「価値の循環」の起点になろう|「違い」からの学びを楽しむために
ハナラボ 代表理事 森下 晶代さん
Akiyo Morishita・2006年に新卒で富士通に入社。サービスデザイナーとして従事する傍ら、2014年からハナラボで社会課題解決事業に携わる。2019年にはハナラボの理事となり、2021年より現職
「楽しそうだからやってみる!」その先にあったのは自分が1番想像していなかった今
「晶代さん、ちょっと手伝ってよ」その一言から、今のキャリアが生まれました。ハナラボは女性のリーダーシップや創造力を育み、未来の社会変革の担い手を生み出すというミッションを掲げて女性のエンパワメントという社会課題の解決に取り組んでいますが、最初から何か強い意思のもと参加したわけではありません。「自分の力が誰かの役に立ったら良いな」「なんか楽しそうだな」そんな興味を持ったのが始まりです。
ただそれとは別に、社会課題の解決に関して印象深い出来事がありました。ハナラボの一員になる前から勤めている富士通で、以前顧客とのワークショップを開催したのですが、そのときのテーマがたまたま「地域の課題解決」というものだったのです。このときも特に強い興味を持っていたわけではありませんでしたが、ワークショップをしている際、ふと同僚に「晶代さん、社会課題の解決みたいな、課題が特定しにくいものが向いてるんじゃない?」といわれたことがありました。今思えば、その一言も今につながる決断を後押ししたのかもしれません。
またハナラボでは、女子学生に活動の場を提供し彼女たち自身がリーダーシップと創造力を育むための支援に注力しており、支援を通じてそういった学生と関わる機会があります。企業にいると学生との接点はそう多くはなかったので、それも魅力の1つでしたね。
今となっては、ハナラボは第二の居場所です。自分自身はもちろん周囲の人にもプラスな影響を与えていると思うことが多く、このキャリアに出会えたのは本当に良い決断だったと感じています。
ただそれは結果論であって、なんとなく始めたハナラボでの活動がこんなにも付加価値をもたらしてくれるとは思っていなかったですし、ましてや自分がハナラボの代表理事となって活動を推し進めていく立場になるなんて、最初は想像もしていなかったですね。
飛び込んだ先に何があるのかは、実際に行動を起こしてみなければわかりません。新しい環境では困難なことも多いですが、そこには思いもよらない出会いがあったり、自分の想像を何倍も超えるような良いことがあるかもしれませんよ。
見失っていた自分の価値の在り処。ヒントは一歩踏み出した先にあった
新卒で富士通に入社してから今まで、大きな不自由はなく順調にキャリアを積んできた方だと思っています。大変なことはありましたが、ほかに居場所を求めなければならないほどの不満を抱えたり、つらい思いをしていたわけではありません。
ただ、何となく手詰まり感があったのは事実です。長く富士通に勤め続けていわゆるベテランと呼ばれる立場になったときに「今後自分はどんなリーダーになるのか」「どんな仕事を作っていくのか」を考えることが多くなりました。そんな時、自分の代名詞となるような価値がすぐには見つからなかったのです。
同時に上司からも「自分の旗を立てなさい」と言われていました。何か問題が起こったときに「この分野なら森下さん」と言われるような、プロフェッショナルと呼べる強みが自分にはない。自分にしかない価値と呼べるものがあるだろうか?
その答えが見つからず、悶々としていた時期にハナラボから声をかけてもらい、初めて自分が所属する組織を飛び出す機会を得ました。これまで会社で当たり前にやっていたデザインの仕事が、「創造力を育む」というハナラボのビジョンと結びつき、それが社会課題の解決につながっていく。自分のスキルの新たな活かし方を知って、このデザイン力は何にも代えがたい自分の価値なのだと気づくことができたのです。
これまでとはまったく違う環境で新しいことを始めるというのは、今まで身を置いていた環境を客観的に見たり、自分ができることを改めて認識するチャンスだと思います。同じ場所で同じことを繰り返していると、自分の力を発揮することに慣れてしまい、当たり前のことだと思ってしまいますよね。一歩外に出てみることが、新たな自分の力やスキルの活かし方を発見するきっかけになることもあるのです。
外の世界と交われば価値は自然と循環していく
ハナラボの一員になってから感じたのは、価値の循環です。富士通で培ったデザイン技術をハナラボの活動に役立てられたのと同じように、ハナラボでの活動が富士通での仕事をより良いものにするきっかけになることがありました。
富士通での仕事は、慣れ親しんだ環境で気心の知れた仲間と進めていくものが多くあります。相手の考えていることは何となくわかるし、指示語や略語で大抵のコミュニケーションが取れてしまう環境。言ってしまえば、閉じた世界で仕事が完結するのです。それは効率的で楽ではありますが、一方で思考が停止してしまい、パターン化してしまうという課題もありました。
世の中の変化のスピードは速く、トレンドも次から次へと移り変わっていきます。にもかかわらず自分の身の回りのことは何一つ変わらず、視野が狭まり知識のアップデートにも遅れを取ってしまう。そのような状況にあった自分にとって、ハナラボでの活動は非常に刺激的なものでした。
学生をはじめとする、ハナラボの一員として働かなければ出会わなかったであろう人たちとかかわり、自分にはない新たな視点と考え方を学んで、自分自身の想像力が養われる。そしてそれが富士通での仕事にも活かされ、想像力を働かせた仕事ができるという価値の循環が生まれたのです。
これは一企業だけにとどまるという閉ざされた世界にいては実現し得ないものでした。自分の回りを取り囲む輪から飛び出し、まったく違ったフィールドに身を置いたからこそ新たな価値が生まれたのです。
価値を循環させることは、決して難しいことではありません。いったん自分のフィールドを飛び出して新たな場所に立ってみれば自然と循環は始まり、あなたの身の回りの物事や人に良い影響を与えます。自分が価値循環の起点となり、周囲へその輪を広げていきましょう。
飛び込んだ先にある「違い」を楽しもう
外の世界へ飛び出し新たな環境に身を置いてみれば、当然うまくいかなかったり自分には合わない場所に行き当たることもあるでしょう。その事態を恐れて、なかなか一歩踏み出すことができない人もいるかと思います。
そのような人に覚えておいてほしいのは「違いを楽しむ」という考え方です。
飛び込んだ先が居心地の良いものである場合もあれば、「うわっ」と思ってしまうようなことの連続という場合もあります。それは決してプラスの感情ではありませんし、なじむことができない環境では苦しいことやつらいこともあるでしょう。けれどそういった環境だからこそ得られるものもあるのです。
その場所がどうして自分には合わないのか? 合わない要因はどこにあるのか? それは「違い」を体感した人にしか得られない学びであり、いつでも得られるものではありません。だからこそ、その学びを得られる場所にいる機会があったなら、ただでそこを離れるのはもったいないですよね。
居心地の良い場所に居続けるのは簡単です。けれどそこにはどれほどの成長が待っているのでしょうか? 人の成長は、失敗や問題を乗り越えた先にこそあるもの。居心地の良さしかない、安心と安定が確立された場所を手放してこそ得られるものが必ずあります。飛び込んだ先が合わない場所でも良い。それくらいの気持ちで、まずは一歩を踏み出してみましょう。
ファーストキャリアに正解・不正解なし。居場所は「好きかも」で選ぶ
志望企業を選ぶ時、誰もが「自分に合った企業」を探しますよね。まるで企業選びそのものに正解と不正解があるように、自分にとっての正解を導き出そうと一生懸命になることもあると思います。
けれど、ファーストキャリアに正解・不正解はありません。どの企業を選んでも1つの経験であり、不正解にするのはあなた自身です。選んだ企業が自分に合っていないなら、転職をしたって構いません。でもその前に何かしらの学びを得て、それを次の企業探しに役立てましょう。そうすることで、あなたの選択は、成長のための良い経験になると思います。
では企業探しは何を重視すれば良いのか。大切なのは「この企業は良いかもしれない」「好きかもしれない」そう感じた瞬間の印象や、あなた自身の直感です。
おすすめは、加点式で企業選びをしてみること。その企業に共感できるポイントや、興味・関心のあること、この企業で仕事をしてみると楽しいかもしれないと思える要素が3つある企業を探してみてください。まだ見ぬリスクを予想していてもきりがありません。素直に「好きだな」と思える部分が1つでも多い企業を探しましょう。
仮にその企業がファーストキャリアを積む場所としていまいちだと思ったなら、そのいまいちだと思った部分からも何らかの学びを得ることを意識してみてください。そうすることで、どのような場所であっても良い経験にできるはずです。その場所があなたにとってどのような場所になるかは、結局のところ飛び込んでみなければわからないもの。まずはどこへでも足を踏み入れ、学ぶことを楽しみましょう。
取材・執筆:瀧ヶ平史織