起業家を目指すなら一社目の選択は重要。責任を持って取り組む経験が「社会的責任を果たすキャリア」につながる

ガイアックス 代表執行役社長 上田 祐司さん

ガイアックス 代表執行役社長 上田 祐司さん

Yuji Ueda・1974年大阪府生まれ、1997年同志社大学経済学部卒業。大学卒業後は起業を見すえながら、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。1年半後に同社を退社し、1999年にガイアックスを設立して以降、現職。2016年には一般社団法人シェアリングエコノミー協会を立ち上げ、以降は代表理事も務める

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キャリア選択の基準は「起業」。独立後のスケール感を定めた1社目

起業の志を明確に持ったのは、大学時代です。高校1年生から大学にかけては、仕事を通じていろいろなことを学ぶのが楽しく、ひたすらアルバイト漬けの生活をしていました。20〜30種類の仕事を経験し、その過程で起業への志が明確になっていきました。

雇われる形のアルバイトだけでなく、英会話教材の販売など「何個売れたらいくらになる」といった成果報酬型のアルバイトも経験しましたし、個人事業主のような形で、自分でハンバーガーの屋台を開業してみたこともあります。いろいろな立場をやってみた結果、自分でアイデアを出せる、決定権のある環境で働くのが良さそうだな、という適性を見出していきました

当時はインターン(インターンシップ)をやっている会社がほとんどない時代でしたが、アルバイトが十分な社会勉強になったように思います。起業の準備としての一社目を探すための、一般的な就職活動に取り組みました。いわゆる就職氷河期で、今のようにインターネットで会社の情報を集めることが難しい時代でしたが、自分なりに情報収集と自己分析をおこない、システム会社やキャリアコンサルティング会社など複数社から内定をいただきました。

小学生の頃にプログラミングにハマった時期があり、システム会社なども選択肢に入れていたのですが、最終的に経営情報サービスを手掛けるコンサル会社に入ろうと決めたのは、「独立予定の人しか採用しない」というポリシーを掲げている点に心ひかれたからです。

当時の同社は株式上場を果たしたばかりで、会社として非常に勢いのある時期でした。飲食業界を中心にさまざまな会社をクライアントに持ち、10名程度だった顧客企業をたった数年で上場企業にまで成長させていく、そんなシーンを次々と見ることができました。私が入った会社はすでに事業を畳んでいるのですが、クライアント企業はいずれも超大手の飲食チェーンとなり、現在も事業を続けています。

こうした経験を経て「自分も起業するなら、インパクトの大きいことをしよう」と決意。独立後に自分が作りたい会社の規模感が見えた、という点で、一社目での経験がキャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかと思います。

上田さんのキャリアにおけるターニングポイント

スタートアップ見極めの極意は「社員10名に会うこと」

ファーストキャリアは、将来の起業に必要な経験を積む絶好の環境でした。

それをふまえ、私と同じように独立の志を持ちつつ就職活動に取り組んでいる学生の人に、会社選びについてアドバイスできることはいくつかあります。

まず見るべきは、「その会社ではどんな仕事ができるのか、それによって自分に事業を立ち上げるためのスキルがつきそうか」という点です。起業する気がある人の場合、自分に100%フィットすると感じられるような会社は十中八九ないと思うので、社風などはあまり気にせず、この一点のみで絞って良いと思います。

起業の準備をしようと思うとスタートアップに目を向ける人も多いと思いますが、スタートアップに入りさえすれば独立に必要なスキルが身に付く、というわけではありません。

スタートアップは玉石混交です。「伸びている会社だから良い」「事業内容が魅力的だから良い」といった単純な話ではありません。先々成功しそうな見込みのあるスタートアップを探すには、社内にいる人を見ていくのがおすすめです。 

ただし「社長がすごいから、この人のもとで働きたい!」と即決しないほうが良いでしょう。私は1社目に在職中、トータルで1,000人近い社長と会いましたが、どんな会社でも、社長は優秀なケースが多いです。まだ社会人経験のない学生の目線から見れば、大概の社長は「この人すごい、仕事ができる!」と思ってしまうと思います。

社長がすごいと思ったら、あるいは「本気で入社したい」と思える会社が見つかったら、最終決定をする前に、社員10人くらいには会ってみてください。社長以外にも1〜2人はすごいと思える人がいると思いますが、5〜10人の社員をすごいと思える会社であれば、そこはかなり良質な人材のそろったスタートアップである確率が高いです。そういった会社は多くないので、インターンなども利用しながら見極めていくと良いと思います。

会社の規模については、あまり気にしなくて良いでしょう。会う社員会う社員がすごいなと思えて、しかもその会社がまだ創業期で“最初の10人”になれるならば、むしろラッキーです。すでに多くの社員数を抱えるメガベンチャーになっていると、起業のために必要なスキルや経験値はむしろ得にくいと思います。

「社会はどうあるべきか」を常に考え世の中を巻き込んでいくことに注力

起業のタイミングは、思いがけず早くやってきました。同期のなかでも飛び抜けて優秀だった女性と食事をしているときに、何気なく「いつか一緒に事業をやろうよ」と声をかけたところ、その翌日に彼女が退職届を出していたのです。自分から誘った話なので、彼女の決断のスピード感に発奮される形で、私も退社を決意しました。

そして退職後まもなく当社ガイアックスを設立。24歳のタイミングでした。資金を調達し、人を雇い、自力でビジネスをやる大変さはもちろんありましたが、だからこそ夢中になれたようにも思います。自分が言い出しっぺになって、従業員、お客様、取引先などすべてのステークホルダーを巻き込んでいるわけですから、何が何でもビジョンや目標を実現するぞという気持ちは強かったですね

若いうちから普通の会社では見られないような景色をたくさん見ることができたという点で、起業はキャリアにおける2つ目のターニングポイントでした。

事業を立ち上げるということは、すなわち何もないところから「これをやる!」と自分が言い出しっぺになり、多くの人を仲間に迎え入れ、社会にも風やムーブメントを起こしながら実現を目指していくということ。このように人や世の中を巻き込んでいくという視点を養えたことも、一社目で得られた財産です。この視点は普通に仕事をしていて自然に養えるものではないので、やはり独立の志がある人にとって、ファーストキャリア選びは非常に重要だと思います。

起業には「人や社会を巻き込む力」が必要

世の中を巻き込んでいくためには、「社会課題を解決するぞ」という気持ちの強さも必要です。社会はどうあるべきかを考え、そのために必要なことを真面目にやろう、と思えるかどうか。自分のことはさておき、社会のことが頭の中の半分を占めている状態で生活できるかどうか。この感覚になれる人だけが、事業を立ち上げられるのだと思います。

目標は壮大であれ。「将来に向けてあるべき姿」を考え続けるキャリアを

ガイアックス 代表執行役社長 上田 祐司さん

キャリアビジョンを考える際には、将来に向けてあるべき姿だけを考え、それを判断基準にすべきだと思います。人はついつい自分視点や現状から物事を見てしまいますが、意思決定において「自分の能力がこうだから」「今あるものはこれだから」といった目線で考える必要はありません。今の自分や今の価値観で考えればあり得ないのだけれど……と思うような壮大なビジョンを目標に設定して構わないのです

学生時代は大きな夢を描くことができても、社会に出ると現実的になり、志が萎んでいってしまう人は少なくありません。当社が3カ月に一度、目標設定・評価制度として「マイルストーンセッション」というプログラムをおこなっているのも、社員たちが自分のやりたいことや夢を常に見つめ直しながら、志を忘れずにキャリアを歩んでほしいという思いからです。

昔より夢や目標が小さくなっていると感じる社員がいたら、「その夢って本当に不可能なことなの?」と問いかけるようにしています。「どういうレベルで、起業をやりたいと思っているのか」をたずね、「理想の理想を言えば、こんなことがやってみたい」という答えが返ってきたら、「足元を気にせずにやると決めてしまえば良いんじゃない?」「世の中で会社を興して上場企業に育てている人は実際たくさんいるよね。やろうと思えばできるんじゃない?」なんてことを常々話しています。

上田さんからのアドバイス

キャリアにおいて壁や障害を感じるときは、自分をいったん脇に置いて考えてみるのがおすすめです。直面している現実から意識を外して「客観的に見て今、何をすべき状況なのか?」を整理して、箇条書きで書き出してみてください。

自分という人間のままでリストアップしようとすると、「嫌だな、やりたくないな」「自分にできるか自信がない」といった気持ちが思考の邪魔をします。そうならないよう、自分のアドバイザーのような立場から考えることが肝心です

リストを書き出したら自分に戻り、そのリストを一つひとつ潰していけば良いだけです。「この目標を達成するためには必要なことだから、嫌でもやらなくてはな」と自分を発奮させることができ、壁を超えていけると思います。

壁にぶつかったら「第二の自分」から見つめてみよう

将来性を感じるのはソーシャルインパクトや新しい組織のあり方を意識している会社

キャリアにおける3つ目のターニングポイントは、2016年に一般社団法人シェアリングエコノミー協会を立ち上げたことです。

それまでは民間企業の方々とかかわりを持ちながら、Webサービスを中心とした個別の案件を追いかけていましたが、本協会を立ち上げてからは地方自治体やNPO法人の方々ともかかわるようになり、視野が大きく広がりました。政策提言などもおこなう立場になり、政治や選挙、法律についても考える時間が多くなりましたね。以前よりも「社会はどう変わっていくべきか」を考える機会や時間が増えています

本協会では「Co-Society 〜シェア(共助・共有・共創)による持続可能な共生社会〜」というメッセージをビジョンに掲げています。今ある資本主義は早々に限界が来る可能性が高く、新たな社会や経済のシステムが必要になる、というのが私たちの考えです。

今ある世の中の価値観を少しでも変えることを重視して活動しているので、「自分たちのサービスで社会的なインパクトを与えられている」と感じられる瞬間や、そのサービスの裏側にある自分たちのメッセージを「少しでも人々に普及・浸透させられている」と思える瞬間に、一番の充実感があります。

会社の将来性を考えて就職活動をするならば、ソーシャルインパクト(ビジネスや個々の活動をとおして社会や環境に与える影響・効果のこと)について考えている会社を選ぶということも、重要な視点かもしれません。あくまで私の考えですが、そういった会社でなければ、これからの時代に長く生き残っていけないのではないかと思いますね。

「社会課題の解決」をそもそも事業の目的とするような会社も出てきており、そうした新しい考えにも共感を示している会社かどうかは、今後のビジョンや社長メッセージなどを見ればある程度は読み取れると思います。

資本主義が崩れつつある今この時点から、自社の利益が増えた分だけ、他社の損失が生まれるようなビジネスをして、自社の売上・利益の最大化だけをとことん目指すような従来型の会社を選ぶのは、個人的にはあまりおすすめしません。

また、特定のリーダーが存在せず、各プレイヤーがフラットにかかわりあっていく「DAO(ダオ/自律分散型組織)」などの概念も広がっており、未来に向けて新しい組織のあり方を目指している会社にも注目して見ると良いと思います

責任を持って取り組む経験を一つでも多くしておこう

起業から25年が経ち、ガイアックスはおかげさまで数多くの上場企業経営者を輩出する会社に成長しました。社員たちが事業を立ち上げる力を養えるよう、意思決定が当たり前にでき、責任を持って挑戦して多くのことを学べる環境を整えているつもりです。事業を立ち上げたいという思いがある人には、その環境がある会社として注目してもらえたらうれしいですね。

10年前からは、全社員が自らの意思で事業を立ち上げて法人化できる「カーブアウトオプション制度」を運用しており、この制度の存在も社員たちのモチベーションの後押しとなっていると思います。ただ「起業したい」ではなく「社会的責任を負って、ちゃんと社会を良くできるような大きなビジネスをやっていこう」という考えの社員も加速度的に増えている印象があり、今後も上場企業の経営者をどんどん世に送り出していくことが、今後のキャリアにおけるビジョンです

学生のうちからそのような当事者意識を持つことができる、一つでも多く責任を持って物事に取り組む経験をしておくことをおすすめします。アルバイトのリーダーやサークルの部長、イベントの責任者でもなんでも構わないので、そういう経験を自分からどんどん取りに行ってみてください。人や社会に対する責任を自ら背負ってチャレンジができる人だけが、大きな志をかなえられると思います。

上田さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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