人生を変えるのは就活じゃない|仕事には「未知との出会い」を求めよう

マッシュホールディングス 執行役員 秋山 輝之さん

マッシュホールディングス 執行役員 秋山 輝之さん

Teruyuki Akiyama・1973年東京都生まれ。東京大学卒業後、1996年ダイエー入社。人事部門にて人事戦略の構築、要員人件費管理、人事制度の構築を担当後、2004年よりベクトル副社長として、のべ150社の組織人事戦略構築を支援。フォーラムエンジニアリング常務取締役を経て、2023年よりマッシュホールディングスに入社後、現職

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キャリアの始まりは意識低めの就活

学生時代は企業で働くイメージを持てず、学者になろうかと思っていました。しかし、その道を断念しなければならない事情ができ、かなり出遅れているなか大急ぎで就職活動を開始します。その時点で応募できる企業は少なく、なんとか拾ってもらったのがダイエーでした。

配属されたのは、インテリア販売の部署。インテリアとはいうものの、布団が売上の大半を占めており、現場で重い布団を上げ下ろしする毎日……。一方で商社や銀行などに就職した同級生は、華やかな商談の話をしており、自分のキャリアに焦りを感じていました。

しかし、ちょっとした工夫をすることで売上が伸びたり、今までに出会ったことのないお客様や取引先、企業のさまざまな立場の人と触れ合うなかで、徐々に手応えを感じるようになっていきました。汗まみれになって、想像もしていない仕事で、さまざまな出会いに恵まれたことは、今思い返しても貴重な時間だったと思います

このように、たとえ大きな志のない“意識低め”の就活だったり、周りの活躍を見て焦ってしまうようなことがあっても、新しいことに好奇心を持ち、日々の問題解決に取り組むなかで、学ぶことや経験できることはたくさんあります。「就活失敗した」「配属ガチャ終了」と言わずに、まず経験すること。多くの企業には、その企業が社会から求められている価値があり、学ぶべき素晴らしい何かがあります。その企業が持つ文化や価値を探し続ければ、その後につながる何かが得られるはずです。

辞めたい気持ちから積極的な学びを得る

ファーストキャリアは一生の教材。社会人としての一歩目を大切にしよう

ダイエーは当時約10万人の従業員を有する大企業で、最先端の仕組みもたくさん導入されており、伝説の創業者・中内㓛イズムも息づいていました。とにかく何千万人のお客様、何万というお取引先様と成長してきた大組織なわけです。店舗の販売現場を経て、人事の担当者となった後は、そのスケールと歴史に圧倒されましたね。幸いなことに500人規模の採用や、3,000人規模の組織再編など、大きな仕事にかかわるチャンスも得ました

その後から現在にいたるまで、さまざまな業界・企業の組織を作るお手伝いを重ねてきましたが、今でもダイエー時代の学びに立ち返る場面が多くあります。

企業・組織が成立するためには何が大事なのか、組織やチームは、どんな歴史を経て発展してきているのか。一つひとつの組織や事業に真剣に触れると、さまざまな挑戦と失敗、試行錯誤の上に今の姿があることがわかります。

若く、先入観のない目で多くの組織に触れた経験は、今振り返ると私にとってかけがえのない学びの時間でした

思わぬ縁で就職したダイエーでのファーストキャリアから、生涯にわたる指針を得たのです。このように、最初に入った企業のシステムやスタイルが、その後の自分の基盤になることは少なくありません。その意味でも、ぜひ最初の一歩で得た場所を大切に、しっかりと歩んでほしいと思います。

ファーストキャリアの重要性

「出会い」は必然。誰と働くかに注目した選択を

マッシュホールディングス 執行役員 秋山 輝之さん

ダイエーで働いて良かったことが、もう一つあります。尊敬する上司との出会いです。ここで出会った人事部門の上司が、私の次のキャリアを開くメンターとなりました。どうやって知らないことを学ぶのか、周囲から信頼を得るにはどうすれば良いのか、テクノロジーを取り入れるにはどうするのか、仕事のやり方をどうやって革新するのか──。そのすべてを上司は自らの仕事で見せてくれました。

また、布団売り場でウロウロしていた自分に目をかけ引き上げてくれて、期待をしてくれたのも、その上司です。何も知らない自分が組織再編のチームに入りたいと手を上げれば、やってみろと任せてくれました。その期待や抜擢が本当にうれしかったですね。

その後、私は独立起業する上司を追ってその企業に加わったので、文字どおり彼は自分のキャリアを引っ張ってくれた恩人です。人との出会いが、私のキャリアを変えました。だからこそキャリアとは、どこで働くかよりも、誰と働くかのほうが重要だと思っています。出会うべき人には、出会うべきときに、出会うべくして出会うものです。その運命を引き寄せ、いつでも受け入れられるよう、心のキャパシティは広く保っておきたいですね。

さらに、ファーストキャリアを選ぶ時、転職する時、パートナーシップの締結やチームを組むときなどは、必ず“人”を見てほしいと思います。まずはそこにいる人に会って、話をしてほしい。誰と働くのかという生身の人間の実感を、キャリア選択のポイントにしてほしいですね。

グローバルな視点を培って

20代はダイエーで学び、30代は上司を追って新たな場所へ飛び込みました。ここではコンサルタントとして、学んだことが広く社会に通用するのかを追究し続けていたような気がします。自分が知っている小売・流通の世界だけではなく、製造業、IT、人材派遣業など、さまざまな業界で組織を作り、ルールを整備し、働き方を練り上げていきました。とにかく一生懸命、それこそ脳に汗をかくほど考え抜き、顧客以上に顧客のことを思う日々でした

そして40代以降、そこで培ったノウハウや知見をグローバルにも展開したいと、海外へも手を伸ばしました。インドに軸足を置いたビジネスにも挑戦しましたね。しかし海外から見る日本企業は、思った以上に元気がなかった。外にいて日本企業を待っているより、日本の内側から海外への展開を後押しできるような活動をしたほうが良いのではないかと考えていたときに、お声がけいただいたのがマッシュホールディングスでした。

秋山さんのキャリア変遷

ジェラートピケやスナイデルなど、マッシュグループの各ブランドが持つ可愛らしさ・柔らかな癒し、一人ひとりの笑顔を生みだすイメージやスタイルは、世界に広めていきたい日本の素晴らしい文化だと思いました。当時インドにいたからこそ、それがいかに独自で素晴らしいか、真価に気づけたのだと思います。

これからの時代は日本国内で完結するビジネスはほとんどなくなっていくでしょう。だからこそ、グローバルな視点・グローバルからの観点を養ってほしいです。機会があれば日本を出て世界に触れてみてください。そこで気づくこと、考えたことは、必ずや新しい時代のキャリアに必要な指針となります。

人生100年。退屈しない生き方を

こうして今にいたるまでのキャリアを振り返ってみると、いろんな偶然や出会いのなかで、波瀾万丈ながらも楽しいときを駆け抜けたと思います。仕事が楽しいなんて、自分達の親世代にとっては信じられない感覚かもしれません。仕事は食べるためのもの、食いっぱぐれないように、しがみついてでも続けるものだと思われていたはずです。

でも、これからの時代は「仕事がなくて食いっぱぐれる」ことは、ほとんどなくなるのではないかと思っています。AI(人工知能)やロボットの普及で仕事が奪われるような予測もされていますが、日本ではそれを上回るスピードで人口が減っています。いつでも人材が求められる状況が続くのではないでしょうか。

さらに人生100年時代はすでに到来しており、より長く働くことが求められるようになるでしょう。だから、仕事を考えるときに気にすべきは、人と競って仕事を奪い合うことではなく、いかに飽きずに楽しくリラックスして働き続けられるかだと思うのです。

秋山さんからのメッセージ

社会に出ること、仕事に就くことにプレッシャーを感じる必要はないと思います。優秀さを誇示して誰かに打ち勝つのではなく、自分を刺激してくれる変化を楽しみながら、自分を退屈させずに働き続けるスタイルを作っていくほうが、時代にフィットするのではないでしょうか。

“意識高い系”を無理に目指す必要はありません。たっぷりと時間をかけて、自分を充実させてくれる仕事や場所を探しながら、人生を長い目で楽しんでください。

秋山さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

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