成長を楽しむ文化がある企業を選べ|自分が決めた基準を信じることが就活を成功に導く
保険マンモス 代表取締役 古川 徹さん
Toru Furukawa・1964年、滋賀県出身。早稲田大学在学中、ヘヴィメタルバンド・聖飢魔II(せいきまつ)に加入。聖飢魔IIを脱退後は旭化成、ソニー生命で営業職として勤務。ソニー生命ではエグゼクティブプランナーまで昇格する。2005年に保険マンモスを設立して代表取締役社長に就任
プロのドラマーからビジネスパーソンへ華麗な転身
プロのドラマーとして活動したことは人生の大きなポイントですね。学生時代はジャズやフュージョンなどのジャンルが好きでスタジオドラマーを目指していたのですが、メンバーに直接誘われ、プロになりたいならその世界に早く飛び込むのが良いと考え、ヘヴィメタルバンドの『聖飢魔II(せいきまつ)』に入れてもらいました。
プロの世界で活躍するドラマーさんとのレベルの差に愕然とする日々を送りましたが、就活解禁日を期限に意思決定をしようと思ったんです。最終的に自分の力は及ばないと思い、プロのドラマーの道を断念しました。私にとって一つ大きな人生の分岐点ですが、ここでしっかり「結論(ケリ)」がつけられたことが大きかったですね。
好きなドラムをやれないなら徹底して安定した道に進もうと思ったことが、就職先に旭化成を選んだ一因です。当時の旭化成は学生時代に熱中したものがあり、一角の成果を出した人を多く採用しており、プロのドラマーを目指して自分を追い込んだ経験に対して一定の評価を頂いたかと想像しています。
旭化成では、消費財として高いブランド力を持つ食品包装用フィルム、サランラップの担当をしていました。ドラックストア等で安売りされやすいサランラップの価格をコントロールしながら、どのように販売するかといった小売り流通のマーケティングを学べました。
年に一度は拡売に向けた革新的な提案をしていたつもりですが、提案が採用されるのはなかなか難しかった。というのも、当時の旭化成(サランラップの部門)は安定的成長期でしたから、当然の経営判断だったのかなと今は思いますね。
特に新しい試みをしなくても、サランラップは売れていきますから。ただこの経験から、大きな組織の意思決定のプロセスを知り、担当者の立場による思考性の違いなどを想像できるようになりました。その後の仕事でも一貫して役立っている「マーケティング」と出会え、その面白さを教えてくれた旭化成には、今も昔も感謝しています。
安定を捨てて保険の世界へ飛び込めたことが大きな転機になった
プロのドラマーを目指すような私には保守的な社風や年功序列型の組織はちょっと水が合わなかったかもしれません。自分らしい夢が持てない状F態でした。そんな時にターニングポイントが訪れました。ソニー生命で営業をやらないかと声をかけていただいたんです。
当時のソニー生命の保険営業は完全歩合制で、売れたら売れた分だけ稼げるけど、売れない場合は法律上の最低賃金まで低下するという厳しいプロセールスの世界。ただ、リスクから人生を守る保険という商品に魅力をすごく感じました。「リスクマネジメントの専門知識を持った人間が、論理性をもってお客さんに必要性を伝えたうえで価値を感じて買ってもらいましょう」という話が響き、転職を決意しました。
最終的にはエグゼクティブライフプランナーという専門職の最高位まで上り詰めることができました。20代は旭化成で「マーケティングという職種」、30代はソニー生命で「金融・保険という業種」が、人生で取り組んでいくテーマとして決まった感じでした。
当時は一生ソニー生命を続けていこうと本気で思っていました。しかし、自身の主要なお客さんである「経営者」の心理が知りたいと思い、ある著名な人物の経営者育成塾に行っていたら自分も企業家を目指したくなったんです。
当時のソニー生命はSONY(ソニー)という輝かしいブランドがあるにもかかわらず、名刺を持っていっても、ブランド効果を営業担当者が実感できない状態でした。ブランドが十分活かされていない、マーケティングが上手く機能していないな、と感じていました。他の問題も含めて現状を打破するアイデアを提案しても、当時のソニー生命には受け入れてもらえませんでした。そんな背景もあり、非常にリスキーなのですが、自分のアイデアを実現するために独立して会社を作りました。
企業に勤めていた時と違いブランドや資金がない状態からのスタートですが、チャレンジしなかったら死ぬ間際に後悔するだろうと考えて決めました。それでも「3年やって駄目であれば保険営業という一生モノのスキルがあるので大丈夫」という自信とセーフティーネットがあったので、チャレンジできましたね。
ファーストキャリアでは前提として成長し続けられる環境に身を置く
今は変化の時代なので、終身雇用はもうないという共通認識があると思います。一生成長し続けて、変化に即応していかないといけません。ビジネスパーソンとしての習慣は最初の3年である程度決まってしまいます。
「成長を楽しんでいる文化」がある企業を探しましょう。その企業の社員と話していると、言葉の端々から楽しんでいるかどうかが感じられると思います。私もソニー生命へ転職する際は本社の企画部から財務部までさまざまな人に話を聞きに行きました。
話を聞いた10人中10人が成長を楽しんでいる会社は少ないかもしれませんが、せめて半数以上に近い意識があることは入社を決める際の大切な要素になりますね。
理念に共感できる企業を選べれば厳しい時に踏ん張りがきく
理念がしっかりしている会社を選ぶのは大切です。何のために仕事をするのかということが理念になります。理念がしっかりしている会社にいると、どんな意識で社会貢献をしていくのかが常に周りと共有されているんです。もちろん仕事が上手くいっている時は楽しかったり、充実感があったりするでしょう。
ただ、そういう企業でなら厳しい時に踏ん張りがきくと思います。「何をもって世の中に貢献する」という会社の理念と自分が考える「社会に対して役立ちたい思い」のベクトルが揃っていれば、「何のために仕事をしているんだっけ」と迷いを抱くことがあまりありません。
理念が社長室に飾ってあるけど、社員が誰も語れない会社は多いです。面接やOB・OG訪問などを通して、「人事や現場の社員が自分の言葉で理念を語れるか」を十分チェックしておきましょう。
30代までに特定の職種で誰が見ても認めてもらえる実績を作る
ビジネスパーソンとしての基本を身につけるには数年程度の時間がかかるんです。今は昔と比較して情報を得やすくなっているため、成長が早い傾向があります。そこから専門的なスキルを身につけていきましょう。
30代までに特定の職種で「誰が見ても認めてもらえる実績」を作ることが大切です。私自身、ソニー生命で実績を挙げたことで独立後でも信用してもらいやすくなったり、マーケティングと保険の知識が会社経営にも役立ったりしています。基礎を身につけて、職種業種で「一本の旗をあげる」ことはキャリア形成で意識してみてください。
やはり、一角の仕事ができるようになるには一定の時間がかかります。成長の踊り場のような時期があり、伸び悩むかもしれません。ただ、上に行けば行くほど成長の踊り場の期間は長くなるんです。「成長しているから踊り場の期間が長いのかな」と長期的な視点でみてほしいと思います。
新卒就活だけではなく、転職活動の際にも言えることですが、人からどう見られるかではなく、自分がどう思うかを大事にしてください。「自分が決めた基準」を大事にしてみてください。会社に入ることで幸せになるには、自分にとって大事なことを定める必要があります。
自分にとって大事なこと(重視する条件)の例
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やりがい
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成長
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給料
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休日・休暇
企業選びの失敗を減らすには重視する条件の優先順位を付けてみる。そして、対象の業界や会社のメリット・デメリット、強み・弱みを全部出す。自分が重視した条件とその業界企業の強みやメリットの重なりが多いところを選んでみてください。
このように論理的に考えたうえで、最後は心の声に従いましょう。人間の直感はすごいので、十分に情報がインプットされた状態なら、総合的にこの会社が良いということが判断できると思います。
私もソニー生命に転職する際はネガティブな情報が入ってきても、最後はチャレンジしました。「これだけネガティブな情報を見てもチャレンジしたいんだから、多分後悔しないだろうな」と確信と覚悟が持てると思います。意思決定をした後に「心が晴れやかな状態」なら、後悔する可能性は低いと思います。
会社員マインドではなくビジネスマインドがある人は重宝される変化の時代では「リスクに対して責任が取れるようなビジネスマインド」を持っている人は重宝されるでしょう。会社組織には出世コースを外れてからやる気を失い、ほとんど仕事をしていない社員もいます。
ただ、オンラインの時代になると、ビジネスパーソンとしてしっかりと役割を果たせない人は淘汰されてしまうんです。会社に給料をもらいにいく会社員マインドではなく、いただいている給料に対してどれだけ貢献していく必要があるのかを考えられるビジネスマインドを持って働いてほしいと思います。
取材・執筆:丹治健太