掛け算で成長できる社会はおもしろい|「ナイストライ」を認め合う仲間と進もう
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NEXYZ.Group 代表取締役社長 兼 グループ代表 近藤 太香巳さん
Takami Kondo・2度の高校中退を経験し、18歳で訪問販売会社に就職。営業でナンバーワンになり、19歳で起業。「テルミーシステム」を開発し、それを携帯電話に導入してヒットを生んだのをきっかけに東京へ進出。その後2004年に当時最年少の創業社長として上場し、以降現職
はじまりは2度の高校中退。積み重ねた「小さな活躍」が今につながる
学生時代を振り返ってみると、どの角度から見ても真面目とは言えない生活を送っていました。
勉強が嫌いで高校を2度中退し、その後アルバイトを始めて購入した車も納車後17時間で事故を起こして廃車に。手元に残った220万の借金を親に払わせて、自分は家に引きこもり──。そんな生活をしていたので、褒められた経験もほとんどありません。
社会復帰のきっかけとなったのも、求人情報誌で偶然目にした「平均給料40万円以上」の謳い文句で、「もう一度車が買える」という思いから就職しました。
ここまでを見ると、社長という今の肩書が嘘のようですよね。もちろん、当時は自分自身でも将来社長として1,000人以上の会社を経営しているとは思いもしませんでした。
人生の軌道を変えていったのは、その平均給料40万円以上と称する会社での経験です。そこで社会人としてできることを少しずつ増やして、小さいながらも「活躍する」という経験を積んだことが今のキャリアにつながっていきました。

働くことがおもしろいと思えるようになり、社会人を楽しめるようになってくると、次第に目標だった車のことなどどうでも良くなっていきました。それはひとえに、自分が成長したからだったのでしょう。必死に働き、一つずつできることを増やし、活躍の場を広げていったことで、働く意味が変わっていったのです。
そのような経験を経た今だからこそ言えるのは、社会人としてスタートを切るときに、必ずしも大きな夢や志を持っている必要はないということ。今できることに精一杯向き合っていけば、いつの間にか力がついてくるものだと思っています。
ここからは、そんな底辺を見てきた私がいかにして社会人としての楽しさ、おもしろさを知り、大きな夢を持って前進して来れたのかをお話します。
夢は車から上場へ。世界の見え方を変えた賞賛の力
最初に入社した会社では、今の時代では考えられないほどのハードワークをこなす日々でした。
営業の部署に配属されたのですが、蓋を開けてみれば給料は完全歩合制。入社のきっかけになった「40万」はあくまで理想的な給料であり、契約が取れなければ収入はありません。
訪問販売として朝8時から会社を飛び出し、1日に100件もの住宅を訪れるも一つも契約が取れない日々。上司からは「契約が取れるまで帰ってくるな」と言われ、そのような激務のなかで50人いた同期のうち48人が辞めていきました。それでも仕事に食らいついていたのは、「どうせ辞めるなら、納得するまでやりきりたい」という意地があったからです。
そのような日々を変えるスイッチとなったのは、初めて成約にこぎ着けた日の出来事です。1件の契約書を携えて帰社したところ、私を出迎えたのは大勢の拍手。「近藤、やったな!」その言葉に、当時は強い衝撃を受けました。何せ学生時代に褒められた経験など一度もなかったので、誰かに褒められ、認められ、拍手を贈られる。それがこんなにもうれしいことだと知ったのは、そのときが初めてでした。
その経験が糧となり、小さな活躍を積み重ねていくようになりました。気づけば18歳にしてナンバーワンの営業マンになっており、その辺りから人生が楽しいと思えるようになっていきましたね。
最初はむやみやたらに営業をして、量をこなすばかりでしたが、そのような時間を過ごしているうちにだんだんとできることは増えていきます。できることが増えれば視野が広がり、次第に夢も広がっていきます。自分の場合も、スタートは車を買うことでした。それが会社を立ち上げたことで上場に変わり、今ではもっと大きな夢を持っています。
ここまで歩いて来れたのは、どのような形であれ「頑張りたい」という気持ちを持ち続けることができたからで、その気持ちを枯らすことなく育てていけたのは周りにいた人のおかげです。これから社会に出る皆さんにも、ぜひ「頑張りたい」という気持ちを育てていける土壌があり、それを花開かせることができる環境を見つけてほしいと思っています。
そのために、自分に徹底的に期待してくれて、活躍のステージを用意してくれる会社を探してみてください。賞賛の文化があり、先輩や上司が熱を持って、心を込めて指導してくれる。そのような環境が理想です。

ファーストキャリアを選ぶ際には、面接やインターンシップ、OB・OG訪問などあらゆる手を使って、その会社で働く人と会う機会を増やしてください。そこにいるのは単なる「会社の人」ではなく、未来の自分です。仕事に対してどのような思いを抱いているか、目に輝きはあるかをしっかりと見定め、「こうありたい」と思える人が居る会社を選ぶのが良いでしょう。
あとは頑張る気持ちさえあれば、なんでもできるようになるはずです。学生のうちから多くの社会人と会い、彼らが働いている姿を見てください。その姿に理想の自分を見出すことができれば、きっと社会人生活は充実したものになるはずです。
最高のパフォーマンスは「認め合う文化」から生まれる
1社目の会社である程度の成績を残した後、父親の勧めでこれまで培った営業のノウハウを活かし、会社を立ち上げることになりました。
とは言え一人で会社を運営することはできないため求人広告を出したところ、集まったのは営業に関する知識はおろか、ろくに社会にも出たことのないような数人の若者たち。当時20歳だった自分とそう年齢も変わらず、仕事に関してまったくの白紙の状態から何もかもを教えていかなければなりませんでした。
しかし、彼らには「頑張る気持ち」があったのです。営業の何たるかを伝える傍ら、とことん語り合い、徹底的に議論をし、夢を共有しました。次第に彼らの気持ちにもエンジンがかかり、仲間が成長していくごとに会社も成長していき、営業成績を飛躍的に伸ばして業界内でも頭角を現すようになっていきます。
この経験から学んだのは、夢を分かち合った仲間は、何にも代えがたい財産になるということ。彼らの存在は自分の頑張る理由になり、だからこそどんなに苦しい局面であっても自分に再度エンジンをかける燃料となりました。
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今振り返っても最も彼らに支えられたと感じるのが、会社を立ち上げた後に長らく抱いていた上場の夢が潰えたことです。ベンチャーブームで世の中にたくさんの会社ができていくなか、自社の上場が決定した知らせを受けました。社員と手を取り合って喜び、あとは上場の日が来るまでのカウントダウンをするだけという時、ITバブルの崩壊を契機に上場の話が取り消されてしまったのです。
どんなに営業成績を上げていても「IT企業」というだけで風当たりが強くなる時代でした。このときほどどん底にあると感じたことはありませんでしたし、倒産がすぐそこにまで迫っているなかで心が完全に折れていましたね。そこに行く先を示してくれたのが、これまで苦楽を共にしてきた仲間の存在でした。
世間では「この会社も終わり」と言われるなか、彼らは「世間の声と社長のどちらを信じるのか!?」と強い気持ちを持ち続けていたのです。仲間がそんなにも情熱を抱いているのに、自分が腐っているわけにはいかない。そう思い立ち、再スタートを切ることができました。
そのように社員が一丸となって努力していけるのは、会社の規模が数十人と小さいからだと言われることもありました。けれど、私はそうは思いません。1000人以上の社員を抱える今でも一人ひとりと語り合う時間を大切にしており、だからこそ全員が同じ方向を向いて、互いを認め合いながら、賞賛し合いながら働いていけるのだと思っています。
この点においては、1社目での経験が如実に活きていると思いますね。人は賞賛されることで、最高のパフォーマンスが発揮できるようになる。自分自身がその経験をしたからこそ、会社の規模に関係なく、互いに認め合う文化が醸成されれば、全員で同じゴールを見すえて一致団結していくことは可能だと思っています。

それこそ、新人時代は10個提案しても9個は通らない、なんてことがざらにあると思います。しかしそのうちの1個でも通ったなら、残りの9個はナイストライと言えるわけです。そのようにあなたを認めてくれる会社を見つけられると良いと思います。
そしてあなた自身も、「自分が相手の立場ならどうか」を常に考えてみてください。成功した時、壁を乗り越えた時、「おめでとう」の一言を言ってくれる存在がいるかどうかで、モチベーションは大きく変わるはずです。周囲の人が成功を収めたときには、手が痛くなるほどの拍手を贈れる人であってほしいと思います。お互いにそう思いながら接していくことで、その会社全体が最高のパフォーマンスを発揮できる環境になるはずです。
成長曲線を押し上げるカギは「理想の自分との一体化」
どんなに認め合う文化が醸成されていても、なんらかの成果を出さなければ賞賛してもらうことはできません。そこで皆さんに覚えておいてほしいのは、成長には「演じる」という要素も必要であるということです。
この考えにいたったのは、起業した当時でした。ほかに若くして起業をしているような、いわばモデルケースになる人が近くにいなかったため、アニメをお手本にすることにしたのです。物語で焦点を当てられるような、かっこいい登場人物が持っている魅力は何かを徹底的に考えました。
そこで見出したのが「有言実行」「逆境に強い」「必殺技がある」の3つの要素。そして自分自身にそれを当てはめ、徹底的に演じていくことを決めました。演じているとだんだんそれが板に付いてきて、自分にとっての当たり前になり、少しずつ一体化していきます。今では私も、演じているのか本当の自分なのかわからなくなっていますね(笑)。言ってしまえば、目標・理想としていた姿に限りなく近づいている状態でもあるのだと思います。
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ここで演じる自分は、何をモデルにしても構いません。私の場合はアニメの登場人物でしたが、著名人や素敵な上司・先輩でも良いのです。とにかく「こうありたい」と思える人を徹底的に演じ、限りなく近づくために、その人以上の努力をすることが大切です。
そうしているうちに、少しずつ小さなことで活躍する経験が積み重なっていきますよね。活躍する、つまり「勝ち」のパターンを経験していくと、次第に勝ち癖がつき、勝ったときの喜びを知る機会が増えます。
勝ちの喜びというのは、大きな原動力になるものです。その喜びを味わうために努力を惜しまなくなり、ますます成長し、また勝ちを得る。このサイクルを見出すことができれば、人はどこまでも成長していきます。仮に人よりスタートが遅く、実力がない状態から始まったとしても、最後に成功しているのはそういう人なんですよね。
現状維持は退化。掛け算で学び成長する社会人のあり方
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これから社会に出る皆さんの前には、たくさんの不安が転がっているでしょう。そのような人へ向けて胸を張って言えるのは「社会はおもしろい!」ということです。
これまでの学生時代は、足し算で成長していく環境にあったと思います。年数を重ねれば自然と学年が上がるなかで、10を学べばそのまま10が自分の知識のなかに貯えられていく。そうして一つひとつ地道に学びを積み重ねてきたのではないでしょうか。
しかし、社会人は掛け算です。同じ10と10の知識があったとしても、自分の受け取り方、考え方や行動次第で10+10ではなく100になる可能性を秘めています。また学生のときとは違って教科書がない代わりに、学びの方向性を自分で決め、自分で道を切り拓いていける環境があり、どのような行動をとるかでどんどん掛け算の積を大きくしていくことができるのです。
私は常に、今が一番ワクワクしています。過去ありきで今があるわけですが、その過去に戻りたいと思ったことは一度もありません。皆さんにも、ぜひそう思える「社会」を存分に味わってほしいと思います。
そのためには、やはり仲間の存在が必要不可欠です。どんなに学びが深まったとしても、仲間がいないとつまらないでしょう。だからこそ、社会人としての一歩をふみ出すときには、人に注目してファーストキャリアを決めることを意識してみてください。
「社会」というおもしろい環境と、会社という自分を認めてくれるステージ、そして信頼できる仲間。これらがあれば、未来に対して恐れることは一つもありません。人生はあなた次第で、今の何倍も楽しくなります。ぜひ思う存分学び、挑戦して、「今が一番楽しい」と思える人生を歩んでいってください。
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取材・執筆:瀧ヶ平史織