「徹底」が逆境を乗り越えさせる|挑戦×インプットで時代が求める人になろう
Def consulting 代表取締役 下村 優太さん
Yuta Shimomura・大学卒業後、三井住友銀行に入行。富裕層向けのリテール営業に9年、国内営業拠点の統括業務に2年従事。その後社内公募により海外事業部に挑戦し、PMI業務を経験。2021年6月にDef consultingに入社し、経営企画部長に就任。2023年3月から現職
徹底してやり切れば、自ずと道は開かれる
これまでのキャリアを振り返って思うのは、「やり抜いた先に道が開けた」という共通点です。悩んだときも、迷ったときも、常にこの指針をもってくぐり抜けてきました。
就職活動をはじめたてのころは、特別何かやりたいことがあるわけではありませんでした。まずはいろいろ見てみようと、インフラ、コンサル、不動産など、とにかくジャンル問わずさまざまな分野を見ていましたね。服が好きだったり、父が百貨店勤務だったりしたので、百貨店を見ていた時期もあったくらいです。そしていろいろな角度から自己分析を重ねた結果、人一倍「人の役に立ちたい」「人と深くかかわっていきたい」という気持ちが強いことがわかりました。
そこに気づいたあとは、「広く人の役に立てる仕事か」「人と深くかかわれるか」という軸を持って就職活動に臨んでいましたね。そんなとき、ひょんなことから大学で地方銀行の説明会を聞く機会を得ました。もともと銀行に興味はなかったのですが、話を聞くうちに「銀行っておもしろいじゃん!」とピンと来たんです。人と深くかかわりつつ、直接的に顧客の役にも立てる点も一つの決め手でしたね。こうした魅力に気づけたのも、自己分析をやり抜いて自分のなかの「軸」をはっきりとさせていたからだと思います。結果としてやりたいことが一番実現できそうな三井住友銀行に就職することができました。
振り返ってみれば、自分の就職活動においては自己分析の徹底が道を切り開くことにつながったと感じます。「自己分析をやっても自分のことなんかよくわからない」という人もいるかもしれませんが、そういったときはまず徹底的にやり切ることを意識してほしいと思いますね。
とくに、自己分析は「なぜ」を繰り返すことが重要だと思います。自分は何に興味があって、何が嫌で、何をやりがいとするのか。そういったことを一つひとつ原体験に遡って考え抜く。それも1回きりではなく、何度も「なぜ」を掘り下げていくことが自分を深く理解することにつながると思います。就活の第一歩として、まずはここに本気で取り組んでみてください。
前例、なし。語学力、なし。逆境でも結果を出せた理由
銀行に入行したあとは、しばらく富裕層向けのリテール営業をしていました。今振り返ってみても、この時期は本当に楽しかった記憶があります。忙しくも充実した日々が続き、「これが天職だ」とさえ感じていたほどです。そんなある日、社内でリテール向けの海外事業部が立ち上がるという話を聞いて、挑戦してみることに決めました。当時の仕事も本当に楽しかったのですが、もともと新しいことにチャレンジしたいという気持ちが強くあったんですよね。だからこそ「海外」という選択肢は常に意識していて、そんななかでの海外事業部立ち上げの社内公募。これはチャンスだと思いました。
今考えてみても大きな挑戦ではあったと思います。社内転職と言ってもいいほど環境が丸ごと変わりますし、まず前例がない。何から取り組めば良いのかさえわからない手探り状態からのスタートでした。
海外事業部という環境だからこそ、英語にも苦しんだ記憶があります。もともと自分の幅を広げることを意識して英会話教室に通ってはいたのですが、周りは帰国子女や海外赴任からの帰国組ばかりで英語はペラペラ。自分だけ英語が流暢でない状態だったので、コミュニケーション一つとっても苦労しました。この時期はなかなかバリューを発揮できない、頑張りたいけどどう頑張れば良いのかわからない、と思い悩んでいましたね。でも、今この環境は自ら手を上げて与えてもらったものだからこそ、それに応える仕事をしたい──。その思いだけはブレずにもっていました。「覚悟」とも言い換えられるかもしれません。
これは自身の体験をふまえたうえでの学びですが、暗闇を手探りで進むようなつらい状況に立ったときこそ、とにかく今できることを精一杯やりきる。この一点に集中することが大切だと思います。真面目に取り組んでいれば絶対に誰か見てくれていますから。自身も定常業務に加えて、たとえば新人のころであれば机を拭くとか、コピーの紙を補充するとか、周りの上司や同僚が働きやすくするためには何をしたらいいかということを先回りで考えて動いていました。小さなことでもできることには全力を尽くしていたんです。
一見つまらないように見える仕事でも、地道にやっていけば上司からは「気が利くな」と思ってもらえるかもしれません。すると、自然と仕事を任せてもらえるようになるんです。社内で気遣いができる人なら客先でも必ずできますからね。こいつなら客先に連れていっても大丈夫だ、そう思ってもらえるんです。実際にこういった積み重ねがあったからこそ、周りとの信頼関係の構築につながり、仕事の楽しさ、やりやすさにつながった点は確かにあります。つらい状況でも腐らずに今できることをちゃんとやる。そういった心掛けが何より重要なんだと思います。
キャリアに何の不満もない。それでも新たな道を選んだ
充実しつつも忙しく過ごしていたある日、大学時代の友人から「社長をやるから右腕をやってくれないか」という話を受けました。突然の話に驚いたのが本音で、まったく想定していなかったキャリアの選択肢が開けたことへの戸惑いが強かったですね。当時は海外赴任などいろいろなチャレンジをさせてもらっていましたし、「銀行をやめる」なんて選択肢は頭の片隅にもなかったので。
それでも新しい道を選んだのには2つの理由がありました。一つは、仕事の先が見えてきてしまっていたということ。もう一つは「自分自身に価値を持ちたい」という思いを抱いていたことです。
「キャリアのゴールが見えてきてしまう」。これは銀行に限らず大企業ではよくある話かと思いますが、本部でこういう仕事をしたら次は支店長になって、支店をいくつかまとめるエリア統括になって、最終的には執行役員や部門の長を目指していく……というように、会社での仕事はある程度やると「その先のルート」がなんとなく見えてくるものです。もちろんそういうルートを辿るだけでも大変ですし、そのキャリアだからこそのやりがいや魅力は十分あります。
でも、人生は一度きりだからこそ、せっかくならやりたいことに挑戦してみたい。個人的な意見ですが、「見えているゴールほどつまらないものはない」とさえも思っています。先の見えるキャリアを歩み続けていくより、未知に向かって新しい挑戦をしてみたいと考えたんです。
二つ目の理由として挙げた「自分自身に価値を持ちたい」という思いは、もともと抱いていたことに加えて、銀行という整備された環境に身を置いたからこそという面もあります。
たとえば新たなビジネスをしようと考えたとき、大企業ではなんでもある程度のものが揃った状態からスタートできます。でも、そういった大企業の整った環境や会社としての看板を全部取り除いて何もなくなったときに、「いったい自分に何ができるんだろう」と思ったんです。本当に悩みましたが、ここでも徹底的に自分の思いを深く掘り下げて考えた末に、何の不満もなかった銀行の道を離れて、新しい道に挑戦してみることに決めました。
キャリア選択は誰しもが悩むもの。ましてファーストキャリアともなればなおさらです。就活生のみなさんも、きっと進路について悩む場面は多くあると思います。そういったときは、自分が何を大事にしたいのかをじっくり考えてみてください。ワークライフバランスなのか、給料なのか、やりがいなのか。それは人それぞれですし、成長とともに変わっていく場合もあるでしょう。そうだとしても、自分なりの目標を考えることはやはり大事です。
思ったとおりにならなくても良い。変わっていっても良い。「今の段階での理想」をしっかり考えて、それに照らし合わせたときに、どの道を選んだら目標が実現可能なのか逆算しながら選択をしてみてください。それが結果的に自分の理想を実現する足掛かりになります。
判断軸を養って自分から行動できる人になろう
昨今の時代の変化の速さを見るに、今後は慣習に従うだけでなく先回りして考え行動することが重要になってくると考えています。変化が激しいぶんこれまでの考え方やマニュアルが通用しなくなってきていますからね。自分の頭で考え、自分から行動できる人の価値はますます高まっていくでしょう。
そんな変化の激しい時代だからこそという面もありますが、むしろ最近は自分のスタンスをはっきりさせない人も多いように感じています。なんとなく言われるがままに流されてしまったり、本当は違う意見であっても上司から何か言われたら「そうですね」と意見を変えてしまったり。ただ、流されるままの人についていきたいと思う人はいません。「自分はこう思う」という確固たる意思表示をしてはじめて、ついていきたい、一緒に働きたいと思ってもらえるのではないでしょうか。人から信頼を得るためには確固たる信念が必要です。これからのみなさんには、自分ならこうする、という自発的な考えを持つことを意識して取り組んでほしいなと思いますね。
そして、自発的な考えを持つためには、学生のうちからいろいろなことにアンテナを張ってたくさん情報収集していくのが大切だと思います。知らないことは判断もできませんから。たとえるならば料理と一緒で、いくら料理を作りたくても材料がなければできませんよね。自分なりの意見(=料理)をつくるには、まずは情報(=材料)がないと考えることができないのと同じです。
情報の仕入れ方はなんでも良いと思います。人と会って話を聞くのでも良いし、インターネットで探すのでも良いでしょう。ただ、インターネットが発達した現代だからこそ、「本を読むこと」は疎かにしない方が良いかもしれません。インターネットはある程度自分が知りたい情報しか入ってこないようになっています。でも本だと、ある程度網羅的で、かつ自分にとってはそこまで必要でない情報まで勝手に入ってくる。だからこそ視野を広げることができるんです。
どういった手段にせよ、とにかくいろいろな角度からたくさん情報を仕入れてアップデートする。そしてたくさんの情報をもとにして自分の判断軸を作っていく。そういったことを積み重ねていけば、これから求められる「自分の意見を持ち、先回りして考え、行動できる人」に近づいていけると思います。
一度きりの人生、臆さず何でも挑戦しよう
銀行を卒業して未知のキャリアという大きな海に出たとき、まったく知らなかった考えを知ったり、想定外の出来事をたくさん経験したりしました。いかに自分が小さな世界のなかで仕事をしていたかを痛感しましたね。思い切って挑戦して経験を積んでいかなければ、世間という荒波は乗り切れないなと心の底から思い知りました。
だからこそ、これから社会に羽ばたいていくみなさんには自分の可能性を自分で否定せず、何でも挑戦してみてほしいです。失敗を経験せずある程度高いところまで登ってしまうと、失敗するのが怖くてだんだん挑戦ができなくなってしまいます。でも若ければいくらでもチャンスはありますし、失敗しても許してもらえます。怖くて踏み出せなくて小さく縮こまってしまうくらいなら、たくさん失敗してでも高みを目指して行ってほしいなと思いますね。
たとえば就職活動の際も、やりたいことが明確になっているのであればその業界の最高峰を狙う気持ちで頑張ってみてください。最初から自分には無理だと諦めるのではなく、挑戦する心を忘れずにチャレンジしてみてほしいです。
そして最後に、一度これだと思って挑戦してみたことには、粘り強く取り組んでほしいと思います。もちろんどうしてもつらい場合はその場を離れる選択肢を取ることも必要ですが、自分がよく考えて選んだ道なら、多少つらくてもすぐに諦めず向き合おうとする姿勢が大切です。人生最初からうまくいくわけがないのですから、焦らずじっくり取り組んで行ってほしいですね。諦めさえしなければきっと光は見えてきます。一度きりの人生、後悔しないように目一杯挑戦を重ねていってください。
取材:小林 駿平
執筆:久保 鞠奈