自然体で続けられることが居場所になる|「嫌」を避ける。「好き」にこだわらない。自分にも世界にも素直でいよう

STOCK POINT 代表取締役社長 土屋清美さん

STOCK POINT(ストックポイント) 代表取締役社長 土屋清美さん

Kiyomi Tsuchiya・東京工業大学理学部応用物理学科卒業。電通国際サービスでの銀行の海外支店立ち上げを経て、2000年、後輩が立ち上げたクオンツリサーチに参画。2006年に独立し、Sound-F(現Sound-FinTech)を創業。2016年STOCK POINTを設立

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消去法のキャリア選択でたどり着いた現在地。「嫌」を避けるのも一つの軸になる

今の学生の就職活動を見ていると、本当にすごいなと感心します。自分を見つめ、先を見据えて、地道に努力していて素晴らしいです。自分の就活を振り返ってみると、まるで違います。当時はいわゆるバブル期で時代が違ったこともありますが、そこまで真剣かつ深刻に就職活動をしてはいなかったんです。それでも今なんとかなっているので、就活生の皆さんには「大丈夫、リラックスして」とまず伝えたいですね

もともと東工大を選んだのは、家から近かったから。最初の就職先である光学機器メーカーの研究所は、一人暮らしをするのにちょうど良い距離だったから。そろそろ実家を出たいと思い、今度は家から近すぎず遠すぎず、ちょうど良いロケーションを選んだんですよ。そんな調子で就職先を決めたので、もちろんどんな仕事をするのか、何をしたいのかも明確ではありませんでした。実際の仕事は光半導体の物性研究で、大学の研究室に近いような基礎研究がメインです。そこで働いてみて初めて「別に研究が好きなわけではないな」と気づきました(笑)。それからすぐに辞めて大学に戻り、違う仕事を探すことにしました。

嫌いなこと、嫌なこと、我慢できないことを続けていても、好転するとは思えません。上達も遅いだろうし、時間も心もすり減らしてしまうと思いませんか。本当に好きなものや大きな野望がある人はそれに向かっていけば良いですが、多くの人はそうではないはず。だとしたら、嫌なことを避けるという観点でキャリアを選んでいくのも1つの手です。

土屋さんからのメッセージ

自然体で続けられることは「居場所」になる

バブル期の日本の銀行は海外にどんどん支店を設立していました。勢いもあり、新しさもあり、面白そうな分野だなあと思っていたんです。そこで海外のシステムネットワークの構築に携われる、電通国際情報サービスに就職しました。

ネットワーク関連の仕事なので当然プログラミングもするのですが、ここでまた「私はプログラミング好きじゃない」と気づいてしまいました(笑)。幸い実際にコードを書く業務ではなく、営業とエンジニアの間に立って橋渡しをするセールスエンジニアを担当できることになり、その後は非常に面白く仕事をすることができました。さまざまな国へ行って知見を広めたり、3カ月程度滞在しながらシステムを作り上げたり。新しい世界を知ることができてワクワクの日々でしたね。

自然体で好きなものを見つけるまで

もちろん入社の時点で金融についてはまったく知識がなかったのですが、それ自体が苦になることはありませんでした。仕事が楽しく充実していたので、自然に学び、自然に好きになっていったのです。思うに、無理に頑張らなくても好きだと思えることは、続けられます。そしてその積み重ねの中で、自分の居場所ができていくのです。

得意なことや秀でたことばかりを探すより、自然体で続けられること、面白いと感じられるものを信じてみてはどうでしょう。そこに天職のヒントがあるかもしれませんよ。

無謀を成功に変えるのは知識と経験

入社当時は比較的小さかった電通も、長く在籍している間に上場し規模もどんどん大きくなっていきました。その反面自身としては長く担当してきた仕事が少しマンネリだと感じるようになってきて。次のステップに移行する時期かなあと考えていたら、後輩がベンチャー企業を立ち上げるというので、「これは“渡りに船”だ」と思い、参画しました。

立ち上げたばかりのベンチャーですから、1人でいろいろやらなければなりません。大企業は与えられた役割を果たすことが仕事ですが、ベンチャーは役割なんてあってないようなものです。会社に必要なことを役割を超えて次々とこなしていくのは新鮮でしたね。その後、その会社で扱っていたプロ仕様の金融情報サービスをもっと一般向けに展開してみようと考え、今度は自分で起業しました。

昨今はキャリアの選択肢が増えて、新卒で起業する人も少なくないと思います。最初の一歩に起業を選ぶその意欲や行動力は素晴らしいですが、社会の仕組みやルール、慣習、落とし穴を知らずに起業することは、無謀な面もあるのではないかとも感じます。世の中がどんな風に回っているのか、お金、モノ、人、組織などを体感してからの独立でも遅くはないはず。起業してみたいと思っている人も、まずは会社に身を置いて、会社を通じて社会を見通してみる意味は十分にあると思います。

企業という道を選択するために必要なもの

「人に話を聞いてもらう」ことに大きな意味がある

STOCK POINT
代表取締役社長 土屋清美さん

自分で会社を作り一般向けの金融情報サービスを展開していく中で、一番苦労したのは資金繰りです。まさにお尻に火がついた状況で、なんとか仕事を取ってきて回していく毎日でした。どうしたら良いのか、悩むことも多々ありましたね。

こうした経験を踏まえてやはり思うのは、そんなときは誰かに話すに限るということです。自分で解決できないことを長く考え続けても、解決できる可能性は低い。同じ思考の中でグルグルと回っていても打開策は見えてきません。話す相手は信頼できる人であれば誰でも良いと思いますし、必ずしも解決策を与えてくれる相手である必要はありません。「話をすること」自体に意味があるからです。

人に話すことでさまざまな情報や感情が整理され、課題や困難も整頓されて本質が見えてきます。そうすれば、自ずから解決の糸口を得ることもできるでしょう。絡まった問題を解きほぐすという点では、ノートなどに文章を書いてみるのもおすすめです。

助けてくれるかどうかはわからないけど、話を聞いてくれる人がいるというのはありがたいことです。気楽に話ができる人、関係性は本当に大切ですし、皆さんにもそんな相手がいるなら、大切にし続けてほしいなと思います。

成長のチャンスを引き寄せるのは素直さ。軽やかにチャレンジし続けよう!

当社ではたくさんの若手社員が活躍しており、今年度は新卒採用もおこないました。ただ新卒就活生の面接をしていると、テンプレートで固めた人が多いと感じたのが正直なところです。どうしても伝えたいことやエピソードがあって、どんな質問が来てもその話に持っていこうとする人、結構いましたね……。その気持ち自体はよくわかります。事前に準備して「これを言いたい」という形を作っているのでしょう。でも、それにとらわれ過ぎて質問に対しての答えになっていないことさえあるんです。

私たちが見たいのは、素のあなた。作り込んだ姿ではなく素直な自分を出して欲しいんです。緊張している場面でも素直に自分を見せることができる人は、周りをシャットアウトしないので吸収も早い人だと思います。自分を守ろうと作り込んで周りを遠ざけてしまうと、インプットのチャンスが減ってしまいます。社会人になると、自分からどんどんインプットして成長の糧にしなければなりません。その根本には「素直な人柄」が不可欠だと思っています。

素直な人柄が成長のチャンスを引き寄せる

インプットの仕方は人それぞれ。さまざまな情報があふれている時代ですから、本でも、メディアでも、SNSでも、イベントでも、そしてフェイストゥーフェイスでも学びを得ることはできるでしょう。

長くキャリアを重ねてきて今一番大切にしているのは、楽なこと(笑)。自分に無理がなく、のびのびと楽しめるキャリアを満喫しています。もちろん、ここに至るまではさまざまな変遷がありました。小さな失敗や試行錯誤を繰り返しながら、どんな生き方がしたいのか、何が大切なのかがはっきりしていくのだと思います。自分なりの価値観の形成には時間がかかるものですから。

キャリアや年齢を重ねる中で、社会や家庭の中で期待される役割も変わっていくでしょう。時代は変わっても、年を経るにつれて役目や責任が大きくなるのは変わらないのではないでしょうか。年を経て、家庭を持ち、部下を持った状態で何にでも興味関心だけでチャレンジできるかというと、残念ながらそれは難しい。だとすれば、どんどんチャレンジできるのは若さの特権だともいえますね

テクノロジーが進化しても、ゼロからイチを作り出すのは人間です。人間にしかできない、もっと言えば自分にしかできないことを求めて、軽やかにチャレンジを重ねてキャリアを切り開いていってほしいですね。

土屋さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

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