不変的な思いこそキャリアを作る|「ブレない信念」と「柔軟な姿勢」が自己実現の秘訣
TYO 取締役 浜谷 英輝さん
Hideaki Hamatani・高校時代の経験から「自分の表現を通して人に喜んでもらうこと」に関心を持つ。大学卒業後、CM制作会社に就職。制作部でプロダクションマネージャーを数年経験した後、TYOに入社。自動車や飲料などをはじめとする大手企業のCM制作現場でのプロデューサー経験を経て、2021年取締役に就任。以降現職
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「心を揺さぶられた体験」にこそ自分の価値観はある
「人を幸せにしたい」。高校時代から抱き続けたこの思いが、「人を幸せにする仕事がしたい」という就活の軸になりました。その軸がブレることはなかったので、就活はエンタメ業界1本に絞って進めることになりました。
自分の価値観に気づくことができたのは、高校時代の出来事が関係しています。当時は「自分の生きがいは何なのだろう」と、自分が何のために生きているのかがいまいちわかっていませんでした。ある日初めてディズニーランドに行く機会が訪れ、パレードを観たときに「踊りという表現を通してこれだけ多くの人を幸せにしているのか」と、心の底から感動したことを今でも覚えています。
大学に進学したあとにも、自分の価値観に気づくきっかけがありました。私は大学と同時に小劇団に所属していたのですが、スポットライトを浴び、自分を表現することで拍手をもらえるという点に大きな喜びを感じたのです。
これらの経験から、「人を幸せにする仕事がしたい」「自分の表現で誰かを幸せにする生き方がしたい」と思い、就活ではエンタメ業界の中でも1番興味のあったCM制作会社に入社しました。
自分のやりたいことがわからない学生がいるとよく耳にしますが、そんなときは今までの人生のなかで「自分が心を揺さぶられた経験ベスト3」を書き出してみてください。私の場合は「ディズニーランド」や「演劇」のキーワードが出てきて、どちらにも共通していたのが「人を喜ばすこと」だったのです。このように過去の何かしらの経験が今を生きるためのヒントになることはよくあります。就活生のみなさんも改めて今までの人生を振り返ってみてください。
場合によっては、今までの人生で学び得てきたことや感じてきたことを認識し、「自分の存在価値」まで感じられると思います。そこまで到達できると、20代、30代になったときの仕事のモチベーションにもつながります。心が折れそうになったときも、「自分はあの経験があったから今の仕事をしている」「あの経験をした自分がいるから大丈夫」などとパワーがみなぎってくるのです。
就活を機に今までの自分の人生を認識することで、今後のキャリアや生き方のヒントを見出してみてくださいね。
仕事も企業選びも「本質」を見失わないことが重要
CM制作会社に入社してからは、「人を幸せにしたい」という気持ちを胸にがむしゃらに仕事に取り組みました。そのなかでいつしか仕事をするときの主語が「自分」から「相手」になっていったと感じています。
学生の頃は「自分の考えはこうだ」「自分はこう思っている」など、自分中心に物事をとらえることばかりだったので、これは社会人になってから大きく変わったことの1つですね。というのも仕事は相手のニーズに応えることが本質なので、相手のことを考えずして良いものは生み出せないと気づいたのです。
そしてCM制作に携わるようになって数年が経ち、せっかくこの仕事をしているのなら「もっと大きな仕事をしてみたい」「誰もが知っているようなCMを作ってみたい」という気持ちが湧いてくるように。その思いを実現するにはより規模が大きく、幅広い案件に携わることができる会社への転職が必要だと考え、その観点からTYOへの入社を決意しました。
転職を経験したうえで思うのは、会社の規模や仕事の内容に違いはあるものの、結局のところ大切なのは「自分自身が何をしたいのか」ということ。主体的にやりたいことがあって、それをもとに会社を選んだのであれば、それがどんな会社であったとしても、実現できる未来に大差はないのではないか、とさえ思います。
だからこそ、仕事や会社を選ぶときは「どんなことを得られるのか」という受け身の姿勢よりも、「自分自身が何をしたいのか」という主体性を大切にしてみてください。
最初の印象だけで決めない。発想を変えると新たな発見がある
就活生のときに「人を喜ばせる仕事をしたい」と感じて以来、エンタメ業界1本で仕事をしてきましたが、クリエイティブな仕事は大変な面も多く、楽しいことばかりではありませんでした。
それでもくじけることなく、この世界で走り続けられたのは10年、20年先の未来をイメージしてやりたいことが明確だったからです。
今の時代は転職を前提として就活やキャリアを歩んでいく人も多いと思うのですが、だからこそ一度は長期的な視点でキャリアを考えてみてほしいですね。転職するのか、しないのかというのは1つの選択でしかないので、そこにあまり固執せず、「自分の長い人生の大きな選択」として真剣に向き合ってみてください。
また、「会社選び」と聞くと、組織や会社全体をイメージする場合が多いと思いますが、そこに集まっているのは「人」なので、どんな人が働いているかのほうが大切だと思います。
たとえばTYOも、今までに数々の作品を生み出してきていますが、それを作っているのは一人ひとりの存在なので、当社のメンバーこそが財産だと考えているんです。これはどんな会社も同じで、何を提供しているのも大切ですが、その奥には必ず人がいることを認識し、そこを重視して会社選びをしたほうが良いと思います。
就活をしていると、良いなと思う会社も、そうでない会社も出てくるでしょう。最初の印象だけで決めることもできますが、そうではなく、あえて「相手のことを詳しく知る」ことを心掛けたほうが良いと思います。これは仕事の先輩に教えてもらったことですが、仕事上でのプレゼンやコンペなどで競合に勝ちたいときの秘訣として、小手先の会話術や技術で乗り切ろうとせず「相手のことをとことん知って好きになろうとする」ということを勧められました。
これは就活でも同じだと思っていて、「なんか好きじゃないから」「自分は苦手な業界だから」と最初から敬遠するのではなく、まずはその会社や人のことを知ってみる。そうすると、意外にも自分にピッタリの要素が見つかったり、「ここだ!」と思えるような発見があったりするかもしれません。
実際に普段の生活で好きになる人も、ある1つの要素だけで好きになることは珍しく、あらゆる面を知ったうえでいつの間にか好きになっていることが多いのではないでしょうか。そのせっかくの機会を逃さないためにも、まずは知っていくことを大切にしてみてくださいね。
変わるものと変わらないものを受け入れながらキャリアを歩もう
今までのキャリアを経て思うのは、「変わるもの」と「変わらないもの」があるということ。
変わるものでいうと、20代のときに考えるキャリアプランと、40代のときに考えるキャリアプランは変わることが多いと思います。単に目の前の「仕事」としてとらえているのか、数年先を見据えているものなのか、人生の目的として考えているものなのか。自分の視点によって大きく変化するので、以前までの考え方や価値観だからとこだわりすぎず、柔軟に変化することを許容してあげてください。
つまりは、人生のあらゆる選択において失敗や成功もあるようでないんですよね。仮に「転職するべきじゃなかった」と後悔したとしても、数年後には「転職して良かった」と思っているかもしれません。自分がどんな選択をしたとしても、肯定的にとらえてあげることが重要です。
一方で変わらないものというのは、自分と対話するという生き方です。結局は自分しか自分の気持ちや望んでいることはわかりませんし、自分自身でしか叶えてあげられないので、他力本願にするのは避けたほうが良いのではないでしょうか。
また、自己対話をし続けることで、自分のなかで変わっていることや変わっていないことにも気付くことができます。普段から思いを言葉にすることを実践し、自分にとって大切なことを忘れずに、日々変わりゆく考え方や価値観を見つめてあげられると良いと思います。
もう1つ変わっていないのは「誰かを幸せにしたい」という思いです。これは高校時代にパレードを見て感動してから、ずっと変わっていません。こういったブレない信念があれば、自分が進むべき道に迷わずに済みますし、もし迷ったとしても目指すべき指針となってくれると思います。
そして社会人になると大きな壁にぶつかることもあると思いますが、そのときに思い出してほしいのは、どんなことがあっても必ずゴールには辿り着けるということ。
私は40歳になってからフルマラソンをはじめましたが、42キロのうち30キロを過ぎると、毎回地獄のようにしんどい思いをしています(笑)。そんななかでも走ることを続けていると、いつかはゴールに辿り着くことができます。壁が出てきてしんどいから止まるのではなく、しんどくても進み続ける。人生においてもこの意識を持っておくと、道が開けることが多いのではないでしょうか。
取材・執筆:志摩 若奈