成長への一番の近道は「質」を求めないことにあり|並みならぬ熱量をもとに行動を重ねよう
エンドレス 取締役COO 最高執行責任者 蕭 勝華さん
蕭 勝華(しょう せんふぁ)・1994年台北生まれ。幼少期を東京・浅草で過ごし、高校進学時に渡米。大学までの8年間をアメリカで過ごす。大学時代にはマッキンゼー・アンド・カンパニーで就業し、学生起業を経験。2017年9月にKPMGコンサルティングに新卒入社して経験を積んだのち、2018年8月に両親が経営するエンドレスの取締役に就任後、現職。「世界No.1のアクセサリー企業」を目指し、全国で130以上の店舗を展開中
起業を経験した学生時代から思いがけず家業を継ぐまでの道のり
キャリアにおける最初のターニングポイントは、ビジネスへの志を持って進学先の大学を選んだことです。
高校時代はアメリカンフットボール、野球、バスケットボールとシーズン単位で複数のスポーツに熱中し、そのままスポーツ推薦での大学進学を考えていました。しかし高校3年生のときに大きな怪我をして、別の進路を考えなくてはならなくなったのです。スポーツ一筋の学生でしたが、そこで改めて「自分は何をやりたいんだっけ?」と考えてみたところ、経営者である父に店舗ビジネスを学んできたことを思い出しました。
夫婦でアクセサリーの事業を立ち上げ、毎日夜遅くまで仕事をしつつも楽しそうに働いている両親の姿も目に焼き付いていましたし、小学生の頃から一緒に店舗視察に出向く機会も多く、お店にいるお客様たちの笑顔を見て「世の中にインパクトを与えるやりがいがある仕事だな」という印象を持っていました。
そんな思いを巡らせた結果、「自分も何かビジネスを立ち上げたい」という志が芽生え、起業や経営者育成に一番強い南カリフォルニア大学(USC)への進学を決意。多くの学生が自分でビジネスをやっている学校で、在学中には何人もの起業家と出会い、大きな刺激を受けました。
私自身も進学後すぐに起業にチャレンジしました。シリコンバレーの近くにある高校を卒業してITの知見があったので、ITコンサルの事業と、ブランドアイテムの日米の価格差に注目し、アメリカ価格で買って日本市場の価格で売ることで利益を生み出す並行輸入事業を立ち上げ、2つのビジネスに没頭しました。
幸運にも年間2億円を超える売上を出せる事業に成長し、大学最後の年には無事にイグジット(保有株式を売却し、投資資金を回収すること)できました。自分でビジネスをする手応えを得たという点で、この経験がキャリアにおける2つ目のターニングポイントと言えるかと思います。
大学の単位は取り終えていたので、卒業前のラスト半年間はバックパッカーとして世界一周の旅に出かけました。旅先で知り合った人の家に泊めてもらったり、民泊のシステムを使ったりして、できるだけ現地のことを知ろうと努めましたね。結果的に、この経験は「国ごとにどんなニーズやお客様がいるのか」という市場調査になり、現在グローバル事業の計画推進にあたって非常に役立っています。
アメリカに帰国後は、有償で働ける大学の制度を活用し、マッキンゼー・アンド・カンパニーで就業経験をしました。とても良い会社だったので「このまま就職しても良いし、もう一回起業しても良いな」という2択を検討していたのですが、突然プランCが舞い込んできたのです。
それは父からの「日本に帰ってこい」というメッセージでした。私は三人きょうだいの末っ子なので、父が私に会社を継いでほしいと思っていることを知って驚きました。ただ思い返せば、小学3年生の頃、父と一緒に店舗視察をしている際に各店の長所や短所を見つけて歩いていた私を見て、父は冗談で「お前がうちを継いだら良い」と言ってくれていました。もしかしたら、あの頃から後継者として決めていたのかなと思います。
プランCの選択肢が降ってきた時、迷いなく「日本に帰ります」と即答しました。両親が作った会社を残したい、二人の創業者の名前を沿革に残したい、とシンプルに思えたので、「自分がエンドレスを次世代につなげていこう」という新たな志が固まりました。
新人時代は質より量をモットーに。チャンスは仕事を選ばない人に来る
とはいえ、10年間も日本を離れていたので、日本のマーケットや組織の成り立ち、会計の仕組みなどを理解する必要があると考え、しばらく日本にある外資系の企業で働いてから父の会社に行くことにしました。
就職活動はアメリカの大学に通う学生を採用したい企業が集まる「ボストンキャリアフォーラム」を利用し、現地でおこないました。グローバルビジネスをやっている日本の大手企業が一堂に会していたので、一気にいろいろな企業が見られる機会だと思い、会期中の4日間は毎日片っ端から面接を受けまくりました。世界一周のときと同じで「まずは自分の目で見てみないとわからない」という思いでしたね。
日本語の敬語の使い方をすっかり忘れていましたが、朝から晩まで面接の数をこなしたことでコツを掴んでいき、3〜4日目に受けた企業からはすべて内定をもらいました。
面接時もそうでしたが、「質を求めるなら量をこなせ」という考え方は、今でもキャリアの根底にあります。まずは量をこなさないと質には辿り着けない、というのが持論です。
量をこなせと言っても、体育会系のようにゴリゴリやれという意味ではありません。謙虚に「一から学ぶぞ、学び続けるぞ」という気持ちを持って、仕事を選ばない姿勢でいられるかどうか。「自分は何者でもない」という気持ちを忘れないことが肝心です。
周りの経営者たちからもよく聞く話ですが、学歴が高い人ほど、新人時代の雑務に抵抗を感じやすく、仕事の質にこだわって量を軽視しがちな傾向があります。そうしているうちに、仕事を選ばずにガンガン量をこなしている人間が追い抜いてしまうことは少なくありません。キャリアを切り拓きたいと思うならば、学歴が高い人ほど「社会人になったら一回リセットして、上司の言うことをちゃんと聞いて言われたことをまずは実践してやってみよう」という心構えを持つことが大切です。
ちなみに、この「質より量」という考え方に関しては、非常に興味深い実験結果が発表されています。
ある学校の陶器を作成する授業で、生徒を「量」と「質」2つのグループに分け、一定期間壺を作成する練習をしてもらいます。実験前に、「量」グループには作成した壺の量で評価をし、「質」グループには作成した壺の質で採点するということだけが伝えられました。
実験の結果、「量」グループが最もクオリティーの高いつぼを作り出すことに成功。著者によれば、「量」のグループは多くの壺を作成している間に犯したミスから学習し、良い結果を生み出せたとのことでした。一方「質」グループは、完璧に作成する方法を考えることに時間を費やしましたが、実際の作品に反映させられなかったようです。
仕事の量をこなすことに加え、 新人時代は「やる前にNOを言わない」ということも気をつけておくと良いですね。とりあえず、言われたことは全部やってみる。やってみる前から文句や愚痴を言っていれば、自分の成長が止まってしまうだけなので、降ってきたチャンスは全部乗っかってみてください。
「やったことがないからやらない」という選択をする人もいますが、自分の得意・不得意を知るために、自分の光っているところを探すためにも、まずやってみようという意識を徹底しましょう。成功している人たちは皆「やってみた」からこそ、成功している。これは紛れもない事実だと思います。
国をまたぐファーストキャリアで「一生モノの仲間」ができた
マッキンゼーでの経験を活かせると思い、コンサル業界の志望度が特に高かったのですが、日本でのキャリア1社目としてKPMGコンサルティングを選んだのは、内定をいただいた会社のなかで一番歴史が浅いコンサルティングファームだったからです。同社の日本法人は2014年に立ち上がったので、当時まだ立ち上げて3年ほどの時期でした。
「母体は大きな会社だけど、日本法人はスタートアップ企業のような感じだよ」と聞いて、がぜん興味が湧きましたね。世界的にも有名なコンサルファームの日本支社立ち上げに惹かれたのと、完成しきっている組織より、毎日新しい何かが始まっていて、朝令暮改にいろいろなことが変わっていくような環境のほうが魅力的に映ったからです。
期待どおり、入社後は変化に満ちた環境下で、さまざまな業界・企業のコンサルティング経験を積むことができました。大手電力会社・総合重工業・IT企業など複数社でのコンサル経験を積み、「日本の会社を理解する」という当初の目的を果たせたと感じたタイミングで、当社エンドレスに移ることを決めました。
よく言われることですが、ファーストキャリアが特別な理由は、同期の仲間を持てることにあると思います。私は幸運にもアメリカと日本の両方で、2つのファーストキャリアを持つことができ、双方の同期と今でもつながっています。海を越えて互いの結婚式に参加したいと思えるくらいの関係ですし、当社とは別のビジネスを一緒に立ち上げている仲間もいます。
中途入社の人たちとも仲良くなることはできますが、公私にわたって人生を共有し合えるような一生モノの関係が手に入るのは、やはりファーストキャリアにしかない良さだと思いますね。
九死に一生を得て「後悔のない自分だけの人生を送ろう」と決心
エンドレスに入社してからの3カ月間は、キャリアのなかでも一番、精神的にしんどかった時期です。入社当日には父から「今日から承認関連はすべて室長にとおすように」と紹介されました。そこから「2代目社長として威厳を持って振る舞わなければ」と勝手にプレッシャーを背負ってしまっていたのです。
慣れないストレスを溜め続けた結果、3カ月後には倒れて意識不明に。病院で目が覚めたときに、医者から「30分遅かったら出血多量で死んでいたよ」と言われるほどの状態でした。聞けば、十二指腸に3つの大きな穴が開いていて、大出血の一歩手前だったとのこと。
この経験は、「自分は何をしたいんだっけ?」と改めて考え直すきっかけになりました。そして自分はあくまで自分であり、父の跡を継ぐけれども、自分流でビジネスを動かしていこうという決心にいたったのです。
ビジネスとしてのゴールが見えていないことにも気づき、3週間の入院中には、「自分は何を成し遂げたいのか?エンドレスをどういう会社にしていきたいのか?」といった疑問に立ち直り、新しい理念やバリュー(行動指針)を考え抜きました。一度きりしかない人生を決めるのは自分だ。今日が人生最後の日でも後悔しないような人生を送ろう。エンジョイできる会社を作ろう──そんなビジョンを作り、退院後すぐに全社に共有。以降は事業をV字回復させることができ、順調に店舗拡大を続けています。
自身が50歳になるまでに「世界No.1のアクセサリー企業になる」という会社の目標を実現させることが、今後20年間の私のキャリアビジョンですが、個人ということで言うならば、40代以降には誰かに出資できる人になっていたいという思いはありますね。次世代の起業家たちを応援できたらという思いを持っています。
会社選びは「ビジョンへの共感×直感」を重視して
これから社会に出る皆さんも、就職活動の際には会社として掲げているゴール、つまり「理念・ビジョンへの共感」と「実際に会ったときの直感」という2つの観点から探すと良いと思います。採用側に回ってみると、理念やビジョンを見ていない学生は少なくない印象です。
この2点がなぜ重要なのかといえば、充実したキャリアには働きがいが欠かせないからです。近年は働きやすさばかりが取り沙汰されていますが、どんなに制度を整えても、早期退職する若手は一向に減っていないと聞きます。上司がハラスメントを怖れてふみ込んだ育成をしないので、若手も一人前に成長できず働きがいを得られない。そんな悪循環が起きているのかなとも想像します。
ハラスメントはもちろん論外ですが、ホワイト企業で働く=良いキャリアになるわけではないということは念頭に置いておいてほしいです。「大変だけど、この仕事をやって良かったな」と思えるような“働きがい”を感じられなければ、どんな仕事でも続かないのではないでしょうか。最初から会社が目指すゴール(理念やビジョン)に共感できるところに入っておくと、意義ある仕事ができたという実感を得やすいと思います。
理念に共感できる企業を絞ったら、次は中の人たちに会いに行ってください。面接で会う人、インターンシップを通じて会う社内の人と接するなかで直感が働いたり、「フィーリングが合う」と一番感じたりした一社を選べば、大きな後悔はしないと思います。自分が良いと思わない会社で働く時間はもったいないので、ビジョンに対しても、直感的にも「なんか良いよな、この会社」と思えるところを見つけてほしいですね。
理念を掲げていても、社員たちに聞いたときに「理念?確かホームページに書いているけど……なんだっけ?」となるような、形だけのものでは意味がないと思います。当社もビジョナリーカンパニーを目指しているのですが、毎月の面談で理念を基準に行動評価をしたり、年4回の全国の店長を集めた店長会で理念について振り返ったりと、社員一人ひとりが常に何を目指して仕事をしているのかを意識できるよう努めています。
ちなみに当社は「アクセサリーを作る楽しさと身に着ける喜びを世界中の方に届ける」という理念を掲げているのですが、この理念は、高校時代に大地震後のハイチにボランティアに行った際に感じたことに紐づいています。父の会社が手がけるアクセサリーを持参したところ、現地の10代の女の子が「こんな綺麗なもの見たことがない」と涙を流して喜んでくれたのです。アクセサリーは人を幸せにする力がある、この力を世界中のいろいろな国に届けたいと思うようになりました。
アパレルやハイジュエリーと違い、低価格帯のアクセサリーを扱うグローバルブランドはまだ世の中にないので、当社はその位置を目指して成長を続けるつもりです。ビジネスとは別に、アクセサリーの不用品寄付をワクチン費用に替える「リボーンプロジェクト」という取り組みもおこなっており、おかげさまで年間約2万人の東南アジアの子供たちにワクチンを届けることができています。
人の上に立つのではなく「人の中心にいるリーダー」を目指そう
私が思う社会で活躍する人の特徴は、熱量をもって周りの人を良い方向に巻き込める人。これから社会に出る皆さんにも、自身が中心に立ち、皆に背中を見せながら率先して課題解決をするんだという気持ちで行動を起こせる人を目指してほしいですね。
年齢にかかわらず役職に就いた途端、「人の上に立つ」というイメージを持って仕事をし始める人は少なくないですが、私は根本的にそのイメージが間違っていると思っています。目指すべきは「人の中心に立つ」リーダー像です。これは自身で創業したときから持っていた違和感をオンデーズの田中修治会長に話したところ的確に言語化してくれ、以来大切にしている言葉です。
タイヤの円は、中心部に行くほどスピードの回転が速くなります。中心部が熱をもって高速で回っていなければ、外側に力を伝えていくことはできません。会社組織で理想的なのは、円の一番中心に社長がいて、すぐ外側の輪に役員、その外側の輪に部長や課長、そして一番外側に新入社員やアルバイトスタッフがいるという状態だと思います。
このリーダー像は、父の姿から学んだところも大きいですね。父は現場を大切にするという目線を常に持っており、工場で社員と一緒になって、手に傷をつけながらアクセサリー生産の作業をする人です。「部下にしんどい作業を任せて自分はラクをしよう」などと考える上司はもってのほかで、部下の2倍の熱量で行動できる人だけが、周りを引っ張っていけるのだと思います。
ちなみに、円の一番外側に加わった新人が、一番フラットに組織を見ることができます。私も店舗巡回の際には店長やベテランスタッフだけではなく、入ったばかりのアルバイトスタッフの話も率先して聞くようにしており、良い意見があればすぐに会議の議題に載せています。新人の人だからこその意見に期待している上司も多いと思うので、入社後は臆せずに素直な意見をどんどん言ってみると良いと思います。
小さな変化を恐れずアクションをし続ける人だけが未来をつかむ
人生やキャリアに物足りなさを感じるのは、大抵が自ら変化に手を伸ばしていないときです。いつものルーティンに慣れきってしまって変化がないことに気づいたら、意識的に新しい情報が暇なく入ってくるような状態に身を置いておくことをおすすめします。
いつもと違うドリンクメニューを頼んでみる、いつもと違う通勤の道を選んでみる、行ったことがないセミナーに行ってみるといった簡単なことで構いません。小さな変化から始めてみると良いと思います。その過程で小さな気づきを得たり、新しい人と出会ったりして、キャリアが広がっていくことは少なくありません。大切なのは、新しい場所や変化を怖がらないことです。
長いキャリアのなかでは壁にぶつかることもあると思いますが、とにかく立ち止まらないことが肝心です。「やりたいことが見つからない」というときも同様で、行動を止めずに探し続けている人だけが、やりたいことを探し出すことができるのだと思います。
私自身も九死に一生を得る経験をしてから「人生は一度しかないから、とりあえずやってみよう」という思いがさらに強くなりました。開き直ってアクションを起こし続けていると、必ずどこかから人が寄ってきてサポートをしてくれるものです。これから社会に出る人にも、「バッターボックスに立ってバットを振り続ければ、いつかヒットが出る」と信じて、アクションを続けてほしいですね。
よく「ポジティブだね」と言われる私ですが、昔からこうだったわけではありません。文句や愚痴を言っていた時期もありました。しかし学生起業をした20歳の頃、「ネガティブな言葉を口にしていると、自分の耳が一番その言葉を聞いているのだよな」とふと気づいた瞬間がありました。自分の耳にネガティブな言葉を聴かせるより、意図的にポジティブな言葉を口にして自分を洗脳したほうが、人生得だよなと。以降は、意識的にポジティブな言葉に言い換えるようになりました。
仮に心のなかに「うまくやれないのでは」という不安があっても「できる、できる」と発言してみる。そうしていると「もう少し、こうしたら良いかも」といったアイデアも浮かんできて、どんどんできそうだと思えてきます。
自分に対しても部下に対しても「なぜできないんだ?」というネガティブな言葉掛けをして良い方向に向かった例を、私は知りません。生来ネガティブな性格だとしても、あきらめずポジティブな言葉を口にできる人を目指してみてください。
取材・執筆:外山ゆひら