負荷を恐れず自分自身を磨け|未来への問いかけを続けた先に道筋が見える

ルネサンス 取締役副社長 望月 美佐緒さん

ルネサンス 取締役副社長 望月 美佐緒さん

Misao Mochizuki・新卒で入社した会社から転職後、1987年にルネサンスに入社。フィットネストレーナーとして勤めた後、1992年に同企業でスーパーバイザーに就任。業務改革を続けながら部署異動を繰り返し、2013年に執行役員となる。その後2017年には常務執行役員に就任し、以降現職

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形を変えるキャリアの裏には常に「やりたいこと」への一途な思いがあった

キャリアを歩む中で大切にしてきたのは「扉は開けてみないとわからない」という考え方でした。目の前に扉があるのに、開けずに通り過ぎるのは違うなと思っています。もちろん扉を開けてうまくいくとは限らないし、どうなってしまうのかという不安もある。けれど扉を開けないと、現状は何も変わりません。

その気持ちを大切にしてきたからこそ、これまでさまざまなことを経験してきました。転職のときもそうですし、現場で働くフィットネストレーナーから本社視点で現場の業務の質を改善するスーパーバイザーになり、社内の業務改革に取り組んだり、新規事業を立ち上げたり、商品開発をしたり……とにかくいろいろなことに取り組んで、その先に副社長という今のキャリアがあります。

現場でたくさんの人と働いてから、本社で経営に携わり、立場や与えられる役割が頻繁に変わるなかでキャリアを築いてきましたが、常に頭の中にあったのはたった1つ。1人でも多くの人の健康を支えたいという気持ちでした。フィットネストレーナーという仕事を通じて変化していく多くの人を目の当たりにすることで、その想いを強くしていきました。

そこからは手を変え品を変え、そのとき与えられた役割を全うすることでたくさんの人に健康的な生活を送ってもらうための行動をしてきたと思います。キャリアの歩み方はバラバラに見えても、見すえていたのは「たくさんの人の健康」その一点でしたね。

望月さんからのメッセージ

「自分は何も知らない」その自覚がすべての原点

キャリアを歩むうえでのターニングポイントには、いつも「この分野について、自分は何も知らない」そんな無力感がありました。

たとえば転職の時。専門学校の講師になったものの、教えられることがほとんどなかったのです。この学生たちはいずれフィットネストレーナーとして活躍する。けれど自分は、そのフィットネストレーナーの何たるかを知らない。彼らを送り出す先のことを知らずに、講師をすることはできないと思いました。それがルネサンスへフィットネストレーナーとしての転職を決意したきっかけです。

それだけではありません。ルネサンスに入社してからもキャリアチェンジするたびに自分が何も知らないことを思い知り、壁に突き当たりました。中でも印象的だったのは、本社で事業改革に取り組んだときです。

望月さんのキャリアにおける、ターニングポイント

当時おもに取り組んでいたのは、フィットネスサービスの標準化。たとえば当時のルネサンスは、レッスンの内容をインストラクターの自主性に任せており、使う曲もレッスン内容も人によってまったく違うものでした。けれどこの仕組みは利用者にとってはあまり良くありません。レッスンのレベルも内容も何を選べば良いのかわからなくなり、場合によっては自分に合うクラスはないと思って退会につながるケースも出てしまいますからね。

利用者にとって良い仕組みにするにはサービス全般を標準化し、いつレッスンに参加しても満足してもらえるようにすることが必要です。フロント業務のマニュアル化からテニスのコーチング内容まで、あらゆる業務を一律でテコ入れしました

もちろん自分の専門外のものが多く、わからないことだらけで何から手をつければ良いのかさえもわかりませんでした。それでも何とか業務に着手していたものの、ときには部下やコーチから「どうせわからないですよね」なんて言葉をかけられてしまったものです。

このままではいけないと思い、2つのことに取り組みました。1つは標準化した新しいマニュアルを教えようとするのではなく、課題を見つけるという視点に切り替えること。たとえば退会率が高くなる時期に注目し、その背景に何があるのかを考えました。課題が見つかれば、次は解決するためにどうすれば良いかをコーチやインストラクターと検討する。その繰り返しで標準化に取り組みました。

もう1つは、コーチング技術を身につけること。人のモチベーションを上げたり、課題を解決するにはスキルが必要です。特に質問技術と承認技術を鍛え、マニュアルやレッスンメニュー作成に関して多くの人の力を借りながら取り組みました。

これまで何度かターニングポイントはありましたが、行動を起こす原点にはこの「自分は何も知らない」という意識があったように思います。何も知らないことを理解しているからこそ自分なりのアプローチを見つけ出し、それが結果としてうまくいきました。

初めてのことに取り組むときには、いつだって困難が付きまといます。けれど行動をしないことには、どうなるかはわかりません。今回のようにうまくいき、自分のキャリアを押し上げることにつながる場合だってあるのです。

反発から得たのは人生に負荷をかけることを楽しむ考え方

ルネサンス 取締役副社長 望月 美佐緒さん

これまでいろいろとキャリアを積んできましたが、実は初めから管理職の仕事に意欲的に取り組んでいたわけではありません。最初は現場から離れるのが嫌でした。自分の目的は多くの人に健康になってもらうことなのに、昇格するほど現場から離れていく。そんな矛盾に苦しみ、上司に反発したこともあります。

そんな時、当時の社長(現会長)から「君はいつも現場で人の体を大きくするには筋肉に負荷を掛けることが大事だと指導しているのに、自分の人生ではそれをやらないの?」と問いを投げかけられました。確かにいつも負荷を掛けろといっているのに、自分でそれを実行しないことには説得力がない。自分の生き方に負荷をかけること、それこそがトレーナーの在り方だと気づきました

そのうえ上司からも「たくさんの人にサービスを届けるには、それだけ会社を大きくしないといけない。だったら会社を成長させるために尽力しよう」そう言葉をかけられたのです。

新しいことや苦手なことに挑戦すると、心身に負荷が掛かります。けれどその先には自分がこれまで見たことのなかった新しい世界があり、その世界に飛び込んだ結果がどう転んだとしても経験として今後に活きます。彼らの言葉で、そんなふうに前向きにとらえられるようになったのです。

強みは道具ではなく手段。どう発揮するかを考えよう

新しいことに挑戦するときは、当然うまくいくことばかりではありません。壁に突き当たったり挫折しそうになることもありました。そんな局面を乗り越えられたのは、周囲の人の力を借りながらチームプレーで戦ってきたからだと思っています

大学生の頃は、ハンドボールに没頭していました。どのスポーツもそうですが、ポジションによってさまざまな役割があります。出場する選手だけでなく控えの選手にもするべきことがあり、その総合力が高いチームが勝利へ駒を進めます。自分には絶対できなくても、ほかの人には難なくできることがある。それは会社も同じです。

大切なのは強みの使い方を考えること

専門家に頼れることは頼り、自分はそれ以外の強みで会社に貢献する。自分の強みをどの場面でどのように発揮するか? 大切なのはそれを考え続けることです。

就活をする前に、自己分析をしますよね。そこで自分の強みを知って、企業にアピールすると思います。けれどそれで終わってしまってはいないでしょうか? そこで見つけた強みを具体的にどう使うのか、はたして今取り組んでいることに発揮できているのか? それを考えてみてください。強みはあくまで道具でしかありません。見つけただけでは役に立たないのです。

自分に合う企業の見極めは心が動くかどうか

企業選びをするうえでは、多くの企業について調べますよね。そこに出てくる情報は、正に企業の強みといえるものが大半で、魅力的なものが多いと思います。そのような中で自分に合った企業を見極めるには、強み以外のもの、つまり企業がこちらへ伝えようと意図していない部分を知ることが大切です。

それをもっとも感じられるのが、企業の「雰囲気」。漠然としているように思えるかもしれませんが、この雰囲気が意外と大切なのです。なぜなら雰囲気は、企業を構成するあらゆるものの総合体でできているから

たとえば企業に足を運んだ時、笑顔で挨拶をしてくれる人が多い企業とそうでない企業なら、前者の方が働きやすいように感じますよね。挨拶をする習慣ができていて、社員一人ひとりが仲間意識を持って働いている。そんなふうに感じるのではないでしょうか。

些細なことに思えるかもしれませんが、企業が自ら押し出している強みだけでなく、この意図しない部分からも良さが伝わってくるところは働く環境としても魅力が大きいはずです。

自分に合う企業は会社の「中身」で見極める

そしてこの雰囲気は、企業サイトを見ているだけでは伝わってきません。まずその企業や店舗に足を運ぶという+αの行動を起こして初めてわかるものです。生身で企業の情報を得て初めて雰囲気を感じ取り、心が動く。この心が動く瞬間を見逃さないでください。直感的に「良いな」「働きたいな」と思った企業、それがあなたに合った企業です。

自問自答し、自走する。それが今と未来に活きる力

いつの時代でも企業で活躍できるのは、自走する力のある人です。仕事をするうえでは与えられた仕事を確実にこなすことももちろん大切ですが、そのうえで+αの行動を取ることができる人がどんどん力をつけていきます。

自分が何も知らないことを実感した当時、とにかく上司に「行ってこい!」と言われたセミナーや勉強会には片っ端から参加していました。そのうえで「この人の話はもっと聞くべき」と感じた人には必ず連絡を取り、より深い知識を得ることを繰り返していたのです。その+αの行動こそが、今のキャリアに活きています。

上司から勧められたことにNOという人はなかなかいないでしょう。もちろんそれが必要なことなら、上司に言われるままがむしゃらに努力することは大切です。けれどその結果言われたことしかできない人、自走できない人になってしまうのは本末転倒ですよね。自走できる人とできない人にある差は、この+αの行動ができるかどうかなのです

ではこの+αの行動はなぜできるのか? それは常に自分自身の欲求と未来に問いを持つからです。自分が一番したいことは? 実現するにはどんな自分にならなければいけない? 自問自答を繰り返し、情報を獲得して強みを身につけ、それを仕事に還元していく。このサイクルを回していくことで、今にも未来にも活きる力が身につきます。

常に自分の生き方にクエスチョンを立ててください。そして答えとなる自分の欲求に正直に行動を起こしましょう。それこそがいつの時代にももとめられる人の在り方なのです。

望月さんが贈るキャリア指針

取材:山本梨香子
執筆:瀧ヶ平史織

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