憧れの業界につながるルートは1つじゃない! 常に世の中の「希少人材」であれ
JCG(ジェイシージー)CMO(最高マーケティング責任者)兼 新規事業統括 豊後 祐紀さん
Yuki Bungo・大学卒業後、Web広告会社や在シンガポール広告代理店を経て、DMM GAMESに入社。マーケティングやアライアンスを担当したほか、eスポーツ主催リーグ「PUBG JAPAN SERIES」のマーケティング&スポンサードマネージャーとしても活躍。2021年2⽉にレノボ・ジャパンに⼊社後はゲーミングPCブランド「LEGION(レギオン)」のブランドマネージャーとして、ブランドの認知向上や売上拡⼤に貢献。2023年2⽉にJCG参画後は、CMOと兼任で新規事業推進部の責任者を管掌
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「ゲーム業界のマーケターになる」学生時代に中長期的な計画を立てた
ゲーム会社で働くことに憧れを持ったのは幼い頃です。小学生時代からインターネット上のオンラインゲームのコミュニティに属し、中高生になると年に1回開催される、コンピューターのエンターテイメントの総合展示会である東京ゲームショウ(TGS)に通い詰めるなど、学生時代はとにかくゲームの世界にどっぷり浸かっていました。マーケター側の仕事に興味を持ったのも、「TGSの一般公開日の行列に並ばずに思い切りゲームをやりたい」という理由で、TGSのビジネスデイに足を運んだのがきっかけです。
「これだけゲームが好きなのだから、ゲーム会社に入れるだろう」と楽観的に考えていましたが、大学生になると、どうやらそう甘くはないと気づき始めました。ゲーム業界は常に狭き門で、超高学歴の人たちがひしめく世界です。私はあまり有名ではない大学にいたので、新卒からストレートで入るのは難しいかもしれないと不安を感じました。そこでゲーム業界とつながりの強い専門学校に突撃し、同校の校舎長に進路相談をしてみることにしたのです。
その人から改めて言われたのが「新卒採用でゲーム会社のマーケターになろうなんて、天文学的な確率だぞ」の一言。しかしそれだけで終わらず「広告代理店や事業会社でマーケターになれる会社に入り、そこで自分を磨いてゲーム会社に転職するほうがまだ可能性がある」「マーケティングを学んでから、ゲーム業界に入ったらどうか」と具体的な指南をくれました。
キャリア形成において、こうした中長期的な目線を持っておくことは非常に大切です。中長期的な方向性を定めておくと、それを軸にあらゆる決断ができます。チャンスや選択肢が目の前に来たときに「これは自分が目指すキャリアをかなえられる職場なのか?」「自分が行きたい方向に行くために最短の道なのか?」という目線を持って考えられるので、回り道をせず、最短距離で目標に近づけます。そのときどきの思いつきで闇雲に転職してしまう、なんてことも避けられるはずです。
校舎長のお陰もあり、大学2年生で具体的なキャリアのイメージを持つことができたので、この計画を実現するためにも先んじてスキルを磨いておこうと決心。学生時代は広告代理店や人材派遣会社など、いろいろな会社のインターンシップ(インターン)に短期・長期を問わず参加しました。
結果、特別なスキルが身に付いた実感はありませんでしたが、学生特有のナナメから世の中を見るような目線を卒業できました。「社会人の考え方が早めに身に付く」という点において、インターンに参加しておくことはアドバンテージになるように思います。
苦難に鍛えられた海外生活。20代最後に念願のゲーム業界へ
マーケターを目指し、20代前半はSNS専業の広告会社や広告代理店を渡り歩きました。この頃がキャリアのなかで一番、壁にぶつかっていた時期です。
社会人2年目は特に大変でした。上司と2人で新規事業の立ち上げに取り組んでいたのですが、諸事情で上司がいなくなり、仕事のやり方もよくわかっていない自分が一人で事業を回さなければならなくなったのです。クライアントや他部署の人など多方面から叱責を受け、「自分は何のために仕事をしているのだろう」「何のために生きているのだろう」と考えてしまうほどに追い詰められていた時期もありました。
お酒で発散する余裕すらないようなしんどい状況から抜け出せたのは、業務委託で来ていた他社のお二人が親身に接してくれたことがきっかけです。そのお二人と話しているうちに気持ちを立て直すことができ、しばらくして新しい上司も入ってきてくれ、なんとか仕事が回り始めました。
この経験からわかったのは、キャリアのなかで壁にぶつかったときは、あきらめずにもがき続けるしかないということです。なぜならそれが自分のキャリアだから。他責にならず、「これが自分の人生なのだ」と受け止めて必死にもがき続けることが、次のステージにつながっていくのだと思います。
20代後半には、シンガポールの広告代理店でも働きました。「マーケターの経験を積んでゲーム会社に入る」という計画は変わらず持っていましたが、当時好きだった女性がシンガポールに異動し、それなら私も行こうと思い立ったことが理由です。
結果的に、この経験はキャリアにおける大きなターニングポイントになりました。海外の会社は基本的に、実績を出してナンボの世界です。助けてくれる同僚はいましたが、自分で考え、動いて、やり切ることが求められる厳しい環境で、孤独な戦いを続けました。その分だけ精神的には鍛えられましたし、そういう環境で実績を残せたことが大きな自信につながっていったのです。27歳にして、初めて成功体験と言えるような仕事ができました。
そして帰国後、インターン時代の同僚が推薦してくれるという幸運もあって、DMMのゲーム事業部門であるDMM GAMES(現EXNOA社)に入社できることになりました。念願だったゲーム業界に晴れて飛び込むことができたのです。
「なんでも率先してやる」を徹底しゲーム業界で頭角を現す
DMM GAMESに入社後はマーケターとして経験を積んだ後、eスポーツにも携わるようになりました。同社が主催するリーグ形式の大会のマーケティング&スポンサードマネージャーなども任せてもらいました。
ゲーム業界で実績を積めたのには、大きく2つの理由があると思います。1つは「なんでも率先してやる」という姿勢を心掛けていたこと。「この仕事をやってくれる人!」といった上司の呼びかけには、とにかくなんでも手を挙げていました。マーケターには営業寄りの仕事も多く、ためらっている人もいましたが、そのなかでも手を挙げて成果を残した自分の姿を会社は高く評価してくれました。
もう1つは、心から信頼できる最高の上司と出会えたことです。得意分野や仕事のスタイルがお互いに違っていた分、尊敬し合える関係になれたように思います。今は同社の執行役員・ビジネスアライアンス本部長になっている人ですが、 変わらず絆を感じている素晴らしい上司で、今でも年に1回程度会っています。
彼はキャリアのなかで初めて自分自身を支えてくれると思えた上司で、上司という存在のありがたさを知りました。「彼のような上司になりたい」という思いが芽生えたことが、その後「経営に進みたい」と思い始めた直接のきっかけだったように思います。その意味で、この上司との出会いは、キャリアにおける2つ目のターニングポイントと言えますね。
次なるステージを求めて経営側へ。仕事のスタイルが大きく変化
2021年には次なるステップアップのチャンスをいただき、レノボ・ジャパンに移ることを決めました。
最高の上司のもとを離れて良いのかと迷いはしましたが、ゲーミングPCブランドのブランドマネージャーを経験できることは、キャリア形成において大きなチャンスだと思いました。転職先の上司になる人からブランディングを学びたいと思いましたし、当時の社長からお声掛けいただいて条件面でもすべて希望をかなえてもらい「そこまで自分を望んでくれるなら」と決断にいたりました。
そうしてレノボに入社し、約2年間ブランドの認知向上や売上拡⼤に注力した後、2023年に当社JCGにマーケティング職としての参画を決めました。入社時から経営側に興味があることは伝えていましたが、「会社との相性が見えていない段階でいきなり経営陣に入っても、社内の賛同を得られないのでは」と考え、部長職からスタートさせていただくことにしました。半年ほどで社内からも認めていただいて、現在のポジションに就いています。
経営側になったことは、直近で一番大きなキャリアのターニングポイントです。それまでは「自分がどれだけ成長できるか」「周りをどう巻き込んで成果を出すか」といったことばかり考えていましたが、今は「部下がどうすれば成果を出せるか、活躍できるようになるのか」「どう説明すれば耳を傾けてもらえるのか」「同僚をどうすれば守ってあげられるか」といったことで頭がいっぱいです。
自分のことより周りの人たちのことを考えて動くようになり、仕事のスタイルが大きく変わった実感があります。
会社選びでは「やりたいこと・成長産業・希少人材」の観点を
いろいろな会社で働いてきた経験からファーストキャリアを選ぶ際のアドバイスをするならば、「自分がやりたいことなのか」「将来的に成長産業なのか」「希少人材になれるのか」という3つの観点から検討することをおすすめします。
まず1つ目。意欲的に取り組むためにも「自分が行きたい業界なのか、そこに自分がやりたい職種があるか」は入社前に必ず自問自答しましょう。「今までの人生で自分が好きなことやものは何だったか」を考えれば、何かしら見えてくる答えがあると思います。
また「その業界のなかの、どの職種を担いたいのか」まで突き詰めておくことも大事です。学生の方からよく「マーケティングって何をやっている部署なのですか?」と聞かれますが、職種について理解できていない状態では就職活動に臨むには不十分です。書籍やWebで調べたうえで、インターンやOB・OG訪問で詳しく掘り下げておくなど、自分がやりたい職種のことはひと通り調べておきましょう。
続いて2つ目。成長産業に身を置けば「大きくなる市場のなかで、いかに新しいパイを獲得していくか」という目線が身に付きます。しかし斜陽産業にいると「小さくなる市場のなかで、いかに現状を維持するか」という意識が当たり前になってしまうので、転職しても活躍する人材になりにくい。人材会社にいる人から、そんな意見を聞いたことがあります。
やりたいことが明確に固まっている人は、斜陽と言われる業界に飛び込んでもキャリアの活路は見出せるかもしれませんが、やりたいことが特に定まっていなかったり、斜陽産業にかかわることに少しでも迷いや不安があったりするならば、これから成長しそうな産業を選んだほうが未来は明るいと思います。まだまだこれから成長する産業というと、私はAI(人工知能)や人手不足の世の中で人の代わりになれるロボット分野、世界的に肥満症が課題になっている背景をふまえて肥満症解消のメディカル分野が一番に頭に浮かびますね。
最後に3つ目。「希少人材になれ」というのは、1社目の社長に教わったアドバイスです。当時「広告やマーケティングの仕事のなかでも、デジタルマーケティングができる人になると強いよ」とアドバイスをいただきました。需要と供給のバランスを鑑みてのアドバイスでしたが、今でもデジタルマーケティングができる人材は需要に対して供給が追いついておらず、大きな強みとなっています。
DMM GAMESからレノボに飛び込んだのも、デジタルマーケティングに加え、ブランド全体の戦略を考えるブランディングの実績を積むことができたら、よりいっそう希少な人材になれるという考えからです。
収入面で考えても、斜陽産業よりも成長産業のほうが将来の給料面を期待できると思いますし、希少人材になればなるほど給料の上がり幅が大きくなることが見込めます。「このポジションを担える人が欲しい」とピンポイントで引き合いをもらえるので、好条件の転職もしやすいと思います。
コミュニケーション能力や人脈を大切に。現状に満足せず成長し続けよう
最後に、これからの時代において活躍すると思う人材の4つの特徴を挙げます。
まずは「その業界や職種で必要なスキルを常に考えながら動ける人」そして「成果を残しても、それに飽き足らず常に成長する意識がある人」です。
前者は説明不要かと思いますが、後者が特に重要です。一度世の中に認められても、それに飽き足らず学び続ける人、次のキャリアを求めて成長し続ける人は、これからの時代で長く活躍していけると思いますね。
ある程度の大きな成果を出せると、そこで歩みを止めてしまう人は思いのほか少なくありません。そうして次のキャリアに進めなくなっていった人を、少なからず見てきました。歩みを止めれば、人としての魅力もなくなっていく気がしますし、変化が激しい時代だからこそ「現状に満足しない意識」は大切だと思います。
私自身、念願だったゲーム業界のマーケターとなり、それなりに実績も残してきたつもりですが、まだまだ次のステップアップを考えていますね。
あと2つは「周りを巻き込むコミュニケーションスキルを持つ人」「圧倒的な人脈づくりができる人」です。コミュニケーションスキルと人脈はつながっており、私はこの2つでキャリアを築いてきた自覚があります。昔からコミュニケーション上手だったわけではありませんが、仕事を通じて自分の強みがわかってきて、うまく人付き合いができるようになりました。
私の若い頃はFacebookの全盛期だったので、対面で知り合った人とフレンドになり積極的に自分の日常を発信していると「おもしろいね」と覚えてもらえて仕事につながる……ということも何度も経験しています。
お酒の場でも多くの人脈を作りました。バーで仲良くなった家電量販店の執行役員の方が、当時私が所属していた会社と折り合いが悪かった競合他社の社長を連れてきてくれた、なんてこともありましたね。一緒にお酒を飲んで意気投合し、仕事につなげられたことで、会社からも大きな評価をいただきました。
ゲーム会社に入社できたのもインターン時代の人脈のおかげですし、20〜30代のうちにいろいろな人脈を築いておくと、その後のキャリアにも良い影響があると思います。人脈を広げるためには、情報を自ら取りに行く意識をして人とのコミュニケーションを面倒だと思わないこと。そして、どのような立場になっても謙虚でいることが大切です。
人とのつながりでよく覚えているのは、昔お世話になった目上の人に「恩返しをしたい」と伝えたら、「君が我々から学んだことを後輩に教えていけば、それが自分たちへの報いになるんだよ」と言われたことです。その言葉を、今の立場になってからはとても意識しています。
最後に、学生の人には「今度やろうは馬鹿野郎。明日やろうも馬鹿野郎。思い立ったらすぐ何でもやらなきゃ駄目だ!」というメッセージを送りたいです。『プロポーズ大作戦』というドラマのセリフですが、私の大好きな言葉の一つです。
ビジネスやキャリアの選択でも「次がある」と思って先送りや検討ばかりしていると、二度とチャンスは巡ってきません。これから社会に出るにあたっては「思い立ったら今すぐやる」ことを、ぜひ心掛けてみてください。
取材・執筆:外山ゆひら