勝つ気がある会社には「活気」がある|限界を決めず頂上のない山を登り続けよう

工機ホールディングスジャパン 代表取締役 吉田 智彦さん

工機ホールディングスジャパン 代表取締役 吉田 智彦さん

Tomohiko Yoshida・明治大学法学部法律学科を卒業後、ヤクルトに入社。日本国内における販社営業に従事し、5年後に日本ペプシコに転職。チャネル営業やトレードマーケティングなどに携わる。3社を経験後、2002年にシック・ジャパンに入社し、2015年に同社代表取締役に就任。2019年に工機ホールディングスに入社し、常務執行役員 兼 最高日本事業統括責任者に就任。2021年、同社の国内事業を統括する事業会社である工機ホールディングスジャパンに転籍し、以降現職

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教育環境があることは当たり前ではない。面倒見の良い会社に注目を

「どんな業界でもいいから、その業界のNo.1企業で働いてみたい」。最初の就職活動では、この点を重視していました。

人気の金融業界なども検討はしましたが、最終的にはメーカーを志望。その中からヤクルトに入社を決めたのは、ひとえに縁(えにし)があると感じたからです

当時のヤクルトは私の出身大学から就職する人が極端に少なく、「学閥があるから受からないよ」とアドバイスをくれた先輩もいました。ただ時間があったので、とりあえずの気分で受けてみたところ、気づけば運良く最終面接までたどり着いていました。多くを語った記憶はなく、学生時代に所属していたスキー部で独自の自己紹介プレゼンを身に付けていたことが役立ったように思います。

そして迎えた最終面接。自分の番を待っている間に、先に面接を終えた学生が「最先端のバイオテクノロジーに携わりたいと話したら、研究所の場所を聞かれて答えられなかったよ!」と話してくれました。そして私の面接でも同じ会話の流れになり、彼が正答を教えてくれたおかげで回答できたのです。

面接の順番が先だったらこうはならなかったので、内定の連絡をいただいたときには何か縁のようなものを感じましたね。想定していなかった選択肢ではあるものの、「そういえば、ヤクルトも業界No.1企業だ」と気づき入社を決めました。ここが最初のターニングポイントです。

今でも時々、会社の中を見渡して「何の因果でこの人たちと一緒に仕事をしているのだろうな」と考えるのですが、実際すごい確率ですよね。何か1つでも出来事が違えば同僚の顔ぶれは違っていたはずで、キャリアにおける縁(えにし)というのはとてもおもしろいなと感じています。

吉田さんのキャリアにおけるターニングポイント

入社後は「会社は学生時代の延長線上にあるものではない」と痛感する場面が多かったですが、ヤクルトには先輩が後輩の面倒を見る文化が根付いており、一人前に動けるようになるまで当たり前のように新人のケアをしてくれました。

「運良く面倒見の良い人にあたれば教えてもらえる」という属人的な教育ではなく、しっかり教育が文化として根付いている会社でした。当時はそれが当たり前だと思っていたのですが、2社目以降、外資系企業を渡り歩くなかで「あの環境は当たり前ではなかったのだな」と知りました。

経験上、面倒見の良い会社をファーストキャリアに選ぶのは悪くない選択だと思います。「入ってくれてありがとう、あなたをしっかり育てます!」という歓迎ムードがある会社に注目してみてください。東京以外にも良い会社はありますし、小さくても技術力が高いなどきらりと光る会社はたくさんあるので、会社の規模や立地にとらわれすぎる必要はありません。

新卒の給料が高い会社に注目する人もいるでしょうが、「給料の高さは即戦力としての活躍と引き換えである」ということを心して入らないと、入った後が相当大変になると思いますよ。人気の高い企業でも、歯車の1つとしてしか見てくれないようなところだと、自分が思い描いたようには成長できない可能性も。1社目は自分のキャリアの基盤を築く場所として考え、会社の看板だけを気にするような「就社」活動になってしまわないよう留意してほしいなと思います。

吉田さんからのメッセージ

チャレンジャーの立場になり、業界No.1企業との違いを痛感

2社目に移ることを決めたのは、入社から5年半が経った頃。先輩や上司にいろいろなことを勉強させていただいて仕事が一通りできるようになり、「もっと広い世界で活躍したい」と思い始めた時期です。27歳でマネージャーとして採用してくれるという条件にひかれ、転職先には外資系である日本ペプシコを選びました。

当時は在籍者の口コミなども見られなかった時代。上司が心配して情報を集めてくれ、「英語で会議をする会社らしいが、大丈夫なのか?」等々、いくつかの懸念点を提示して引き留めてくれました。当時のヤクルトでは着実にいけば最後は関連会社の社長になるというキャリアパスが一般的で、同社に残れば安定した道があることはわかっていましたが、「乗りかかった船だ!」と思いチャレンジしてみることにしました

しかしいざ入社してみると、上司が教えてくれた以上に大変な環境が待っていました。待遇面ではマネージャー扱いでしたが、実際にはプレイヤーの最前線で、マネジメントを経験できるわけではなかったのです。そして何より、当時のコーラ業界はコカ・コーラが圧倒的なシェアを持っており、「チャレンジャーの立場はこんなにも大変なのか!」と痛感させられることに。

私が担当していた大手小売チェーンでは、なんと売り場の98%がコカ・コーラ製品が占めている状態。担当者に連絡をしても会ってすらもらえず、商談をしてもらえるまでに実に半年間もかかりました。自分を否定されているような気分に陥ったこともありますが、「いつか見ていろ!」と自分を奮い立たせ、根気強く足を運び続けましたね。この時期がキャリアにおける2つ目のターニングポイントです。「自分で外に飛び出したからには、諦めるわけにはいかない」ということもモチベーションになっていました

そうして8年ほどをかけて地道に先方との関係を築き、売り場のシェアも2%から40%にまで上げることにも成功しました。大きな仕事を1つ終え、同社がサントリーフーズの傘下に入ることになった35歳のタイミングで、再び外に出てみることにしました。

与えられた役を責任を持って演じるだけ。向き不向きは気にしない

工機ホールディングスジャパン 代表取締役 吉田 智彦さん

35歳から40歳までは、キャリアのなかでのいわゆる修行期間でした。友人と新しい会社を立ち上げたことも含めて3社を経験しています。他社に買収されるなどのハプニングもあって短い期間でしたが、それぞれに違う学びを得られました。そして40歳になるタイミングで、「次は長期で働ける会社に行こう」と考えて選んだのがシック・ジャパンです。

シックは世界市場では強敵がいますが、日本のシェーバー業界ではNo.1の売り上げを誇ります。入社後は「No.1企業というのは、本当に恵まれているんだぞ」と口酸っぱく伝えていましたが、No.1の立場しか知らない一部の社員たちにはすぐには理解してもらえませんでした。

そこで、それまでの経験をフル活用して「No.1の扱いに見合う価値を取引先に提供しているか? 相手に貢献しているか?」と社員のマインドセットを変える働きかけをおこなったところ、結果的にそれが大きな社内改革につながっていったのです。1人のために8時間のミーティングをおこなったこともありますし、会社が成長するには新しい血を入れることも必要だと考え、人員の入れ替えに奔走したこともあります。

13年間同社に在籍し、最後は代表取締役まで任せていただきましたが、役職や職位というのは、あくまで役やタイトルに過ぎないと考えています。いつでもどんな役でも、自分に与えられた役の責任を果たそうというのが私の流儀です

プレイヤー時代は営業ひと筋でしたが、もともと会話や対人スキルが高かったわけではありません。家族から「あんたみたいな口下手が営業なんて、大丈夫なの?」と心配されるほどでした(笑)。しかし求められる役を演じるなかで自然にできるようになった、という感覚です。

就職活動では向き・不向きを考える人も多いと思いますが、「与えられた役に求められるスキルを、役を演じながら身に付けていけばいい」という考えでいれば、得意・不得意を気にせずにチャレンジができると思います。

面接でよく学生の人から「入社までにどんな勉強をしておけばいいか」といった質問をいただきますが、スキルよりも、マインドセットのほうがはるかに重要です。「与えられた役を必死でやろう。最低でも3年、できれば5年は頑張ってみよう」という気持ちさえしっかり作っておけば、必要なスキルは自然に身に付いてきます。学生時代はスキル偏重になるよりも、貴重な時間を使って、その時期にしかできない経験をたくさんしておいてほしいと個人的には思います。

「与えられた役を演じる」意識を持ってみよう

成長したいなら「本気で伸びようとしている会社」に入社しよう

会社選びにおいては「本気で業績を伸ばそう・成長しようとしている会社かどうか」に注目してみることをおすすめします。

会社は同じことをやっていると伸び続けることができないので、伸びている会社は、いろいろな挑戦をしているはずです。その過程では社員に求められることも多岐にわたり、いろいろな経験をさせてもらえるので自分自身も成長できます。大変だとは思いますが、成長できる楽しさは味わえると思いますよ。

学生の立場であれば、「その会社に活気があるか?」という雰囲気で判断しても良いと思いますね。伸びている会社、伸びようとしている会社には、すべからく社内の雰囲気に活気があるものです。今はNo.1じゃなくても、次世代をしっかり育てて「いつかはテッペンを取るぞ!」という気概があるおもしろい会社にぜひ注目してみてください。

いろいろな考え方があるとは思いますが、「その市場で勝ち抜こう」というマインドセットがある会社でなければ、働くモチベーションが湧いてこないのではないでしょうか。「自分はなぜこの会社でこの仕事をしているんだっけ?」とふと考える時、私はいつも「会社が勝つためだよな」という答えに帰結します。

また会社選びでは、業界内でのシェアに注目する人もいるかもしれません。私もこれまでNo.1企業、No.2企業、トップ10に入らない立場も含め、いろいろと経験してきましたが、それぞれの立場に厳しさ、つらさ、楽しさがあります。

No.1企業は「商談をしてもらえない」なんてことは絶対にないですし、自分がかかわる仕事が注目され、世の中の話題になりやすい楽しさがあります。一方でトップの成績を維持し続けるのは簡単ではなく、常に他社に追われる立場としてのプレッシャーと大変さがあります。

トップ10に入らない企業は、常に市場におけるチャレンジャーの立場。商談に漕ぎ着けるまでも苦労があるでしょうが、会社の看板や商品のブランド力ではなく、自分の力で取引先の信用を得たり、シェアを拡大したりしていく醍醐味は感じやすいと思います

現在は業界No.2の企業で働いていますが、今はこのポジションが非常に気に入っていますね。「いつかは1位になる」という大きな目標を掲げることができ、「追い上げるぞ」という気持ちがモチベーションになるからです。マラソンランナーがひたひたとトップににじり寄り、一気に抜き去る、そんなイメージを持ちながら仕事ができています。

自分はどんなポジションで勝負に挑むのが好きか、そんな観点から業界内の企業を見てみるのも1つの方法だと思います。

成長にピークはない。伸び続ける意志があれば時代の変化は怖くない

これまで多くのビジネスパーソンを見てきましたが、いくつになっても「成長したいというマインドを持っていて、かつ、人や環境のせいにしない人」は業種業界を問わず活躍していますね。

私の世代はバブル崩壊やリーマンショックなどの厳しい時期も経験していますが、「市況が悪いから」「取引先が倒産したから」などと人や環境のせいにしていなかった人ほど、大成している印象があります。あくまで「自分は自分」というマインドで、一本筋を通して仕事に向き合っている人は、時代の変化にも強いのだろうと思います。

ただし、就職するならば、成長意欲に関して1点だけ間違えてはいけないことがあります。それは自分の成長を最優先で考えるのではなく、「会社の成長を第一に考えたうえで、その過程で自分の成長もともなっていく」という順番で考えること

会社人である限り、For the company(会社のために)の気持ちは絶対に必要です。会社とは同じ方向を向いて頑張る人たちの集合体であり、一心同体で「挑んだ勝負に負けたら悲しい、勝ったらうれしい」という気持ちを共有しあい、会社が成長する喜びを感じあうのが正しい姿です。自分の利益ばかり考えて、前に進もうとしている仲間の足を引っ張るような人は、会社のことを考えていない証拠だと思います。

吉田さんからのアドバイス

社内改革をひと通り終えて「安定的なシェアを作れた」と感じたタイミングでシック・ジャパンを退社し、しばらくはその後のキャリアについていろいろと模索しました。そして「やはり自分が誇れるのは営業スキルだ。このスキルを必要としてくれる会社のサポートをしたい」という結論に至り、そのニーズをいただいた当社、工機ホールディングスへの入社を決めました。

今後のキャリアビジョンは、今の職務をまっとうして、1人でも多くの成功者を育てていくことです。Succecer(サクセッサー)マインドを持った人を100人、200人と育てていき、会社が成長する土壌づくりに貢献できればと考えています。

私は「上り続けること」がモットーで、人間の成長にピークや山頂はないと考える人間です。時代の変化のスピードが速くなっているので将来のキャリアに不安を感じる人もいると思いますが、このマインドさえあれば、万が一会社が潰れても、外に出て必ず活躍できます。世の中がいかに不確かに見えても、自分の気の持ちようでいくらでも生き残り方はある、ということは知っておいてください

ちなみにシック・ジャパンの代表だった頃の年始挨拶では、いつも雲に隠れて山頂が見えない山のイラストを用いて社員たちを鼓舞していました。業績が伸びた年は「しばらく平場で休める」と考えていた社員もいたようですが、何枚めくっても道が垂直に伸びていく絵しか出さないので、皆に笑われていましたね(笑)。

今の会社でも「しっかりした製品力があるんだから勝ちに行こう」「現状に満足せず、取引先と一緒にWIN-WINで伸び続けていこう」ということをいつも伝えています。社員とは同じ船に乗る乗組員。皆で「No.1企業に負けたままではいないぞ!」というマインドセットを共有し、乗組員一人ひとりがそれぞれの役をしっかり演じていれば、一緒にその景色が見られると考えています。

吉田さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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