好きな仕事で楽しく生きる|「乗り越える力」を養うことが人生を彩り豊かにする
日本デザインスクール 代表 久保なつ美さん
Natsumi Kubo・24歳でWebデザイン業界に入る。26歳で日本デザイン大坪社長(代表取締役 大坪拓摩)と出会い、理論やルールに基づいたセールスデザインを学び、デザイナーとなる。動画制作・YouTubeプロデュースなどクリエイティブな仕事を幅広く請け負う。2015年10月、「日本デザインスクール」設立。現役として活動を続けながら、プロのWebデザイナーを育てる仕事に力を注ぐ
Webデザイナーを目指すきっかけは、アメリカの大学(日本校)で受けた授業
高校時代にはやりたいことなど何もなかったですし、将来ビジョンはまったく描けていませんでした。ただ「こんなふうに生きていきたい」というイメージだけはありました。
それは、「どんな職場でもいいから、キラキラしていたい。キラキラした大人になりたい」ということ。
やりたいことがないのに何のために大学に行くのかわからなかったし、実際キャンパスに見学に行っても魅力を感じる大学はほとんど見つかりませんでした。
先輩に話を聞いても、大学は高校とあまり変わらないと言われることが多く、知識を詰め込んでいく授業であればあまり行く必要もないかなと思っていました。そんな中、直感でいいなと思った大学が1つだけあって、それがレイクランド大学ジャパン・キャンパスというアメリカの大学の日本校でした。
日本にありながら、授業は全てアメリカ式。知識の詰め込みではなく、どの授業も「あなたはどう考えるの? 」と、考え方を問われるような形式でした。教授も生徒も真剣に勉強に取り組む姿にオーラがあり、学ぶことをみんなが楽しんでいるところに惹かれ、私もここに入って学びたいと強く思いました。これぞ、私がもとめる「キラキラ」だと思ったんです。
今思うと、大学進学のときから早くも、安定や周りと同じ人生を選択しないという方向にシフトしていたのかもしれません。
はじめから専攻を決めるのではなく、はじめの2年間で興味のあることを探す、という制度があり、何もやりたいことが具体的になっていない私にとっては、それも魅力的でした。「ここだ! 」と思い、迷わず飛び込んでみることに決めました。
入学後、「人生で一番勉強した! 」と思うほど勉強に熱中していた私でしたが、その中である授業との出会いが私の人生を変えました。それが簡単なWebデザインのレッスンです。
GIMPという無料で使えるデザインのソフトでCDジャケットをデザインするという授業を受けましたが、毎回その授業が楽しみでしかたないくらい没頭し、宿題に取り組んでいる時間も遊んでいる感覚しかありませんでした。
「これが仕事になったら、きっと楽しいはず」とふとそんな考えが頭をよぎったのですが、この時の経験が、デザインというクリエイティブな世界で生きていくきっかけになりました。
「つくることを仕事にしたいな」と漠然と将来を描き始めた私でしたが、振り返ると、小さい頃から工作が大好きでした。家族への誕生日プレゼントはいつも手作りで作っていたし、小学校で一番好きな授業は工作の時間、「つくってあそぼ」というNHKの教育番組に出ていたワクワクさんが大好きな子どもでした。
好きなことは小さい頃から案外変わっていないものですね。
大学時代は「この授業は面白いな」となんとなく思っていただけで、それが仕事になるとは全く想像もしていませんでしたが、あの授業と出会っていなければ、小さい頃にワクワクさんが大好きだったことを思い出すこともなかったかもしれません。モノをつくる仕事、デザインの仕事にも辿り着いていなかったと思うと、とても感謝しています。
当時はまだ初期のホームページが広まった時代で、仕事として人気がある訳ではありませんでしたが、この頃から直感的にこれからはWebの世界が熱くなりそうだなと感じていました。
どん底を経験し、就職も落ちまくった苦い過去
今現在、日本デザインスクールの代表として、多くの人にWebデザインを教えたり、YouTubeで「未経験からWebデザイナーへ」と題して発信する立場にいる私ですが、ここに辿り着くまでは実にたくさんの苦い経験をしてきました。
20歳のとき、デザインについて深く学ぼうとアメリカ留学を決めたのに、わずか10日でホームシックになって逃げ帰りました。都会で育った私は、アメリカの田舎という留学先の環境にうまく馴染めずに、体調を崩してしまったのです。そこからは、人生どん底時代のはじまりです。
大学であと2年学ぼうと思っていたので、やることが何もなく、とりあえず働かねば!と思った私は、経験ゼロにもかかわらずデザイン系の会社で働こうと、「未経験OK」という会社を片っ端から受けまくりました。しかし、結果は惨敗。ほとんどの会社を一次選考で落ち、合計15社以上落ちました。
「私は社会に必要とされていないんだ……」。留学も失敗、転職も失敗、失敗続きだった私は一人家にこもって無気力になってしまいました。何もしないまま1日が過ぎる、そんな日々が続きました。
留学前までは大学でダンスサークルに参加し、毎日生き生き過ごしていました。そんな自分が留学後はそれまでの自分では考えられないような、ひどい精神状態にまで落ち込んでいました。
自分が嫌になり、人生ではじめて「自分は鬱かもしれない」と思いました。
集中力も全然なくて、何をするにも2時間くらいしか持たない。家から夕日を見て涙する、という毎日が続きました。「どうにかしないと、このまま人生終わってしまう! 」何とか現状を打破しようと、リハビリを兼ねて通い始めたのが、デザインスクールでした。
スクールでは、デザイン自体はあまり教わることができなかったものの、フォトショップの基礎知識を一通り学ぶことができました。数時間でもスクールに通うことで小さな目標ができ、私のメンタルは少しずつ回復に向かい、約3ヶ月後また面接にチャレンジしました。
「スクールに通ったのだから、今度は大丈夫! 」と思っていた私ですが、人生はそこまで甘くはなく、またも面接で落ちてしまいます。スクールで習ったことは現場では使えないものも多く、経験者の応募が多い中、惨敗してしまったのです。
しかしこの時は以前とは異なり、「デザインの仕事がしたい! 」という気持ちを評価してくれた会社が1社だけあったのです。「時給800円だけど、それでいいなら明日からくる? 」となんとか雇っていただいたのが、猫の手も借りたいくらい忙しく人を探していたブライダルアルバムの制作会社。
半年近く将来が見えず不安な毎日を過ごしていたので、この時の採用担当の方が神様のようにも見えました。アルバイトとしてようやく働く先が見つかり、はじめて少し光が見えた瞬間でしたね。
その後、現場でのお仕事は難しいことがありつつも、やはり楽しくやりがいのあるものでした。見習いの身だった私は、いくつかアルバイトを掛け持ちしながらデザインに関するスキルを少しずつ習得していきました。
精神的にもどん底、就職活動でもひたすら落ちまくった20代前半は、もうだめかもと思ったことも何度もあります。デザインの仕事をあきらめようと思ったこともあります。本当につらく厳しい時代でした。
どん底時代から這い上がり、センスがない私が一流のWebデザイナーになれた瞬間
いくつかの制作会社でのアルバイトを経て、24歳のときにはじめて本格的にWebの制作会社で働くというチャンスを得ることができました。名刺やフライヤー、HPなどクリエイティブなお仕事ばかりで、本格的にデザイナーとして活躍することができました。会社の方も優しく面白い方が多く、この会社で「一生がんばろう! 」と思っていました。
しかし、会社の業績が悪化。会社は売り上げを上げるために時間に厳しくなり、制作をするにも砂時計を置いて「早く作れ! 」と言われるように。メンタルが弱かった私はそのプレッシャーを重く感じるようになりました。
自分自身の力不足の部分も多く、時間ばかりかかって思うような仕事ができない、センスがないなと感じることが多かったです。
せっかく念願のデザインのお仕事に就けましたが、いつしかデザインの仕事が嫌いになってしまっていることに気づきました。働いても働いても楽しいと感じることができず、申し訳ないという気持ちもあり、約1年で辞めてしまいました。
その後、また自信をなくしてしまった私は、1年ほどデザインの仕事からは離れていたのですが、異業種交流会のようなところで、運命的な出会いに恵まれました。私の生涯の師匠でもある、当時フリーで仕事をされていた大坪さん(日本デザイン 代表取締役)です。この出会いは、私にとって大きなターニングポイントとなりました。
交流会をきっかけに何度か会って話すようになりましたが、ある時大坪さんが、「あなたデザインの仕事していたの? 手伝ってくれない? 」と声をかけてくれました。私が人生に迷っていることに気づいてチャンスをくれたのだと思います。
ありがたいことに拾ってもらった私でしたが、美大でデザインを本格的に学んだ大坪さんと私では考え方も技術も天と地ほどの差があり、ひたすらダメ出しをされました。これまで自分がやってきたことを全否定されているようなものでしたが、ここで諦めたら人生が終わる!と感じていた私は、悔しいながらもとにかく指示されたとおりにやり続けました。するとある日、「自分の力で完璧なデザインができた」という達成感を実感する瞬間がありました。
「あなたはセンスがないから、自分で考えるな」。いつも言われていた言葉です。この言葉の意味を理解して、ゼロから特訓を受けたことで、驚くほど私の作る作品のレベルは上がり、あっという間に手ごたえを感じるデザインができるようになり、周りからも認めてもらえるようになりました。
それまでバイト先を転々としてきたように、苦しいとすぐに逃げてきた私です。ただ、自分で決めたこと、好きなことだと人一倍頑張ることのできる人間ではありました。その根性だけを認めてもらって1年後、「会社をやるから一緒にやらないか? 」と誘っていただき、日本デザインという会社の一員になりました。
それからは一緒にたくさんのことに挑戦する毎日であっという間に時がすぎ、13年になります。
振り返ると、私の20代は決して順風満帆ではなく、苦しいことも多くありました。ですが、どん底から這い上がった復活劇があったからこそ今があると思えます。
大坪さんとの出会いも、私があのとき諦めなかったあきらめなかったからこその結果です。おかげで今の私は、大好きなデザインという仕事を通して自分が楽しみながら、人の幸せをサポートするまでの仕事ができるようになりました。
つらい経験もすべて、私にとってなくてはならない経験だったと感じています。
自分だけでなく「周りに貢献できる楽しさ」を見い出す
私がキャリアを選択するうえでいつも大切にしてきたことは、高校生のときに漠然と描いた「キラキラした大人になりたい」「キラキラと仕事をしていたい」というビジョンです。
いただいた仕事の一つひとつをいかに楽しくやるかを考え、わくわくする気持ち、楽しいと思う気持ちを大切にやってきた結果、今があります。
逆に、どうしても楽しめない会社からはすぐに逃げ出しました。さまざま苦しいことはありましたが、自分のビジョンからは逃げずに頑張ることで、現在も大好きなデザインという仕事を通して人を幸せにする仕事を続けることができています。
未熟だった私が、その経験を生かしてデザインのスクールを作り、Webデザイナーを未経験から育てることがライフワークになりました。1,700人もの方が目をキラキラさせて学んでいる姿は、当時の私を育てているようで、とてもやりがいがあります。
自分に素直に「好きなことをして生きていく」。とくに大切にしているキャリアの指針です。
さらに、自分が楽しいだけでなく、周りの人にまでも良い影響を与えるような楽しさであることもポイントかなと思います。私にとってはそれが、スクールの運営にあたりますが、これほどのワクワクはないと感じています。誰かの才能を開花させ、一歩踏み出すきっかけを作るようなお仕事もこれからも続けていきたいと思っています。
仕事・企業選びは「今のところ」と「価値観が合う仲間かどうか」を軸に考えて
今何がしたいかがわからないと悩む人には、「その悩みはごく普通のことですよ」とまずは伝えたいです。現時点で「これだ! 」と思っていても、それが本当にやりたいことであるとは限らない。間違っていることもあるし、変わっていくものでもあるからです。
一つの会社や業界でずっと働き続ける時代でもありません。実際、飲食業界からWeb業界に転身したり、またその逆があったりと、まったく異なる分野へと活躍の場を移していく方も多いです。
正解を探そうとすると苦しくなってしまう。正解ではなく、今のところの興味で考えてみるのが良いと思います。
「今のところベンチャー企業」「今のところ〇〇業界」というふうに、あまり深く考え過ぎず、「今のところ」というのを付けて考えてみてほしいなと思います。
おすすめは「社長や先輩の価値観と自分の価値観が合うか? 」という点を主軸に会社選びをすること。
特にその会社の社長の価値観や大切にするものを、同じように素敵だと思えるかどうか。業種や職種にこだわるより、実はこれが大事なことだと思っています。
私自身、同じWebデザインの仕事をしていても、ある会社にいたときは「もうこの仕事を辞めたい」と思うほど辛かったのに、今の会社ではたとえ仕事が深夜にまで及んでも辛いと感じることはありません。価値観や興味の方向性が同じ人と一緒に働いていると、きつい仕事でも楽しめるということもあるのだと、経験してみてわかりました。
感じ方は、環境によって大きく変わります。今現在のこだわりや大切に思うことが、時間の経過とともに変わっていくということもあると思います。だからこそ、若いうちは柔軟に考えることが必要だと思うのです。
職場に「自分もこうなりたい! 」と思える人がいるのは明るい兆しだと思いますし、憧れる先輩がいるということは、自分もそうなれる可能性があるということです。きっとその環境で良い経験ができると思います。
もちろん、1社目でベストな会社に誰もが出会えるわけではありません。価値観が合うと思って入ってみたものの、実際は違ったということもあると思います。私も何度も辞めていますから、理想の会社と出会うことの難しさもよくわかります。
ですが、一歩先の未来を自分で選択していけば、必ず実は開けてくるものです。どんなに苦しい状況でも自分の直感を信じて生きて努力していれば驚くようなチャンスもきっと訪れます。
結局のところ、自分のことを一番信じてあげられるのは、自分しかいません。「絶対に幸せになるんだ、好きな仕事をするんだ」と決めることも大事だと思います。
今後は「自己肯定感」があって「プラスの情報をゲットできる」人が活躍する
今は、昔と比べて格段に知識やノウハウなどの情報量が多いので、ある程度のレベルまでは誰でもいけてしまう時代だと思います。
私がいるWebデザインの世界でも、わかりやすいノウハウ本や無料の動画などが溢れています。だからこそ、人の作ったレールに乗っかる人なのか、自ら何かを生み出したり人に影響を与えられる人なのか、差がどんどん大きくなっていくだろうなと考えています。
そのような時代に活躍していくであろう人の1つ目の特徴は「ある程度の自己肯定感がある人」。
自分の可能性をちゃんと感じている人、自分を信じられる人、自信がある人は、成長のスピードがとにかく早いと感じることが多いです。
みんながある程度のレベルまで到達できる時代だからこそ、そこから突き出るには心理的要素が大事だと思います。早い段階から、簡単には折れない、心理的な強いベースを整えることはとても大切なことだと感じています。
私も自分のインスタグラムで幸せな生き方の秘訣を発信していますが、時にはカウンセリングやコーチングのようなプロの力を借りることも心の支えになると思います。仕事で苦しいことや壁にぶつかったときには、ぜひ「メンタルを強くする大チャンス」と捉えてみてほしいです。若いうちに自分の心としっかり向き合って「乗り越える力」を養っておくと、心が豊かな素敵な大人になれると思います。
2つ目の特徴は「プラスの情報をゲットできる人」。
社会には、マイナスの流れとプラスの流れ、両方のエネルギーが存在する気がしています。いったんマイナスの流れにはまると、なかなか抜け出せません。健康に気を使って体に良いものを食べていれば、プラスのエネルギーが増えますし。逆に、ファーストフードばかり食べていたらどんどん心身が落ち込んでいってしまいます。
情報もそれと同じです。身の回りに溢れる情報をそのまま受け取っていると、知らない間に幸せになれないルートを歩いていることがあります。情報に流されず、しっかりと精査し、いらない情報は捨ててプラスの情報を受け取っていける人が、今後確実に成長していく人材であると思います。
好きな仕事と出会ってほしい
私は一人ひとりに個性が合って、誰もが好きなことを仕事にして生きる場所があると思っています。ただ、それがいつ見つかるかはわからないし、見つけるまで長い時間がかかることもあります。
私たちは平日8時間、1日の3分の1の時間を仕事に費やしています。その時間が楽しいものになるか、辛いものになるのかによって人生は大きく変わると思います。仕事から得られる喜び、仕事を通じて感じる成長は、人生の中で本当に大きな割合を占めるものだと感じています。
何かを達成した、できた、という経験を一つずつ積み上げて、一歩ずつ進んみ、けっして途中であきらめないでください。「好きなことを仕事にするなんて無理だ」という人もいるかと思いますが、周りにいる人は「好きを仕事にしている人たち」です。そういう世界はあるし、誰もがその世界で活躍できる世界もあります。
時には「私の人生お先真っ暗! 」と思うようなこともあると思いますが、どんな時にも希望の光は必ずあるものです。これから活躍する若いみなさんには、自分の可能性を信じて、たくさん調べて、いろいろ見て体験して、見たもの肌で感じた感覚を大切に将来を選択していってほしいと願っています。
機会があればぜひ好きを仕事にしている人の側に行って話を聞いてみてください。私で良ければぜひ力になりたいです。逆に、悪い影響を与える人からは距離をとること。それが、「好きなことを仕事にして楽しく生きている」ために今すぐできる準備でもあると思います。
夢は必ず叶います。一緒にキラキラした人生を生きましょう。心から応援しています。
取材・執筆 小内三奈