反骨心を燃やした日々に真の成長がある|立ちはだかった壁に「理想の自分」を映し出せ
リベロ 取締役 事業本部長 楠 武史さん
Takeshi Kusunoki・呉服店、デザイン会社取締役を経て、2010年リベロへ入社。現在は、取締役事業本部長として不動産事業部門、法人事業部門、引越事業部門を管掌。有力企業との連携をはかって質の良いサービスを提供し、更なる拡大を担う
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「つらい」では終わらせない。困難を学びに変えた新卒時代
新卒だった頃の自分を思い返すと、特にやりたいこともなく、まあやるなら営業かな、という視点で就活を始めました。また営業のなかでも売りにくいものを売れるようになれば実力が証明されると思い、最終的に選んだのが呉服店です。面接時に、その会社が自分に対して期待してくれていると感じられたのも、就職の決め手になったように思います。
しかし、世の中そう甘くはなく、厳しい叱責や体育会系の指導が続き、同期は次から次へと辞めていきました。私自身も理不尽だと感じることが多く不満を募らせていましたが、それでもなんとか我慢して勤務していました。そこにあったのは、プライドと意地です。「ここで辞めてしまったら何の収穫もない、ただ会社に使われただけになってしまう」と反骨心を燃やしていました。
そうして過ごしていると、あれほど嫌だったさまざまな慣習や決まりにも慣れていきます。我慢しようと思っていたことが、抵抗なく自然にできるようになったりもしました。それは、一歩引いた視点で考え、利害や損得なども加味して動けるようになったから。社会人としての度量が広がっていくのを感じました。
ほかにも、うまくできない、苦手だから拒絶していたことがあると気づき、つらい経験を乗り越えることが、自分の弱点を見つめるきっかけにもなりましたね。
時代によって、コミュニティによって、そして個人のキャラクターによって、何がつらいのかは違うでしょう。しかし、つらい経験をつらいだけで終わらせてしまうのはもったいないと思います。
もちろん心身が耐えられない場合にはすぐに逃げたほうが良いですが、そうではない場合には、大変な経験からでさえ何かを学び、つかみ取ってほしいですね。
社会に出る=利害ある人間関係を築くこと
最初の会社で苦労を重ねながら学んだもう一つのことは、人間関係です。学生時代までの人間関係は、好き嫌いで決められます。嫌いなら距離を置き、付き合わなければ良いだけのこと。いたってシンプルです。
しかし社会人になると、必要があればどれだけ合わない人とも、人間関係を築かなければなりません。そこには利害があり、損得があり、ときには上下関係もあるでしょう。
好き嫌いを超えて、利害のある人間関係を築くことが、ビジネスの基本です。そのためには相手のチャンネルに合わせたコミュニケーションができるようにならなければなりません。会社に入って最初のうちは「なんでこんな奴と……」という気持ちもありましたが(笑)、まだまだ子どもでしたね。
そりが合わない人とも“仕事上の関係”を作っていくことはできるはずです。コミュニケーションの幅を広げながら、少しずつ人間関係を柔軟に受け入れ、自分にとってベストな環境を作り上げていけるようになると良いと思います。
思考力・発想力はすべてのことを考え抜いてこそ身に付く
呉服店で3年間勤務したのち、もっと世界を広げたいと思い、デザイン系の会社に転職しました。
あれだけ苦労したのだから、すぐに営業で成果が出せるだろうとたかを括っていたのですが、知らないことだらけで力不足を感じる毎日でした。実はそれまで名刺交換もしたことがなく、世間知らずを痛感しながら必死で仕事を覚えましたね。
そこで出会った上司は、「ちゃんと考えろ!」と、毎度口癖のように助言してくる人でした。最初は意味もわかりませんでしたが、次第に自分なりに“考える”とはどういった意味なのかを意識するようになりました。そのうちに、すべての行動や自分の身の回りの状況を、一問一答で問い直す癖がついたのです。
ダメだった本当の理由は何か? ほかの人からはどのようなアドバイスをもらったのか? それは自分がやりたいことなのか? 自分のキャラクター、力量でできることは何か? 自分のどの部分を伸ばせばできるようになるのか? 伸ばすために自分が本当にできることは何か──。常に自問自答です。
この自問自答を重ねるうちに、思考が深くなるだけでなく、考えをまとめるスピードが上がり、発想力も豊かになりました。営業の現場でも臨機応変な対応ができるようになったのです。どのようなときも、まずは自分で考えてみる、限界まで考え尽くしてみることで、あなたの能力はきっと大きく花開きます。
経験は運を引き寄せる。成長を続けて刺激的なキャリアを
その後、デザイン系の会社にいたときに顧客として出会った現リベロの社長から声をかけてもらい、経営陣として当社に参画し現在にいたります。自分が会社の経営に携わるなんて、思ってもみませんでした。小さな経験一つひとつが重なって、運を引き寄せてきたと感じます。
せっかく運の力も借りてここまで来たのだから、この先も恐れずに進んでいきたいですね。守りに入らずに刺激的な経験を続けて、ワクワクしながら働きたいと思っています。
仕事に対する基本的なスタンスは変わりませんが、価値観については経験を重ねるにつれて変化してきたように思います。大きく変わったのは、「自分」から一歩視野を広げられるようになったことですね。
これまではどこかゲーム感覚で仕事を楽しんでいる部分もありましたが、今は自分だけでなくもっと会社と社員たちの成長にかかわりながら働いていきたいと思うようになりました。
そしてこれからも、どこまで行けるのか限界を決めずに、会社や社員とともに成長しながら行けるところまで進んでいくのが目標です。これから社会に出る皆さんにも、挑戦を恐れず、刺激を楽しみ、運をつかみ取ってキャリアを進めていってほしいと思います。
自律性と柔軟性が評価につながる
刺激を楽しみながらもキャリアを切り開いていくのに、大切なことは2つあると思っています。一つは自律していること。目の前の簡単な結果や、甘い誘惑に流されない。そういった、自分に対しての誠実さが大切です。
もう一つは柔軟であること。経験する前にイエス・ノーを判断するのは早計です。また、仕事というものは非常に複雑で微妙なものなので、すぐに判断できないケースも多々あります。
まずは状況を理解し、相手を受け入れ、手をつけてみる。拒絶や決めつけをせずに、とりあえず少しずつ進んでみる姿勢が大切だと思います。
自律した行動と物事への柔軟性があれば、どんな壁も乗り越えていけるはず。着実に壁を乗り越えていく人は、評価も得られます。自分からやってみる、決めつけずにやってみる。まずはこの2つを意識してみましょう。
答えを決めるのは自分の心。情報に踊らされない芯ある選択をしよう
多くの情報が溢れる現代でキャリアを築いていくうえでは、得た情報の扱い方にも注意が必要です。どこから発信されているのかもわからない、不特定多数のデータに踊らされているばかりでは、自分の道を歩めません。
まず、情報というのは、あくまでも誰かの主観によって作られたものであることを忘れないでください。「こうあるべき」という規範も他者の価値観を基準とした物差しでしかなく、「これが得」というデータも自分にとって得ではない場合もあるわけです。そうした大量の情報に晒され続けると、一体自分にとって何が大切なのかがわからなくなります。
だからこそ、ときには情報をシャットアウトして、自分にとって何が大切なのか、人生をどんなものにしたいのかを自分自身と相談する必要があります。
これからの道に迷うとき、お手軽な情報に救いを求めてしまうこともあるでしょう。しかしそこに本質的な答えはありません。自分にとって良いのか悪いのかは、自分の心しか知り得ないのです。
壁に突き当たったときはもちろん、何かを選択するときやふとした瞬間にも、自分と向き合い自問自答をしてみてください。そこから導き出した答えが示す方向へ、あなたにしか歩めない素敵なキャリアを切り開いてほしいと思います。
取材・執筆:鈴木満優子