明確な入社目的を意識できる会社を探そう|学ぶ姿勢があれば「強み」はいくらでも増やせる

グランバー東京ラスク 代表取締役 大川 浩嗣さん

Hiroshi Okawa・大学卒業後、2007年にWeb制作や広告関連事業を手掛けるベンチャー企業へ入社。2009年からグランバー東京ラスクに入社し、リーダー職を約3年、専務取締役として約7年の経験を積む。2020年7月より同社創業者である父の後を継ぎ、現職

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特技を活かせる仕事をしようと決意。「学ぶ姿勢」で強みを増やそう

自分の特技を活かして仕事をしたほうがいい」。そう気づいた大学1年生のタイミングが、私のキャリアにおける最初のターニングポイントになります。

公認会計士を目指して商学部に入っていたのですが、同じ志を持つほかの学生たちの能力を見るうちに「これは雇ったほうが早い」とわかりました。前向きな諦めです(笑)。「その方面の能力に長けている人を採用してパフォーマンスを発揮してもらうことで、大きな社会貢献ができるのは? 」「自分は自分の特技を使って仕事をしよう」と思ったのです。

その特技とは、企画を考えること。数字を見ているとつらくなるけれど、企画を考えている時間はいくらあっても惜しくないのです。ゼロからイチを生み出すだけでなく、既製品に新たな付加価値を足すような企画も得意とするところで、「世の中にこんな商品があったらいいな」を考える過程にワクワクする、そんな自分の資質を自覚しました

ゴルフサークルでは合宿企画なども担当しており、そこでも「皆を楽しませる企画」を考えることにやりがいを感じていたのを覚えています。

私は幸運にも自分の特技に気付くことができましたが、就職活動に際して「自分の特技や強みが見つからなくて困っている」という人もいるかもしれません。

その場合も、なんら心配は要らないと思います。仕事をし始めてから強みが出てくる社員はとても多いですし、入社後に「そっちの仕事よりこっちの仕事のほうが向いているかもね」となり、配置転換をして活躍し始める……といった例も数多く見てきました。

入社後に強みが出てくる人の共通点は、学ぼうとする姿勢が強いこと。「こんなふうになりたい」という憧れや目標があって、そうなるために学び続けることができる人は、どんどん強みが磨かれていく印象です。「学ぶ」は「真似ぶ(まねぶ)」から派生して生まれた言葉。まずはロールモデルにしたい先輩の真似をしてみるのも良い方法です。

とはいえ、新人時代は仕事を覚えるだけで精一杯だと思うので、まずは与えられた責任を全うすることに集中してOKです。休日に好きなことを勉強してみたり、将来どうなりたいかを考えたり、ということで十分です。

就職活動でも「仕事のなかで、何か周囲と差別化できるような能力を身に付けたいです! 」という意欲の部分をアピールするといいと思います。

自己成長するためにベンチャーへ。「明確な入社目的」を意識しよう

ファーストキャリアに関しては、父親の事業を継ぐことを前提に考えていました。父は1984年にチョコレートの卸売業を創業し、1996年以降は焼き菓子の製造・販売を手がけていました。「父の会社に入る前に、食品業界で経験を積んでおこう」と考えて就職活動をしたのですが、「看板商品を守る」という姿勢の企業が多い印象で、内定をいただいても、どこかしっくりこない感覚を覚えていました。

いずれ父親の事業を継ぐつもりなら、短期間で成長できる企業に入ったほうがいいのではないか? 」と考えるようになり、ベンチャー企業に進路を変更。面接では「家業を継ぐので、長くて3年のつもりです」と正直に伝えていましたね。その言葉を快く受け入れてくれたのが、私の一社目となった会社の社長でした。

社長は男気と胆力のある方で、在籍期間が限られているからこそ、とスパルタで教育をしてくれました。「がむしゃらに仕事をするとは、こういうことなのか! 」と気づけた点で、1社目での経験はキャリアにおける2つ目のターニングポイントです

正しいやり方もわからないまま「突っ走りながら考える」という感じでしたが、若手が多い会社だったので、皆で試行錯誤する日々はとても楽しかったです。2年目からはより難度の高い代理店の新規開拓営業を担うようになり、社長と同行できる機会が増えたことで、いっそう成長の実感、また手応えを感じることができました。

尊敬する社長の側で学べた営業のノウハウは、今の営業部門の指導にもつながっています。

この経験から、ファーストキャリアを選ぶ際に考えると良いと思う部分は、「明確な目的を持てる会社かどうか」です。「自分がこうなりたいから、ここに入ろう」という目的をしっかりと意識できていれば、入社後に多少大変なことやイメージと違う部分があっても、納得感を持って働けると思います。

また営業活動をして分かったのは、「営業力と同じくらい商品力も重要である」ということです。

新人時代は商材のことをよく理解しておらず、それこそ「数打ちゃ当たる」の営業をしていました。しかしそれでは、いくらやっても効率を上げることができないのです。商材の知識や強みをきちんと理解し、かつ相手に響くような説明を身に付けてから、成約率を上げられるようになっていきました

学生の皆さんのなかにも、営業職を志望する人はたくさんいることでしょう。お客さんに必要性を感じていただける商材で、その良さを伝えることができなければ相当大変な営業活動になるので、「商品力」は軽視しないほうがいいよ、ということはアドバイスしたい部分です。

製造拠点が被災。「商品の大切さ」「そこに込められた想い」を実感

2009年には父から「新しい本店を作る」と聞き、このタイミングで当社に入ろうと決意。誰に相談するでもなく決心して、移ってきました。

当社に来てからのターニングポイントは、2つあります。ひとつは東日本大震災です。当社の製造工場は釜石市にあり、幸い津波の被害には遭わなかったものの、電気・水道・ガスなどのインフラが完全に止まり、商品が作れない状況になってしまったのです

他社に製造を依頼することも考えましたが、そうなれば社外秘のレシピを開示しなくてはなりません。阪神大震災の経験者に「3カ月はこの状況が続くよ」とも聞き、「3カ月も商品を作れなかったらうちはダメになる」「会社ってこんなにも簡単に潰れるのか」と落ち込みました。 

ただこの時期も、一部の店舗は営業していました。駅ビルや百貨店に入っている店舗は、店舗を閉めていると撤退を言い渡されてしまうからです。ホワイトボードに在庫を書き出し、毎日その在庫数が減っていくことに肝を冷やす日々。普段は1つでも多く売れればうれしいのですが、その時期だけは「どうか売れないでくれ」と願う日々で、売れないほどホッとする……という貴重な経験をしました。

ただ幸いにも、2週間ほどでなんとか工場が稼働できることに。第2工場の建設にもすぐに着手し、2011年の6月には伊豆に新たな製造拠点を作り上げました。

その後は復興需要があり、V字回復ができました。売上の一部を市に寄付する『釜石ラスク』なども製造し、全国から来るボランティアの皆さんのお土産としても好評いただける形に。年間で見れば、震災の影響は2カ月程度で収めることができました。

また震災直後は、ラスク材料のパンや無事だった在庫製品を避難所に配る活動などもしました。避難所には甘いものが少なかったので、非常に喜んでいただけましたね。専務になったばかりの時期でしたが、地域に貢献でき、地域とのつながりが強化できた喜びは、暗闇のなかの光明でもありました。

しかし一つだけ、大きな無念があります。工場に勤務されていたパートスタッフのひとりが、避難所で津波の被害に遭われ、亡くなってしまったのです。その方がご存命のときに作った日付のラスクは、今でもロッカーに置いてあります。それを見るたびに「商品はいろいろな方の想いを乗せたもの。大事にしなくていけない」と、身を引き締めています。

大ピンチからの方向転換。昨日と違う仕事ができる人材を目指そう

当社に来て2つ目の、そしてキャリアにおける最大のターニングポイントは新型コロナウイルス感染症拡大です。

1回目の緊急事態宣言と重なったGWの月売上は、前年比なんと9割減。震災の経験から「V字回復できるのでは」と一縷の望みも持っていましたが、一向にその兆しはなく、日に日に状況が悪くなっていくばかり。当社の看板商品である「東京ラスク」は観光地でのお土産需要がメインだったので、旅行に出られない世の中になれば当然の結果です。2020年度中には、以前から売上が振るわなかった9店舗を撤退することを決めました

当初は落ち込みましたが、ここまでひどい状況に追い込まれると、不思議なもので逆にパワーが湧いてきたのです。「つらいつらいと思っていても変わらない、これをバネに伸びてやろうと思えば、飛躍的に伸ばせるのではないか」と前向きに捉えられるように。有言実行に自分を追い込むためにも、「当社は大きく変わります! 」と社内にも発信して、さまざまな事業計画を考え始めました。

幸いステイホームで時間はたっぷりありましたし、事業のことだけをひたすら考えられる時間は楽しかったですね。「今だから、逆にこんなことができるのではないか? 」という視点から、生食パンやチョコレートの新規事業を始めたり、出店場所を大きく変えたりと、さまざまな取り組みを実現させていきました

特に生食パンやチョコレートの事業は、顧客の購入単価や来店頻度を上げることにつながり、全体の利益率を大きく上げる結果につながりました。生食パンによって毎日にでも来店くださる方が現れるようになり、「ついでにラスクも」と両方の商品を買ってくださるようになったのです。新型コロナウイルス感染症拡大の影響によるステイホーム中も「自宅で美味しい食パンを食べたい」という顧客のニーズをつかめた形となりました

このような「プログラムされた作業の繰り返し」ではない仕事ができるのは、AIやロボットにはない、人間だけの強みです

そういった意味で、これからの時代に活躍すると考えるのは、小さなことでも毎日「今日はこうしてみよう」と試行錯誤しながら仕事ができる人。ルーティンの仕事だけで満足していると、年々成長できなくなっていくと考えます。

我々のような製造や接客販売の仕事で言えば、「業務をプラス改善ができるかどうか」が重要になるかと思います。目の前の仕事をこなすだけで一日を終えず、ほんの些細なことで構わないので「昨日とやり方を変えてみよう」とあれこれ試してみる。そうした毎日のチャレンジ姿勢を心掛けることが、活躍する人材になる秘訣だと思います。

無論、試行錯誤には失敗もつきものです。当社も、新型コロナウイルス感染症拡大の中で始めたすべての事業がうまくいったわけではありません。日帰り観光需要を狙い、2021年の年明けには鎌倉にも出店をしてみましたが、1年未満で撤退を決めました。鎌倉で散策をしている人は食べ歩きがメインで、思ったほどの土産需要を見込めなかったのが大きな理由です。

実は「鎌倉って手提げ袋を持っている人が少ないよな……」ということには、うっすらと気づいていました。今までを振り返ってみても、うまくいかなかった事業というのは、最初からほんの少しの違和感やモヤモヤ感がある気がします。「本当にこれでいいのかな、大丈夫かな」と思いながら進めていくためか、一つひとつの決め事に何かと時間がかかるのです

比較して、うまくいく事業には勢いがありますね。生食パンの事業などは「1〜2カ月後にオープンします」と社内に宣言したら、すぐに製造機械を導入できる取引先が見つかるなど、何もかもがトントン拍子に進んでいきました。自分に迷いがないからかもしれませんが、「すべてが青信号」という感じで始まった事業は、好調になりやすい実感があります。

本気度が伝われば緊張していてもOK。相談できるメンターを持とう

自社の採用において私が重視しているのは「本気度」です。本気度の高い人材は会社について深く調べてくれており、緊張していたとしても、入社したい目的が明確であることが伝わってきます

緊張している様子はむしろ本気度が高いように映るので、気にする必要はありません。逆にスラスラと流暢に話していても、表面的な志望動機ばかりで響いてこないこともあります。面接はお互いにアピールしあう、ガチンコ勝負の場。雇う・雇われるという前提を取っ払い、対等な関係として自分の本気度をぶつけてきてほしいです。

とはいえ、就職活動〜新人時代は悩みがちな時期だと思うので、メンターのような存在は見つけておくのがおすすめです。誰かひとりでもいいですし、「このことで困ったら、この人に聞こう」とジャンル別の相談役を見つけておくのも一案です

人に話しているうちに解決方法が見つかってくる……ということは少なくありません。話を聞いてもらうだけでも効果はあると思うので、ひとりで悩まずに「いろいろな人に話して意見を聞いてみる」という習慣はぜひ付けておいてください。 

日本の観光産業に貢献していくことが、今後のキャリアビジョン

私自身がキャリアの充実感を得られるのは、忙しく動き回っているとき。休日も一日中家にいられない性分なので、必ずどこかへ出かけます。観光に関する仕事をしているので、街に出かけるだけでお客さんの様子や数を肌で体感でき、それが事業を考えるうえで役立つ情報になっています

公私の境目も、かなりグラデーションです。頭の片隅では常に何かを考えていますし、土日もオンでいたいタイプです。完全にスイッチを切ってオフになる時間は、ソロキャンプをしているときか愛犬と戯れているときくらいですね(笑)。

今後のキャリアビジョンとしては、観光立国・日本に貢献することです。お土産菓子を手がける企業として「お客様の”心のおなか”をいっぱいにする」ことを目指し、旅館やグランピングを手がけるグループ事業をすでにスタートさせています。今後もアクティビティを強化していこうと考えていますし、日本の観光地を制覇したい! という気持ちもあります。「温泉地で、温泉まんじゅうではなくラスクや洋菓子を楽しむ」といった文化も創出したいですね

国内で商売をしていこう、ということも決めています。過去には海外市場にチャレンジしたこともありますが、「貴重な人的資源が分散してしまうだけで、会社にとってあまり良いことがない」と感じました。社員との家族のような関係を大切にしている会社なので、今後も顔の見えるところで、社員たちと一緒に会社を盛り上げていきたいと考えています

取材・執筆:外山ゆひら

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