価値ある一瞬を見逃すな|リアルな出会いと感情でキャリアを動かす

ライフオンプロダクツ 代表取締役 池田 祐一さん

ライフオンプロダクツ 代表取締役 池田 祐一さん

Yuichi Ikeda・大学卒業後、2001年キングジムに入社。文具代理店への営業、デジタル文具、生活家電の開発に携わり、2013年ラドンナへ出向。同社企画課長および取締役企画部長として、キッチン家電ブランド「Toffy」の立ち上げに参画。2022年ライフオンプロダクツ代表取締役に就任、以降現職

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「楽しい」は自分が作る。望まない場所でも輝くコツ

就職氷河期真っ只中に大学を卒業しました。100社以上の選考を受けて、内定をもらったのは2社だったと思います。理系だったので、研究や開発職に就きたいと思っていましたが、とにかくなんとか内定をもらうことに必死な就職活動でした。化学メーカーと、文具メーカーであるキングジムの2社から内定をいただき、最終製品を作っていることに興味を惹かれてキングジムを選びました。

入社後は営業職に配属され、とにかく仕事を覚えようと奮闘しました。しかし、心の奥底には「商品開発もできたら良いな」という気持ちはありましたね。会社には各個人の意見を聴取する「自己申告書制度」があり、そこで「今後希望する仕事」という欄に“開発”と書いて希望していました。

3年ほど開発志望を伝えていたのですが、一向に異動の兆しもなかったので、その後は空欄になりました(笑)。この頃にはすっかり営業の仕事に慣れて、面白さも感じ始めていましたしね

希望に沿わないキャリアのスタートでもやりがいを見出す方法

当初は開発志望だった私が営業にやりがいを見出したように、期待していたのと少し違った場所からのスタートだったとしても、やっているうちに楽しくなったり、やりがいを見出せることもあります。会社員である以上、常に望んだキャリアを歩めるわけではありません。配属ガチャというような言葉も聞きますが、希望に沿わない部署や業務であっても、そこでどれだけパフォーマンスを発揮できるのかという部分が大切です

これまでの少ない経験や凝り固まった見方でチャンスをシャットアウトしてしまうのでなく、まずは与えられた場所に飛び込んでみてはどうでしょうか。そこに予想もしない楽しさが待っていたりすると思います。

取るに足らない経験こそ財産

すっかり営業の仕事を楽しんで、開発志望のことを忘れかけていた入社7年目、突然開発部門への異動が決まります。30歳を目前に営業職にも慣れてきたと思っていたところで、0から学び直す日々が始まりました。

しかし、ここで営業時代の経験が大いに活かされました。市場、流通、顧客のことは勉強していたので、市場に受け入れられるであろう価格設定は検討がつきました。また、営業職時代に社内の先輩方とも交流があったので、他部署と関係する仕事も進めやすかったです。どんな経験でも無駄にはならないし、得るものがある。それを学んだ瞬間でした。

一方で、開発の仕事は「ひらめき」だけでは続かないということも体感しました。

不満や不便さなどの「不」(マイナス)の要素の解消・改善がなされると感じた時、人はお金を払ってその商品やサービスを得たいと感じます。だからこそ普段の生活からマイナスの要素を常に見つけ出すことが、商品開発のカギになるのです。

商品開発の仕事についてから、毎日の何気ない生活においてもアンテナを立てるようになりました。これも経験からの学びですよね。日々の暮らしという単調に見える経験からも、得るものがあると気づきました。

どんな仕事であれ、日々の何気ない生活であれ、今の経験が必ず活きる場面があるはずです。あなたが体感して学んだことは、必ず何かの糧になります。取るに足らないと思える経験ほど、大切にしてください。

池田さんからのメッセージ

「全体」を俯瞰すれば「学び」が見える

商品開発を進めていくなかでは、大変なことも多々ありました。生活家電の開発で海外の協力工場と日本を往復して、かなりハードな日々を過ごしたことも忘れられません。しかし本当につらいのは、一生懸命商品を作り上げても、すべての商品が売れるとは限らないことです。売れ行きが悪いと、やはり落ち込みます。

でも、開発した商品が売れなかったからといって、仕事が嫌だと考えたり、辞めたいと思ったことはありませんでした。それには、「売れなかった」という事実よりも「なぜ売れなかったのか」に注目し、分析をして次回に活かすことに重きを置いていた上司や会社の姿勢があったように思います。

自分のこうした経験を振り返っても、つらいこと、大変なこと、ハードな経験は、その一場面を切り取るとしんどいものです。しかし少し俯瞰してみれば、貴重な経験だと思えるのではないでしょうか。

失敗は、大きな学びを得るまたとないチャンスです。大変な状況下でこそ、人は大きく変わることができる。少し客観的に、“点”ではなく全体として俯瞰してみると、案外そこに素晴らしい学びや、次につながるヒントが見つかるかもしれません。

視野を広げれば困難も乗り越えやすくなる

キャリアは人ありき。周囲を大切にした働き方をしよう

ライフオンプロダクツ 代表取締役 池田 祐一さん

営業や商品開発を経て、2022年からはキングジムのグループに入ったライフオンプロダクツ社の社長に就任しました。会社員が経営者になったわけですから、慣れないことばかりですね。人とのつながりを大切にして、売上、利益を拡大できるように、日々試行錯誤しながら奮闘しています。

池田さんのキャリア変遷

特に人間関係は難しいと感じます。どんな人でも一度は悩む問題ですよね。「この人は合わないな」「この人は自分にだけ厳しいのだろうか」「なぜ自分ばかり責められるのだろう」「なぜここまで嫌な思いをさせられるのか」など、人との関係に思い悩むこともあるでしょう。

しかし、仮にその人が理不尽なことを言っていたり、物事に対し真っ当な考えを持っていないなら、自分以外の周りの人も同じ気持ちでいると思います

一人で考えていても答えは見つからず、前にも進めず悩みは深くなるばかりです。自分一人で悩みを抱え込まず、信頼できる同僚や友人に相談することで、新しい視点やアドバイスが得られることもあるでしょう。もしさまざまな手段を用いても問題を解決できない場合は、自分の心を守りながら、時に身を任せるのも良いと思いますね

また新卒の立場で周囲と良好な関係を築きたいと思ったときは、礼儀や謙虚な姿勢も大切です。挨拶や「ありがとうございます」という言葉を大切にし、感謝の気持ちを持って相手と接するように心掛けてください。

会社選びの基準はあなたの「感情」にある

今、自分が人を採用し、組織を作っていく立場になって思うのは、会社は人生の長い時間を過ごす場所であり、一緒に働く人たちと長い時間を共有するという観点を持って、就職活動に臨んでほしいということです。家族よりも長く時を過ごすとしたら、どんな人とどんな仕事をしたいのか。自分が入社したときのイメージを膨らませてみてほしいですね。

そのイメージを描くためには、リアルな出会いが欠かせません。実際に会社を訪問してインターンシップに参加してみる、社員と話してみる、その会社の製品やサービスを体感してみる──。そのように自ら動いて出会うことでわかることもたくさんあるはずです。

会社選びの視点

しかし、「自分が働く姿を想像できない」「やりたいと思う仕事が見つからない」という人もいるでしょう。そんな人は、辞めても役に立つ、知識や経験を積めるような会社に就職してみてほしいと思います

社会とのつながりを築くことは、どんな状況においても役立ちます。特に若いうちは、多くの経験を積むことが重要です。どんな仕事でも、社会に貢献していることに変わりはなく価値があります。そこでやりたいことが見つかったときに、新たな一歩をふみ出してください。

新卒という立場は、ある種のブランドです。新卒の採用枠があり、社会経験がなくともポテンシャルで入社できるのですから、まずは多少なりとも関心がある分野で就職して、社会の縮図を体感してほしいですね。そこで感じたことや経験したことから、主体的に次のキャリアが描けるようになると思います。

面接は一方的に選ばれる場ではなく、お互いに選ぶ場だということを意識して、ぜひ楽しんでください。就職活動は自分を見つめ直すチャンスです。

学生は学校にお金を払って教育してもらう受け身の立場、社会人は社会に貢献してお金をもらう立場であり大きな転換点でもあります。このチャンスをうまく利用して、その後の人生がより楽しくなるような一歩をふみ出していけると良いですね。

池田さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

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