夢・目標・目的をイメージすることが重要| 自分と向き合い「成長できる環境」を追いもとめよう
benshi(ベンシ) 代表取締役社長 荒木 悠佑さん
Yusuke Araki・高校在学中にオーストラリアに留学。卒業後は、幼いころからの「デザイナーになりたい」という夢を叶えるため、建築の専門学校へ入学。在学中から照明を専門とするデザイン事務所で働き、2005年に商業空間を専門とするデザイン事務所に正社員として入社。その後、2011年にROBOT PAYMET(ロボット ペイメント)へ入社、そして2017年に人材会社であるBeyond Cafe(ビヨンド カフェ)の取締役を経て、2019年benshi(ベンシ)を創業し、現職
自分の夢を実現できた。同時に、夢がない若者世代に衝撃を受け「起業」を決意
小さい頃からものづくりが好きで、自分で何かをクリエイトする仕事がしたいなと思っていました。小学校の卒業文集には「将来デザイナーになりたい」と書いたことをはっきりと覚えています。
「デザイナー」という肩書きを手にしたのは、20歳のときです。
昔からの夢が実現できた理由を一つ上げるとすると、楽しいと思うことはなんでもやってきたこと。振り返ってみると、一回きりの人生、とにかく楽しまなきゃ損だと思って、楽しそう、かっこよさそう、いいなと思ったことはとにかく一度やってみる姿勢だけはもっていました。
たとえば、中学に上がって英語を勉強するようになったとき、「英語を話せたら絶対にかっこいいよな」「英語が話せたら楽しそうだな」という思いが芽生えて「高校で留学したい」と思っていました。実際、高校に入ってすぐにオーストラリアへ留学させてもらいました。
やりたいと思い描いた仕事をして、充実した毎日を過ごしていた私にとって衝撃的な出来事が起こったのが、デザイナー4年目、24歳のときです。
同世代の若者より一足先に社会人になりましたが、同世代の大学生と話をしていると「将来何がしたいかわからない」「とくに決まっていない」という人だらけだったのです。
「では、何のために大学に行っているの? 」と聞くと、それがまた答えられない。本当に当時の私は大きな衝撃を受けました。
自分はやりたいことを描いて、そのやりたいことをやり続ける人生を歩んできたので、「やりたいことがない」という経験をしたことがなく、夢や目標がない若者が大勢存在していることは、とても衝撃でした。
「こんな若者がたくさんいるのはまずい、自分にできることは何かあるのではないか」。その時、自分の中で、一気にモチベーションが湧きあがってきました。
「デザイン事務所を辞めて、一旗あげてやろう」。それまでもいつかは独立したいという想いは心に秘めていましたが、はっきりと「起業」を意識したのはこのときです。
トライ&エラーで今がある。「楽しそう」と思うことはひとまずやってみよう
デザイナー歴はすでに17年の私ですが、一口にデザイナーといってもその領域は多岐に渡るのが特徴です。そして、デザイナーとしてのスキル・ノウハウはすべて現場で培ってきた、という点もほかの職種と大きく異なる点だと思います。
高校卒業を前に、デザインの仕事の中でも自分が取り組んでみたいのは「建築」であることが明確になってきたので、卒業後は建築の専門学校に通いました。
ただ、そこで出会った先生たちがみんな口をそろえているのが、「学校で学ぶことは意味がない」ということ。すぐに「デザイン事務所に修行に行こう」と考え、ポートフォリオを作って働かせてくれる事務所を探しました。
偶然にも出会ったのが、ライティングのデザイン事務所。店舗やイベント施設、テーマパークなどの照明を設計する仕事で、そこでアシスタントとして下積み経験をさせてもらいました。
2年後、20歳のときに、新たに商空間のデザイン事務所から声をかけていただき、その事務所で社員としてデザイナーデビューすることとなりました。
前述したとおり、同世代の若者の多くが「夢がない」という現状に危機感を感じた私は、24歳のときに自分の中で「起業」を強く意識するようになりました。
ただ、当時はビジネスの経験は一切なく、今のキャリアのまま自分で会社を経営することはほぼ不可能でした。そこで、ビジネスの世界を知るため、いったんデザイナーの仕事を離れることを決断し、新たにマーケターとしてIT決済の企業へ転職しました。
IT決済会社では6年間マーケターとして働き、マネージャーというポジションも経験しました。事業会社に勤めてから、やはりビジネス経験が不足していたことを痛感しました。
それまでやってきたデザインの仕事は、あくまでも「作り手」に徹している仕事。良くも悪くも良いものを作ることだけを見て仕事をしてきました。一方で、ビジネスでは顧客の方を向いて仕事をします。さらにその先の、顧客の売上を伸ばすことを見て仕事をしていかなくてはいけないのです。
当たり前の視点ではありますが、ビジネスをおこなううえで重要な「売上の伸ばし方」を実際に体験し、学ぶことができました。また、IT業界を選んだことでテクノロジーの世界にも触れたことで、ビジネスノウハウを得たのはもちろん、ビジネスに対する世界観が大きく広がったと感じています。
これまでの自分を振り返って、今改めて強くおもうことは、どんなときも「楽しそうだ」「成長できそうだ」と思えることはすべてやってきたということ。
誰でも、ゲームが楽しいとか絵を描くのが楽しいとか、これをやっていると楽しいということが絶対にあると思うんです。どんな些細なことでも、自分が「楽しそう」と思ったことは、なんでも挑戦してみるようにしました。結果、失敗もたくさんあります。しかし、先回りして不安を感じる性分ではなかったため、失敗したならそれでいいと思っていたし、さまざまなトライ&エラーを繰り返した結果、今があると思っています。
「次世代が活躍する日本社会をつくりたい」との想いで起業を決意
IT業界で働いた後、ご縁があって、新卒向けの人材紹介会社の役員として迎え入れたいというお話をいただきました。
またまた新たな領域へのチャレンジでしたが、次世代の若者たちに機会を提供できる素晴らしい仕事だと思ったこと、「経営とは」「経営者とは」という基礎を学べる大チャンスだったので、このチャンスを生かすしかない、と迷うことなくジョインを決めました。
その後、起業に踏み切ったのは2019年。ブランディングをメインにデザイン、ビジュアルの仕事で会社をつくったのは「自分が培ってきた経験を還元することしか、私が今の日本社会にできることはない」と考えたからです。
ただ企業当初から目指しているものはその先にあって、自分自身の中で課題だと認識していた「次世代が活躍する日本社会をつくること」。自分一人ではなかなか解決できない課題であること、難しい課題であることは、当然理解しています。それでも、この目標を実現するために日々チャレンジを続けています。
私にとって、課題がない状態というのは実は楽しくありません。「充実しているのはどんなとき? 」と聞かれたら迷わず「困難にぶつかっているとき」と答えます。ゴールが高いところにあればあるほど、トライ&エラーを繰り返しつつワクワクしながら仕事ができます。逆に、楽な仕事をしているときにはまったく充実感を感じることはできない。変わっているかもしれませんが、本当です。
イメージすべきは、自分がもっているものを生かしてどう成果をあげるか
就職活動では業界研究や企業研究をするかと思いますが、業界や企業の成長は変化するものなので、正直どこにいっても良いのではないかと考えます。
成長している業界に行く方がポジティブに感じる、チャンスが多いと考える人がたくさんいると思いますが、将来的に自分が活躍できる場があると感じられるのであればその業界にどんどんチャレンジしていくべきです。
業界、会社選びで重要なのは、今自分がもっているものを生かしてどのように活躍し、成果をあげているか、会社にどう貢献しているかのイメージができるかです。
多くの人は「会社に入ってから何かを学ぼう」と考えているのですが、それは間違いです。
スポーツの世界、たとえば野球の世界を考えてみましょう。どのチームに所属しても自分のパフォーマンスを最大限発揮してチームを優勝にもっていくのが彼らの仕事。それは、企業でも同様です。自分が雇用される立場であることを理解してください。雇用されている以上、雇用主の要望に応えるパフォーマンスをあげないといけないのです。
今、自分がイメージできるもので良いので、営業なら1年目でこういう営業マンになっていたい、バックオフィスの仕事ならばその仕事でこうなっていたい、というイメージを具現化させることが大切です。
最終的に1社に決める際には、ぜひ成長を後押ししてくれる会社を選んでほしいと思います。
入社後は、自分が学んできたこと、その時点でもっているものを生かして会社に貢献していかなくてはいけませんが、一歩一歩成長していける環境がある会社なのかを見極めてください。
ぜひ「意欲があり、ともに成長していこうとする仲間や先輩がいる環境なのか」「教育制度が充実しているか」などに注目して企業を選んでみてください。
他人と比較はしない。「今あなたが両手に何をもっているか」を考える
そもそも、今自分がもっているもの自体が、わからないと悩んでいる人もいるかもしれません。そんな皆さんには「他人と比べるのはやめよう」と伝えたいです。
他人が持っているスキルと自分を見比べると、自分にはこれが足りない、あれが足りない、と考えてしまいますが、自分にあるものを素直に考えてみてください。ないものねだりをするのではなく、今あるものを最大限生かすと何ができるかを考えましょう。
誰もが必ず、何かしらを勉強し、身につけてきているはずです。文系学部で学んでいたのにプログラマーになりたいとか、理系学部だけど営業をやりたい人も中にはいると思いますが、やりたいことがない人はまず、今まで何を学んできたのか、あなたが両手にもっているものは何か? を考えてほしいと思っています。
入社後にギャップがあるのは当然。良いイメージをもちすぎないのも重要
いざ入社すると、思い描いていたイメージとのギャップを感じることもあるはずです。そのギャップはあって当たり前であることを、知っていてほしいです。
社会人として働くのははじめての経験ですから、入社前から勝手に理想を大きくするのはやめて、むしろ「働くとはこういうことか」くらいの心意気でいた方が良いです。
とくにファーストキャリアでは、理想を追いかけず、自分がパフォーマンスを発揮できる環境を見つけ、その環境で自分とどのように向き合っていくのかを考えるのが一番だと私は考えます。
大きな壁にぶつかることも多々出てくるはずです。私も何度も壁にぶつかりましたし、困難な状況に出会うと「何とかこの壁を乗り越えたい」とよりいっそう力が湧いてくるという経験をしてきました。
幾多の壁を乗り越えてこれたのは、ともに成長したいと思える人や、成長させたいと思える事業や想いがあったから。その会社が目指しているものに共感できていればどんな困難でも同じ船に乗っていこうと思えるはずです。
逆に、その会社の想いや目指すものに共感できず、自分が目指すものと違うから壁はどうしても乗り越えられないと思うのなら、違う船に乗り換えた方がお互いにとって良いということになると思います。
ファーストキャリアで大切な視点
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パフォーマンスを発揮できる環境がある会社を選ぶ
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入社後に、ギャップがあるのは当然
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ギャップがあっても、ひとまずそこで自分とどう向き合っていくかを考えてみる
今後もとめられるのは、「テクノロジーを使いこなせる人材」と「コミュニケーション力が強い人材」である
テクノロジーを使いこなせる人材・圧倒的なコミュニケーション力がある人材は、この先どんな業界でも活躍できると考えます。
テクノロジーを使いこなせるようになるためには、新しいツールに触れる体験が絶対に必要です。無料でアカウント登録できるものはどんどん登録して、実際に遊んでみるのが一番です。
日本だけでなくグローバルなプロダクトに触れてみることや、企業が使っているツールはどういうものなのかを調べてみるのもおすすめです。BtoB(企業間取引)の領域のツールなどの情報も積極的に集めて、無料登録できるものであればどんどん使ってみましょう。
コミュニケーション力については、まず、話せることだけでも重要なスキルです。べらべら話す必要はありませんが、自分の考えをきちんと伝えられる人材であること。とくに日本人はディベートを得意とする人が少ないので、ディベートできる力がある人は多くの企業からもとめられるはずです。
そもそも、仕事は待っていても降ってくるものではありません。個であろうとチームであろうと、自分から見出していかなくてはいけないのです。そのためには、きちんと話ができて人を巻き込む力がもとめられるのです。
この先求められる人材像
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テクノロジーを使いこなせる人
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コミュニケーション力が高い人(自分の考えを伝えられる人、ディベートできる人)
コミュニケーション力を高めるためにできることは、自分の価値観と違う人にできるだけ多く会うことでしょうか。いろいろな年代の方と話す体験も大切です。
これからグローバルで活躍したいという人であれば、日本人だけのコミュニティで満足せず、いろいろな国の人と会って、多種多様なカルチャーに触れる体験も積んでいってほしいと思います。
「働くとは何か」を考え、社会の仕組みを良く勉強してほしい
最後に伝えたいことが3つあります。
1つは、就職活動を始める前に「働くとは何か」をぜひじっくりと考えてみてほしいということです。働くのは楽しい、働くのは辛い。お金を稼ぎたいから働きたい、夢を叶えるために働きたいなど、人それぞれ働く意味があると思います。
あなたにとって働くとはどういうことなのか。何のために働くのか。そのベクトルがちゃんと定まれば、進むべき方向は見えてきます。今現在「進むべき道がわからない」という人は、ぜひ時間をとって自分と向き合って考えてみてもらいたいと思います。
2つ目は、社会の仕組みをしっかりと勉強することです。資本主義とは何なのか、雇用されるとはどういうことなのか、株主がいるとはどういうことを意味するのか。これらは社会人となるための前提となる知識なので、正しく学んでおくべきことだと理解しましょう。
3つ目は、とにかくチャレンジしてほしいということ。偉大な発明家として知られるエジソンは、99回失敗してたった1度成功したのです。1回の挑戦で成功することなどほぼありえません。挑戦してだめだったらそれでいいのです。だめだったという結果がわかることはすばらしいことです。そこからまた試行錯誤してもう一度チャレンジすれば良いのです。
本来、自分がやりたいことに向かっていくときには、失敗を繰り返しながら一歩一歩近づいていくものなのではないでしょうか? そう思えるようになれば、皆さんの心がもっともっと楽に、そして豊かになり、臆することなく挑戦していけるのではないかと思っています。
取材・執筆:小内三奈