自分の価値を最大化させるキャリアを描こう|人と組織の「薬」となる在り方を

庚伸 社長室 室長 宮澤 慧丈さん

庚伸 社長室 室長 宮澤 慧丈さん

Akihiro Miyazawa・大学時代に薬剤師の資格を取得し、新卒で医薬品会社に製造管理者の候補生として就職。品質保証部で国内外の工場の監査を経験した後、品質管理の業務を担当する。その後6年間在籍していた企業の移転計画がきっかけとなって家業を継ぐ決心をし、以降現職

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経営者としての自分の姿を形作った、薬剤師時代の学び

全体最適」は働くうえでの私のポリシーであり、このポリシーは薬剤師として働いたからこそ確立したものです。

現在では家業を継いで経営者の立場にありますが、元からこのキャリアを見すえていたわけではありません。むしろ初めは薬剤師の資格を活かして働きたいと考えており、家業を継ぐ話をもらっても断っていました

薬剤師を志したのは、中学生の頃です。昔から薬局に足を運ぶ機会が多く、なじみのある職種であったほか、もともと理科系の仕事に興味を持っていたこともあります。

薬剤師は、ただ単に処方箋に従って薬を袋に詰める仕事ではありません。医者が出す処方箋の20枚に1枚くらいは、薬剤師が弾いていたりします。大学に進学してきちんと薬学について学んでみると、同じ薬を同じだけ飲んでも人によって効き方や作用の仕方が違うこともわかりました。そういった医者が拾いきるのはなかなか難しい、患者一人ひとりに寄り添わなければわからない部分を、薬剤師が担っています。そこに深く魅力を感じましたね。

大学で薬剤師免許を取得した後は、新卒で入社した企業で6年ほど品質保証・品質管理として働いていました。そこで社会人としての基礎を教えてくれたのが50代の大先輩で、その人が今の自分を形作る「全体最適」の考え方を教えてくれたのです

当時は品質保証部に所属しており、国内外の食品工場の監査をしていました。品質保証の仕事は、ともすると一方的に評価や監査をしてしまいがちな仕事です。懸念点は探そうとすればいくらでも出てくるので、重箱の隅をつつくようなこともいえてしまうわけですね。つまり、監査側と現場で働く社員が敵対する図式にもなり得ます。そうではなく、全体を見たときにどうすればより良くなるのか。ただ「ノー」を言い続けるのではなく、全体最適につながるバランスの取り方を教えてもらいました。

宮澤さんが大切にしている「全体最適」の考え方

この全体最適の意識は、経営者として企業を運営していくなかでも変わらず大切にしています。むしろ、経営者という強い立場を得たからこそ大切にしなければならないともいえますね。企業で働く従業員や、サービスを提供する顧客、すべての人に良い結果をもたらすにはどうすべきかを考えるベースができていたからこそ、今の自分があります。

全員で幸せになる。薬剤師としての学びが「継承」への道を拓いた

薬剤師を辞めて家業を継ぐ決心をしたのは、当時勤めていた企業が本社機能を東京から静岡へ移転させる計画を立てたときでした。社員の多くが企業の意向に振り回されているように感じられたのがきっかけです。

移転を機に生活拠点を変えなければならない人や、やむを得ず転職や退職をする人がいるのを知った時、「自分が会社を継がないと、父が大切にしていた会社でも同じことが起きるのでは」と感じました。私が家業を継がなかった場合、将来的には企業を売却することになる可能性が高く、そうなると経営方針も企業の在り方も大きく変わることが予想できたからです。

幼い頃から、当時の仲間2人と父、そのわずか3人で立ち上げた企業を100人弱の規模にまで大きくする過程を見てきました。従業員のなかには、幼い頃からお世話になっていた人もいます。そのような人たちが職を失ってしまったり、転職を余儀なくされるのは、自分にとっても望まない結果でした。多くの人が幸せになるためにはどうすれば良いか──。それを考えると、自分が家業を継ぐのが一番良いと思えたのです

これも一つの全体最適の形ですよね。薬剤師になりたいから家業を継がなかったのに、結果として薬剤師になったからこそ家業を継ぐ決心をしました。

宮澤さんのキャリア変遷

誰よりも社員と近く。経営者だからこそ大切にしてきた対話の意味

家業を継ぐにあたって大切にしていたのは、コミュニケーションの取り方です。2代目というのは難しい立場で、すんなり受け入れてくれる人もいれば反感を抱く人もいるでしょう。そういった人たちとうまく関係構築をしていくことが、一つの企業を経営していくうえでは必要不可欠だと考えました。

そのうえで大切にしていたのが、社員と直接対話をすることです。これは前職からの習慣のようなものでもありました。当時は相手に工程表を見せながら話をすることも多く、それがチャットコミュニケーションには向いていなかったのですね。

もちろんメールやチャットでもやり取りはできますが、そういった媒体を介してのコミュニケーションは必要最低限なものになってしまいがちです。聞いたことに答えてもらうだけでなく、物事の背景まで理解したり、場合によっては雑談をするにも直接コミュニケーションを取ったほうが良いと考えています。

管理者というのはコミュニケーションが不足しがちで、社員とうまく意思疎通できないことがあります。経営者も同様に、どんなに「社員のため」と思って仕事を進めていたとしても、その姿が社員の目にどう映るかで「理解ある良き経営者」にも、「ワンマンな経営者」にもなり得るのです。自分の提案が、全体を良くしようと思っての提案であることを周囲に伝えるためにも、対話というあえて無駄をそぎ落とさないコミュニケーションの形が合っていると思っています。

チャットコミュニケーションと対話の違い

2代目として会社を継いだときに比較的スムーズに関係構築ができたのも、対話をとおしてある意味後輩的な立場で社員と意見交換をすることができたからだと考えています。何年も勤めてくれているベテランの社員には小さい頃からお世話になっていたので、なおさら気軽に質問ができる環境を整えることができました。「あきさん(宮澤さんの呼び名)だから話を聞こうと思えた」と言ってもらえたことは、今でも印象に残っていますね。

仕事をとおして人とかかわっていくうえでは、納得のいかないことも対立をすることもあります。そのなかでもお互いが相手の立場に立って物事を考え、会社として全体最適となる点を一緒に見つけ、最終的に「この人が言うなら仕方ない」と互いに思えるような土壌を作ることは、社員一丸となって円滑に仕事を進めて行くためには重要だと思いますね。

基礎にこそ価値あり。自分の仕事への意味を見出そう

庚伸 社長室 室長 宮澤 慧丈さん

コミュニケーションを大切にすることは、経営者側からの視点だけでなく、新卒として入社した企業で活躍していくためにも重要です。仕事やキャリアの積み方について、興味を持って聞いてくれる相手に悪い印象を持つ人はあまりいません。わからないことや得たい情報に関しては積極的に質問をして、コミュニケーションを取っていくことを心掛けてください。

こういったコミュニケーションの重要さは、私自身が直接新卒に教えていることでもあります。現在は一時的に新卒の教育を担う仕事もしているのですが、そこでは日報を書かなければならない理由や、それをすることで周りの人にどのように影響するのかといった、基礎の基礎となる部分の重要性を伝えていますね

自分の業務が周りの人にどのように影響しているのかを知ってもらうことで、一つひとつの仕事が作業になることを防げます。小さな仕事であってもそこに価値を見出している人は必ず居て、誰かの役に立ち、ひいては企業全体への貢献につながっていることを、経営者としての視点から伝えるようにしているのです。

自分に合った環境は社員の姿から見極める

今後活躍する人材の観点でいうと、変化を楽しめる柔軟性も重要です。社会には自分ではどうにもできないトレンドや景気といった「波」があり、その波に翻弄されるなかでいかに自分の希望をつかむか、理想の在り方を実現していくかを考える必要があります。自分の仕事を決めつけすぎないことを大切にしてください

そもそもファーストキャリアを選ぶ段階では、社会に出た経験がないために視野が狭い場合が多いですよね。企業側も会社の良いところを押し出すので、影となっている部分はなかなか見えないものです。働く企業が自分にとってベストなところかそうでないかは、入社してみなければわかりません。ならば、入社をする前の段階からあまりこだわりを持つ必要はないのではないでしょうか。

とはいえ、できるだけ自分に合う企業を見つけたいところですよね。そのためには、「人」を見ることを意識してみてください。選考のなかでかかわる人事担当者や経営者の雰囲気にアンテナを張りましょう。

社員の人柄は、企業の様子を表すものです。仮に相手が横柄であったり、自分の話をあまり聞いてくれなかったり、価値観が合わないと感じる部分があるなら、社風があなた自身に合っていない可能性がありますよ。

宮澤さんからのメッセージ

これは極論ですが、生活ができるならその手段は何だって良いと思います。思い描いたキャリアから外れたとしても、生きていればいつでも修正は可能です。1社目から理想の企業を見つけ出す必要はなく、折り合いがつかない部分があるなら無理に解消しようとする必要もありません。

ただし、入社する以上はプロとして成果を残すことを大切にしましょう。一定の成果を出せばそれだけ力がつき、あなたの強みになります。強みがあれば選択肢が広がるため、これまで以上に満足度の高い働き方ができる環境を実現しやすくなりますよ。

社会に出れば多くの人と協働していくことになるので、その職場の雰囲気や社風によって自分にとって良い環境かそうでないかが決まります。もちろん、つらいこともあるでしょう。そのような物事といかに柔軟に向き合い、自分の希望を実現する選択肢を持てるか。それが重要であることを忘れないでくださいね。

「主語の拡大」がキーワード。影響力を持てる人材になろう

社会に出て働いていくうえでは、多くの人とかかわりながら力を発揮することが求められます。そのような環境で大切にしてほしいのは、キャリアの充実を個人の枠に収めないことです。

もちろん仕事をするうえでは、自己実現も重要になります。仕事がうまくいけばモチベーションが上がりますし、仕事をとおして自分の理想の姿を実現できれば人生そのものの充実につながるでしょう。しかしそこからもう一歩視野を広げ、自分が周囲にどのような影響を及ぼしているのかも考えてみてください

自分の働きや頑張りによって、周りの人にどのような利益をもたらしているのか。自分がしたことで周りにどのような影響が及んでいるのか。そこに目を向けることで、自分の存在価値をより強く実感するきっかけにもなるはずです。

まずは自分、次は同僚、同じ部署で働く先輩や上司、他部署の人、企業全体──そのように、あなたが働く意味の「主語」となる部分を拡大していくことで、周囲から求められる存在になるのはもちろん、自分の市場価値も上がり、いっそう豊かなキャリアを歩んでいくことができます。少しずつ主語を広げていくことそのものが、キャリアの充実につながるのです

企業選びの際には、志望企業に「何をしてもらえるか」ではなく「何ができるか」を考えてみてください。チャンスを与えられたから動くのではなく、自分からチャンスをつかみにいくために行動ができるか、行動したいと思える企業かに注目することが大切です。そして周囲に影響を与えられる影響力のある人材となり、キャリアを充実させてほしいと思います。

宮澤さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:瀧ヶ平史織

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