自分を知ることがキャリアのスタート|就職の前提から疑い、選択肢の幅を広げていこう
オープラン 代表取締役社長 大原 文華さん
Bunka Ohara・幼少期をアジア各地で過ごし、中学時代から日本へ。ゲーム開発に興味を持ち、大学ではプログラミングを学ぶ。卒業後の2010年に台湾へ留学し、中国語を習得。現地企業にてマネージャー職を経験後、日本人向けの不動産仲介業社を友人と設立。2013年に帰国後は、IT系企業で営業職等を経験。2015年にオープランを設立と同時に現職の代表取締役社長に就任
自分の資質や集団内での役割を知ることはキャリア選択に役立つ
キャリアにおける最初のターニングポイントは、社会性や協調性を意識して行動するようになった中高時代に遡ります。
幼少期は父親の仕事の都合で、ブルネイ、マレーシア、シンガポール、香港など、アジア各地に転校をする生活をしていました。新しい環境に馴染まなければならない経験は、人より多くしてきたかと思います。母親が台湾国籍で、かつインターナショナルスクールに通っていたので、日本に帰ってきてからは日本語のわびさびが理解できず、中学時代は戸惑う場面が多かったです。物事をはっきり言うことで、周りから浮いてしまうことも少なくありませんでした。
とはいえ、割と一匹狼な性格でストレス耐性も強かったので、それを「悲しい」「つらい」と思うことはなかったですね。相手のほうがおかしいと思って反発するので、余計に浮いてしまう状況でした。しかし年齢を重ねるに従い、「このままの自分で生きていくのは難しい」と感じるように。時には「思っていても言わない」という選択も必要なのだなと学んでいきました。
高校時代になり、一緒に行動する仲間ができて以降は、リーダーポジションを担いがちな性分も自覚するようになりました。他の人の意思決定を受け身に待つことが苦手なので、自然と「これをしよう、ここへ行こう! 」と提案する役割になり、そうしてリーダーシップを発揮していると、周りは案外付いてきてくれる、ということもわかりました。
大学生になると60人単位のサークルをまとめるようになり、「自分は集団の先頭に立って積極的に意見を発信し、いろいろなことを変えていく側の人間なのかもしれない」ということに、確信を持てるようになりました。
「自分はどんな人間か」を知ることは、キャリアの選択においてとても重要だと思います。誰かが何かの役割を担当することで支え合っているのが社会なので、自分の長所を発揮できる役割を自覚できているとベターだと思いますね。私の場合は「人と話して物事を仕切っていくのが好きで、そこを発揮していくと効率よくお金が稼げる」と気付いたことで、今のポジションにいます。
併せて、自分はどれだけパッションがある人間なのか、どういうときに集中力を発揮できるのか、どのくらいの努力ならできるのか……といったことも理解しておくと、より自分にマッチするポジションやキャリアが見つけやすくなると思います。
海外で一度目の起業を経験するも自分の力不足を痛感
キャリアにおける2つ目のターニングポイントは、「卒業後すぐには就職をしない」という選択をしたことです。学生時代に自分の資質に気づいたことで、「皆と同じ道を選ばないほうがいいだろう」と感じ、母の故郷である台湾への留学を決めました。
台湾の大学で中国語を学び、その後は現地の上場企業に誘われ、ゲームソフトのローカライズプロジェクトにジョイン。プロジェクト終了後は親しい友人と「ビジネスをやろう! 」と盛り上がり、一緒に不動産仲介の企業を立ち上げることになりました。
結果から伝えると、このビジネスは売上が伸び悩み、1年ほどで現地法人に事業を買い取ってもらう形で終わらせています。「私が留学生として不便に感じていたことをサポートしたい」というビジョンで事業を始めたのですが、留学前の自分が準備不足だっただけで困っている人は意外と少なく、大きな市場が見込めなかったのが理由です。
主観でビジネスの判断をした反省はありましたが、この経験を通じて、資金調達の方法、コネクション、ビジネスの推進力、交渉力、説明力など、「今の自分には、起業に必要なすべてのスキルやノウハウが足りていない」と自覚できたことには非常に有意義でした。この時点で気付けたことで今の自分があるので、一度目の起業も、重要なターニングポイントのひとつと言えるかと思います。
ちなみに一緒に起業した友人とは意見対立を繰り返し、たくさんの喧嘩もしました。自我の押し付け合いをしていたので、最後には喧嘩別れをしてしまったのですが、今は台湾に行くと一番に迎えに来てくれるような12年来の友人になっているので、人生とは不思議なものです(笑)。
サラリーマン経験から「目指す会社像」を自覚し二度目の起業
事業を畳んだ後、2013年には日本に帰国。「モノを作れるようになってから、サービスを立ち上げよう」と考えて一旦、就職をすることにしました。大学でプログラミングも学んでいましたし、IT系企業にエンジニアとして入るつもりだったのですが、会社側にお願いされて営業職に就くことに。「コミュニケーション力を評価してもらえたのかな」と感じて嬉しかったですし、この経験によって、今の仕事にもつながる営業力の基礎を固められたように思います。
「サラリーマンになった以上、会社を大きくすることに貢献したい」という気持ちは強く持っていました。ただ仕事とは別の部分で理不尽だと感じる場面が多く、次第に自分の頑張りをフラットに評価してもらえない環境に対して、フラストレーションを感じるように。
別の環境を探すしかないと別のベンチャー企業に移り、社長を支えるマネージャーとなったのですが、ここでも対等に意見が述べられないことに疑問を覚える瞬間が多く、「サラリーマンは向いていないのかも」「このままでは転職の繰り返しになってしまう。自分で理想とする会社を作るしかない」という結論に至りました。
そうして「やったことがきちんと評価される、シンプルでフェアな組織を作りたい」と決心し、2015年に立ち上げたのがオープランです。ここが4つ目のターニングポイントと言えるかと思います。
オープラン起業後はシステム開発やアプリケーション開発、保守運用事業からデザインや翻訳事業まで、さまざまな仕事を請け負ってきました。「理不尽のない会社を作りたい」という考え方に付いて来てくれるメンバーが集い、現在は80名程度の組織に成長しています。
2020年からは自社サービスの開発も開始。2021年には恋愛マッチングサービス「meple(ミープル)」を発表して好評をいただき、目下、海外進出の準備も始めています。また今年中には、日本の採用シーンに一石を投じるような新サービスもリリース予定です。
このサービスの根底にあるのは、「日本における就活の実態を変えたい」という思いです。今は情報化社会で、あらゆる知識やノウハウが共有されており、経営者になる方法だって独学でいくらでも学べる時代です。そうした環境のなかで、究極的には「どこかの会社に行かなければできないこと」はなくなっていくと思いますし、自分の価値や発言力を高めていけば、「仕事は選び放題」という状況を作れるはず。
就職活動に関しても、今のように一方的な条件に応募する形ではなく、「自分のできること」を提示して、対等な目線で「相手がしてほしいこと」とマッチングするのが正解になっていくのではないかと思います。そのような社会になってほしいという思いも込めて、双方向にコミュニケーションを取れるキャリアマッチングサービスの開発を進めています。
思いつく選択肢の幅を広げ、常に「自分が選ぶ」意識を大切にしよう
学生の皆さんがファーストキャリアを考える上では、「自分が人生を通して、何を実現したいのか」を重点的に考えてみるといいと思います。
「年収1千万を稼ぎたい」ということであれば、大手企業に行く選択肢が有効になってくるでしょうし、必ずしも「お金が稼ぐこと」がゴールである必要もなく、「日本の農業に貢献したい」「世界旅行をしたい」「週末の趣味のために生きたい」「Youtuberになりたい」など、なんでも構わないと思います。それが見つかれば幸せな人生が近づくと思いますし、その実現のために必要なだけのお金を稼ぐ手段も具体的に見えてくると思います。
実現したいことが見えてこない、という人は、普段から意思決定に関わる機会を増やしてみることをおすすめします。「何を食べるか」「どんなコンテンツを見るか」といった小さなことからで構わないので、常に「自分が選んでいる」という自覚を持って、目の前にある選択肢を常に意識してみる。できるだけ物事の意思決定に関わる側に立つ努力をしていると、見えてくるものがあるかもしれません。
「自分は何に興味があり、何を大事にして、何を実現したいのか」つまり「自分の人生をどうメイキングしたいのか」という視点で考えていくと、卒業時に就職活動をすることも、数ある選択肢のひとつでしかないと気づけるはずです。
「大学を出たら、サラリーマンになるのが当たり前」「実家が農家だから、農業をする」など、目の前にある選択肢を疑わない人は意外と多いように思いますが、フラットな目線で世の中を見てみれば、選択肢は他にもたくさんあります。このあたりは本来、学校で学ぶべきことだと思うのですが、教育現場でキャリア選択について教われないことは日本の課題だとも思います。
自分で思いつく選択肢の幅を広げるためには、「経験に貪欲でいること」が役立つと思います。たとえば外国に行って、見たこともない土地の食べ物を食べてみようか迷ったとき。「食べない」を選択すれば、まずいかもしれないものを食べるリスクは回避できますが、得られるものは特にありません。
しかし、「食べる」を選択した場合、おいしければハッピーになれますし、まずいと感じたとしても「こんなもの食べたんだぜ」という経験値や話のネタができ、どちらにしても得るものがあります。
私は人生において、常に経験するほうを選択してきました。そうしていると「こっちの道もあるな」と視野が広がっていきますし、「この道を選ぶとどうなるか」といった先を読む嗅覚も研ぎ澄まされてくる実感があります。
皆さんのキャリアの選択肢においても、今思いつく以外の選択肢が必ずあるはずなので、若いうちからどんどん経験をして、自分の頭を使って考えてみてほしいですね。
重要なのは「価値観のすり合わせ」。自責と他責の両方を意識しよう
人生や仕事において壁にぶつかったときには、「受け止めて、跳ね返す」ことを意識しています。
たとえば、誰かにお叱りを受けたとき。「完全にスルーする」という選択もできますが、それでは何も改善せず、いずれまた同じことを繰り返してしまいます。ですので、まずは一旦「自分が悪い」とまずは最大限、自責で受け止めてみる。相手に「なぜそう思ったのか」まで吐き出してもらえるとベターです。そうすれば改善方法を探りやすくなり、次回の対策を立てることができます。
ただし、相手側の意見や不満を聞いて肯定してあげるだけでは、本質的な部分は改善しません。価値観のすり合わせができていないからです。一旦、自分の非を認めたら、今度は「自分の側で変えられるところは変えるけど、そっちにも原因があるよね。お互いに悪いところはあるよね」というところへ持っていき、妥協点を見つけることが最終ゴールです。
「意図的に叱られるようなことをした」というのでない限り、「自分の考えに則って行動してみたら叱られた」ということになるので、その行動をした自分自身を信じてあげることも大切ではないでしょうか。
自分の信念と照らし合わせ、妥協点を相手に提示していく姿勢は、よりよい人生を歩むために不可欠だと思います。就職活動にも応用できる考え方だと思うので、皆さんもよければ参考にしてみてください。
自責と他責の両方の視点を持つことは、私自身、組織を運営する上でも心がけていることです。相手を否定するだけでは何も生まれないので、「否定意見を出すときは、必ず代案を出すように」ということは社内教育でもよく伝えていますね。自信を持って、楽しんで働いてくれるメンバーが増えれば、会社全体がハッピーになるだろうと考えています。
「何に充実感を覚えるか」は、キャリアのステージごとに変化する
最後になりますが、資本主義社会において「お金を稼ぐこと」を目指すならば、究極的には経営者になるのが一番だと思います。
ハードルが高く見えるかもしれませんが、経営者も社会の一部分にすぎません。メンバーには給料を払わなくてはいけないし、クライアントの言うことも聞く必要があり、経営者になったからといって、誰より偉くなれるわけではありません。自由の代償としての批判やストレスも、ある程度引き受ける必要があります。ただそれを差し引いても、自分の責任のもとで、自分のしたいように自由にやって稼ぐことができる醍醐味は、経営者でなければ味わえないと思います。
私自身も、長年「稼ぐこと」をモチベーションにして励んできました。一般的な中流階級で育ち、大きな不自由はなかったものの、子どもの頃は欲しいゲームを買ってもらえない、学生時代はアルバイトでやりくりをする、といった経験もしていたので、「経済的に不自由したくない」という思いがひとつのモチベーションになっていました。
しかしある程度、お金を自由に使えるようになると、広い家も高い車も維持管理が面倒なだけで所有したいとは思わないし、洋服も着やすさ重視でこだわりがなく、大して物欲がない自分に気付きました。
お酒の付き合いやバンジー、スキューバなどの体験事にもお金を使ってみましたが、ひととおりやってみると、大方の好奇心は刺激され尽くした気分になっています。世の経営者たちが、最終的に宇宙に行こうとする気持ちが、なんとなくわかるようにもなってきましたね(笑)。
その段階になって気づいたのは、「自分の会社だけは、どれだけお金を積まれても人に売り渡したくない」という会社への愛情です。そう気づいて以降は「世の中に対して良いサービスを提供して、働いている社員たちが誉れ高いと感じられる会社にしたい」「一緒に働くメンバーへの責任を果たそう。仕事における幸せは全部与えてあげたい」と考えるようになり、今はそのプロセスを追うことが、キャリアにおける充実感につながっています。
最後になりますが、自社の採用においては「仕事をして誰かの役に立とう」という視点を持っているかどうかを重視しています。どんな仕事であれ「誰かの役に立って利益を上げる」ということが、社会の根本的な仕組みだからです。
そういった意味では、「御社のここに惹かれて〜……」といった志望動機を聞くよりも、「自分はこうしたい、これくらいの能力があるから、こんなことができます! 」とアピールしてくる人のほうが頼もしいなと感じますね。「社会の役に立つ気概や、利益を上げていく根性があるのかな? 」と見込みを感じます。
時々「御社で勉強をさせてください! 」という人もいますが、状況や相手によっては、「自分にはまだ利益を上げる力がないので、御社に寄生させてください」というマイナスの意味に受け取られる場合もあるので、この発言の使い方には注意したほうがいいと個人的に思っています。
取材・執筆:外山ゆひら