自分の「外」に目を向け続けよう|あなたの価値は他人が見出してくれる
ギブリー 取締役 新田 章太さん
Shota Nitta・大学3年生より、学生インターンとしてギブリーに参加。エンジニア領域に特化した採用支援事業を立ち上げ、2012年に大学卒業後、そのまま同社へ入社。2014年より現職。2021年4月からはHRTech部門・社内人事管掌役員も兼任
就活を通じて「エンジニアの将来性」を実感しインターンを開始
大学時代は、理系の知識をいかしながら経営を学べる経営工学の分野を専攻していました。もともと「暗記の必要な科目が苦手で、数学や物理が大好き」というタイプでしたので、得意なことを社会に役立てられそうな学問を勉強しようと思い、この分野を選びました。
就職活動は大学3年生の早い時期に開始し、若いうちから裁量を持って働けそうなIT系メガベンチャーを中心に選考を受けていました。しかし、面接で理系だと伝えると必ず「プログラミング経験はある? 」と聞かれるのです。「授業で軽くやった程度です」と答えると、残念そうな顔をされる、ということもありました。
大学ではプログラミングや情報リテラシーの授業も多少は受けていましたが、情報領域にはあまり目を向けていなかったのが正直なところです。“陸の孤島”とも呼ばれるつくばエリアで生活をしていたので、当時から都心に比べて情報格差を感じていました。とはいえ、すでにスマートフォン(スマホ)も流行り始めていた時期でしたし、IT企業ではエンジニアの需要が高まっていました。「自分はなぜエンジニアやプログラミングの価値に気づけなかったのか! 」と猛反省したことを覚えています。
第一志望だった企業に最終面接で落ちてしまったことから、「実践を積んでから、もう一回受けに行こう」と考え、周りの同級生たちが本格的に就職活動を始めようという時期に、一旦就職活動を辞めてインターンシップ(インターン)を探すことにしました。ここが人生で最初のターニングポイントです。
インターン先を探すなかで出会ったのが、当社ギブリーです。当時のギブリーでは就活支援事業を展開しており、「プログラミング経験はあるが、市場価値や可能性に気づかなかった」という自身の経験から、インターンではありましたが、エンジニアに特化した新卒採用支援事業の立ち上げを経験させてもらい、海外で活躍する日本人エンジニアを取材して紹介するメディアやフリーペーパーを作る、といった仕事に携わるようになりました。
チームづくりで苦労するも先駆的に始めていたハッカソンで道が開けた
1年ほど経った頃、社内で大きな出来事がありました。当時の主軸事業のひとつであったソーシャルゲーム事業からの撤退が決まったのです。直接関連はない部門でしたが、多数のスタッフが離れることになり、会社全体の雰囲気や文化、信頼関係が大きく崩れていきました。
会社全体としての事業や組織の立て直しが急務になったことで、私自身も社内における役割が大きく変わることになりました。その意味で、ここが人生で2つ目のターニングポイントだったと言えるかもしれません。
当時はまだ学生だったのですが、この頃にはすでに「もう一度、就職活動をしてメガベンチャーを受け直そう」という思いはなくなっていました。「やりたいことをやればいい」と任せてくれる社長のもとで、好きな仕事をやらせてもらっている充実感があったからだと思います。卒業後もギブリーにいると決め、そのまま入社をしました。
当時展開していたメディア事業のサーバの保守や運用、受託開発のプロジェクトそのものを支えるエンジニアが必要でしたが、十分な体制がありませんでした。「社内でサーバやシステムについて一番理解のある人間が私」という状況になり、新たな開発チームを作るべく奔走しました。しかし自社で開発したプロダクトもないし、優秀なエンジニアもいないという状況なので、採用がなかなかうまくいかず、暗礁に乗り上げていました。
変化が起きたのは、以前からエンジニア教育の一環として取り組んでいたハッカソン(エンジニアが短期間でソフトウェアを開発するイベント)です。当社は国内でもかなり早い時期から開催していたのですが、カナダ人の参加者が紹介してくれたUI/UXデザイナーが、当社に興味を持ってくれたのです。
そこからエンジニアインターンを受け入れているカナダの大学を紹介してもらい、人の輪がどんどん広がっていきました。気づいた時にはグローバルなチームができ、日本人のシニアエンジニアが「面白そうだね」とジョインしてくれるまで組織や文化ができていったのです。自社プロダクトについて「俺ならこう作る」と展望を語ってくれ、現在の『track』(トラック)の前身となる『codecheck』(コードチェック)の開発にも着手。彼が入ってくれたことで社内のいろいろな交通整理ができ、自社で開発できる体制が整いました。現在の開発チームの基礎ができた時期と言えるかと思います。
事業には「戦略」が必要。夢やパッションだけではダメだと気づいた
そこから、開発組織が拡大するにつれて、『codecheck』(コードチェック)をはじめ、数々の自社プロダクトの立ち上げに挑戦していきました。2017年頃には現在の役員陣に出会うことになるのですが、そこが3つ目のターニングポイントです。本当の意味で「事業を創る意義」を考えるきっかけをもらったからです。
それまでの当社でのプロダクト開発は「こんなものが世の中にあったら面白そうだし、楽しいから」という思いから動いていました。“世界観重視”と言いますか、夢ややりたいことをどんどん事業化することに力を注いでいて、それぞれの成長率が高くなくても気にしていなかったのです。
「『あったらいいな』をやり続けること=事業」だと思っていたのですね。
パッションがあること自体は役員陣にも尊重してもらっていましたが、ある時、現在の社外取締役である中俣博之氏に事業計画を持っていったところ「この事業は何のためにやるの? 」「ギブリーならではの事業戦略がないよね」と指摘されました。「戦略のないものに投資はできないよ」と。
言われた瞬間はよく理解できませんでした。しかし考えるうちに、「事業を創るとは、こういうことなのか」と腑に落ちました。
世の中には、解決できない課題がたくさんある。その事業を通じて「どの課題を解決するのか」という仮説をきちんと立てて、お客さんに価値を提供できてこそ、事業に価値が生まれる。さらに、同じような課題を持っているお客さんがたくさんいるという前提条件と、自社の強みで競合と差別化をしていく戦略を持つことで、マーケットに広げていく。こうして価値を広げていくことで、初めてマネタイズすることができるし、それによってチームのメンバーも幸せにできるし、また新しいことにも挑戦できる。 非営利団体でない限り、この部分から目を背けてはいけない、と初めて気づけたタイミングでした。
当時はBtoC事業にも手を出していましたが、「戦略とはやらないことを決めること」と理解し、以降は「選択と集中」を重視して、事業の取捨選択をしていきました。あのときに事業を絞ったからこそ、今実現できていることがたくさんあります。20代のうちに「夢だけでは食べられない」と気付かせてもらえたことは、本当に良かったと感じています。
アウトプットに注力することで自分のバリューが後から付いてくる
振り返れば大変だった出来事もありますが、「つらいな」と思いながら仕事をしていた時期はありません。その時々でトライしていることに関して、常に「やれるんじゃないか」という根拠のない自信はあったように思います。「今頑張っていることが、きっと将来につながっていく」という気持ちを根底に持っていたからかもしれません。
キャリアの選択は、最終的に「この道で合っていた」と自分が言い切ることさえできれば、どのような選択をしても正解だと私は考えています。
最初から先々の未来を予測して「この選択で合っているだろうか」と考えることには、あまり意味がないと思いますね。それより身に付けるべきは、自分で選んだ道を自分で正解にしていく力。「自分の意思決定を正解にして、実りを作っていこう! 」という心構えでいることが一番、重要な気がします。
就職活動の段階で「自分に何が向いているか」「自分にどんなバリュー(価値)があるか」を考えても、答えは出ないと思います。自分のバリューというのは、誰かに「何か」を提供して初めて、得られるリターンだからです。私自身、「アウトプットをし続けて、後から振り返ってみたら自分にバリューが出ていた……」という感覚があります。
働く前から自分の内側ばかりを見つめて悶々と悩むよりも、「外」に目を向けてみてください。がむしゃらに自分の「外」に向き合い続けていれば、いずれ「周りが認めてくれて、自分の価値を感じられる」という素晴らしい体験ができると思います。
「自分の価値を上げるために、何かを勉強しなければ」と考える人も少なくないかと思います。実際、学生の皆さんからは「内定の時期に何を勉強しておけばいいですか」という質問をよくいただきますが、いつも「今の時点では特にないよ」と答えています。目的がないまま取り組む勉強は、あまりモノにならないという実感があるからです。
「これをやりたいから、あるいは今やっていることに必要だから、勉強をしよう」という動機で始めた勉強のほうが、圧倒的に身になると思いますね。
私自身、プログラミングを本気で学び始めたのは、必要だと感じてからです。英語にしても、一緒に働きたい相手がたまたま外国の方だったので、必要に駆られて勉強をしました。社会人になってから学び続ける覚悟を持っておくことは大切ですが、「勉強は目的を見出してから、好奇心をもって学べばいい」と心得ておけば十分です。インプットも大事ですが、自分の価値を上げたいと思う人ほど、意識的にアウトプットに励んでみることをすすめます。
企業選びでは「その会社が大切にしている考え方」を見定めよう
また企業を選ぶ際には、その企業がそのときに展開している「サービス」や「プロダクト」を入社理由にしないほうがいいと個人的には考えます。「このサービスをやりたいから」という理由で入社しても、その事業が続くとは限らないからです。
とくにIT業界は変化が激しい時代であるため、数年後にはその会社の事業がガラッと入れ替わっている可能性を想定しておくことがよいのではないでしょうか。
では企業を比較検討する上で最適な方法は何か……という話で言えば、「その企業が大切にしている根幹の考え方」を見ることだと思います。利益を出すための手段や手法は時代に応じて変わったとしても、企業の軸となる考え方はそうそう変わらないでしょう。
似たようなサービスをやっている企業が複数あったとしても、その企業の軸の部分が違っていると、先々、必ず違う方向に向かっていきます。「その企業がどういうベクトルを向いていて、なぜ今そういうことをやっているのか」は、入社前にぜひ見極めてみてください。
企業の軸となる考え方に共感できれば、どのような事業をやることになっても楽しんで働ける確率が高くなるはず。企業理解の方法としては、トップの発信に触れたり、働いている人たちの話を聞いたりするのが最善かと思います。
また今回のコロナ禍で経験したように、何かのきっかけで社会や人々の生活習慣が大きく変わることがあると考えると、「変化を楽しめるかどうか」もこれからの時代に重要な姿勢だと思います。
まとめると、「変化を楽しみ、必要なことを学び、外に向けて実践し続ける」という3つの要素を持っている人は、これからの時代、大いに活躍していくと思います。
ちなみに当社は、「Stay Gold, Go Giver!(圧倒的に輝き、与え続けよ)」というメッセージを掲げており、社内でも「Give&Give」という考えを全員で共有しています。
Giveという言葉について、新人時代は英語訳のまま「与えること、誰かのためになること」だと考えていました。しかし今は「真に相手に対する理解を深め、尊重すること」が、本当のGiveだと理解しています。
人と一緒に働いていくなかでは、相手の考え方や感情に目を向けることが不可欠になります。他者の意見に完全に同意しなくても構いませんが、「まずは相手を理解してみよう」という姿勢は絶対に必要です。優れた開発チームづくりには、謙虚(Humility)・尊敬(Respect)・信頼(Trust)の3つが欠かせないと言われていますが、そのとおりだと思いますね。
人数の大小はあれど、社会に出れば必ず人と関わりながら働くことになります。学生時代のうちから「自分とは違う他人に興味を持つこと」を意識しながら生活しておくと、将来役立つかもしれません。
会社に恩を返して「夢や想いがある人」を応援していきたい
最後に、私自身のキャリア意識の変化についてお話しします。2020年からは、社内人事管掌役員も兼任するようになりました。自社プロダクトをある程度形作ることができ、中長期的な道筋が見えてきたこともありますが、一番は「代表や会社に恩返ししたい」と思い始めたのが就任の理由です。
代表の井手は、出会った頃からずっと私にまっすぐに向き合い、私を尊重をしてくれた人物です。素っ頓狂な、暴れ馬のようだった自分を10年間以上、信じて仕事を任せてくれた。その恩返しをすることが、キャリアにおける次のステップだと考えています。
具体的には、入社当時の自分のような「夢や想いはあるものの、やり方がわからない」という人を育てる仕組みを作り、そのような人たちが巣立っていく場をギブリーにしたいということです。これまでの事業開発で得た経験値を還元したい思いもありますし、夢や想いを持った人をたくさん集めて、井手のように包容力をもって、彼らのお手伝いをしていきたいですね。「こんなものがあったら」という想いを形にしようとする人は、全員が良きライバルだとも思っています。
また、「目の前のひとりや身近な課題に向き合うことが、最終的に社会に影響を与えていく」とも考えています。そのため、若手の育成も含め「人や課題と向き合うことをずっと大切にしていきたい」というのが、今後のキャリア展望と言えるかと思います。
取材・執筆:外山ゆひら