看板を外した自分に何が残る? キャリアの基準となるファーストキャリア選びこそ「好き」を貫いて

Le Tech 取締役副社長 兼 営業本部長 藤原 寛 さん

LeTech 取締役副社長 兼 営業本部長 藤原 寛 さん

Hiroshi Fujiwara・2003年関西大学工学部土木工学科卒業、アーバンコーポレイションに入社。同社経営破綻によって、JR西日本SC開発へ。その後、2012年よりLeTechに参画し、大阪本店長や事業戦略本部長、取締役営業本部長などを経て、2023年より現職。

この記事をシェアする

やりたいことを見据えて、勢いよく踏み出したキャリアのスタート

父親が建築関連の仕事をしており、自分もいつか一級建築士になりたいと思っていました。この想いを抱えていたことが、今に続く道の始まりです。

大学は建築学科には受からなかったものの、土木工学科に在籍し、建設業界への道を探っていました。当時の私の学科の就職活動といえば、教授の紹介・推薦が圧倒的にメインストリーム。土木なのでゼネコンやコンサルに就職する人が大半でした。しかし、自分がやりたいのは建築。ここは譲れなかったんです。だから文系枠で一般の就職活動をして、デベロッパーに就職しました。

理系の学部・院であれば、先生の紹介でそのまま就職が決まる例も少なくないと思います。でも、「本当にここからキャリアをスタートして良いのか」を一度考えても良いのではないでしょうか。自分は学生時代に半年ほど病気で入院をし、それが改めてこれからの進路について考える機会になりました。そのとき思ったのは、やっぱり建築をやりたいという想いです。労力少なく決まるからという理由で、就活を終わらせてしまうのはもったいない! 最初のキャリアだからこそ、時間をかけてやりたいことを突き詰めて、挑戦してみましょう。それが許された期間が就職活動なのだと思います。

ファーストキャリアは基準となり支えにもなる

入社して最初の仕事はマンションの営業。飛び込みもあり、電話営業にも精を出し、文字通り休みなく働きました。その後、開発部門に移って、土地の購入や物件の企画に全力を尽くしました。当時会社は急成長の真っ最中で、社員もどんどん増加。社内には熱気があふれていた一方で、その急激な拡大やイケイケどんどんの風土についていけず、退職する人も少なくありませんでした。端的に言えばハードワークでしたが、自身としてはスポーツのような達成感を感じていて、成長を実感しながら働けていることに満足していました。退職せずに残った同期同士で、ときには愚痴を言い合いながら、日々全力で働いていましたね。

はっきりいえば、いわゆる「古い不動産業界の働き方」で、ワークライフバランスを考えると決して良い環境とはいえなかったと思います。でも私にとっては、このうえない経験と成長を与えてくれた、厳しくも素晴らしい環境でした。その後のキャリアのなかでも、1社目での経験を振り返ればなんでもできるような気持ちになるんです。だから皆さんにも1社目はできる限りこだわってほしいと思います。世の中の基準ではなく、自分の基準で納得できる場所に身を置く。するとその経験が、その後のキャリアの基準として確立されます。

私自身はそのような経験を積んで今日に至るわけですが、弊社のメンバーには「不動産業界の悪しき習慣は受け継がなくて良い。その時代にあったやり方やよりスマートな働き方で仕事に夢中になって欲しい」と伝えています。

皆さんそれぞれの、目の前の仕事に夢中に、真剣に取りんだ経験が「あのときここまでできた」「あれだけの成長ができた」「あの会社でこれだけの結果を得た」という自信になり、今後のキャリアを照らす道標になってくれるはずですよ。

社会人としての自分の基準を作るのが1社目

「看板を外した自分」に残るものを問う

そしてある日、急成長し続ける環境で働いていたはずの私は、お盆休みの初日にテレビの記者会見で自社の経営破綻を知ります。会社に社員全員が呼び出されたあの光景は今でも忘れることができません。しかしそのような状況になっても、会社を恨むことはありませんでした。もちろん、喜ばしい状況ではありませんが、自分を成長させてくれた場所だという気持ちに変わりはなく、それからも会社に半年残りグループの分割・精算の業務にも参画しました。

しかし民事再生を申請した企業に対する世間の目は冷たく、自身の電話帳に名前を登録していた人の半分以上は電話に出てもくれなかったですね。この時、「会社の看板で仕事をするな」という言葉の意味が身に染みてわかった気がします。大きな会社やネームバリューのある企業、周りの有名な人や商品・サービスに乗っかって成功を得た場合、それはあなたの成功ではないかもしれません。会社の看板の助けがなくても、自分はそれを成し遂げられたのか、いつも問うべきです。もし今会社が破綻しても、電話に出てくれるお客様・取引先はどれだけあるのか。いつでも慢心せずにいたいものです。

看板を外しても消えない信頼を築こう

素晴らしい出会いは必ず訪れる。「縁」を大切に

音信不通になった人たちがいる一方で、変わらず目にかけてくれる人もいて、現在所属するLeTech創業者の平野もその一人でした。それまでの私の仕事ぶりを覚えていてくださったのか、会社が潰れた後も連絡が来て、定期的に会う間柄となりました。それがその後のLeTechへの参画にもつながっていくわけですから、人の縁というのは本当に大切なものだと感じます。

LeTech
取締役副社長 兼 営業本部長 藤原 寛 さん

1社目の会社が破綻した後、ちょうどリーマンショックも重なり状況は厳しいなかで、なんとか転職をしました。不動産開発をやりたいという気持ちは捨てられず、駅ビルの開発を手がける会社に入ったんです。鉄道系のデベロッパーなので、大手企業のグループであり、社風は前職に比べれば固い雰囲気でしたね。それまでベンチャー企業にいたので、その風土の違いにカルチャーショックを受けたことを覚えています。現在は変わっていると思いますが、当時はなんでも紙に出力して、稟議は赤鉛筆で自筆による決裁。会社としての意思決定や判断基準など、これまでの経験との違いからやりづらさを感じることもありました。しかし、その状況を楽しんでいる部分もあったように思います。「こんな会社もあるのか」「じゃあこうやってみよう」というように、面白がって取り組んでいたのは確かです

ただ鉄道系のデベロッパーでしたが社長は百貨店出身で、その方からはとてもたくさんのことを学びました。その判断基準や論理的な思考、柔軟な発想には感嘆するばかりでしたし、いつもおしゃれで、年齢それぞれのファッションというものがあるという姿勢も素敵でした。彼のもとで仕事をしたことで、学んだこと、影響を受けたことはたくさんありますね。

自分を導いてくれた人

こうした経験を振り返って思うのは、苦境にあっても、うまくいかない場所でも、必ず素晴らしい出会いは隠れているということ。むしろ、そうした逆境での縁を大切にすることで、成長や飛躍のチャンスを得ることもできると思うんです。尊敬するビジネスパーソンに出会い、一緒に仕事ができたことは、生涯の宝物です。

自分の好きに向き合って、育んで

駅ビルが稼働を始めると、会社の主な事業は開発ではなく運営へと変わっていきました。その一方で、「自分はあくまでも不動産の開発をやりたい」という当初からの想いは年々強くなっていて。どちらかというと「開発しかできない」という境地に近いかもしれません。そのタイミングで、LeTechの創業者から声をかけていただき、そこに参画しました。

とにかく不動産の開発が好きで、デベロッパー事業がやりたくてしょうがないんです。仕事は趣味ではないので、もちろん給与や休日、待遇面も大切な要素です。しかし、好きでもないことに時間と力を傾けることはできないでしょう。好きだから頑張れるし、頑張れば評価や待遇も上がる。それが基本ではないでしょうか。

だからこれから社会に出る皆さんも、自分の心に素直になって、好きなことを貫いてほしい。就職浪人だって構わないと思うんですよね。1〜2年社会に出るのが遅れても、なんのハンデもない。好きなことがないという人は、楽しいこと、苦もなくできること、嫌いではないことから、大好きへと育てていけば良い。入社してすぐに好きなことを100%できるはずはないけれど、10好きなことなら、100まで育むことだってできるはずなんです。

藤原さんからのメッセージ

自分を分析して、素直に、焦らずに

最近の若い人はとても優秀だと感じます。学生ベンチャーを経験している人もいて、実行力も素晴らしいと思います。だからアドバイスすることなんて正直ないのですが、一つ言えることは、自分を分析できるともっと強くなれるということです。客観的な目線で自分を評価し、得意なこと、不得意なことをしっかり把握しましょう。得意なことは武器になるし、不得意なことは誰かに頼ったり、努力したりして克服すれば良い。自分を知っていれば、すべきことが見定められます。

そして素直に好きなこと、楽しいことを追求していきましょう。すぐにはできないことも多いでしょう。実らない努力に諦めそうになることもあると思います。でも焦らずに、やりたいことをやる人生にしませんか。ちなみに私は今学生に戻れるなら、もっと勉強したい。今となれば、当時就職を焦らず、勉強を重ねることもできたのではないかと思ってしまいます。世間の言うことに惑わされず、焦らず、自分の強みを生かして、好きなことを大成させていくキャリアを歩んでいきませんか。

藤原さんが贈るキャリア指針

                        取材・執筆:鈴木満優子

この記事をシェアする