未来は「好き」から始まる|ワクワクできる成長環境を選び抜こう

エヌティ・ソリューションズ 代表取締役社長 中原徹也さん

エヌティ・ソリューションズ 代表取締役社長 中原 徹也さん

Tetsuya Nakahara・1990年に大学卒業後、NTTデータ通信入社。ITエンジニアとして経験を積んだのち、1996年に日本オラクルへ移り、営業職に転身。3社目となるウルシステムズを経て2004年に豆蔵に入社し、2014年に同社の代表取締役社長に就任(現任)。2017年にはグループ会社であるエヌティ・ソリューションズの代表取締役社長に就き、以降現職。2020年以降は、同じくグループ会社であるコーワメックスの取締役や豆蔵デジタルホールディングスの代表取締役社長も務める

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「このままでは成長できない」時代に逆行したキャリアの転換点

キャリアの出発点では「IT技術者として一人前になりたい」という志を持っていました。大学では物理を専攻していましたが、少しだけプログラミングも勉強したことで興味を持ち、ITの世界に入るなら、まず土台として技術を磨く必要があるだろうと考えたことが理由です。「自分に何が向いているか、どの会社が自分に合うか」といった観点は特に意識しておらず、入りたい業界から逆算して職種で選んだ形です

当時は1980年代終盤のバブルの絶頂期。就職先としては銀行や証券会社が圧倒的に人気で、文系・理系にかかわらず、金融系を選ぶ人が非常に多かった時代です。ただ私は父が金融マンだったこともあって、自分は違う道に進みたい、モノづくりの分野に行こうと考えました。

その頃は「大卒は全員が当たり前に大企業に行く」という風潮で、それ以外のキャリアなど誰も考えない時代でした。 ベンチャー企業や外資系企業の母数もかなり少なかったです。私はもともと群れるのが好きなタイプではなく、大企業志向の人間ではありませんが、他の選択肢が思い浮かばず、ファーストキャリアでは大企業に入社しました。

ただそのようななかでも新しい何かを期待して選んだのが、NTTデータ通信(現:NTT DATA)です。当時、情報通信は新しいモノづくりができそうな分野でしたし、同社は1988年に民間企業として発足したばかりで、新しい機運が起こりそうな期待がありました。NTTはもともと国営企業でしたので、大企業から切り離されていく民営化の流れに乗ってみようと考えたのです。

中原さんのキャリアにおけるターニングポイント

入社後は主に金融系システムの開発に携わっていましたが、7年ほどで1社目を飛び出す決断をしました。

理由はシンプルで、成長実感が得られなくなってきたからです。当時オープンソースの技術が少しずつ世に出てきていて、そうした新しい技術を使える仕事がしたいと思っていたのですが、会社としては今ある大規模なプロジェクトを遂行することが優先で、なかなか新しい技術に触れる状況にならない。「このままでは技術者として成長できない」とフラストレーションを感じるようになりました

ちょうどこの頃、人事から社内でも最大規模の案件に入ってくれと打診を受けました。聞けば、30年くらいかかる長期プロジェクトとのこと。「このプロジェクトを引き受けたら、この会社で人生が終わってしまう!」と危機感を抱き、すぐに転職活動を開始しました。

送別会では「わざわざ業界トップの企業を出て、何があるというんだ?」と同期に言われ、お酒の勢いで喧嘩したことも覚えています(笑)。大企業志向の時代ですから、約500名の同期のうち、男性で退職したのは私を含めてたった5人程度。就職先としてみればそれだけ良い会社で、良い仲間たちもいる優良企業の外に出ようと思ったのは、成長したい気持ちがそれほど強かったからだと思います。

目の前の仕事を好きになれば自ずと未来はひらけてくる

2社目に選んだのは日本オラクルです。30歳前後の中途入社ですし、新しい技術をまた一から学ばなければならなかったので、再び新人になったような気分でひたすら勉強の日々でした。ハードワークでありながら和気あいあいとしていた1社目の組織風土とも大きく違い、社風に馴染むという点でも苦労がありました。

それでも、この会社に入ったことにより2つ目のターニングポイントを迎えることができました。それは営業にキャリアチェンジをしたことです。

日本オラクルへの入社を決めたのは面接で社長の人柄に感銘を受けたのも理由の一つなのですが、その社長から「君は営業に向いているんじゃないか」と助言を受けたのです。迷いはありましたが、同社は営業やマーケティングがかなり強い会社でしたし、尊敬する社長が推薦してくれるならチャレンジしてみようと思いました。

今振り返れば、この選択は結果として自身のキャリアにとても良い影響をもたらしました。同社の主力製品には強い競合がいて、体感で8割は製品力を理由にプレゼンで負けてしまうのですが、残り2割のクライアントは自分の営業力を評価してくれ、当社に決めてくれるのです。それが非常に嬉しく、技術者出身の理系営業としての矜持がここで生まれましたね。勝率を高めるための数字分析にも取り組み、自分らしい営業スタイルも確立できました。もともと人への興味が強かったこともあり、お客様の立場を想像しながら提案活動をすること自体も楽しかったです。

この経験から学生の人たちに伝えたいのは、「まずは与えられた仕事を好きになる」ということの大切さです。先々のキャリアまで考えて動かなくても、目の前にある仕事を徹底的に好きになって頑張っていれば、その頑張りを見てくれている人が必ず次のキャリアのチャンスを与えてくれます。

逆も然りです。嫌々仕事をやっていれば成長もできず、良い人との出会いを果たすこともできません。一瞬一瞬を大事に取り組んでいれば、点はちゃんと線となってキャリアはつながっていく。これは、これから社会に出る人たちに確信を持って伝えられることです。

中原さんからのメッセージ

営業の仕事は今でも大好きで、社長になった今でも気になる会社を見つけると、ついつい自分でアプローチを始めて、一人で出向いてビジネス機会を獲得することがあります。クライアントの話をあれこれと聞いて、何かやれることはないかと考えたり提案したりするのが楽しいのです。

営業で「社長同行」というと、普通は社員がクライアント先に社長を連れていくことだと思うのですが、私の場合は社長が後から社員を連れていくスタイルです。カタチにこだわらないタイプなので特に気にしていないのですが、営業のメンバーたちには「私たちの仕事なので、社長は営業しないでください!」とよく諌められています(笑)。

いるべき会社に迷ったら「成長できる環境があるか」を基準に

6年ほどで次の会社に移ろうと決めたのは、日本オラクルが数千人規模の大企業に成長したことが理由です。会社が大きくなると、ネームバリューや看板で仕事が進むようになります。私はそういった環境に居続けることがあまり好きではないので、次は本格的なベンチャー企業に行ってみようと思いました。

転職エージェントの人に「営業の人間が一番入るのが難しいベンチャー企業はどこか?」と聞いて紹介してもらったのが、キャリア3社目となるウルシステムズです。営業はなかなか入れない会社ということで攻略方法を考え、こちらから「5分間のプレゼンをさせてほしい」と打診して面接の場を作ってもらいました。結果的にこの作戦は成功し、難関の面接もクリアすることができました。

これから就職活動を始める人にも、就職活動では「人との差別化」を意識してみることをおすすめします。エントリーシートの内容をただ繰り返すのでは、差別化できません。「御社に入って私はこんなことをします!」とプレゼンをしに行くくらいの気持ちで臨んだほうが、会社側の目を引くと思いますね。職種にもよりますが、新卒は基本的にポテンシャル採用です。「今の自分に何かができるか」ということよりも、「成長したい気持ちやキラキラしたやる気をいかに見せられるか」というところに重きを置いてみると良いと思います。

中原さんからのアドバイス

「成長環境があると思える限りは、その会社で頑張ったほうが良い」これはキャリア2社目となる日本オラクルの社長から言われたことです。採用面接でそんな話をされたので落ちたのかと思ったら合格だったのですが(笑)、その方は入社前から次の転職のときのことを考えてアドバイスをくれたのでした。

今となれば、その言葉の意味が真に理解できます。成長環境を求めて会社を変えることはポジティブな転職になりますが、成長環境があるのに「自分が頑張れない」という理由で会社を移っていると、ネガティブな転職になり、負の連鎖が続きかねません。組織にはいろいろな人がいるものですが、「この会社にいれば自分は成長できる」と思える限りは、その会社で頑張ってみてください。そのほうが次のキャリアに良い形でつながっていくと思います。

また実際に成長を遂げる人は、すべからく「こうしたい、ああしたい」という強い欲求を持っています。お客様に貢献したい、会社を良くしたい、社会を変えたい、といった気持ちは、成長の原動力になるということなのでしょう。そうした強い欲求を持つためにも、やはりまずは目先の仕事やクライアントを好きになることが大切だと思います。

時には「結果至上主義」にならないことも大切

3社目となるウルシステムズでは2年半を過ごしました。この時期が、キャリアの中で一番、壁にぶつかっていた時期と言えるかもしれません。

同社はITコンサルティングの会社だったので、製品ではなく技術者自身が提供価値になります。そのため、社内では技術コンサルタントの地位が圧倒的に高く、営業はその補助的役割のように考えられていたのです。

2社目が営業中心の会社だったこともあり、そのギャップにはかなり苦しめられました。それでも営業としてやってきたプライドはあったので、営業の仲間たちと奮起し、「自分たちでイニシアティブを取ろう、案件を引っ張っていこう」と能動的なアクションに努めていました。

社内での存在価値を感じられなかった時期には、いろいろなことを試し、考えました。そして気づいたのは、最後は自分を責めないことの大切さです

常に「物事がうまくいくかいかないか」という左脳的な判断をして自分を責めていては、人の心は壊れてしまいます。仕事は大事ですが、心身の健康を壊してまですべきものではありません。「これを乗り越えたら良いことがあるかな、ワクワクする世界が待っているかな」と思いながら仲間たちと一緒に汗をかいたなら、その感覚を是として右脳で自己評価をしても良い。自分がベストを尽くしてきたと思えるならば後悔する必要はない。そんな風に思えるようになりました。

このときの経験も影響してか、管理職になって評価をする際も「本人がやろうとする気持ちに対してベストを尽くせたか」という観点を大切にしています。有言実行ができれば最高ですが、部下たちには「有言失敗になっても構わないので、まずはやります!と周りに宣言することが一番大事だよ」とよく伝えています。

中原さんからのメッセージ

憧れを持てる上司がいるか? そこで働くことにワクワクするか?

4社目となる豆蔵に移ってきたのは、同社が掲げるミッションに惚れ込んだのがきっかけです。「ソフトウェア工学のチカラで、共にデジタル世界を創造する」というミッションのもと上流工程の方法論を売っているアカデミックな会社で、営業として「これを売りたい」と思ったことから転職を決めました。

当時はまだ創業4年目のベンチャー企業で、社員も少なく、こちらも技術者中心の会社ではありましたが、営業をして仕事を取ってくる自信はあり、入社後もベストを尽くしました。その頑張りを評価してくれる社長のもとで、本社やグループ会社の経営層やトップを任されるようになり、現在に至っています。

若い頃は自分の成長を考えて動いてきましたが、40代を過ぎてからは周りの社員たちが成長している姿を見ることが最高に嬉しく、今はそのためにも「社長として成長しよう」という気持ちです。社員たちと一緒に、技術で日本の社会や産業に貢献できる仕事をしていくことが今後のキャリアビジョンです。

会社選びで重視すべきポイント

大企業、外資系、ベンチャー系といろいろな会社で働いてきて、役員層やトップも経験させてもらった今思うのは、マネジメント層のなかに自分が目指したいと思えるような人がいる会社だと、ポジティブに働いていける可能性が高いのではないかということです。

マネジメントクラスの人たちが「仕事が好きでたまらない!」という感じでキラキラしている会社があったら注目してみると良いと思います。年の近い先輩ではなく、役職者など少し上のレイヤーの人を見ることがポイントです。

制度がどうだから、業績がこうだからといった情報で判断するよりも、憧れの上司がいて、その会社で働くことにワクワク感がある、感覚的にひかれるものがあるような会社に出会ってほしいですね。

「相手の立場を想像する」「言い訳をしない」姿勢を大切に

業界や業種を問わず、社会に出るにあたって身に付けると良いと思うのは、相手の置かれている立場を想像する力です。

IT業界などは特に技術力やスキル偏重になりがちですが、仕事というのはどこまでいってもお客様のためのものです。「自分にとっては数あるプロジェクトの一つでも、お客さんにとっては、このプロジェクトがすべてであることを忘れてはいけないよ」ということは、若手社員たちにいつも伝えています。

目の前にお客様がいるのに「飽きた、学ぶことがない、次のプロジェクトに行きたい」などと簡単に言えてしまうような人には、残念ながら仕事をお願いしたいとは思いません。責任というと少し重たく聞こえるかもしれませんが、相手に対する想像力を働かせる姿勢を感覚的に身に付けることは、仕事をするうえで一番大事なことだと思います

ちなみに営業職も、想像力が活きる仕事です。その人が今どんな立場で、どういう人たちとかかわりを持っているかといった情報からだけでも、「こんな悩みや課題感を持っているかもしれない」と想像ができます。人は自分に興味を持ってくれると嬉しいもので、自分の置かれている立場を想像しながら話をしてくれる人には、誰でも心を開いて、一緒に仕事をしたいと思うものです。

中原さんが考える「活躍する人材」の特徴

社会で活躍していきたいなら、エクスキューズをしないことも大事だと思います。できない理由を考えたり、失敗したときに言い訳に終始したりしていると、知らず知らずのうちに癖になってしまい、歳を取っても変わることができません。多少の愚痴が出たとしても、話の最後には「こうすればできるかもしれない」という前向きな改善案を話せる人をぜひ目指してください

ビジネスパーソンとしては、100をお願いしたら105を出すなど、求められたこと以上のアウトプットを出せることも大事ですが、100をお願いして95しか出せなかったときのほうが、真価が問われる気がしますね。できなかった言い訳をする人よりも、その事実を直視して「次はリカバリをします!」と言える人のほうが、将来大きく成長していけると思います。

中原さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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