「誰と生きるか」を指針にキャリア形成を|成長したいなら褒められない企業を選ぼう

ポジウィル 代表取締役 金井 芽衣さん

ポジウィル 代表取締役 金井 芽衣さん

Mei Kanai・1990年生まれ。短期大学で保育士・幼稚園教諭の免許を取得後、2010年に法政大学キャリアデザイン学部に編入し、キャリアカウンセリングを学ぶ。2013年リクルートキャリアに新卒入社し、人材系の法人営業として活躍。2017年にキャリアコンサルタント登録をし、同年8月にポジウィルを設立後、現職

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周りの人の厳しい言葉が最高のキャリアにつながった

「そんなので満足しているようじゃ、人生、終わってんな」

これは短大生の頃、友人に言われた言葉です。当時ふわふわと生きてきた私の目を覚まさせる一言でした。彼女には「あんたがそのままなら、友達じゃなくなるで」とも言われたのですが、今ならその意味がよくわかります。

どんなキャリアを歩みたいかというのは「どういう人たちと一緒に生きていきたいか」ということであり、交流のある人の姿は、すなわち自分自身が今どのような状態なのかを表していると思います

今私の周りにいるのは「自分で責任を持ってチャレンジしたい」という気持ちを持った人ばかりです。自分の企業やビジネスなど背負っているものが似ている人が多く、共感し合いながら頑張れています。今にいたるまでの私のキャリアストーリーを、ここから少しお話ししますね。

金井さんのキャリアにおけるターニングポイント

私は「やると決めたことは絶対にやるけれど、やらないと決めたら絶対にやらない」という極端な性格です。高校はチアリーディングの強豪校で、部活に没頭していました。「ユニフォームがかわいいな」「人を高く飛ばすなんてかっこいいな」程度の浅い動機でしたが、日本一を目指して奮闘していましたね。勉強はせず恋愛して青春を謳歌する、ということも決めていました。

そのまま短大に進学したのですが、18歳の頃、キャリアにおける最初のターニングポイントとなる出来事がありました。教職課程の一環で児童養護施設で2週間の実習をおこなったのですが、そこで今まで見えていなかった世界があることを知ったのです

世の中には、今日のご飯を心配しながら生きている子どもたちがいて、親からの虐待といった負の連鎖が続いているケースも珍しくない──。この現実を知り、「保育や幼稚園の先生になる仕事も良いけれど、社会の仕組みそのものを変えていかないと、この負の連鎖はなくならないのではないか」と感じました。このときの気づきや課題感は、現在のサービスの構想の大元になっています。

短大でこの話をすると、学長が「キャリアカウンセリングという学問をやっている大学で学んできたらどうか」とアドバイスをくれました。もともと人の一生における心の成長過程を研究する「発達心理学」には興味があったので、保育士と幼稚園教諭の免許を取り終えた後、猛勉強を開始。無事に法政大学のキャリアデザイン学部への編入を果たすことができました。

キャリアカウンセリングの勉強はとてもおもしろかったのですが、それをどう仕事につなげていけば良いのか、当時はまだ見えていませんでした。就職活動の序盤では当時学生に人気だったキャリア関連ではない職業に就こうと考えていたのですが、それを伝えるとゼミの先生は「何をしに編入してきたの?」とピシャリ。「大義を抱いて編入してきたのだから、これをちゃんと仕事にしなさい」と叱咤激励をくださったのです

冒頭の友人と同様、このときも目を覚まさせてもらい、キャリアカウンセリングを仕事にするための就職活動を始めることにしました。

成長したいなら「あなたは足りない」と言ってくれる企業に注目を

編入した経緯もあって1年遅れで就職活動をおこなったので、先に就職を決めた友人たちからいろいろな話を聞くことができました。そこで私に向いているのではと勧めてもらったのが、人材業界です。

そこから当時は名前すら知らなかったリクルートに注目し、グループ各社の1dayインターンシップに片っ端から参加してみることにしました。その間には20人ほどのOG訪問をしたり、OBが立ち上げたBARでほぼ無償で働いて人材業界の先輩たちから情報収集したりと、自作の「リクルートエージェントノート」が1冊できあがるくらいには徹底的に企業研究をしましたね

そうして迷いなく選んだのが、ファーストキャリアとなるリクルートキャリアです。理由は就活をとおしてコンタクトを取った企業のなかで唯一、褒めてくれない企業だったから。エントリーした6社からはすべて内定をいただいたのですが、未熟な私に「すごいね」ではなく「足りない」と言ってくれる企業はリクルートだけでした。

同社の先輩社員に厳しい言葉を投げかけられ、泣きながら話したこともあります。しかし、おかげで多くの気づきを得られましたし、応援してくれる人にもたくさん出会うことができました。当時は勢いだけで行動していたので「先輩たちのように、ちゃんと考えたうえで熱量を持って行動する力を身に付けたい」と思ったことを覚えています。

徹底的に調べ、考え抜いて決めた1社目だったので、入社後のミスマッチはまったくありませんでした。うわべではなく土足で仲間の人生にふみ込んできてくれる、良い意味でおせっかいで熱苦しいカルチャーの企業に飛び込んだことで、大きく成長できた手応えがあります。

金井さんからのメッセージ

この経験から、ファーストキャリアでは自分のいたらない点と向き合い続けられる環境を選ぶことをおすすめします。特に20代のうちは自分のキャリアの可能性を広げるためにも、がむしゃらに仕事ができる企業を選ぶと良いでしょう。そういう企業かを確かめるために、説明会やインターンシップに参加するのはもちろん、積極的にOB・OG訪問をしたり、社員のSNSをチェックしたりしてリアルな情報を徹底的に集めてください。

また、キャリアの方向性に悩むときは、現状を変えるための前向きで有意義な話し合いができる人を見つけて相談することが大切です。自分でそう思えないときに「あなたは十分すごい」「大丈夫だよ、頑張っているから」と耳障りの良いことを言って慰めてくれる人のそばにいても、人は成長はできませんし、成長できなければ自信も芽生えてこないからです。建設的な話ができる友達や先輩・後輩をどれだけ持つことができるかで、キャリアの全容は大きく変わってくると思います。

まずは本業をやりきることに注力を。「先々稼げる人」を目指そう

就職活動では「無理なくエントリーシートを書ける企業かどうか」という軸で絞ってみるのも一つの方法でしょう。それは結局、仕事内容に興味を持てるか、先輩社員に憧れを感じるか、理念や社風に共感できるか、ということにつながっているからです。

私自身、6社しか選考を受けなかったのは、嘘をつけない自分の性格に気づいたから。人材業界以外も見てはいたものの、本気で「行きたい!」と思えないと志望動機が書けず、無理なく志望動機を書ける企業だけに絞りました

また企業選びで大切にしてほしいのは、自分の考えで決めることです。ブランドや人気ランキング、親の意見など他人の意見に惑わされないでください。他人の意見をもとに決めた企業に入ると、壁にぶつかったときに必ず誰かのせいにしてしまいます。そうなれば結果も出せず、何者にもなれない、という悪循環に陥ってしまうでしょう。

万人に共通する良い企業はない」ということも心得ておくと良いですね。めちゃくちゃ成長したい人にとっては、長時間働くことになってもガンガン挑戦させてくれる企業のほうが好都合かもしれませんし、私の1社目のように耳の痛いことを言ってくれる企業のほうが「自分には良い」と思えることもあります。

Web上にある口コミなどを見る際は、企業から評価をもらえない人たちも書いている可能性が高いことを考え、あまり間に受けすぎないこと。自分が意味ある時間を過ごせる企業はどこなのかを、自分の目で探してください

給与や福利厚生制度ももちろん重要ですが、それだけで決めるのはリスキーです。「自分が何を大切にしたいか」を明確にしたうえで、納得できる選択をしましょう。最終的には「どう生きたいか」に合致する企業を選ぶことが、一番大切です。

後悔のない就職活動にするために大切なこと

社会人になったら、まずは目の前の本業で結果を出すことを心掛けてほしいですね。最近は20代のうちから副業に励んでいる人もいますが、自信を持ってやりきったと言えることがないうちから目先のお金を稼ぐことに夢中になるのは、私はあまり賛成できません。

大谷翔平選手のような世界で活躍している人も、幼い頃からコツコツと努力を重ね、一つひとつステップアップしていって今があるわけです。「30代、40代になった頃に稼げる人になっていれば良い」と考え、20代の小銭は捨てたほうが活躍できる未来につながるはずですよ。

周りの先輩たちを見ていても、40代はそれまで積み重ねてきたものの結果が出るタイミングである気がします。本業でしっかり成果を出し、あちこちから声がかかるような「選ぶ側」の人間になっている先輩もいる一方で、結果を出せないまま、20代と変わらず企業や上司の愚痴を言っている人もいます。

大切なのは、少し先の未来に「自分の理想」を置いておくこと。それを現実にできたときの自己実現の実感は、必ず人生を豊かにしてくれます。そのためにも、まずは本業にフルコミットしましょう。目先の「利」にとらわれず、中長期的にキャリアを考える目線を養う意識を持ってみてください。

やると決めたことは絶対にやる。自分を好きでいるために 

ポジウィル 代表取締役 金井 芽衣さん

1社目では期待どおり、多くの試練を与えてもらいました。結果も出すことができ、自分の存在価値を感じられた瞬間も多々あります。

4年目には部署を横断する大きなプロジェクトで表彰を受け、周りから「会社に残ってよ」と惜しまれているうちに次のステップに行こうと決めました。同社でキャリアアップする道も考えはしましたが、上に行くと違う種類の我慢が必要になる気がしましたし、「この会社以上に好きになれる場所があるとしたら、それは自分で作る会社だな」と思い、起業という選択肢が目の前に現れてきたのです

企業経営は幼い頃から身近なものでした。両親の離婚で同居はしていませんでしたが、父が経営者で、父方の家系には自分で企業を経営している親戚が複数いました。父方は豊かな暮らしをしているなと思うことはありましたが、当時は起業が何を意味するのか何もわかっていませんでした。

自分で起業してからは、本当の意味での経営の大変さを実感しています。社会人になってからずっと「99%しんどい、1%うれしい」くらいの感覚ですが、会社員時代とはまた違う種類のハードさがありますね。経営者になると「事業のこの領域だけわかっていれば良い」というわけにはいかないので、次から次へと新しいことを学ぶ必要があり、同時並行でやらなければならないことの難易度がどんどん上がっていく感覚です。できる人たちを巻き込みながら自分もできるようにしていく、という毎日が続いています。

それでも頑張れているのは「決めたことをやり通したい、途中で逃げたり辞めたりする自分が好きじゃない」という思いがあるから。人生で一度も「やる」と決めたことを途中で投げ出した経験がないことは、私の誇りです。

起業1年目にエンジンをかけられたのは、周りの人たちの存在も大きかったですね。起業当初は一瞬のんびりしてしまいましたが、同世代の仲間たちが頑張っている様子を知り、本気でやろうと決心できました。

キャリア相談の事業を立ち上げた際は「相談にお金を払うなんてありえない」といろいろな方に言われましたが、信念を貫き通しました。行動し続けた結果、応援してくださる方が増えていき、多額の資金調達もかないました。18歳の頃、児童養護施設で自分の目で見て感じたものを信じて動けたからこそだと思っています。

キャリア=人生そのもの。だからこそ未来を見すえた設計図を描こう

26歳で起業を決めたのは、年齢的にも良いタイミングだと思ったのが理由の一つです。

新卒入社の時、30歳まで1歳ごとにその年齢でかなえたいことをノートに綴っていたのですが、そのなかに「30歳で子どもを産みたい」という目標がありました。経営者の父から「事業が形になるまでには3年間はかかるぞ」と聞き、逆算してこの年齢が起業のベストタイミングだと思ったのです

ちなみに、そのとき書いた目標はすべて前倒しで実現できました。目標が具体的であればあるほど、どんな行動を取れば良いかが明確になり迷わずフルコミットできるので、学生のうちからできるだけ詳細に「かなえたい未来」と「行動目標」を設定しておくと良いでしょう。

まずは30歳までのキャリア地図を書いてみよう

昨年子どもを産んでからは、人の命を守りながら仕事をする、ということの大変さを身をもって体感しています。それまでは頭でしか育児の大変さを理解できていなかったように思いますが、今は育児や介護などをしている人たちに心から共感できます。

そして改めて感じているのが「仕事だけがキャリアではない」ということ。人生そのものがキャリアであり、いろいろな人生の要素があるなかで仕事を続けていくことは、想像していた以上に難しいとわかりました。

自分の経験を経て、当社のお客様にも「できるだけ中長期的なキャリア設計をしましょう」と伝えるようになりましたね。今後はお金、結婚、家族、人間関係など、キャリアで生じるさまざまな悩みを相談できる体制を作っていきたいと思っています。

これから人生をかけて実現したいビジョンは、当社を単なるキャリア支援企業ではなく「生き方支援カンパニー」にすることです。相談者お一人おひとりの人生に向き合い続け、個の変化が波及して、社会が変わる未来を作っていきたいですね。私が価値を確信し、夢中になっているこの事業の成長に一緒に取り組んでくれる仲間がいることが、今のキャリアにおける一番の幸せです。

学生時代の経験は気にせず「自分ができること」に目を向けて

最後に、学生の皆さんに伝えたいのは「学生時代にどう過ごしたか」にとらわれる必要はないということです。なまじ成功体験があると変なプライドを持ってしまい、むしろ社会人になってからの成長や活躍のネックになることもある気がします。

どんなに小さなことでも良いので、自分が頑張ってきたことを認めてあげてください。自分のできない部分についつい目を向けがちですが、その前に「できたこと」を見ていく習慣を作っていきましょう。

「私には自慢できるようなことは何もない」なんて思ったところで、プラスが生まれて来るわけではありません。就職活動や転職活動、そして社内においても人から評価されやすいのは、適度に自信がある人です。まずは「できること」を軸に社会で戦えるようになり、そこから少しずつ武器を増やしていけば良いと考えてみてください。

やりたいことが見つからずに焦っている人は、やっていて苦痛でないことを探してみるのがおすすめです。それは少なくとも、自分にとって不得意なことではないはず。少しでも得意なことをやっているとパフォーマンスも上がりますし、強みを伸ばしていれば、それがやりたいことに変わってきたり、自分を好きになれるきっかけになったりします。

当社は今年で創業7年目を迎えますが、ビジネスは時間軸がとても長いなと感じます。この長いチャレンジを思えば、受験や就職活動は1年ほどと終わりが決まっているチャレンジです。期間限定だと思って頑張ってください。応援しています。

金井さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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