想定外を「想像以上だ!」と受け入れられるか|やりきる覚悟と前を向き続ける意志がキャリアを拓く

フィル・カンパニー 代表取締役社長 金子 麻理さん

フィル・カンパニー 代表取締役社長 金子 麻理さん

Mari Kaneko・一橋大学社会学部卒業後、1986年に日本IBMに入社。夫のアメリカ留学のため、同社を退社し、渡米。1997年に帰国し、一橋大学大学院商学部経営学科修士課程を2002年に修了。夫の2度目のアメリカ転勤により再度渡米。米国公認会計士として登録し、アメリカに進出した日本の会社で会計担当責任者を務めたあと、起業して代表取締役に就任。帰国後フィル・カンパニー創業メンバーである髙橋氏から誘いを受け、2014年に入社。常勤監査役として尽力し、東証プライム市場上場を果たす。2023年2月に代表取締役に就任し、以降現職

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社会全体の「当たり前」に流されず自分軸を持とう

「時代に流されないこと」も、ときには重要だと思います。

自身が就活生だった当時は就活やキャリアにおいて、社会全体で男性が優遇されるような時代でした。女性よりも男性のほうが就活の時期が早かったり、いわゆる総合職に就職できるのはほとんど男性だったり……。そのうえ「新卒入社した会社で一生働く」という暗黙のルールのような風潮もあり、かなり慎重に就活しなければと思っていました。

そのような背景がありながらも「自分のキャリアを歩んでいきたい」という思いが強かったので、当時のなかでは性別による格差のない外資系企業への就職を目指すことにしました。そして世界で通用する会社でキャリアを広げていければと、日本IBMに入社することを決めたのが今に続く道の始まりです。

一般的には興味のある業界や職種から会社を選ぶことが多いかもしれませんが、「どんなふうに働けるのか」といった会社の風土もぜひ見てほしいポイントですね。自分に合ったキャリアをスタートさせるためにも、職場環境を重視して会社を選ぶというのも良いのではないでしょうか。

意外と見落としがちですが、会社の「教育環境」によってキャリアのスタートがある程度決まると思います。日本IBMはとにかく教育制度が整っている会社だったので、時間をかけてじっくりと学ぶことができました。

その一方で、職場環境が整いすぎていたからこそなかなか学生気分が抜けず、社会人としての意識や成長意欲を持つのには時間がかかりました。今振り返ると、あえて厳しい環境に身を置き、早いうちから大きな壁にぶつかっておいたほうが良かったかもしれないとも思います。

もちろん「最初はマイペースに成長していきたい」という方は、そちらを選ぶのも良いでしょう。いずれにしても会社の教育制度によって最初の数年間のキャリアや成長速度が大きく変わってくるので、事前にチェックしておきたいところです。

金子さんからのアドバイス

明るい未来に目を向ける。想定外を「想像以上だ!」と歓迎してみて

フィル・カンパニー 代表取締役社長 金子 麻理さん

順調にキャリアを歩んでいくなかで、結婚・出産とライフステージも大きく変化していきました。そんな中、子どもが生まれてからしばらく経った頃に夫が海外に留学することに。家族そろってついていくことにしたため、それを機に仕事を辞めることになりました。

志を持って入社し「自分のキャリアを切り拓いていこう!」と思っていた矢先のことだったので、本音で言えば辞めたくはなかったです。「自分のキャリアはここで終わってしまうんだな」「未来を描くのはもうやめよう」と思い悩んだ瞬間もありました。それでも受け入れるしかなく、家族とともに渡米しました。

その後海外での生活を終えて日本に帰国。改めて勉強をしたい気持ちがあったので、一橋大学の大学院へ入学することにしました。勉学に励み順調に修士課程を終えて、さあ次は博士課程に進もうか、なんて思っていたタイミングでなんと夫が再度アメリカに転勤することに。とはいえ2回目のことですから、「これも運命なんだな。アメリカに行ってもラッキーなことがあるかも」とポジティブにとらえられるようになりましたね(笑)。

周りからすると「道半ばで学業を諦めた」といった見方をされるかもしれませんが、自分が良ければそれがすべてだったりします。社会人になってからわずか数年後には当初描いていたキャリアとはまったく違うものになりましたが、それに対して「想像通りにならなかった……」と思うのも、「想像以上の未来になった!」と思うのも自分次第です。どのような変化が起きても、できるだけ前向きにとらえられると良いと思います。

金子さんからのメッセージ

想定外を重ねた先でたどり着いた未来。変化を恐れず歩み続けて

キャリアの途中では思い悩むこともありましたが、今振り返ってみれば、とても充実した日々を送ってきたと感じています。

2回目の渡米以降はもうアメリカ生活も長く生活スタイルや教育も馴染んでいて、子どもも「ずっとアメリカに居たい」と言っていました。そのため夫の転勤は5〜6年で終わったのですが、熟考した結果私と子どもとでアメリカで生活を続けることにしました。その間に「今なら自分のやりたいことができる!」と思い立ち、大学時代に学んだ会計に関する知識も活かしつつ猛勉強して米国公認会計士資格を取得。アメリカに進出していた日本企業に入社し会計の責任者を務めました。その後、会社を立ち上げ代表取締役も経験するなど、目まぐるしい日々を過ごしました。

そして帰国後、同じゼミ出身でもともと知り合いだったフィル・カンパニー創業メンバーの髙橋さんと久々に会うことに。当時彼は社長で、創業7〜8年目とちょうど事業が落ち着いてきた頃です。そこで「そろそろ上場したいと思っているから、金子さんの力を貸してくれないか」という話をされました。

受けるべきか、断るべきか。その決断をするためにも自分のキャリアを振り返ると、新卒で大企業に勤め、途中で学業に励んだり、海外に行って就職や起業を経験したり……と、想像以上にさまざまな経験を積んでいることにハッとしたのです。就活のときや夫の転勤などで自分のキャリアを諦めそうになったこともありますが、結局はいろいろな経験ができて充実感を感じている自分がいました。

そして、「最後の集大成としてやりたいことは?」と考えたときに浮かんできたのは、ベンチャー企業の上場に携わるということ。髙橋さんからの誘いを受けることを決め、常勤監査役として上場の実現を後押ししていくことになりました。当時は世間でも最少人数での上場と言われ、とても貴重な経験ができたことを本当に感謝しています。

もとを辿れば、「2度目の渡米」という流れになったからこそ、海外で自由にキャリアを重ねることができました。みなさんも社会人になったら、突然の変化に驚くこともあるかもしれませんが、まずは受け入れて前向きに進んでみることをぜひ意識してみてください。すると、自ずと新たな未来が創られていくと思いますよ。

「想定外」によるキャリアの広がり

「今の思い」を大切に「今できること」をやり切ろう

最初は「上場を経験したい」という思いが強かったのですが、フィル・カンパニーにかかわっている間に、そのビジネスモデルの素晴らしさに強く共感するようになりました。当社は世の中にある数々の「未活性空間」に着目し、そこを活用するための空間ソリューションサービスを提供しています。

たとえば、多くの駐車場・コインパーキングは、その上空部分には何もない空白の空間が広がっています。そのような場所に当社は独自の視点で「空中店舗」呼ばれる商業ビルを建築し、土地活用の収益向上や地域の活性化にも貢献するなど、さまざまな形で未活性空間を活用する提案をしています。

「世の中で活用できる空間や土地を増やしていく」という事業の社会貢献性、そこにかけるメンバー全員の想いに感銘を受けて、これからもこの会社の成長に携わりたいと思い、今では約10年もの付き合いになります。2023年には代表取締役へ就任もし、これもまったく想像していなかったことですが、今までの集大成としてまっとうしていきたいと思っています。

最終的に納得のいくキャリアだと思えるようになったのは、いつも「与えられた環境でできること」を考えてきたからだと思います。どうしても環境を選べないときや、周りの状況でうまくいかないと感じることもあるかもしれませんが、そんななかでも「今できること」をやりきることで、次の道が開かれていくのではないでしょうか。

金子さんのキャリアにおけるターニングポイント

「周りを巻き込む力」と「客観的な視点」でキャリアの可能性を広げていこう

これから活躍できるのは、いろいろな人を巻き込める人です。

特に入社したばかりの頃は、自分ではわからないことが多いからこそ、周りの人に頼ることや相談することが大切です。自分に足りないところを、誰にどのように協力してもらったら良いのか、会社のどの情報や制度を活用したら良いのかを考え、みずから行動することを意識してみてください。「自分で考えて行動する」というのは仕事をするうえでの基本でもあります。

就活やキャリアにおいては、自信を失くしてしまうことや、思い通りにいかないこともあると思います。ただ、そのときはそう思ったとしても、少し先の未来で振り返ると違う見方ができることもよくあるものです。

私自身も「会社を辞めたくないのに辞めなければいけない」という状況に直面したときは落ち込みましたが、今振り返るとそれがあったからこそ得られた経験があり、今があります。その渦中にいるとなかなか客観的に考えられないものですが、「今の時点でこの先すべての結果が決まっているわけではない」ということは声を大にして伝えたいですね

もし就活に苦戦していたとしても、そのプロセス自体に大きな意味があるかもしれません。就活を通して着実に自分が成長していたり、いくつもの面接を通して先輩方と話すことで知見が広がっていたり……。

人生という広い視点で見ると貴重な経験をしているということばかりなので、自分を信じて前に進んでいってくださいね。

金子さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:志摩若奈

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