人事のプロが考える「企業から求められる就活生」とは|今だから伝えたい就活成功へのカギ

ちかなり 代表取締役 兵頭 秀一さん

Shuichi Hyodo・1965年生まれ。東京経済大学経営学部卒業。ファーストキャリアとして東証一部上場の食品SM「いなげや」に就職。6年間の店舗勤務を経て同社人事部。その後、他業界へキャリア転職をし、採用業務を中心に人事業務全般に従事。IT企業で採用担当をしていた2007年、社内の有志とともに週末起業でプロジェクトを立ち上げ、就職サイト「合説どっとこむ」を創業。2008年に「ちかなり」を設立し現職

この記事をシェアする

運頼みの就活を避けるためには志望度の向上が重要

20代後半に人事部に異動となり、いきなり採用面接を担当しましたが何とかなりました。というのも、たとえば10人を面接して上位1位と2位、下位9位と10位は面接の素人でも判定できるからです。ただし難しいのは3位から8位までの真ん中6割を順位付けして、なおかつその理由を言語化して説明すること。これは面接のプロにしかできないことです。

逆に言えば、就活生が自分は上位2割に入る人材だと自信を持てるくらい優秀なら心配はありません。ところが自分は真ん中の6割に位置する人材だと考えるなら、自分の良さを見抜いてもらえるか否かは面接担当者次第ですし、運頼みの確率が高いと覚悟する必要があるでしょう

スポーツも同じです。実力の上位2割はトーナメントの組み合わせがどうであっても間違いなく3回戦までは進む。下位2割は組み合わせがどうであっても2回戦までに敗退します。真ん中6割は対戦相手の組み合わせ次第で1回戦敗退もベスト8進出もあり得る。これはスポーツでも就活でもビジネスでも同じ、競争社会の原理です。

そんな運頼みがイヤならば取るべき方法は一つ。自分が希望する会社への理解度と志望度を上げることに尽きます。これは恋愛と同じ。自分にとっては少々高望みの相手にアプローチするなら「あなたしかいない」と熱意をもってアピールするのが最良です。

「いろいろ見比べてみたけれど、あなたとデートがしたい」では相手にされません。自分が告白される側だったとして、相手に相手自身のの能力やスペックを説明されてもピンとこないでしょう。むしろ「あなたしかいない」と一生懸命にアプローチされた方が心は動くはずです。

「理解度」と「志望度」を効果的に向上させる3つの項目

就活を能力主義の観点から捉えるのがそもそもの間違いです。上位2割に入らない多くの者にとっては、自分の能力をきちんと見抜いてもらえると考えるのは楽観的過ぎます。面接をする相手によって能力を評価してもらえるかどうかが変わって来るからです。むしろ確実に伝えることが可能な、理解度志望度を上げる努力をすべきでしょう。実際の面接の現場では、志望者側の理解度と志望度で真ん中6割の評価順位は激しく入れ替わります

大卒の能力があり、ある程度のコミュニケーション能力が備わっている人材ならば、理解度と志望度を作り込んで行けば、評価の上位2割に食い込める可能性があります。そこを理解しないまま面接の舞台に立ってしまう就活生が多くいるのが現実です。

これまでに多くの採用面接をおこない、模擬面接の指導もしてきましたが、就職を希望する会社の社長さんのフルネームさえ言えない就活生は少なくありません。会社の経営トップがどのような人物なのかどういう理念を持っているのか会社の未来についてどのようなビジョンを持っているのか、まずはそこから理解して、志望度を上げていくべきです。要するに恋愛に置き換えた場合「私が好きな理由を説明して」と言われて、ろくに説明できないような相手とデートをしますかという話です。

兵頭さんがおすすめする「就活対策チェックリスト」

  • 就職希望会社の社長のフルネームで言えますか

  • 就職希望会社の企業理念、ビジョンを理解していますか

  • なぜ志望するのか本気で説明できますか

キャリアプランもなく就活に苦戦した過去

いまではそんな風に言えますが、私自身はまったく駄目な就活生でした。大学では熱心に勉学に励んだわけではなく、よく卒業できたなというレベル。部活のバドミントンばかりやっていました。確固たるキャリアプランがあったわけでもありません。ですから、就活もいわば成り行き任せでした

バリっとしたスーツ姿で働くような自信もなく、日々の生活を通じて身近な存在だったスーパー業界でならやって行けそうだと考えて、希望する業界を決めました。その中でも学生時代から近所のスーパーとして利用していた「いなげや」が東証一部上場企業だと知り第一志望としてエントリーしました。

何とか入社試験に合格し就職に漕ぎ着けましたが、とくに野心も志もない新入社員でした。入社から6年間ほどは店舗勤務でしたが、新卒1年目に配属された店舗で「かっこいいな」と思える仕事ができる先輩に出会えたことで、その人への憧れから自分も仕事のできるかっこいい人になりたいと思い始めるようになりました

その後、28歳で本社の人事部へ異動したのがきっかけで、人事の専門家としてのキャリアを積み重ねていくことになり、現在のキャリアにもつながっています。人事部へ異動することになった理由は、当時としては珍しく私がパソコンの扱いに慣れていたからだったようです。いまでは考えられませんが、エクセルの表計算ができるといったレベルでも評価の対象になった時代でした。

人事部では労務担当を経て新卒採用の責任者を務めましたが、採用担当は評価されにくい仕事です。予算と採用人数が同じ場合、採用の母集団、つまり会社説明会への参加者数を増やせば、選考倍率が上がります。そこが採用担当者の評価となるわけです。採用した人材が優れていたかどうかなどはすぐには分からないため、採用担当者の評価基準は選考倍率向上といった指標しかありません。もともと客観的な評価が難しく出世もしづらいのが採用担当という仕事でした。

人事の専門家への道を選択し転職

それでも人事部内でのポジションも上がり安定したキャリアを歩めていましたが、30歳を過ぎる頃に先々の人生を考えるようになり悩みました。道は2つ。このまま人事の専門家というエキスパートの道を進むか、それともスーパーの社員としてスーパー業界に人生を捧げるかです

考えた末に人事のエキスパートの道を選択しましたが、いなげやに在籍する限り会社の人事異動があるわけで、必ずしも人事畑を全うできるとは限りません。そこで人事の経験を活かせる転職先を探しました。その結果、大手パチンコホール企業のダイナムで内定をいただいたのですが最終決断するまでには再度悩みました。

結局、ダイナムに入る決心をしたのですが、決め手は会社の成長性でした。ダイナムは将来的に2倍、3倍と大きな成長性が感じられる会社で、自分がその成長過程に加われる喜びを感じられそうと考えました

またパチンコ業界は就職人気業界の上位ではないだけに、人事担当者、採用担当者として挑戦のしがいがある職場だと感じられました。実際に2003年にはパチンコホール業界で初めて600人の大卒採用を成功させました。ダイナムでチャレンジしたことで、人事と採用の専門家としての力をさらに磨けたと感じています

同年代ヒルズ族から受けた刺激

ダイナムでのサラリーマン生活から、起業へと至る過程で大きな影響があったのは、ホリエモンこと堀江貴文氏や楽天・三木谷氏、サイバーエージェント・藤田氏ら、いわゆるヒルズ族の存在でした。ほぼ同年代といってもいい彼らの活躍ぶりには注目せずにはいられませんでしたし、彼らの本からは多くの刺激を受けました。とくに藤田氏の著作には感銘を受け、自分の価値観がはっきりと起業へ傾くきっかけになりました

就職1年目に職場でかっこいい先輩に出会って以来、常にかっこいい人間でありたいと考えてきた自分にとって、同年代でありながら起業して成功し、お金も地位もつかんだ彼らに興味を持つのは自然な流れでした。このままサラリーマンを続けて出世しても年収はせいぜい1,000万円台。トップとして会社を動かせるわけでもない。ならば思い切って起業し、もっともっとかっこいい自分になりたい。そう考えました。

結局、4年でダイナムを辞めてバドミントン情報サイトなどを運営するIT企業を起業しましたが、当時いただいていた給料が明日からゼロになり、何の保証もないのだと考えると体が震えるくらいに怖かったというのが正直なところです。それでも会社員から起業家へ価値観を転換した自分にとって、起業に挑戦しない選択肢はありませんでした

人材を見極める切り口は「戦力性」と「同化性」

就活生へいまだから伝えたいのは、採用の際に企業が人材の可能性を見る切り口は2つであるということ。それは、戦力性同化性です。とくに新卒採用では同化性を重視します。ピュアな気持ちで会社に馴染んでほしいからです。私はIT企業を経営していますが、「パソコンのキーボードを1本指でポツリポツリとしか打てないけれど、経営者と思いや理解を同じくしてくれる人材」と「キーボードをスラスラ打てるけれど、会社への思いや経営者の理解に欠ける人材」のどちらを選ぶかと問われれば間違いなく前者です。

会社組織とは、トップが示す方向性に沿ってその考えをスピーディーにどんどん具現化できるか否かが勝負です。とくにベンチャー系の企業や、創業者がトップにいる企業はそう言えるでしょう。

人材を見るもう一つの切り口の戦力性に関して、最も重要なのはコミュニケーション能力リーダーシップです。この2つの能力はすべての仕事に必要な要素で、これが不要な職業はパチプロとユーチューバーくらい。またビジネスマナーや商品知識は入社後の研修でどのようにも補えますが、コミュニケーション能力とリーダーシップは簡単には補えません。だからこそ企業はそこを重視するのです。この2つの能力に欠けると判定されれば就活は終わります。

コミュニケーションとリーダーシップを鍛える努力は、学生のうちから意識的にやってみることをすすめます。たとえばサークルの代表飲み会の幹事などを買って出てみてはどうでしょう。2つの能力を鍛える経験になるはずです。実際にやってみれば、誰かに何かを伝えるには大きな声で訴えなくては届かないこと、楽しい事や面白い事をやれば人は集まること、自己犠牲の精神がなくては人が着いて来ないことなど、多くを学べるはずです。

兵頭さんが考える人材の切り口

  • 新卒にまず求められるのは同化性

  • 戦力性とはコミュニケーションとリーダーシップ

  • 学生時代から戦力性を鍛える努力も必要

優秀な学生は「30年先までのキャリアプラン」を描けている

壁にぶつかった際には、100%ポジティブシンキングするよう心掛けていますし、そうできる自分を誇りたいと思っています。絶対に環境のせい、社会のせい、人のせいにしてネガティブに考えない。社会の理不尽さすら飲み込んでポジティブに前を向いて、自分のやるべきことをやる。壁にぶつかったときに誰かのせいにしたり後ろを向いてしまったりしたら、それまで積み上げてきたものも自分自身も一気に崩れてしまうからです。

就活生には、ぜひとも40代、50代、60代の自分をイメージすることをおすすめします。面接や模擬面接を通じて何千人もの若者に接してきて残念に感じたのは、30年先までを見据えたキャリアプランを描けている若者がごく少数、全体の3〜5%程度しかいないという点です。あなたが「私は〇〇年後にこうなります。そのためにはこういうプロセスを歩みます」とはっきり言えるキャリアプランを持っていれば、あなたは優秀な人間です。おそらくその目は輝き、仕事への意欲に満ちていることが伝わり、多くの企業の内定を勝ち取れます。

学歴や能力は関係ありません。誰にでもチャンスはあります。たとえば憧れの人物像を探してみる。あんな人になりたいと思えるモデルを見つける。そうすれば自分がすべきことを具体化できるはずです。

イチロー選手の小学生時代の「将来の夢」と題する作文を読んだことがあります。その1行目には「僕はプロ野球選手になります」とあり、2行目は「そのために」と始まります。目指す目標があり、達成するために何が必要かを自分なりに考え抜いて言語化する。人生を前向きに、志を持って生きる人は自然にこういう思考になります。こういう風に言える自分になれば輝き続けることができ、きっと人生は明るいものになるでしょう。

取材・執筆:高岸洋行

この記事をシェアする