「楽しい」への変換が仕事の真髄|強い好奇心×広い視野が自分を助ける武器になる

TREE Digital Studio 常務取締役 山田悠生さん

TREE Digital Studio 常務取締役 山田 悠生さん

Yuki Yamada・映像の専門学校へ入学後、2年間動画編集を学ぶ。その後同専門学校のアシスタント職として従事し、学生に向けてCGに関する講義を担当。就職活動のタイミングでデジタル・ガーデン(現TREE Digital Studio)より声が掛かり、デザイナーとして入社。その後チーフ業を経た後、CG部門の部長とスーパーバイザーおよびプロデューサーを兼任し、2023年に取締役に就任。2024年より常務取締役となり、以降現職

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自分の「好き」に従って過ごした日々。いつのまにか取締役に

思い返せば、これまで自分の「好き」という気持ちに従って動いてきたように思います。そして気づいたら、デザイナーから取締役になっていました。

中学生の頃から漠然とPCに触れる業界に入りたいと思っており、高校はPCのスキルを学べる商業高校に進学しました。ただ当時世界中で攻めたCMが多く出てきていたこともあり、専門的な知識を学ぶなかで「CM制作に携わってみたい」という思いが自然と強くなっていたんです。商業高校を卒業した後は映像系の専門学校に進学し、2年間編集に関する内容を学びました。

就職活動では、最初から興味のあったCM系の職種を中心に探していました。ただ授業を受けるなかでCG制作にも興味を持ち、実際にやってみたいという気持ちも強かったので、進路に迷っていました。そのとき、学校から「アシスタントとして残らないか?」と声を掛けていただいたんです。アシスタントとして働きながらCGについても改めて勉強できるのは将来的にもプラスになると思い、専門学校に残ることにしました。

そこからは、怒涛の日々でしたね。ティーチングアシスタントとして専門学校に残ったのですが、担当するCGの授業が週4コマもあったため、在学中に学んだCGの基礎知識に加えて、独学でも勉強をしながら授業をして、また勉強をして……。とにかく学生に追いつかれないように必死で取り組みました。振り返ると、1年間集中して取り組んだことで、CGについての知識と技術がある程度身に付いたように思います

そこからさらに1年間を専門学校で過ごした後は就職を考えていたのですが、ちょうど規模拡大のために人材を集めていたデジタル・ガーデン(現TREE Digital Studio)から学校に連絡が来ました。学生には少しハードルの高い条件だったこともあり、就職先を探していた自分に声を掛けていただきました。そこで、2年間勉強してきたことをまとめたCGのデモリールを見てもらった結果、力が認められて入社することができました。

このようにしてデザイナーとして入社したのですが、当然仕事としてのCG制作は初めてだったので、隣で仕事をしている先輩が納品したファイルを覗いたり、積極的に質問したりしながら作法を学びつつ仕事をこなしていましたね。そこから一つひとつ仕事の経験を積み重ねていき、チーフ、スーパーバイザーへと昇進。現場作業だけではなくお金やスタッフの管理もおこなうようになった頃に会社から打診があり、プロデューサーになりました。このときはまだ自分でも手を動かす必要があったので、スーパーバイザーとプロデューサーを兼任する形です。

その後取締役への打診があり、今年から常務取締役として働いています。これまでも肩書が先行しながらのキャリアを歩んできたこともあり、役職に対して自分が何をすべきか考えながら仕事をしてきました。

もともと映像編集を勉強していたところから、自分の興味関心に突き動かされて独学でCGを学び、自分のできることを少しずつ増やしていった結果、今のキャリアにつながりました。自分の「好き」や「楽しい」という感情に従ってひたすら仕事に向き合ってきた結果、これまでも今も楽しく仕事ができていると感じています

山田さんのキャリア変遷

行動原理は「”面倒くさい”の回避」。 先回りで品質の高いクリエイティブが生まれる

自分自身のキャリアのなかで一つ目の転機となったのは、プロデューサーの範囲だけで仕事をしてみたときの経験ですね。

プロデューサーの役割は、クライアントからの要望をヒアリングし、プロジェクトの進捗管理や予算の交渉をしながらプロジェクト全体を円滑に進めることです。しかし、実際にプロジェクトの作業を進行するのは現場のデザイナーなので、プロデューサーの業務に偏りすぎてしまうと、デザイナーの作業の進行具合や必要日数など、どうしても詳細に把握しきれないことが多くなりました

その結果、クライアントからスケジュールや予算を聞かれても、その質問に対してすぐに明確な回答ができない状況になっていました。次第に仕事の本質としての疑念を感じ、その状況におかれること自体が「面倒くさく」なってしまったんですよね。この状況を打破するために、プロデューサーをやりながら、プレイヤーとしてまた手を動かすようになりました。そうすることで、プロデュースだけでは難しかった「明確な答え」というものを常に持ちながらクライアントや制作チームとやりとりができるようになり、とても楽になったことを覚えています。

TREE Digital Studio 常務取締役 山田悠生さん

この「”面倒くさい”を回避したい」という思考は、今も自分自身の行動原理になっています。たとえば、デザイナーはPCのツールを使って作業をするのですが、ツールは進化するスピードが非常に早く、その時々の新しいものや使いやすいものにどんどん切り替わっていきます。デザイナーのなかには、新しいツールの使い方を覚えることが面倒くさいと感じてしまい、今使っているツールで何とかしようとする人も多いと思いますが、私は新しいツールは積極的に使用して慣れていくようにしています。

これは先のことを考えると、新しいツールにいち早く慣れることで今までより仕上げるスピードが早まったり、提供するサービスの質を上げることができるからです。結果としてクライアントや制作チームとの交渉、調整がうまくいき、今まで起きていた「”面倒くさい”こと」が回避できるのです

このように、後々「面倒くさくならないように」常に先のことを考えて、状況をロジカルに分析し、事前に回避する努力や工夫を重ねることで自分の可能性を広げてきたように思いますね。

山田さんからのメッセージ

物事を「楽しい」に変換できる人は強い。仕事を好きでい続ける努力が自分の支えに

「面倒くさい」と感じるポイントが人それぞれにあるように、「楽しい」と感じるポイントも人それぞれだと思います。たとえば、ほかの人は一番大変だという作業も、私は大変だったとしても「こうしたら効率的かも」「それならこうしたらもっと良くなるのでは?」と考えて創意工夫すること自体にも楽しさを感じます。

仕事に「楽しさ」や「面白さ」を見いだすことで、仕事のパフォーマンスや出来上がるモノの品質が上がると思っています。だからこそ、私はスタッフに対して「楽しい、やりたいと思う仕事に手を挙げてください」とよく伝えています。これまでの経験上、つまらないと思うことを無理に続けても、なかなかクオリティは上がらないことをわかっているからですかね。

好きな作業や楽しいと思う瞬間は人それぞれだと思うので、学生の皆さんにはほかの人と比較するよりも、まずは自分自身の気持ちに目を向けてほしいですね

ただ、最初からすべて楽しい、面白いと思える仕事に出会うのは難しいとも思います。また好きな仕事を選んだからといって、楽しいことだけではないでしょう。だからこそ、自分が選んだ仕事を長く続けていくには「好きでい続ける努力」が必要不可欠だと思っています。

そのためには、つまらないことやつらいと思うことのなかにも「楽しい」や「面白い」を見つけることが重要です。何でも「楽しい」や「面白い」に変換できるようになると、どのような業務でも前向きに取り組めますし、何より日々の仕事が楽しくなります。楽しみながらやると仕事の質も上がるので、自分自身もどんな仕事も楽しく、面白く変換できないかを常に考えています。

山田さん流 日々の仕事を充実させるコツ

100点じゃなくても良い。自分の可能性を自分で狭めないで

最近は「好きでい続ける」ことのハードルを自分自身で高くしてしまっている人も多いと感じます。たとえば、好きだからこそ「100点を取らなければ」と最初から高いレベルを目指してしまい、95点を取っているにもかかわらず過度に落ち込んでしまう人もいる。でも、仕事は自分の評価だけで決まるわけではありません。自分がたとえ0点だと思っても、ほかの人や上司から見たら80点取れていることもあります。それなのに「この仕事は自分には向いていない」と考えて離脱してしまうのはとてももったいないですよね。好きだから故に高すぎるレベルを追い求めて、仕事を好きでい続ける可能性を自ら狭めてしまっている人は多いのではないでしょうか。

このように、自分自身を正しく評価できず、好きなことを続けられない原因を自分で作ってしまう場合もあるので、そうならないためにも、頭のなかで「自己評価」と「他者評価」、「期待されていること」と「やらなければならない最低ライン」のバランスを意識しておくことが大事だと思っています。これらを最初から正確にジャッジするのは難しいと思いますが、なんとなく頭に入れておくだけでも、自分を追い詰め過ぎないことにつながるはずです。

ファーストキャリアとして選んだ環境に実際に飛び込んでみた結果、「もしかしたら自分に合ってないかもしれない」と思ったなら、別の道に挑戦してみても良いでしょう。別の道が合わなければ元の道にまた戻るのも良いですし、また違う道を探るのもありだと思います。今はそんな考え方が受け入れてもらえる時代だと感じますし、少なくとも当社はその点は寛容な会社なので、自分で自分の可能性を狭めないでほしいなと思いますね。

山田さんが贈る自分なりのキャリアを描く秘訣

「強い好奇心」と「広い視野」が最強の矛となり盾になる

クリエイティブな仕事をするうえでは、常に自分の興味の幅を広げて深掘りしておくことは重要です。それが本業の仕事をするうえでの自分の “力” になりますし、それと同時にやれることや知識が増え「仕事がきつい」「自分に合っていないかもしれない」と感じたときのための「保険」にもなっていくからです。仕事が合わないなと感じる瞬間があったとしても、「仕事を通じて得られた知識は別の道でも活かせる」と思えることは大きなアドバンテージですよね。つまり、自分が行動するときの最強の矛になり、自分を守る最大の盾にもなるのです。

この自分ならではの保険を持つために特に大切になるのが、「強い好奇心」と「広い視野」です。広い視野でさまざまなことに気付き、強い好奇心をもって行動に移す。これが、自分のキャリアや選択肢の幅を広げることにも、自分を守ることにもつながると思っています。

「強い好奇心」と「広い視野」こそが自分を救う最強の武器

また、ファーストキャリアの選択にも「強い好奇心」と「広い視野」は重要な役割を担います。行きたい企業があるなら、たとえ募集してなくても、インターンや会社見学などその企業の雰囲気を感じられる機会をつかむために、自ら行動を起こしましょう。

そして、広い視野を持って、そこで自分が楽しいと感じたものは何か、何が引っかかったのか、それはどうしてなのかを考えてみてください。この場の雰囲気は楽しいなという感覚は何となくでもわかると思います。もちろん、企業を選ぶ際はネットの情報や資料を見て情報を集め、ロジカルに考えて選択することも必要不可欠ですが、それだけでは自分に本当に合う企業なのかはわかりません。最後は「自分の本当の気持ち」に耳を傾けて直感を信じてみることも大事ですよ。

また、自分の本当の気持ちに気づきやすい状態にしておくことは仕事をするうえでも大切なことです。よく面接で「入社前にやっておくべきことはありますか?」と質問をしてくれる人がいますが、時間のあるうちに「今興味関心のあるもの・こと」を思う存分経験してほしいなと思います。心からやりたいことを楽しんだ経験は仕事でもきっと役に立つでしょう。

これから就職活動をされる学生の皆さんには、強い好奇心と広い視野を駆使して自分の直感の解像度を上げ、自分が良いと思う仕事をぜひ選び取ってほしいですね。

山田さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:平野佑樹

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