選択肢を自ら狭めるな|不安も糧にして未来へ進め

ビザスク 執行役員CFO 小風守さん

Mamoru Kokaze・慶應義塾大学法学部卒業。2011年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社。東京/NYの投資銀行本部にて国内外の金融機関のM&A、資金調達、IRの助言業務に従事。2022年1月より執行役員CFOとしてビザスクに参画。Coleman Research Group(コールマン・リサーチ・グループ)買収後の財務戦略立案、IR等に加えてコーポレート機能全般の強化に従事

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インターンシップで未来の自分をイメージ

私は就活の最初の段階では幅広くいろいろな業界について研究しました。最初から投資銀行を目指していたわけではありません。

最終的に三菱UFJモルガン・スタンレーの就職を目指したのは、社会人となる自分を鍛え一番成長できるのはどこかを突き詰めた答えが投資銀行だったからです。なかでも外資系は優秀な人材が多く、競争の中で揉まれる環境もプラス要素だと感じました。 

大学3年生の夏に体験したモルガン・スタンレーのインターンシップで気持ちはさらに固まりました。わずか3日間の内容でしたが、仕事の現場でさまざまな社員と交流でき、「この人たちと働くのだ」という具体的イメージや、3年後の自分がどのような社会人になっているのか、その未来像が見えたのが大きな収穫でした。 

小風さんが外資系投資銀行を選んだ理由

  • 自分が鍛えられ成長できる場だと見込んだ

  • 外資系に集う優秀な人材にもまれる環境を求めた

  • インターンで自分の未来像をイメージできた 

就職してからは選択が間違っていなかったという思いを強くしました。一番うれしかったのは、年々任される仕事の幅が広がり、3年程度の間隔で昇進できたこと。最初はアナリストとして仕事を始め、分析や資料作成の基礎を学び、3年後にアソシエイトに昇格すると、新規上場やM&Aの実務を任される立場になりました。

大企業の顧客の経営企画室長や財務部長と案件について話し合い、意見交換するので、社会人4年目でそんな仕事に携われているということに大きなやりがいを感じました。 

ただし年齢が若かろうが経験が浅かろうが、1人のプロとしてしっかり提案やアドバイスができなければ失格です。上司や先輩とも綿密に情報共有し助言も得て、独りよがりにならずモルガン・スタンレーの提案として自信を持って伝えられる内容を顧客に伝えることを常に意識しました。実に気を抜けない毎日で緊張の連続でした。 

米国でも1年間勤務しました。アソシエイトの時代に志願してニューヨークのモルガン・スタンレー本社で仕事をしたのですが、周りはハーバードやスタンフォードといったアイビーリーグ出身の優秀な人ばかり。業務の進め方などが日本と異なることもあり、苦労もしましたが、だからこそ自分が成長でき、得難い経験を積めた1年間だったと思います。 

その後もヴァイス・プレジデントエグゼクティブ・ディレクターと順調にキャリアアップし、どんどん広がる裁量範囲とそのスピードの速さには驚きました。そこは外資ならではかもしれません。 

エグゼクティブ・ディレクターまで昇格し転職を志す

モルガンスタンレーに10年以上勤務し、新卒で入社してエグゼクティブ・ディレクターまで階段を上がりました。任せられる仕事の裁量も増し、自分の成長を実感できましたし達成感を得ることもできました。

他方、自分自身のキャリアについて考えた時に、新卒でずっとバンカーを続け専門性を高めてきたわけですが、環境を変え、違う世界に飛び込んでみることで、価値観を広げることも良いのではと思えたのが転職のきっかけです

モルガンスタンレーでは、M&Aや資金調達をする顧客の、あくまでもアドバイスやサポートをする立場で仕事に携わってきたわけですが、自分が培ってきた専門性を活かして自ら事業を作っていく、あるいは事業の成長を肌で実感できる仕事がしたいと考えました。 

もう一つ転職の背中を押した理由は、モルガン・スタンレーを含む投資銀行業務の出身者で、ベンチャー企業のCFOに転身した先輩たちが多く活躍しており、キャリアの選択肢としてイメージしやすかったからです。

またベンチャーに着目したもう一つの理由は、専門性を活かし経営陣の近くで会社の意思決定にかかわる仕事がしたかったからで、転職先選びでは企業規模よりその点を優先しました。 

プライドを捨て謙虚に学ぶ姿勢を

ビザスクを選んだのは、モルガン・スタンレー時代からその存在を知っていただけでなく、ベンチャー企業として注目していたのが理由の一つでした。ビザスクは2021年11月に米国の同業であるコールマン・リサーチ・グループを買収したのですが、取扱高が自社よりも大きい米国の同業社を相手にした案件でしたから、投資銀行業界でも大きな話題となりました。 

ベンチャーでありながら、こんなM&Aを実行してしまうおもしろい会社が日本にもあると知り、当時はまだ転職を考えていた時期ではないものの、個人的に興味を持ちました。ビザスクはすでに上場も果たしていましたが、まだまだ成長中の企業。成長企業の中でその成長に貢献する仕事をしてみたかったのです。 

当然ながらビザスクの企業理念や考え方にも共感できました。

ビザスクのバリュー

  • 初めから世界を見よう

  • 一流であることにこだわる

  • 圧倒的な一番になる

  • プライドはクソだ

  • 広める努力は全員で

  • 自由を自覚しているか

会社にかかわる全員が価値観を共有するため、「初めから世界を見よう」「一流であることにこだわる」「圧倒的な一番になる」「プライドはクソだ」「広める努力は全員で」「自由を自覚しているか」という6つのバリューをビザスクは掲げているのですが、私は特に「プライドはクソだ」が好きです。 

成長するため謙虚に学び最速で試行錯誤するという意味ですが、自分自身、分からないことは率直に聞くことを心掛けてきました。素直に周りの情報や意見に耳を傾け、自分の考えやアイデアに固執することなく、周りの助けを受けたうえで自分の専門性を組織のために最大限生かすことを優先しています。

1日1時間は自分に投資して「自分の頭で考えられる」人になろう

社会人として一緒に働きたい人は、自分の頭で考えられる人ですね。他者から言われたことをこなすだけでは成長に限界があります。

ものすごいスピードで変化していくこれからの時代に食らい着いていくのは困難です。変化にいかに対応できるか。それが、これからの時代のキーワードになります。 

数年後に自分の仕事が自動化されなくなるかもしれない。それくらいの危機感を持って仕事と向き合い、自分のキャリアや仕事を常に見返し、何かより良くできる余地がないものかと考える。変化の中で自分にできる対応を常に考え工夫するわけです。その積み重ねで自分を磨いていくしかありません。 

自分をそうした方向へ導くため心掛けているのが、1日の中で「やるべきことをやる時間」と「それ以外の時間」を線引きし、1日1時間でいいから「それ以外の時間」を確保することです

たとえばCFOとして稟議や各種の相談に対応するのは当然「やるべきことをやる時間」に当たります。それとは別に、今の業務を効率化する方法を考えたり、中長期的なチームの目標を考えたり、チームメンバーとの対話の時間を確保する。

また、日々の業務以外にも、30分間は新聞やニュースを見て世の中の動向をチェックしたり、もう30分は自分の人生について思いを巡らす時間に当てます。たとえば家族のこと、キャリアのことなどを、仕事とは切り離してじっくりと考えます。 

「やるべきことをやる時間」だけで、1週間はあっという間に過ぎ去ってしまいますが、毎日1時間の「それ以外の時間」を確保して、1カ月、1年と積み重ねていけば、自分自身をしっかり把握でき、それが変化への対応力につながります

就活の候補業種は絞りすぎないで

就活の際には、大学ではこれを専攻したのだからこの業界に就職した方がいい、といった固定概念は捨てる。実際に仕事に就いて初めて見える世界があるし、大学で学んだことが仕事にどう生かせるかは、仕事を始めてから後追いで分かることです。あえて関係づける必要はありません。 

業界を絞り込みすぎず、さまざまな業界の人たちに話を聞くべきです。それも一方通行になりがちな会社説明会だけでなく、なるべく社員と交流できる機会を持ってみてほしいですね。キャリアを選択する大切な就活の時期には、とくに先輩や第三者の話を聞くための労力を惜しまないでください

できるだけ各企業の社員と話をしてみるのが大切な点です。私自身、学生時代のインターンで社員とコミュニケーションし多くの気づきがありました。

仕事の面だけでなく人間としても尊敬できると思える先輩に出会えましたし、こういう人たちと一緒に働くのだというイメージをつかむこともできました。

就活も就職後の仕事も、新卒学生にとっては初めての体験ですし分からないことだらけで不安がいっぱいです。辛いこともあるはずです。でも新しい状況や難しい状況に身を置いて、不安さや辛さを感じているときこそ自分が成長している最中なのだと解釈してみてください

今日、明日には分からなくても3年後、5年後にはそれが事実だったと分かるはずです。逆に変化がなく、緊張しないほど慣れてしまい不安もない状態にばかり居る人は成長できません。 

私も就職後に帰宅が深夜になるような毎日を送るうち、何のための日々なのか疑問が湧いたこともあります。それでも、もがきながら仕事に向き合い3年経ち5年経ったときに、あの時間が無駄でも間違いでもなく心から良い経験ができたのだと思えました。

就職すれば、日々の仕事に追われ自分を振り返る余裕すらない時期はつきものでしょう。そこで折れてしまわないためにも、就活では労を惜しまず自分が納得し信じて進める道を見極めるべきです

組織内で役割を果たす訓練を学生時代から 

学生時代はサークルなり部活なり、あるいはゼミでも良いのですが、所属する組織に対して自分がどう貢献できるかを考えて活動に向き合えば、自分を鍛えることができると思います。

単に所属するだけでは成長できません。組織を少しでも良くするために何ができるかを考えるようにしてください。社会に出れば、その連続ですから学生のうちに挑戦しておけば得るものは多いです。 

周りに働きかけてみて、自分の意思を反映してくれるリーダー役を、役割ごとに探し出し分担する。そうすれば1人だけで孤独に取り組む必要はありません。 

私の場合、大学では先輩学生が新入生の相談役を務めるStudent Counselors(SC)というサークル活動に参加しました。講義の選び方や部活・サークル選びについて新入生の相談に乗るのがSCで、2年生でサークルの代表を務めました。

50年の歴史があり1学年20~30人、全体で100人もいる組織であり、参加する学生のバックグラウンドもモチベーションもさまざまでした。そのような組織が円滑に機能するよう広報チームや会計チームを新設して組織を作り直し、相談の仕組みも体系化しました。この体験は自分の成長を強く後押しする原動力になりました。

学生時代にできれば巡り会いたいのは尊敬できる先輩です。先輩が悩んだ事柄の多くは自分も経験すると考えていい。ですから同じ悩みを乗り越えた1歳、2歳年上の先輩からは実のあるアドバイスを得られますし、社会人になる前だからこそフラットな信頼関係を築けます。

そんな先輩と出会うためにも、多くの人たちとコミュニケーションすることを厭わないでください。

取材・執筆:高岸洋行

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