分の好きなアウトプットをしている会社や個人に辿り着くことができます。
ほかにも「好きだな」と思ったモノやサービスがあれば、何かしらの感性が近いということ。それらを手掛けた会社を調べてみると、ビジョンやミッションに共感できる場合もあるので、自分に合った企業がわからない学生はぜひこのリサーチ方法を活用してみてくださいね。
そして最終的に会社を選ぶときは、「多様性や公平性があるかどうか」をチェックしておきましょう。
これからの時代は、どんなキャリアを歩むうえでも「個の力」がとても大切です。1つの会社にずっと勤め続ける可能性も低くなってきているので、将来のキャリアアップを見据えて、自分の力を身に付けていかなければなりません。だからこそ、特にファーストキャリアでは、個性を磨いていける会社を選ぶことがおすすめです。
当社もそのような会社の1つで、日本人を中心に台湾人、アメリカ人、スウェーデン人などが集まっていて、グローバルに活動しています。それぞれの個性を受け入れることが土台になっているような環境です。
世の中には面白い会社や優秀なメンバーのいる会社は多くありますが、会社のカルチャーもチェックし、自分との相性を確かめてみてくださいね。
仕事は「楽」ではないが「楽しい」もの。理想を追いもとめよう
入社後は「個人としても、会社としても楽しむこと」を意識してみてください。
個人としては、自分の個性を存分に発揮しながら、いろいろなことに挑戦して仕事を楽しむこと。組織としては、一人ひとりの個性を活かしつつ相乗効果を生み出すことを楽しんでみてほしいですね。
組織では1人のときよりも大きなインパクトを社会に与えられたり、仲間の存在に助けられる場合もあります。組織の恩恵を存分に受けつつ「その分自分もチームに貢献しよう」と思えると、お互いに良い関係性を築けますし、結果として良いものを生み出せるのではないでしょうか。
仕事は楽しいものですが、決して楽ではありません。特にクリエイティブに関しては、最後の最後まで手を尽くし、エネルギーや時間を注ぐことで、最高のアウトプットへとつながります。その過程には度重なる修正もあり、そこだけを見ると大変かもしれませんが、その先には目指すべき理想があります。
チームのみんなで理解し合ってやっとの思いで完成し、それを見てくれた人の喜びや感動に触れたときの達成感は、言い表せないほど大きいです。それこそが仕事の醍醐味であり、人生の「ごちそう」だと私は思っています。
どのような仕事やキャリアにおいても、大変なプロセスの先にご褒美のようなものが待っているはず。そこまでの道のりは楽ではないかもしれませんが、ぜひ諦めずにゴールを目指してほしいなと思います。
取材・執筆:志摩若奈