目の前のサービスから企業の本質を見抜け|条件にとらわれない多面的な視点で企業選びをしよう
CLOVER(クローバー) 代表取締役 香丸 俊幸さん
Toshiyuki Koumaru・1972年、東京都出身。玉川大学を卒業後、新卒でセブン-イレブン・ジャパンへ入社し、店舗経営相談員としてフランチャイズオーナーに対する店舗経営のアドバイスおよび直営店舗の経営を経験。起業家輩出機関として有名なベンチャー・リンクを経て、経営コンサルタントとして独立。特別養護老人ホームに入れずに、大勢が待機している問題から、泊まりもできるデイサービスに社会的な価値を感じ、2010年にCLOVERを創業
ハードワークの末に「趣味は仕事」という考え方に辿り着いた
新卒で入社したセブン-イレブン・ジャパン時代は愚痴っぽい思考の社員でしたね。セブン-イレブン・ジャパンでは、店舗経営相談員としてフランチャイズのオーナーさんに対する店舗経営のアドバイスをしたり、直営店舗の経営で新人の研修を担当したり、商品開発職としてお弁当などの開発に携わったりするなどさまざまな経験をしました。
ただ、当時はハードワークで疲弊していたこともあり、「時給換算すると500円くらいだよ」など業務に対して不平不満を言っていました。昼夜逆転して遊ぶ充実した大学時代を送っていたので、早朝から晩まで仕事をする社会人生活は嫌なことも多かったですね。
独立してコンビニを経営するなら自信がありましたが、元々、将来起業する目標のために必要なことが学べると思い入社した会社でしたので、コンビニ以外の経営を学びたいと思い、転職を決意しました。
転職先にはベンチャー・リンクというコンサルティング会社を選びました。ベンチャー・リンクは起業家輩出機関と呼ばれており、起業したい人が集まる環境でした。現在、周りのベンチャー・リンク出身者の7〜8割くらいは経営者ですね。
当時は「20店舗ぐらいの地域密着のフランチャイズの事業を経営したい」と思っていました。ベンチャー・リンクはフランチャイズを広げる意味ではトップの会社だったので、ノウハウを学びたかったんです。店舗の業績を上げることには自信があったので、立地の選び方を学ぶために立地開発部からスタートしました。
マーケティングや中期経営計画の策定支援など忙しい毎日を送っていた30歳前後に、仕事観が変わるターニングポイントが訪れました。ハードワークの末に「仕事を趣味だと思い込もう」と考え方を変えたんです。愚痴っぽい他責思考をやめてからは働く時間が伸びても楽しめました。自分が好きでやっているという主体性を持ったことが、仕事の苦痛さを取り除いたんだと思います。
「仕事は趣味」という思考は自分の強みを見つけるきっかけになった
「仕事は趣味」という思考は自分の武器を見つける際にも役立ちました。ベンチャー・リンクには優秀な人が集まっており、成果やプレゼン能力など業務で勝てることが見つからなかったんです。ある年の夏休みはお盆で旅行先も混んでいたことから遠出を避けようと考え、企業向けに中期経営計画を作成していました。
結果、作成した中期経営計画は全社的に見本のツールになりました。これがきっかけで、主体的に仕事に取り組むことで仕事に自信が湧いてきました。嫌々やっているわけではないので、休み中に情報収集して資料をまとめることも苦痛ではありませんでした。仕事を趣味だという思考が呼び込んだ成功体験ですね。
入社先企業は直感で決めていい
最後は直感で入社先企業を決めるのも悪くない選択だと思います。就労経験がない学生は企業の業務内容を詳細に想像できません。たとえば、会社によって同じマーケティングでも業務内容は大きく違います。
私がセブン-イレブンに入社した決め手は経営が学べるという話にピンと来たことです。どんな学生にも「子どもが好き」「ものを作りたい」など自分にとって大切なキーワードがあると思います。迷ったら最後は自分の大事にしているものにピンと来た企業を選ぶのが一番良いですね。
条件で企業を選ぶのは危険
基本的には条件で入社先企業を選ばない方が良いと思っています。私の場合は経営を学ぶことが大事だったので、何を得られるかで企業を決めていました。実際、ベンチャー・リンクへの転職の際は年収が300万円ほど下がってしまいましたが、将来的に得られたものを考えると後悔はしていません。
一方、給与など条件は状況によって変化していくものです。今はその条件を出せたとしても会社の経営状況によっては、先がどうなるか分かりません。条件ではなく、自分が目指すゴールと理念や価値観がマッチしたり、必要なスキルが得られたりするなどの要素から判断してみてください。
業績を見ると良いサービス・商品を提供しているか判断できる
もちろん、価値観に合った企業を受けることは大前提ですが、今後のキャリアを考えるなら業績が良いかも気にしておきましょう。業績が良いということは、それだけ良いサービスや商品を提供している裏付けになります。
たとえば、私が入社した当時のセブンイレブンは他のコンビニチェーンの業績を圧倒していました。
業績が良い会社は業界で差別化できるだけの質の高いノウハウがあり、今後も生き残っていく可能性が高いです。今後のキャリアを考えるなら、自分が磨きたいスキルやノウハウが身に付く会社に入るのがおすすめです。自分がキャリアの理想像に沿った業界や職種を選ぶことはもちろん、業績という観点も重視しておきましょう。
素直・ポジティブ・勉強熱心な人は活躍すると思います。これはコンサルティング会社が結論付けた3大条件なので、成長する可能性は高いでしょう。
私が経営するCLOVER(クローバー)ではデイサービスなど介護サービスを提供しています。今後も介護の仕方はどんどん変わっていくため、介護業界でも常に情報をキャッチアップしていかなければなりません。ただ、ベテラン介護士が昔の介護をしてしまっている場合が意外と多いんです。
昔のやり方に固執するのはリスクがあります。たとえば、昔の部活動の指導では「水を飲むやつは駄目だ」とされており、水を飲むのが禁止だった時代がありましたが、今ではそんな指導は考えられませんよね。これはあくまで一例ですが、インプットをしないと時代の流れと考え方がズレてしまう可能性もあります。
スキルを磨くために情報収集をして、業務に活かせる人材のニーズは上がっていくでしょう。ただ、情報をやみくもに集めるだけでなく、素直さがないと「自分には必要がない」という偏見により、情報を遮断し成長を妨げてしまいやすいです。
素直に情報を取り入れられると、今までの知識から応用して業務に活かせる場面も多くなり、成長率は格段に上がると思います。
プラスの意味づけをする癖を付けると悪い状況も打破できる
活躍する人の条件であるポジティブにもつながりますが、プラスの意味づけをすることでピンチではなく、今がチャンスだと考えることで落ち込みにくくなります。
私は過去に3回続けて、携帯電話が故障してしまったことがありました。ただ、3回目は介護中にお風呂で利用者さんが心肺停止状態になり、緊急搬送した結果、一命を取り止めた時に故障したんです。なので「携帯が壊れたことで守ってくれたかもしれない」と壊れて良かったという意味づけをしました。
就活で選考落ちを経験して落ち込むことも多いかもしれませんが、その際にもプラスな面を見ることを忘れないでください。他の企業の選考対策に割ける時間が増えたり、同じ業界の企業ばかり落とされる場合は適性がないことを発見できたりします。
知り合いのビジネスコーチ曰く、パフォーマンスを上げるにはプラスな面を見るというセッションがあるそうです。そうすると安定してパフォーマンスが上がってくるので、明らかにネガティブな状況でもポジティブな側面を見つける練習をしましょう。不利な状況をチャンスに変えられるかどうかはあなたの捉え方次第です。
自分が選んだキャリアを正解の道にするくらいのポジティブな気持ちで社会人生活に臨んでみてください。
取材・執筆:丹治健太