面接は個性で人を上回る場所ではない|チャンスは望み行動する人にだけ認識できるもの
データセクション 代表取締役社長CEO兼CFO 岩田真一さん
Shinichi Iwata・1998年、大阪大学経済学部を経て、大手金融機関に入社。キャリアの大半を投資銀行業務・企画業務に従事し、2018年以降は、会計系ブティックに転じ、M&A(FA部門)の責任者としてその立ち上げを実行。その後複数の事業会社にてファイナンス部門の責任者・CFOを歴任。2022年4月、データセクションに入社し、同年6月に取締役兼CFOに就任。2023年6月代表取締役副社長兼CFOに就任後、2024年2月より現職
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面接は相互理解の場と心得て
学生時代は古着が大好きで、アパレルや繊維商社で働きたいと思っていました。その気持ちで就職活動を始めたのですが、面接などを通じて実際の企業の話を聞いてみると、自分の知らないことがたくさんあるのだと気づいたことで、最終的に金融業界の仕事の裾野の広さに惹かれたんです。どんな業界にも深くかかわる社会性の高さも面白いと思いました。
金融業界は転勤があるケースも多いのですが、新しい場所に行くのは好きなので、そこに不安や抵抗はありませんでした。また当時は金融ビッグバン(1996年からおこなわれた、政府主導の金融市場の規制撤廃や緩和)が進行中で、業界全体の雲行きは不透明でした。そのようななかでしたが、逆境のときこそやりがいを感じてしまうタイプなので、むしろ好奇心旺盛に面接に挑んでいましたね。
面白いもので、商社や金融業界など、希望した以外の業界の企業からは内定をいただけませんでした。面接する側もたくさんの学生を見るので、伝わるものがあるのでしょう。今、面接する側になってみるとよくわかります。学生のなかには面接で自分の個性を印象付けようとしてしまいがちな人もいますが、面接は個性を競う場所ではありません。採用側の本音としては「この人は一緒に働けるかどうか」というマッチングの部分を見ているわけで、自社に入って働いている絵がはっきりと見えるかどうかなのです。
だからこそ、シンプルなことですが、やはり笑顔は大事ですよね。人生の大半の時間を費やす“仕事”に、前向きにのびのびと取り組めるか、それは自社なのか。そうやってあなたを見ている人は、実際多いと思いますよ。
ハードルが高いと感じても学べることはある
期待を抱いて入社した金融業界でしたが、予想外の部分もありました。私は田舎の公立高校を出て大学に進学した人間ですが、会社に入ると周りのメンバーがスーパーエリートだらけに見えました。これは私見ですが、会社に入るまでの環境が違えば競争環境や意識も違うので、正直に言って周りのレベルが高く、自分はこの会社でやっていけないのではないかと思うことも多々ありました。
しかし、石の上にも三年の精神で仕事を続けると、学べることがたくさんあると気づきました。まず会社の仕組みがしっかりとしているので、業務運営やマネジメントについて学び、段階を踏んで経験できます。また、若いうちからさまざまな企業の経営者と話す機会も多いので、経営という観点を磨き、多様な業界について知ることができるのもメリットだと思いました。大企業としての組織・体制を知っていることは、その後スタートアップに入ったときにも生かされましたね。どちらが良いという話ではなく、比較対照することで、さまざまな課題に広い視点で向き合えたからです。
最初は会社の雰囲気に飲み込まれた感があったのは事実ですが、そこから腐らずに仕事を続けることで、結果的にはその後のキャリアの糧となるものをたくさん得ることができました。せっかく縁があって始めた仕事であり、そして自身で決断し選んだ仕事ならば、まずは学べるだけ学び、成長を感じるまでやり抜いてみるのはどうでしょうか。
リスクを超えてつかんだ「本当にやりたいこと」
金融の仕事はとても面白く、やりがいも大きかったです。しかし、あるときに出会った自分のお客様のCFO(最高財務責任者)に憧れを持ったのですが、これが私のキャリアの舵を切るきっかけとなりました。そもそも当時はまだCFOという言葉さえ認知されていませんでしたが、幅広く奥深い役割を知って、ぜひやってみたいと思ったんです。その方は経理・財務的な統括をするだけでなく、M&Aや事業戦略も含めた経営戦略全般をまとめていました。私もいつか自分の財務金融的な知見を活かして、事業会社の経営の一翼を担ってみたいと心に誓ったことを、今でもはっきり覚えています。
その後最初に働いた金融業界を飛び出し、いくつかの会社を経て、現在のIT業界にたどり着きました。もちろんITの知識は一切なかったので、失敗するリスクは大きかったと思います。しかし、リスクを上回るワクワクがあったんですよね。ITについて学びながら、自分の知見を活かして事業を強くするCFOに就任するという未来図に、挑戦しない選択肢はありませんでした。
挑戦はリスクとセットです。そのリスクを引き受けてでも希望や期待が勝るなら、挑戦する意味があると思うんです。ワクワクに賭けることができたら、失敗だって受け入れられるはず。皆さんもぜひ、失敗も受け入れるマインドでチャレンジを続けてほしいです。
初めてには困難がつきもの。乗り切るカギはチームの力
初めてのことには、失敗や困難がつきものですよね。たとえば金融業界にいたときも、新しいことをしようとすると本当に大変でした。新たなフレームワークを作り、それを稼働させていくには、周りを巻き込み許可を得る必要があります。どちらかといえば保守的な業界だったからこそ、初めてのことをするときはいつも大変だった記憶がありますが、同時に振り返ってみると、それ以上に得られたチームワークや、結果としての経験のほうが大きかった気がしています。
IT業界に足を踏み入れたときも大変でしたね。何も知らない人間が経営あるいはそれに近い立場に携わろうとするわけですから、日々猛スピードで勉強し、自分をアップデートする必要がありました。また、考え方が多様化している昨今においては、何かを新しくしようとするたびに「なぜやるのか」をみんなで共有する必要もあります。当たり前の前提がなくなりつつあるなかで、何かを始めるのにはパワーが必要です。
しかし、そんな困難があるときほど、チームワークやマネジメントの力が発揮されると思っています。自分一人で乗り越えるのではなく、チームで足並みを揃えて。初めてのことがすんなりといくはずがない、そしてそれを乗り越えるにはチームが必要、と知っていればきっと勇気を持って踏み出せるはずです。仲間と手を携えて、新しい試みに取り組めたら、大きな達成感を得られるはずです。
「どこで」ではなく「何を」経験したのか
外部環境が常に変化し、働き方も多様化している昨今では、どこにいたのかというキャリアでは何も推し量れないと思います。同じ業界であっても、企業や職種によって違いは大きいでしょう。「〇〇業界に▲年いました」という事実だけでは、必ずしも評価されるとは限りません。
だからキャリアを選ぶ際には、自分軸を貫いてほしいんです。外部環境や待遇面も大切ではありますが、むしろ自分が何をやりたいのか、そして何をやったのか。能動的な行動によってのみ、あなた独自のキャリアが作られます。
情報が多すぎるという点でも、今は難しい時代ですよね。さまざまな情報に触れられるようでいて、画一化された正解ばかりが提示されることも多いように思います。それに必要以上に左右されてしまうと、自分が何をしたいのか、何を成したのかも、わからなくなってしまうかもしれないですよね。
まずは自分の本心を見つめて、自分のキャリアは自分で選び取ってほしいと思います。「やりたいことなんてない」という人は、心が動いたことを大切にしてほしいですね。最初から職業やビジネスの形でやりたいことが固まっている人なんていないかもしれません。いいな、好きだな、得意だなと思えたら、動いてみる。そのなかで「やりたいこと」は形になっていきます。
幸いなことに私は、自分が望んだ金融業界で経験を重ね、事業会社でCFOを務めるという夢を叶えることができました。やりたいことに嘘をつかずに重ねてきたキャリアで、達成感を感じることができています。ですので、これから先は、自分のやりたいことだけでなく、組織に貢献し、社会に貢献し、世の中を少しでも良くしていくことに力添えできたらと思っています。
キャリアの形は変化していきます。望むものや夢の形は、変わっていきます。そのときに前向きに進んでいけば、いつかはチャンスが訪れるものです。ただし、全ての人がチャンスをチャンスと認識できるわけではありません。チャンスがほしいと思って、努力し望み続けた人だけに、チャンスは降ってくるのではないでしょうか。ぼんやりとしていたら気づかないことだってあります。
例えば、10年後はどんなことがしたいのか、どうなっていたいのか。いつも心の奥で考えながら進んでいけば、必ずチャンスが舞い込むし、それを逃すこともないでしょう。学生のみなさんには、自分を信じ続けて欲しいですね。
取材・執筆:鈴木満優子