ビジネスの醍醐味は「多くの人に出会えて刺激をもらえること」|肩書きよりも一緒に働ける仲間が財産になる

アルメックス(U-NEXT.HD) 代表取締役社長 坪井 将之さん

アルメックス(U-NEXT.HD) 代表取締役社長 坪井 将之さん

Masayuki Tsuboi・大学卒業後、アルメックスに入社。レジャーホテル分野の担当として支店長、統括部長、事業部長を務めた後、ホテル・宿泊施設やゴルフ場など新しい領域の開拓に取り組む。2021年からは取締役常務執行役員・マーケティングセールス本部長として、医療・外食業界を含む全業態にかかわる各事業を統括。2023年11月より現職

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会社選びでは「変化する姿勢」「社会に貢献しているか」に注目を

私が就職活動をしたのは、バブルが弾けた直後。1990年代前半、ちょうど就職氷河期が始まった時期です。それまでは一番の花形だった金融・証券業界に進んだ先輩たちが苦労している姿を目の当たりにしたこと、さらに父が銀行員だったことも反面教師となり、「自分は彼らとは違う道を進もう」と決めました。

そこから実体のあるモノづくりをしているメーカーに注目したのですが、将来的に独立も視野に入れていたので、「大企業の歯車になるよりも、自分が主体性を持って動ける中小規模の会社が良いだろう」と考え、当社(アルメックス)への入社を決めました

当社は私が入社した当時、メッキ塗装プラントやプリント基板製造プラントを主力事業とする創業30年弱のメーカーでした。一方で、エレクトロニクス部門を立ち上げて自動精算機などの開発もおこなっていて、ホテルのチェックイン・チェックアウトシステムや、病院用の自動精算機を開発するなど新しい動きも始まっていました。

そして20年以上が経った現在の当社では、ITソリューションの開発・販売事業を主軸に活動しており、特に医療機関や観光業界のお客様に対して、業務オペレーションの効率化や施設利用者の利便性をサポートする製品・サービスを提供しています。

当社は、このようにICT/DXの活用によってお客様の業務効率化や省力化をサポートし、テクノロジーでホスピタリティを提供するという考えから「テクノホスピタリティを世界へ」というミッションを掲げています。

当社の事業に限らずですが、お客様の求めるものは、時代とともにどんどん変わっていきます。現状に満足しないマインドを持ち、会社も社員も変化と成長をしていかなければ、ビジネスの世界で勝ち続けることは不可能です。

長く働ける会社を探したい場合は、就職活動でも「変化しようとする姿勢があるかどうか」を確認してみてください。その時点での業績がどんなに良い会社でも、10年後に廃れている可能性はゼロではないということは頭の隅に置いておくと良いですよ。

あわせて、社会の課題を解決するサービスや製品を扱っているかという点も注目しておきたいところです。そもそもビジネスの基本とは「社会の課題を解決し、お客様に感謝される仕事をして初めて、その対価をいただける」というもの。しっかりとビジネスを成り立たせている会社は、すべからく社会貢献をしていると言って差し支えありません。

会社選びで見るべきポイント

当社の社員に対しても、日頃から「社会貢献ができているという自負を持ってほしい」と伝えていますね。仕事のやりがいにもかかわってくる部分かと思いますので、就職活動においても、自分が「お客様の役に立つ仕事をしている」というプライドを持って取り組めそうな会社かどうかを、しっかり見ておきましょう。

何度も直面した壁。乗り越えられたのは仲間がいたから

20代の頃は仕事が本当に楽しかったです。先輩や後輩たちと一緒に仕事の目標を追いかけることに充実感があり、何度か社長賞などもいただきました。

最初のターニングポイントを迎えたのは、ちょうど30歳になるタイミングです。「キリも良いし、そろそろ独立をしようかな」と考えていた時期に、支店長を任されました。一瞬迷いはしましたが、お客様にも仲間にも恵まれている状況をありがたく受け止め、いただいた職責を果たすことにしました。

いざ支店長になってからは、プレイヤー側とマネジメント側のギャップに悩まされる日々が始まりました。人に仕事を任せて成果を出していくには、それまでのやり方ではダメだと痛感させられましたね。言いたくないことも言わなければならない立場として「馴れ合いになってはいけない」と、次第に周囲と一定の距離を置くようになりました。

その一方で、チームが成果を出せたり、メンバーの成長を見られたりしたときには、また別の喜びがあることもわかってきました。自分で成果を出したときより、育成に携わった若手が成果を出したときのほうが何倍もうれしく、マネジメント側の楽しさややりがいも徐々に感じられるようになったのです

坪井さんのキャリアにおけるターニングポイント

そうこうしているうちに2006年、会社がUSENと資本提携をすることが決定。私もそれまでとは違う経営層や社員たちと一緒に働くことになり、社内の雰囲気も仕事内容も大きく変化しました。

転職したような気分になり、再び「独立しようか」という思いが頭をよぎりましたが、新しくやってきた当時の社長が非常に優秀な方で、初めて会ったときには「自分はこの人と対等に話せるだろうか」と思ったほどの衝撃を受けました。この新しい出会いに惹かれて、会社に残ろうと決意。社長との出会いは、今でも財産だと思っています。

今思えば若気の至りでしかないのですが、当時の私は言いたいことをズケズケと発言していて、社長はいつも苦笑いしながら聞いてくださっていました。おもしろい奴だと思ってくださったのか、執行役員を任せていただきました。38歳のタイミングでしたが、このときは、喜ばしいオファーという感覚はありませんでした。役員層と言われても、どんな仕事をすれば良いのかもまったくわからなかったですし、その時点で十二分な立場をいただいていると感じていて、出世願望はなかったからです。

迷いはしましたが、任された以上はやるしかない、と引き受ける決断をしました。ここがキャリアにおける2つ目のターニングポイントです。

以降の数年間は、仕事の楽しさよりも大変さが勝る日々でした。複数の会社が合併した背景から熾烈な派閥争いが起こっていましたし、2008年のリーマンショックの影響から、業績もかなりのダメージを受けていた時期です。30歳で初めて管理職になったときと同じくらい、キャリアのなかではしんどかった時期にあたります。

このように、これまで何度か大きな壁にもぶつかってきましたが、しんどい時期を乗り越えられたのは、仲間や友人たちの存在が大きかった気がします。一人では絶対に乗り越えられなかったと思いますね。ただ一緒にお酒を飲んで、話を聞いてもらうだけで翌日からの英気を養えていました。今学生の人にも、就職活動やキャリアで行き詰まったときには、何はともあれ「問題を一人で抱え込まないこと」を大事にしてほしいです。

役職はいっとき、人との出会いは一生。自分にない価値観との出会いを楽しもう

アルメックス(U-NEXT.HD) 代表取締役社長 坪井 将之さん

その後も6〜7年は事業再編が続き、経営者の交代も度々ありましたが、2017年のUSENとU-NEXTの経営統合により誕生したU-NEXT HOLDINGS(旧:USEN-NEXT HOLDINGS)の傘下に入りました。

そして、2023年当社の社長を任されたことがキャリアにおける3つ目のターニングポイントです。社長という立場になると、No.2やNo.3とはまったく違う発言や行動を求められるので、就任前も就任してからも「トップとしてどうすべきか」を考える時間が増えました

初めて役員になったときもそうでしたが、社長を任されたこともまったくの予想外でしたね。グループを統括するU-NEXT HOLDINGS宇野社長に呼ばれたときは「何か悪いことをしたかな」と不安になったほどです(笑)。あまりにノーガードだったので、打診を受けた瞬間は5秒ほど固まりましたが、最終的には「頑張ります」と答えました。

この決断ができたのは、「肩書きはいっときのもの」と思うようになっていたことも関係しています。肩書きが外れた後も意気揚々と働いている先輩たちが身近にたくさんいるので、今は「肩書きがどうあれ、一緒に仕事したいと思われるような人間であろう」ということを意識するようになりました。役職はいつか必ず外れる日が来るもの。肩書きが外れたときにどういう振る舞いをするかの方がはるかに大事だと、今は思っています。

70歳、80歳になっても現役を続けている先輩たちもいるのですが、皆さん本当にピンピンされていて(笑)、記憶力が少しも衰えていないことに驚かされることもしばしばです。私自身も「仕事をしながら人生の最期の瞬間を迎えたい」くらいに思っていますし、退職後どうするかといったことには興味がありません。

その先輩たちや前述した社長との出会い以外にも、ビジネスを通じて自分にはないスキルや経験を持ったスゴい人たちには大勢出会えており、そこからさまざまな刺激をいただいています。ビジネスパーソンとしての一番の醍醐味は、仕事を通じて人に出会えること。出会いこそが、自分のキャリアの宝、財産だと思っています

生きてきた時代によっても見える世界や価値観は異なる印象があり、自分より下の世代の人たちから学ばせてもらうことも多いです。新入社員の皆さんともコミュニケーションを取ることを大事にしています。 

こうした価値観なので、私が一緒に働きたいと思う人材をひと言で表すならば「夢中になる力がある人」です。目をキラキラさせながら自分が好きなことや頑張ったことを話している人がいると、年齢を問わず吸い込まれます。採用面接でもそういう人に出会えるとうれしいですし、「この人と働いてみたいな」と感じるかどうか、という感性での判断をかなり大事にしています。

表面的な志望動機を語るくらいなら、どんなに些細なエピソードでも構わないので、自分の言葉で、自分の好きなことについて生き生きと語ってほしいですね。

坪井さんからのメッセージ

周りの評価よりも「自分なりのベストを尽くす」ことを大切に

これから社会に出る人たちも、いずれ責任あるポジションを任されることがあると思います。プレッシャーに感じる人もいるかもしれませんが、必要以上に背負いこむことはありません。与えられた職責や役割を十分に楽しみ、ベストを尽くしてほしいですね。

大切なのは、人から見てどうかではなく、自分がやりきったと思えるところまで頑張ること。自分がベストを尽くしたと思ったことは、そのときに周りから評価されなくても、必ず次につながっていきます。

私自身、これまで何度も独立や転職が頭をよぎりましたが、中途半端な気持ちで仕事を引き受けたことはありません。「万が一、結果が出せなくてもしょうがない、出せなくても次につながるだろう」くらいの気持ちで、与えられた職責にチャレンジをしてきました。自分に嘘をつかずにベストを尽くしていれば、キャリアは必ず後から付いてきます。

仕事では「自己評価」を大切に!

ベストを尽くせる人というのは、自分の仕事にプライドを持っている人、とも言い換えられるかもしれません。「プライドを持ってお客様に喜んでもらえる仕事をする」という意識があることは、業種・業界を問わず、活躍する人材の特徴でもあると思います。

キャリアに理想郷を求めない。変化に柔軟に対応しその時々のベストを尽くそう

社会に出てから「お客様の役に立ち、喜んでもらえる仕事」ができるようになるまでには、少なからず苦労もあることでしょう。たとえば当社では、お客様の業績に影響を与え、かつ信用にもかかわる重要な基幹システムを任せてもらっているので、その責任を果たせなければ厳しいお叱りの声をいただくこともあります。

私自身若い頃には何度か心が折れそうになった時期もありましたが、上司が必ず一緒に対応してくださり、失敗しても何度も再挑戦するチャンスをいただいてきました。心が温かい人が多いことが当社の最大の魅力だと感じており、これこそが当社に居続けた理由の一つです。

とはいえ「ファーストキャリアで最高の会社に入れたから辞めなかった」というわけではありません。結果的に一つの会社に長年在籍することになりましたが、マイナスよりちょっとプラスが勝っていたから会社に居続けた、というくらいの感覚です。私に限らず、自分がいる会社に120%満足している人はいないように思いますね。就職活動でも、理想郷を探そうとしないことは大切です

キャリアには外的要因も影響しますし、自分が辞めたいと思わなくても社会情勢のあおりを受けてやむをえず倒産に至る、なんてこともありえます。会社が生き残れたとしても、お客様のニーズが大きく変化して入社時点でやりたかった部門の仕事がなくなってしまった、なんてこともあるでしょう。

こうした変化を、入社前に予測しきることはほぼ不可能です。そう考えれば、何はともあれ「どんな会社に入っても、そこで自分なりのベストを尽くそう」と決めておくことが、最終的に満足のいくキャリアを歩むためのーつの方法論ではないかと思います。これから社会に出る皆さんも、人生何もかも計画的かつ用意周到に進めなければと思いすぎず、訪れる変化を柔軟に受け止め、その時々のベストを尽くしながらキャリアを歩んでいってほしいですね。 

坪井さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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