バットを振った回数=学びの深さ|起承転結の体験で成長曲線を押し上げよう
DeNA SOMPO Mobility 代表取締役社長 馬場 光さん
Baba Hikaru・早稲田大学大学院を修了後、2012年DeNAに入社。『Mobage』のエンジニアとして開発を牽引。2015年にカーシェアサービス「エニカ(Anyca)」をリリースする。2019年DeNA SOMPO Mobilityを設立、2021年に代表取締役社長に就任、以降現職
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未経験からITエンジニアへ。環境と自学自習でステップアップ
子どもの頃からパイロットになるのが夢で理工学部に進んだのですが、身体検査で不合格になりその夢が絶たれたのが今のキャリアの始まりでした。これからどうしようかと進路に悩んでいた時期にちょうどFacebookのサービスが盛り上がりはじめ、インターネットやITの分野に興味を持ったのです。これからインターネットはどんどん発展していくと確信し、IT関連のエンジニアを目指すことにしました。
そこで、当時未経験でもエンジニアの採用をしていたDeNAに入社しました。工学系の研究をしていたとはいえ、プログラミングはまったくの初心者だったので必死でしたね。
会社は手取り足取り教えてくれたわけではありませんが、学ぶ場としての環境は抜群でした。たとえばプログラミングをおこなうには“コード”を書く必要があるのですが、先輩の作ったコードをたくさん見ることで、考え方が学べました。コードが書かれた順番や流れもすべて見えるので、それをたどることで先輩の思考の流れも学ぶことができます。これが何よりも生きた教科書になりましたね。
また、自分のコードをレビューしてもらえる機会もありました。自分の弱みはもちろん、できていると思っていた部分に関しても、見直しをしたり、改善してもらったり、さらに勉強しようと思うきっかけにもなりました。
会社や職種によって、教育環境はバラバラだと思います。しかし与えられた環境で何を学ぶかは自分次第です。大学だって、学ぼうと思えば無限に学びのチャンスが転がっていますよね。大学でも、会社でも、今できる学びに前向きに取り組んでほしいなと思います。
仕事は「起承転結」で学ぶ
DeNAでまず取り組んだのは、ソーシャルゲームのサービス開発でした。毎日ゲーム内でイベントがあるソーシャルゲームの性質上、日々さまざまなサービスをリリースします。しかもユーザーの動きに応じて施策をリリースするので、常に3〜4パターンのプランを考えながら実装する必要がありました。とにかく忙しく緊張感も大きかったのですが、自分で計画から実施、結果を回収するところまでできたので、達成感も非常に大きかったですね。PDCAを自分で回して、仕事の意味や事業のおもしろさを感じることができました。
若手のうちからPDCAを回せたからこそ得られたものはたくさんありました。だからファーストキャリアを選ぶときには、「若手への仕事の任せ方」を見たうえで決めるのも良いかもしれません。若いうちに自分で仕事の起承転結を経験し、その繰り返しのなかで改善や進歩を感じられれば、大きな成長につながります。自分で計画して実施し、結果を分析・改善できれば、仕事の起承転結を感じられますよね。
ベンチャーや中小企業の方が裁量権があり、そうしたサイクルを一人で経験しやすいように思えますが、一概にそうとも言えません。大企業であっても、若手や新人にPDCAを意識させるため業務を一貫して任せる部門はあると思います。インターンやOB・OG訪問などでは、どこまで、どんな風に仕事が任されているかを意識して見ると、就職先として選ぶうえで参考になりますよ。
課題の解決策は「主語」の見極めに始まる
入社から2年ほど経った頃、マイカーを購入しました。カーライフは非常に楽しくて、車を買って良かったと心の底から思っていたのですが、平日はほとんど運転する時間がありません。車検や駐車場代、メンテナンスなどに維持費がかかるのに、週末しかドライブできないことに疑問を感じました。
私と同じように、都市部に暮らしていたり、仕事が忙しくて車を運転する機会が少ないオーナーは一定数存在すると思います。車を持つ喜びと費用のアンバランスを解消できないかと感じたんですよ。一方で車を持っていないけれど、運転したい人も少なくないはずです。こうした経験や実感から、車のオーナーとドライバーのカーシェアサービスを構想しました。車を持つ喜び、ドライブをする楽しさの両方を知って、それをより多くの人が少ない負担で享受できるサービスを作りたいと思ったのです。
当時シェアリングエコノミーという考え方が広まりつつあったので、きっと新たな文化が作れると意気込みました。ちょうど会社としても新事業を打ち出したいと考えていた時期で、社内の新事業として後押しを受けられたのは、本当にありがたかったですね。サービス名を「エニカ」と名づけ、事業を立ち上げました。
しかしこれまで日本社会になかったサービスですから、予想もしなかった課題に次々直面します。自分達のサービス上でトラブルが発生し、その解決の糸口が見出せない状況は非常に厳しく、「このサービスはもう実現できないのではないか」とすら思うこともあります。
しかし、“課題の主語”を明確化するとやるべきことが見えてくるのです。この課題は、誰にとっての課題なのか。私が解決できることなのか、会社なのか、国か、原理的に解決できない問題なのか──。問題にぶつかると、必死でなんとかしようと動くのが最善だと考えがちですが、誰にとっての課題なのかをはっきりさせれば、自分がすべきことも見えてきます。
利用者間のトラブルを解決しようとすると、保険や国の規制・ルールなどにもアプローチが必要だとわかりました。これが課題の「主語」です。トラブルをカバーする保険が必要だとわかれば、私たちがやるべきなのは保険会社に協力を求め、提案資料を持って営業し、実現に向けて走ること。自分達でできるところやすべきところを明確にして動くことで、ひとつずつ解決に近づいています。
課題を見出したときには、その本質を分解して誰にとっての課題なのかを洗い出してみましょう。その視点が困難を乗り越える足がかりになるはずです。
強がらなければ助けてくれる人がいる
自分の興味・関心やユーザーとしての実感からスタートした事業が、会社の後押しを得て走り出し、ついには2019年法人化することになりました。経営者となり今も身の引き締まる思いです。
事業やビジョンに共感して、会社に加わってくれるスタッフも少しずつ増えました。ちょっと大袈裟に言えば「日本の車文化を変えよう」という仲間が増えているということです。とても頼もしいですし、さらに理想をかなえるための取り組みに力を入れたいと思っています。
しかし、日本初の試みも多いので、失敗は尽きません。そんなときこそ、スタッフには強がらずに助けを求めてほしいと伝えています。本気で頑張っていれば、「助けて」と声を上げた際に助けてくれる人がいるものです。ついつい頑張りすぎてしまったり、できないことに長く悩んだりしがちですが、自分の手に負えない問題であればぜひ一言周りに呼びかけてみてください。あなたの頑張りを見て手を貸してくれる人は、必ずいるはずです。
打率が低くても良い。まずはバットを振り続けよう
新しい事業でなくとも、どんな仕事にも失敗はつきものです。自分の感覚で言えば、10回打席に立って、2回ヒットが打てれば良い方。圧倒的に失敗の方が多いと思っています。だから、まずは失敗することを覚悟したうえで、10回チャレンジしてほしいと思っています。どんな仕事でも、そのガッツが必要不可欠です。
失敗を恐れず挑戦するためには、好奇心も助けになります。自分のコミュニティから一歩出て、知らない世界に目を向けてみてください。私は学生時代にパイロットの夢を失った後、ほかの道を見出そうと学内のあらゆる講義に顔を出してみました。研究は一つの世界に閉じこもりがちになるものですが、知らない学問、人、観点に触れることで、研究の世界も広がります。この研究がどうやって世の中に活かされるのか──そんなビジネス目線もほんの少し培われたように思います。
好奇心の先には、既存のレールからはみ出すことを恐れない強いマインドが育まれます。その心のままのチャレンジが、あなたをきっと新しい場所へ連れて行ってくれるでしょう。
取材・執筆:鈴木満優子