イージーモードに成長なし。高難易度ステージで未来の自分のレベルを上げろ

フィグニー 代表取締役社長 里見 恵介さん

フィグニー 代表取締役社長 里見 恵介さん

Keisuke Satomi・同志社大学経済学部を中退後、情報系の専門学校を首席で卒業。プログラマーとして就職した後、スキルアップを目指し転職を繰り返す。幅広い開発プロジェクトに携わりスキルを身に付けて2017年に起業し、以降現職

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ゲームに没頭し大学中退。底辺から始まったキャリア

ゲーム好きなのは幼い頃からでしたが、本格的にのめり込んだのは大学生のときでした。オンラインゲームが登場し、遠くの誰かとつながりながらゲームをする楽しさを知ってしまってからは、1日に16時間もの時間をバーチャルの世界で過ごしたものです

当時の生活は完全にゲームが中心で、1年生の後期から大学に行かなくなりました。寝る前にふと不安になる瞬間こそありましたが、それでもやめられませんでしたね。そのまま大学を中退し、実家に戻りました。その後も1~2年ほどはゲームばかりしていて、一般的なキャリアを積んでいる人から見れば底辺と言える場所にいました。

将来への希望も特になく、正にお先真っ暗。さすがに両親から「頼むから働いてくれ」と言われた時、選択肢にあったのはオンラインゲームを作る仕事でした。ゲームを一から作成するには、プログラミングの技術が必要です。そこでプログラミングの専門学校に通わせてもらったのですが、それが今につながる大きなターニングポイントとなりました。コンピューターに関する専門教育は受けたことがなかったのですが、ゲーム漬けの日々を送ったおかげで考え方がゲーム寄りになっていたからか、授業の内容もすっと頭に入ってきたんですよね。

2年間の専門学校生活で取った資格を引っ提げ、東京に出ました。特に大きな理由はなく、東京なら最新技術やたくさんの情報に触れながら仕事ができると思ったからです。

里見さんのキャリアにおけるターニングポイント

経験に上下幅を。ハプニングだらけの道の先に夢中になれるものがある

結果として自分の好きなことがキャリアの出発点になりましたが、考えてみればゲームそのものというよりは、クリアしたときの快感にハマっていたのだと思います。

その点で、プログラミングは自分にとってかなり相性が良いんですよね。なぜなら、どれだけクリアを重ねても終わりがないから。一つ問題を乗り越えてもまたすぐに新しい技術が生まれ、新たな問題が発生します。それを解決するために自分のレベルを上げて、問題に立ち向かい、クリアする。達成感でモチベーションが上がる。その繰り返しが顕著なのが、プログラミングという仕事だと思っています。

ただし、これはプログラミングに限った話ではありません。何事においても一定の難易度を超えたステージをクリアすることで、ハマる瞬間が来るはずです。このサイクルを経験して自分自身をレベルアップさせることは、間違いなく人生の資産になります。皆さんにもぜひ達成感を得られること、夢中になれることを見つけてほしいですね

もし夢中になれるものがないなら、些細なことでも「これやってみたい」と思ったときにまず行動し、上下幅のある経験をすると良いと思います。「上下」とはモチベーションやそのときのコンディションの上がり下がり、つまり感情を大きく動かされる体験です。

上下幅のある経験を積もう

ハプニングの少ない平坦な人生を送ると、感情を動かされることが少なくなります。何でもうまくできてしまっては、達成感は得られませんよね。壁が現れ、乗り越えられずにへこみ、這い上がろうとのめり込み、乗り越える。その先に大きな達成感があるのです。何かに熱中するには、少なからず「つらい」「きつい」という感情が必要だと思います

もし少しでも感情が揺さぶられることがあれば、まずは行動してみてください。行動を起こし、努力した分だけその経験に上下幅が生まれます。もちろんうまくいかないことや嫌なこともあると思いますが、それがなければ次のステップに上がっていくフェーズが訪れることはありません。きっとその先に、あなたが夢中になれるものが見つかるはずです。

ポジションは要らない。10度の転職の原動力は焦りと知識欲

今の自分があるのも、大学中退から25歳で未経験として就職するというハードモードからのスタートだったからです。3年の遅れは大きく感じられ、常に尻に火がついたような状態でした。ファーストキャリアを積む場所を選ぶにしても、どうしても「25歳の新卒でも雇ってくれるところ」という条件は付きまといますしね。

そうして新卒として企業に入社したわけですが、その企業は2年で辞めてしまいました。しっかりとした経営基盤が確立されている企業だったので、長期的なキャリア形成が求められたのが原因です。丁寧な下積みからその企業で活躍できる人材を育て上げる社風のなかで、「エンジニアとして入社したのに一向に実務経験が積めない」と悶々とする日々でした

エンジニアやプログラマーは、一回資格を取ったからといって安心できる仕事ではありません。特にIT業界は流行があっという間に過ぎ去っていくので、大きな企業のなかの一人として下積みをしている間にも、日々遅れをとっている感覚がありました。「このままでは仕事がなくなる」そんな危機感が募り、転職にいたったのです。

実はその後も企業を転々とし、10社ほど経験しました。およそ1年間隔で職場を変えていたのですが、常に自分を突き動かしていたのは焦りと知識欲です。一つの会社で現場の仕事を覚えると、その後の定常業務では同じ作業を繰り返すだけになります。つまり、そこで自分のアップデートが停止することになりますよね。使用する言語や必要な技術は企業によって違うので、一つ覚えたら次の技術をキャッチアップするために転職をしていました

そんな調子ではなかなか昇給しませんし、ポジションだって手に入れることはできません。しかし自分にとって、昇給や社内での地位は二の次でした。もともと底辺から始まったキャリアで、普通の人と同じようなキャリアを積んでいくイメージがなかったのもありますね。とにかくこれ以上遅れをとりたくない──。その一心で、前進を続けてきました。

企業選びは未来への投資

転職を繰り返すなかで得たのは、働く企業は未来の給料を基準に決めるという視点です。月収いくらで雇ってもらえるかではなく「この企業で働くことで数年後の給料を上げられるか」「ここでの経験は自分の市場価値を上げられるか」で考えていました。最後に転職する企業で、給料を何倍にも増やす。そのために必要なものを得られるかどうかが、自分のなかの判断基準でしたね。そのような考え方だったからこそ、希望の企業に転職できていた面もあると思います。給料に縛られない、スキルアップに全振りした自由な転職が可能だったのです

またハードな環境に身を置いていたことも、今の自分に活きています。特にキャリアの初期段階で築かれた働く姿勢は、その後にも受け継がれていくものです。自分の場合、日頃から人一倍働いていました。だからこそ人の何倍もの密度で経験を積むことができ、社会に出た頃の遅れを取り戻すどころか、むしろより成長することができたと思っています。20代のうちにそういった苦しい経験を乗り越えたので、30代以降はそれが普通のようにも思え、ちょっとやそっとでは折れることはありませんでした。

初期段階でキツい経験を乗り越えると、未来の自分が楽になります。そのように、未来の自分を重視した企業選びをしてみてください。目先のことだけでなく未来を見すえた判断をすることは、結果としてあなたのためになるはずです。市場価値は、未来の給料になる。その市場価値を貯めていくつもりで企業を選ぶと、将来のあなたは今想定しているよりも一歩先の姿を手に入れていると思います。

里見さんからのメッセージ

もともと起業を目指していたわけではありませんが、スキルアップを目指したキャリア形成のおかげで今の自分があります。底辺からのスタートで経営者になるなんて、誰も想像はしませんよね。しかし市場価値の貯金を徹底したことで、経営者として企業を動かすことができています。イージーな環境に甘んじていたら、今の自分は確実にいませんでした。将来のために少しでも多くの貯金ができる、自分を高められる場所かどうかという視点でキャリア選択ができると良いですね。

ステップアップする場所を選ぶなら企業を内部から知ること

フィグニー 代表取締役社長 里見 恵介さん

ファーストキャリアでも、ハードな環境に身を置くことは大切です。ただ、それに最適なステージをいきなり選ぶのはなかなか難しいと思います。これから社会に出る皆さんには、まだ働くうえでの基準が確立されていないからです。

一度社会人として働く経験をしてみると、自分にはどの程度の能力があり、どの程度なら耐えられ、どの程度なら楽と感じるかといった基準ができます。それがわからない状態では、自分が鍛えられるハードな環境というのがどういったものか判断するのは難しいでしょう。

そこで役に立つのが、インターンです。できれば3カ月以上の長期インターンに参加し、働くのがどういうものか、実際に経験してみてください。インターンはある意味失敗し放題なので、得意不得意に限らずとりあえず飛び込んでみると良いですね

経験する前から「どんな企業が良いか」を考えたところで、明確な答えなんて出てきません。企業を外部から見た印象と、内部から見た印象はまったく違います。それはどの企業も同じで、企業を外から見た印象や情報だけを頼りに自分に合う企業を探しても、何かしらのギャップは生じるものです。インターンに参加することで、そのギャップを最小限にすることができると思います。

未来を輝かせるのは「考える力」

これまでのキャリアは、そのとき自分が求めるものに対して柔軟に対応してきた結果です。そしてこれからの時代は、そういった柔軟な対応ができる人が求められるようになると思います。もっと言えば、今の自分のために何ができるかを判断できる、「考える力」を持つ人ですね

ここで言う考える力というのは、現状に安心せず、常に次のフェーズを想定する力を指します。たとえば、「この企業に入社すれば安泰」と考えるのではなく、「万が一この企業が倒産したらどうする?」というリスクを見すえ、「そのときのために、できるだけどの企業でも役立つスキルを身に付けよう」という判断ができる力ですね。

「考える力」とは

今の時代、どのような企業に勤めてもリスクはあります。就職に安定を求め、入社した途端に安心して思考停止してしまうと、いざというときに対応できなくなってしまうばかりか、自分自身の成長も止まりますよね。まずは「安心できる環境はない」という前提に立ち、今の自分に何ができるのか頭を使って考えましょう。そうして出した答えに応じた行動を繰り返した先に、安心できる結果があるのです。

そして考える力を身に付けるために必要なのが、情報収集です。特に自ら体験し事実であると断言できる一次情報、もしくは脚色や誇張のないシンプルな事実だけを集めることを意識してください。純粋な「真実」だけを目の前に並べ、それを材料にして自分の考えを決定すること。何においても自ら情報収集をし、自分自身の考えを明確にする意識をすることで、考える力が身に付きます。その結果出した答えが、間違っていてもかまいません。自分で判断することそのものに価値があります。

もちろん、これはあなたが今後キャリア選択をするうえでも非常に重要な指針になるでしょう。今の自分にとって必要なものは何か。未来の自分の価値を上げるには何ができるか。それを常に考え、想定しているよりも一歩先の未来に向かって進んでください。

里見さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:瀧ヶ平 史織

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