本音と使命感に従ってキャリアを切り開け|強みを活かして自分だけの「花」を咲かせよう

桜ライン311 代表理事 岡本 翔馬さん

桜ライン311 代表理事 岡本 翔馬さん

Shoma Okamoto・大学卒業後に上京し、出版やWeb制作の会社で勤務。法人向けの店舗修繕・リフォームなどを手がける会社に入社後、インテリアコーディネーターの資格を取得し、建築デザインにかかわる仕事に携わる。東日本大震災を機に28歳で地元・岩手県陸前高田市高田町にUターン。2011年10月から団体創設メンバーの1人として桜の植樹事業を開始。2012年5月に特定非営利活動法人の認証を取得した桜ライン311で活動、2013年より現職。2014年5月正式に認定特定非営利活動法人となり、現在も事業展開しながら桜の植樹本数を更新中

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やりたいことに正直に。キャリアの出発点では焦らないことも大事 

振り返ってみると、自分の本心や使命感に従ってキャリアを歩んできたように思います。

キャリアについて最初に考えたのは、大学2年生のとき。アルバイト先の飲食店から「このまま正社員として働かないか」と誘いを受けたタイミングです。留年が決まったタイミングでしたが、しっかりとしたお店だったので、大学を中退して就職しようかと本気で考えました。仕事も楽しかったですし、初めて社会から認めてもらえた感覚があり、うれしかったのだろうと思います。

ただ親に相談したところ「ちゃんと卒業して、入学した責任を果たせ。そこから先は自由にしていい」と言われ、それもそうだなと思い直して卒業を目指すことに。

そして改めて将来の進路を考えたときに思い浮かんだのはデザイン関係の仕事でした

大学では経営学を専攻していましたが、興味があったわけではなく、「潰しが効くだろう」という考えからの選択でした。実は幼少期から家具に興味があり、本心では美大に進んでプロダクトデザインを勉強したかったのですが、非常に狭き門であることを知り、保険をかけてしまったのです。自分なりに真剣に考えて決めたことですが、今ならば絶対にしない選択の仕方でしたね。

しかし本当に社会に出ると考えたときに「やっぱりデザインや建築の仕事がしたい」と思い、決心を固めました。専門性や経験がものを言う世界なので、弟子として修行させてもらえるところで働きながら、2級建築士やインテリアコーディネーターの資格を取得し、そこから建築事務所への就職を目指そうと考えました。

岡本さんのキャリアにおけるターニングポイント

 これから社会に出る人にも、自分の気持ちに嘘をつかず「やりたい仕事と思えることかどうか」を何より大事にしてほしいです。やりたいことがわかっているのに保険をかけて無難なキャリアを選んでしまっても、その思いはずっと残り続けます。

やりたいことが見つかっていないならば、焦って就職活動をせず、卒業後しばらく放浪してやりたいことを探しても構わないと思います。ただし「行動する姿勢」と「変化を恐れない姿勢」は大切にしてほしいですね。行動する人が世界を創る、それは不変的な真理だと思います。

柔軟かつスピード感を持って変化に向かっていくことも、キャリアを切り拓く秘訣です。社会も自分を取り巻く状況も動いているので、「正解」も常に変わります。人間はルーティンをやっているほうがラクなのですが、変化を面倒がらないことです。

行き詰まりを感じたときは「なぜそう感じるのか、なぜ乗り越えたいのか」にちゃんと向き合い、自分の気持ちに正直に行動し続けること。これさえ意識していれば、行き詰まりや壁を感じる場面はかなり少なくできると思います。就職活動がうまくいかなくても生死にかかわることはありません。なぜダメだったかを分析して「次」に行けばいいだけ、と前向きに考えていきましょう。

キャリアを切り拓いていくために大切な2つのこと

紆余曲折を経た先で震災を経験。使命感を持ってUターンを決意

大学を卒業後は仙台から東京へ上京。まずは2年間ほどWeb制作を手掛ける会社や出版関係の会社で働きました。平面でモノづくりをする仕事も楽しかったのですが、立体のモノづくりがしたいという思いは強まるばかりでしたね。

「意匠設計をやりたい」という方向性も定まり、店舗修繕やリフォームを手がける建築会社に入社できることに。業務をこなしながら勉強をしてインテリアコーディネーターの資格も無事に取得し、20代半ばでやっと意匠設計の道を歩みだしました。当時は「この分野のトップランナーになるぞ!」と意気込んでいましたね。

そうして1年ほどが過ぎた頃、“その日”がやってきました。東日本大震災です。陸前高田市の出身の私は、同郷の友人2人と一緒に「家族の安否を確認しに行こう」と夜通しで550kmの距離を走りました。幸いにも私の家族は無事でしたが、友人の1人は母親を亡くしました。

当時は現地の人たちが自力で避難所を運営していたのですが、「自分の家族を探しに遺体安置所を回りたい」と思いながら運営もしているような状況でした。「これは被災者がやるべきことじゃない、避難所を支えるのは直接被災していない自分にこそできることじゃないのか」と思い、仕事を休んで避難所の運営ボランティアを手伝うことにしました。

避難所のなかには2000人もの人々が生活している大きなところもあり、それを最大40人のボランティアで運営していました。24時間交代で食事を作り続ける炊き出しをする班や毎日4台も来る10トントラックの物資を搬入・分配する物資班など4つの班に分かれており、さながら1つの会社のような組織になっていました。

全国から続々と支援物資が集まるようになってからは、私のいた物資班は非常に混乱した状況になりました。毎日次々に届く支援物資の受入れ判断や荷下ろし、品目ごとの個数管理などの作業がとにかく膨大にあったのです。

そのようななかで避難所運営の困難さがよくわかり、コーディネーターの必要性を痛感しましたね。この状況を冷静に考えて動かしていくには、「地元のことがわかっていて、かつ地元の外のこともわかっている自分のような人間が采配をするのがベストではないか」とある種の使命感を感じるようになりました

そして「未来がまったく見えない被災地と東京の仕事、どちらをやるべきか」を考えたところ、迷いなく前者だと決断。2011年5月に正式に会社を辞め、地元に帰ってきました。

社会人経験が強みに。ファーストキャリアの意義には後々気付く

桜ライン311 代表理事 岡本 翔馬さん

Uターン後は仮設住宅自治会の役員から「震災の記憶を残したい」と相談を受けたことをきっかけに、津波の到達点に桜の植樹をする事業をしようという話がまとまりました。2011年10月に創設メンバーの1人として団体を立ち上げ、2012年5月から正式に法人としての事業をスタートしています。

次なるキャリアのターニングポイントが訪れたのは、その翌年のことです。初代の代表が団体を抜けることになり、副代表理事だった私に白羽の矢が立ちました。NPO法人は“思い”をベースにした組織なので、代表のリーダーシップは非常に重要です。自分は前任者と人間的に違うタイプだったので、代表が変わることで寄付を受けられなくなったり、団体のカラーが変わったりするのではという不安は強かったです。

就任後しばらくは「リーダーとしてどうあるべきか」を必死で模索し続けましたね。右も左もわからない時期もありましたが、期待をかけてくださるNPOの大先輩たちとの縁にも恵まれ、さまざまな視察や研修の機会をいただいて勉強を続けました。

就任前に懸念したように、私が代表になったことで離れていった人はゼロではありません。しかし逆に「岡本さんが代表になったからこそ寄付をしたい」と仰ってくださる方々もたくさん現れ、そうした方々の期待に応えたいという思いをモチベーションに、今日まで一意専心、桜ラインの事業に力を注いできました。

このポジションに就かなければ感じられなかった充実感は確実にあり、人の期待を預かることの難しさと楽しさに気付けたことは、キャリアの中での大きなターニングポイントです

代表を担ううち、自分の強みも見えてきました。NPO法人には、ビジネス感覚を持った人がそれほど多くありません。一方私にはサラリーマン経験があり、一般企業の常識や礼儀を知っていることやビジネスの目線を持っていることが、NPOの世界では他にはない強みになったのだと今振り返るとよくわかります。桜ラインは利益追求を目的としない団体ですが、多くの企業と関係性を築くなかで、ファーストキャリアで得られたものの意義を感じる場面は非常に多かったです。

それこそ、桜ラインに寄付してほしい人々の多くはビジネスや経済などの視点を重視する人も少なくないため、当事業を運営していくうえでもファーストキャリアで得たビジネス関連の知見は活きたように思いますね。

これから社会に出る人にも、若いうちに「社会がどういう論理で動いているのか」を知り、そこでの常識や基本原則、マナーなどを身に付けておくことを心からおすすめします。後から必ず活きる場面が出てくると思いますよ。

後悔のない人生を送りたい。惜しみなく「与えられる人」であるために

代表になって数年間は、少数精鋭で動かしていました。いわゆるNPOベンチャーの組織体制だったのですが、5年ほど前からは、中長期的に存続できる熟成した組織をつくることに力を注いでいます。桜ラインは中長期的な事業のため、それに対応できる組織づくりが必要だったこともありますが、何より、NPO法人の1番の課題は「長期的に働き続けることが難しい待遇面にある」と気づいたからです。

アメリカやイギリスのようなNPO・NGO先進国では、寄付金を年間予算の中心に置いて成立している組織が多数あります。社会からも「社会に必要な職責を担う組織」として尊敬の念を持って見られており、充分な収入を得ているスタッフの方も多くいます。

一方、日本では寄付金だけで回すことができている団体は、極めて少ない状況と言えると思います。そして資金面が理由で、続けられない状況に陥りがちです。桜ラインではこの課題に向き合い、定年まで働き続けられる組織を目指しています。そうした新しいNPOのモデルを創ることが、現在の私の経営者としてのビジョンです。

代表を務めるうえでは「ぶれないこと」「プロフェッショナルであること」の2点を大切にしています。トップの人間が迷うと、組織内外にかかわらず周囲の人々を不安にさせるからです。人のしがらみでの事業判断なども絶対にしません。「災害で死ぬ人をゼロにする」という団体が掲げるミッションだけを指針に、ぶれない意思決定をおこなっています。

仕事においては、年数をかけた分だけプロフェッショナルになるべきだという考えを持っているので、「昨年よりも成長している」と感じられる瞬間に充実感を覚えます。今であれば、かかわる人に「12年半、この事業を続けてきた分だけあるな」と感じてもらえる代表でありたいという思いで取り組んでいます。

岡本さんがキャリアにおいて大切にしていること

  • ぶれないこと(仲間を率いる立場として)

  • プロフェッショナルであること(関わった年数分)

  • ギバー(人に惜しみなく与える人)であること

そして最近は“ギバー”でありたい、具体的には「組織以外や事業に直接関係はなかったとしても、私にかかわってくれる人たちに何かポジティブなものを与える人でありたい」ということも強く意識しています。

これは「GIVE&TAKE『与える人』こそ成功する時代」(著・アダム グラント / 三笠書房)というビジネス書に基づく考え方です。人間には、ギバー(人に惜しみなく与える人) 、テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人) 、マッチャー(損得のバランスを考える人)の3タイプがいるというのが著者の論説なのですが、NPO業界の先輩に「岡本ちゃんはギバーだね、すごく良いと思うよ」と言っていただいてから、自分自身としてもそうありたいと意識するようになりました。

多くの方々に成長の機会を与えてきてもらったので、「自分がもらったものを次の世代の人たちに還元したい」という思いは強いです。震災を知らない世代も増えてきているので、あのときのことを伝え続けたいという思いも胸に、大学での講義や講演なども積極的に引き受けています。

また個人的なことですが、3年前には妻が突然病気で亡くなるという経験をしています。東日本大震災の時にも感じたことですが、「命は意図せずに終わる。その瞬間に良い人生だったと振り返ることができる人間でいたい」という思いが改めて強まりました。

現在は、4つ目の法人立ち上げを準備中です。毎日楽しく仕事をして、仲間たちとやりたいことを形にしていたら自然にこの数になっていました(笑)。「やりたいことに嘘をつかない」「どんな瞬間も楽しむ」「絶対に後悔しない」というモットーを胸に、これからもキャリアを歩んでいくつもりです。

自分が何者かを知ることに努め、「伝える力」を磨こう

大学卒業時にちゃんと就活してない私が言うのもおこがましいなと思うのですが、就職活動について何かアドバイスできることがあるとすれば、「自分が何者かを知ること」の重要性です。

面接で「自分はここが強みなので、この役割で結果を出します、この仕事をやって貢献したいです」とバシッと言ってくれる人がいたら、私は採用しますね。強みや価値観をしっかり伝えてくれると会社側も配置やチームとの相性を考えやすいので、自分に合った部署や職種にアサインしてもらえる確率も高まると思います。

自分のストロングポイントがわからない人は、ゼミ、サークル、アルバイトなどいろいろな活動を経験し、どういうときにテンションが上がるのか、チーム内でどんな役割を果たせるのか、自分をつぶさに観察して、自分を知る機会を増やしてみてください。客観的な判断材料が欲しければ、「ストレングス・ファインダー」などの客観的な診断ツールを活用してみると確信を持てると思います。

また、業種や企業を問わず身につけておくといいのは「伝える力」です。周りに理解してもらえるように伝えられる人は、チャンスに恵まれます。自分の考えや価値観、日々の感謝をきちんと周囲に伝えていると信頼が生じますし、「こういうことをやりたい人なのだな」と認識してもらえるので、成長の機会やチャンスを与えてもらいやすいのだろうと思います。

トークの才能がなくても大丈夫。伝える力は「慣れ」だということは、身をもって証明できます。私も人前で話すことがとても苦手でしたが、場数を踏むことで、今はストレスなくできるようになりました。伝えることも傾聴もある種の「技術」と考え、相手のサインを受け取りながら話す、身振り手振りを入れて飽きさせないようにする、といったことから取り入れてみると良いと思います。

岡本さんからのメッセージ

会社選びにおいては、組織としてのパーパスやビジョン、ミッションステートメントなどがしっくりくるかどうかを冷静に見極めてみるのがおすすめです。

私なら、役員クラスの人間が楽しそうに働いている会社に注目しますね。中小企業から大企業までたくさんの会社を見てきましたが、トップや役員層、マネージャークラスからバイタリティがにじみ出ている会社は、社員たちも生き生きと働いていることが多いです。上の人間が楽しんで仕事をしていると、それが会社全体に波及して「社風」になっていくのだと思います。

入社後に「しっくりこない」と感じたときは、次を見据えて準備を始めてください。具体的には、自分の感覚を研ぎ澄ませつつ、仲間を見つけておくことです。「次はこれをやりたい」という気持ちの角度がグッと上がってきたときに、すぐに場所を変えられるような準備をしておくと良いと思います

東日本大震災を経験して実感したことでもありますが、文字通り一度きりの人生です。前のめりに楽しもうとしたほうが楽しいし、そういった環境を作れるのは誰でもない自分自身だけです。ときに理不尽に感じる苦労も次の糧に変換できる人は成長率が全然違います。後悔しない就職活動を「楽しんで」くださいね! 

岡本さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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