人生の舵取りは「好奇心」に従え|豊かなキャリアは道なき道を進んだ先にある
SOZOW 代表取締役 小助川 将さん
Masashi Kosukegawa・新卒で経営コンサルティング会社に入社。その後リクルート、グリーと転職し、LITALICO(リタリコ)で執行役員を経験。2019年6月にGo Visionsを創業後2022年に社名をSOZOWに変更し、以降現職
たった一言で変わった未来。きっかけは予想外の出会いと好奇心
今でこそ起業家として一つの会社を経営していますが、元からこのキャリアを見すえていたわけではありません。ある出来事によって考えが大きく変わることとなる大学2年生までは、想像すらしていませんでした。興味があるものはあるし、ないものにはとことんない。それこそ起業するような人が持ち合わせているようなやる気や熱意とは、ほとんど無縁な生活を送っていましたね。
転機が訪れたのは2年生の終わり頃、京セラやKDDIを創業した稲盛和夫さんの講演に参加したときです。これも何か目的があったわけではありません。ただ暇だったから、何となく足を運んでみただけでした。
当時はITバブル真っ只中で、「時価総額」「株主価値」といった言葉をキーワードに目をギラギラさせた人たちが大勢いるような時代。会社を創り経営する目的は、お金を稼ぐことにある──そんな印象を受けたものです。
そのようななかで稲盛さんは、「会社は社会の人々を幸せに、豊かにするためにある。時価総額に惑わされず、真に社会に価値を提供できる会社が本物だ」そう言っていたのです。当時の自分にはそれが非常に衝撃的で、胸を打たれました。このたった一言をきっかけに、社会に価値を提供できるような何かを生み出したいと考えるようになったのです。
ただそれを実現するにはあまりにも知識や経験が足りず、とにかく起業に関して学ぶ必要がありました。そこでマッキンゼーの日本支社長を勤めた大前研一さんの経営を学べる、社会人向けの起業家養成学校に入学しました。ここでもまた、人生の転機となる出会いがあります。偶然隣に座っていた上場企業の経営者の人から声を掛けられ、その人の会社でインターンをさせてもらうことになったのです。
当時は今ほどインターンが一般的ではなく、自分の周りにもインターンに参加する人はほとんどいませんでした。それでも周囲と違う行動を起こし、異なる道を行くことへのためらいはありませんでしたね。興味がありましたし、何よりもワクワクしていましたから。
思えばここにいたるまで、行動のきっかけは思いがけない出会いと好奇心にありました。「面白そう」「ワクワクする」そんな自分の気持ちが動いた方向に従い、歩いてきたように思います。皆さんもそういった出会いがあったら、ぜひ一度自分の直感に従って行動を起こしてみてください。きっとその先には思いもよらないような素敵な出会いがあり、あなたにしか築けないキャリアのきっかけがあるはずです。
「良質なハードワーク」は圧倒的な財産
大学を卒業後は、インターン先のコンサルティング会社にそのまま就職しました。そこでは本当に学ぶことだらけで、自分の能力のなさに打ちのめされた日も少なくありません。きついと思うことも無数にありましたが、それでも何とか食らいついて仕事をしていました。
しかし、そこでのキャリアは続きませんでした。もともとかなりのハードワークで、仕事をこなすこと自体が、いつしか働く目的になっていってしまったんです。同期が辞めていくなか、ついに頼りにしていた先輩も辞めてしまったときに深いショックを覚え、やがて自分も体調やメンタルを崩したのを機に環境を変えようと決意しました。
次はどのようなところで働きたいかを考えたときに、まず頭に浮かんだのはハードワークでも社員がいきいきと働いている企業、そして社会に価値を生み出している、つまり新規事業創出に積極的な企業です。
これまでコンサルティングの仕事を通じてさまざまな企業とかかわりましたが、なかでも事業再建の仕事を請け負った際、再建できるところは再建チームメンバーの皆さんの目や表情が死んでいないことがとても印象的でした。人や組織によって、成果が変わることを仕事を通じて体験していたんです。そうしてハードワークだが組織活力があり、新規事業に積極的な企業を探していた時、リクルートに出会いました。メンタルヘルスが重要だとコンサル時代に自分自身が感じていたこと、さらにそのリクルートでメンタルヘルス新規事業立上げの話をもらい、これまでの経験を活かせると感じて転職を決めました。
その後もグリーへと転職をしましたが、どの時代をとっても超ハードワークながら非常に実りある日々を過ごしていたと思います。仕事に没頭した期間があったからこそ豊富な知識と失敗を含むさまざまな経験を得ることができ、今のキャリアに活かされています。
20代のうちにがむしゃらに働いた経験は、どのようなものであれ未来に活きる圧倒的な財産になります。けれどよりあなた自身のためになる環境を考えるなら、ハードワークのなかでも特に「良質なハードワーク」ができる環境に身を置くことが大切です。たとえば働く仲間が高い意識を持って互いに刺激し合える環境だったり、顧客により良いアウトプットをしようとこだわりを持って働き続けることができるような環境ですね。こういった意識が企業内に浸透しているかどうかで、仕事や学びの質は大きく変わります。
失敗体験という「点」がキャリアという「線」になる
20代のうちはひたすら仕事と本気で向き合い奔走していましたが、長女が「学校が楽しくない」と言い出したのをきっかけに日本の教育制度について調べ始めました。子どもたちには、色んなことを気ままに体験してもらい、学んでほしい。そう思い、児童福祉やプログラミング教室を運営するLITALICOへの転職を決めました。
しかし、そこでもそう思うようにはいきません。自分のなかには「こうしたい」という確固とした意思があるのに、それをかなえられませんでした。規模の大きな企業なのでビジョンや戦略から考えたときにもっと優先すべきことがあるのはもちろん、私自身の力量も不足しており実現は難しかったのです。
もやもやとした気持ちを抱える日々を過ごすなか、あることがきっかけで孫正義さんの「人生一度きり。やりたいことをやらなければ後悔する」という言葉を聞いて、ハッとしました。今踏み出さなければ、一生後悔するかもしれない。そう思い、起業を決意したのです。
起業について学んだ経験があったとは言え、やはり会社を経営するとなると失敗の連続です。会社を立ち上げてしばらく経った今でもたくさんの失敗をしますし、気落ちすることだってあります。「これが印象的だった」なんて1つを挙げることはできないほど、数々の失敗をしてきました。
けれど、失敗は最終的に成長をブーストさせる材料になるものなんですよね。強烈な経験だからこそ、それだけ大きな学びを得ることができる。積み重ねていけば飛躍的な成長につながります。自分も実際に失敗と学びを繰り返し、結果として非常に充実したキャリアを築いてこれたと思っていますし、それはこれからも続いていきます。
皆さんには、「やりたい」と思えることがあったらとにかく失敗を恐れず何にでも挑戦してみてほしいですね。むしろ失敗を積み重ねるほど成長するという意識を持って、「失敗した者勝ち」くらいの気持ちで挑んでみるのが良いと思います。失敗と学び、成長を一つひとつ積み重ねていくうちに自然とキャリアとして道がつながっていき、その先にはあなたにしかできない経験や出会いが待っているはずです。
歩数が多い人ほど自分の進むべき道が見える
これから就活を控えていたり、今就活生として活動している皆さんのなかには、なかなかやりたいことや好奇心が刺激されるもの、この先の道筋が見えずに悩んでいる人もいるのではないでしょうか。キャリア選択の基準を「好きなもの」「興味・関心のあるもの」にすえたとしても、そういった好奇心をかき立てるものがなくては何を指標にすれば良いのかわかりませんよね。
そのようなときは、実際に働いている人に話を聞いてみるのがおすすめです。それも1人ではなく、できるだけたくさんの人と交流する機会を持ちましょう。ここで大切なのは、自分の足を動かして情報をつかみにいくということ。
自分のことを考えたとき「よくわからない」と感じる人は、圧倒的に行動量が少ないのです。家の中にこもって自分の好きなコンテンツに受け身の姿勢で触れているだけでは、取り入れる情報が少なくなっていきます。もちろんそうした情報のなかから進みたい道が見えてくることもありますが、やはり外の世界に飛び出していろいろな経験をしてきた人の方が、やりたいことが明確だったり自分が今後何をすべきかが見えているものです。
時間があるなら、まずは自分の興味のある分野に対して、今までとは違う一歩を踏み出してみましょう。好きなコンテンツを制作している現場を見に行ったり、ゆかりの地を巡って見たり、できることはいくらでもあります。そうして自分のなかにこれまでなかった「経験」が積み重なっていくことで、あなたの内面がより豊かになり、魅力ある人格を形成していくのです。
考え方一つで自分の選択はいつでも正解になる
自分の足でさまざまな観点から情報をつかみにいくことは、企業選びにも役立ちます。行動量を増やして情報を集め、さまざまな企業を知り、企業ごとにどんな人が働いているのかを見てみてください。多くの人に会い、考え方や行動原理を学びましょう。企業のDNAを一番色濃く受け継ぐのはそこで働いている人なので、考え方に共感できる、「この人と一緒に働きたい」と思えるような人との出会いがあった企業は、あなたが目指すべき場所の1つと言えます。
もちろんうまくいくことばかりではありません。ときには失敗したと思うこともあるでしょう。今は刻一刻と世の中が変化していく時代なので、企業の内部事情もあっという間に変わっていきます。入社してみたらなんか違った、と感じるのも仕方のないことなのかもしれません。
もし選択が失敗だと思ったなら、何が失敗のもとになったのか、なぜ失敗だと感じるのかをよく考えてみましょう。その時点から、すでに学びへの一歩を踏み出しています。
何もかもがあっという間に変わっていく時代だからこそ、変化に柔軟に対応する必要があります。たとえば新たな環境に身を置く際にも「ここにはどんな学びがあるかな」「どのような出会いがあるかな」そんな軽やかな気持ちで向き合ってみましょう。
自分の選択を失敗にするのも、成功にするのもあなた自身です。考え方や受け取り方次第で、どのような結果も正解にすることができます。人生は一人ひとりが紡いでいく冒険譚です。しっかり操縦桿を握り、ワクワクする方へ舵を切っていってください。
取材・執筆:瀧ヶ平史織