人生に無駄な経験はない|今やりたいことを全力でやり切れば、キャリアは自然に拓けていく

喜信堂 代表取締役社長 坂本和紀さん

喜信堂 代表取締役社長 坂本和紀さん

Kazuki Sakamoto・大学在学中に写真に熱中し、京都芸術大学に3年次編入。在学中からフリーカメラマンとして腕を磨き、卒業後、大手広告制作会社アマナに就職。その後独立し、フリーランスのフォトグラファーとして企業のイメージ広告の撮影などを手掛ける。2019年家業を承継し、喜信堂代表取締役社長に就任。代表銘菓「四季の宴」は菓子業界の最高栄誉である第20回全国菓子大博覧会 名誉総裁賞を受賞。2023年より出張撮影のCreative Crewsを設立

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「今やりたいこと」に全力で向き合いながら築いてきたキャリア

北海道名寄市の老舗菓子店に生まれ、幼少期はお菓子作りをする父の姿を見ながら過ごしてきました。お菓子と向き合う父を尊敬しながらも自分が店を継ぐという確固たる意志はなく、大学はなんとなく経済学部へ。将来の展望もなく、学生生活を楽しんでいました。ところが、大学でのアルバイトがその後の人生を変えます。

当時夢中になったのは、カメラマンのアルバイト。もともと兄が持っていた一眼レフを使用したことがあり、興味があったのです。経験も何もありませんでしたが、熱意を伝えてなんとか雇ってもらいました。ブライダルなどの撮影を手伝ううちに、カメラのとりこになりました。20歳の頃にはプロのフォトグラファーになりたいと思い、京都芸術大学に編入します。好きになったら一直線でしたね。

人生で好きなもの、やりたいことがあるのは、素晴らしいことです。損得でなく、熱意だけで動けるのは貴重なことだと思います。だからこそ何かやってみたいと思ったら、まず動いてみましょう。私は「今なすべきこと、今、全力を尽くす」という言葉を座右の銘にしています。皆さんも、とにかく今思っている熱い想いを形にする一歩を踏み出してみてください。

坂本さんのキャリア変遷

夢に近づいていく実感が何よりの原動力

大学卒業後は、ビジュアル制作などで有名な会社に入社し、フォトグラファーという夢への第一歩を歩み始めました。しかし、カメラ業界は徒弟制が色濃く残っており、非常に厳しく指導される世界でした。朝早くから撮影し、夜遅くまで残って作業、さらに休日もあってないようなものでした。アシスタントとしての仕事を毎日必死でこなしましたが、100人近くいた同期の7割は3年を待たずに辞めてしまう程厳しい業界でしたね。

思い返せばしんどいことばかりのような生活でしたが、不思議と辞めようとは思わなかったですね。それどころか、少しずつ成長を感じられることに喜びを感じていました。私の前にはいつも高いスキルを持った先輩がいて、一緒に夢を目指す同期もいる。その人たちから毎日スキルを学び、高価で貴重な機材に触れられるのは、一人前になるためにこれ以上ないくらいの良い環境だと思っていました。

ワークライフバランスが重要視される昨今、休みなくハードワークをこなすというのは時代遅れかもしれません。でも私が会社員としてフォトグラファーのイロハを学んだ時期は本当に貴重で、自分にとって必要な経験だったと感謝しています。大変なことも多かったですが、何よりも夢に近づいている実感があったから続けられたのだと思います。

尊敬し憧れる人と、成長の機会や環境。これらがそろっていれば、働く意義を感じられるのではないでしょうか。私は会社のお陰で技術を磨き、人間関係を築き、夢を叶えてフォトグラファーとして独立することができました。

独立してフリーランスになってからは、雑誌の表紙や企業のイメージ、広告の撮影など、たくさんの仕事をいただき、日々充実していました。雑誌コマーシャルフォトが選ぶ「新世代のフォトグラファー」やプロカメラマンFILE「日本の最先端を走るフォトグラファー」にも選ばれ、大きな達成感も得られました。

一方で実家の店のことも、頭のどこかには常にありました。喜信堂は今年で創業93年の老舗の菓子屋です。地域に愛され、伝統を守ってきた大切な店を絶やすわけにはいかない。いつかは自分が継ぐべきだと思っていたんです。だから会社員として、そしてフリーランスとして全力で仕事に向き合い、今できることをやりきったと思えたタイミングで店に戻りました。

何かを全力でやり抜けば、次のステップが自ずと見えてきます。先がわからない、行く末が不安なときほど、今やるべきことに全力で取り組んでみてはどうでしょう。今をフルスイングすれば、必ず次の道は現れます。

坂本さんからのメッセージ

気持ちも行動も変えるのは人。すべての仕事は信頼の上に成り立つ

喜信堂
代表取締役社長 坂本和紀さん

久々に戻った名寄市は、素晴らしい場所でした。星が綺麗で、広大なひまわり畑があり、冬にはパウダースノーがスキーヤーを引きつけます。北海道の中で住みやすい地域としても認知されています。改めて地元の良さを認識しましたね。ここで経営者として店を盛り立てていくんだ、という気持ちを新たにしました。

しかし地元に戻って店を継いだのは良いものの、菓子業界について何も知らないので、日々試行錯誤の繰り返しでした。外からの視点でやりたいこと、変えたいこと、もっと推し進めたいことなどもたくさん浮かびましたが、一朝一夕にうまくいくはずもありません。まずは社員との信頼関係を築き、その先にお客様からの信頼も得たいと考えました。

そこで、まずはコミュニケーションが大切だと思い、日々の声かけだけでなく、毎日時間を決めて店頭にも立つようにしました。お客様の反応を見るだけでなく、現場の社員の声を聞いて、コミュニケーションを深めていったんです。そうすることで徐々に信頼関係ができていきました。

店頭に立つようになってからは、自分が企画したお菓子に対して「美味しい」と喜んでくれるお客様や、「お使い物はいつも喜信堂を選ぶ」という声が届くようになりました。その言葉の数々に心の底から感動したものです。お客様からの信頼にも応え続けていかなければと強く思いました。その思いも、自分を突き動かす大きな要素の1つです。

1人で成り立つ仕事はありません。周りの人との信頼をベースにして、その先にチャレンジや成功があるのだと思います。コミュニケーションを惜しまず、一歩一歩信頼を作っていく姿勢が大切です。

何にも代えがたい人間性を活かし、想像以上の未来を切り拓こう

これからの時代は変化が早く、どんなことが起こるのかは誰にもわかりません。今日価値があると言われたものが、明日には陳腐化する可能性だってあります。そのような時代で、形を変えずにそこにある真に価値あるものは何か? それは人の心だと思っています。これからの時代は、時を経ても変わらない、本質的な人間性こそが評価されるのではないでしょうか

素直であること、プラス思考を保てること、向学心があり自分から主体的に動けること、そしてそれによって新しいものを生み出せること。これらが私の思う“人間性”の中身です。あなたのなかにある良い部分を伸ばし、それを精一杯に活かして新しいものを生み出そうとする行動力が、これからの時代に必要とされるようになるでしょう。

これから求められる人材は

かくいう私も、お菓子事業の傍ら、写真撮影事業を新たに始めました。まずは関東圏からスタートしましたが、北海道にも拠点を築いて、ゆくゆくは地元を盛り上げる事業にしていきたいですね。

人生の経験において、無駄になるものは1つもありません。お菓子作りと写真なんて、それこそ関連性がないように思えますよね。それでも積み重ねた経験はどこかでつながり、思ってもみないほどの良い結果に結びつくことがあるのです。フォトグラファーとしての自分も活かせているキャリアをありがたく、誇りに思います。

今やりたいことを全力でやってみる──。その積み重ねで、思いもしない素敵なキャリアが拓けていきます。自分のすべての経験が、理想以上のキャリアにつながる日が来るかもしれない。そう思いながら、ぜひ目の前のことに全力でぶつかってください。

坂本さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

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