唯一無二のキャリアを切り拓く|人生という物語の起承転結を捉えよう

Beyond Cafe 代表取締役社長 伊藤 朗誠さん

Ito Akinobu・関西大学法学部卒業。2人の恩師から、自分の人生を自律して生きるための指針を得た経験を通して、子どもの自立機会を創出するためのキャリア教育の実現を目指す。学生時代の営業経験や、教育×IT企業への経験を経て、2015年に友人とTerrace(テラス)を共同創業。さらに2016年にBeyond Cafe(ビヨンド カフェ)を設立し、現職

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死への恐怖と純粋な欲求が人生を豊かにする

私のキャリアを紹介するにあたり、まずは生きる上で一番根本にある思想をお伝えできればと思います。それは、死への恐怖です

子どもの頃、一人きりの家で親を待つ時間が長く、なんとも言えない寂しさ未来への恐れを感じていたことを思い出します。いまだに薄暗くなっていく景色を思い出すことがありますし、年を経ても、根本の思想は変わっていないように思います。

だからこそ、死への恐怖を忘れるくらい熱狂して生きたい人生を豊かにしたい面白く過ごしたいと思う気持ちが強いんです。

自分の体はなくなっても、生きた証や自分に関する記憶が社会に残ることで、生きる意味はあったと言えないでしょうか。死への恐怖を乗り越えるためには、生を目一杯充実させて、死ぬ時に納得できる人生でありたいと考えています

自分が何をもとめているのかを煎じ詰め、純粋な欲求に従って生きていけば、きっと納得のできる人生につながっていくと信じています。時間の長さは変えられないけれど密度は変えられると思います

人生を変えた2人の恩師の存在

自分の人生をとことん充実させたいという考え方を持てたのは、2人の恩師のおかげです。

小学校の時に出会った先生は、私に向き合い、話を聞いてくれる先生でした。当時の私は同級生と比べて体が大きく、ちょっかいを出すたびに怒られていた私を正面から認め、導いてくれたんです。この時の先生が耳を傾け、言葉をかけてくれなかったら、今の私はいないかもしれません

また高校時代の予備校の恩師からは、自分の人生を自律して生きるとはどういうことか、しっかりと教えてもらいました。目標や目的を持ち、そのための行動を逆算して考える自分で自分をコントロールし、責任を持って生きる。この原則を身をもって学べたことで、前向きかつ建設的にキャリアを切り拓くことができたと感じています

でも、私は恩師に恵まれ、教育に助けられましたが、全ての人がこうした環境にあるわけではないと思います。

とくに日本ではキャリアを見据えた教育が充実しているとは言えず、本当の意味での自立心を養う機会は限られているように感じます。年を重ねるにつれて、キャリア教育の必要性を強く感じるようになりました。

教育の機会格差を是正し、自立するきっかけを創る」というBeyond cafeの思想にもつながる思いです。

自分の人生というストーリーを俯瞰して考える! キャリア教育への思い

教育への想いを抱き、新卒で就職したのは、ITを用いた教育企業。eラーニングなどを活用して、きめ細かい個別指導を行っていました。事業内容は非常に魅力的なもので、教育には教師教材教室の3方向からアプローチできると学びました。これらをより良いものにすることで、教育の質を高めることができると。

一方で「何を教えるか」についても、自分自身に深く問い直しました。日本ではHOW(どのように)やWHAT(何を)の部分についてはさまざまな内容を伝えているけれど、WHY(なぜ)について掘り下げる教育はなされていないのではないか。

とくにキャリアという観点では、どうやって仕事に就くかどうやってお金を稼ぐかの方策や道順はフォローされていても、なぜそのキャリアを歩むのかについては、考えを深める機会がないと感じたんです。たとえば海外であれば、宗教と結びついて生きる意味・働く意味を問い直す教育もあるのだと思います。しかし、日本では皆無に近いでしょう。

キャリアを考えるうえでの道筋

  • ジョブ(JOB)ー お金のための仕事

  • キャリア(CARRIER)ー 成長・発展を感じる仕事

  • コーリング(CALLING)ー 自分の天職・使命

たとえば、単にお金のために働くのは「ジョブ」、アルバイトなどもこうした形の仕事と言えます。アルバイトも続けていけば、成長を感じ、さらなる発展を目指していくこともあるでしょう。この道筋が「キャリア」です。一方で仕事自体が目的と直結している、自分のあり方が仕事として表現されているものを、英語では「コーリング」と呼びます。日本語にするなら、天職・使命といったところでしょうか。

なぜ、何のために働くのかを考え学んでいくことで、生きる意味を見出せるー。それがキャリア教育だと考え、独立し、Beyond cafeを立ち上げました。

私がキャリアを考える指針にしているのが、映画です。自分の人生が映画だったら、どんな起承転結なのか、今ストーリーのどのあたりにいるのかを考えます。ですから就職活動の最初の一歩も、あなたの約22年の人生を振り返り、ストーリーとして俯瞰することから始めてほしいんです。

自己分析とよく言われますが、自分の長所や短所をコンパクトに把握するだけでは足りないんですよね。自分はどんな経験をして、どう感じて、どう動いてきたのか。大したことはやってないと自己解釈している人でも、自分にしかない人生を積み重ねてきたはずです。

友人や知人に話をしてみてもいいかもしれません。アインシュタインが「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションでしかない」と言っていますが、自分では普通だと思っていることも、案外特別な出来事だったりするものです。

客観的な視点が入ることで、自分の人生の独自性を改めて発見できると思います。そしてようやく、その22年の伏線を回収するストーリーを展望できるのです。

自分だけが紡ぐストーリーに誇りを

自分だけの唯一無二のバックグラウンドや経験を振り返れば、伏線を回収しながらより面白くなるストーリーを描くことができます。自分の人生が映画として面白いか、もっと面白くなるにはどんな道があるのか。

映画ではなく漫画で考えても良いでしょう。ちなみに私は少年漫画が大好きで、週刊少年ジャンプで連載されていた『バクマン。』が愛読書です。

読み返しては漫画に熱くなり、乗り越えていくキャラクターの姿に力をもらっています。中学生があれほどの熱量で夢に向かっているんだから、自分だって頑張らなければと、単純に熱くなっちゃうんですよね(笑)。

自分だけのストーリーを意識すると、他の人が選択しない道が見えてくることもあるでしょう。迷った時は、あえて皆が選択しない道を選んできました。それでも我慢強く取り組んでいけば、いつかは成功できます。どんな選択も諦めなければ、正解になるんです。さまざまな価値観の中に埋もれない、自分だけの選択を歩むのも悪くないですよ

たとえば私自身は、大学生でありながら訪問販売の営業担当として働いて実力を培ったり、バックパッカーとしてタイからシンガポールへ縦断したり、自分だけの選択を歩んできました。そこで得られた経験や知見は一つも無駄にならずに、自分の力になっています。

辛い時期はレベルアップのための修行と捉えて

人生は上手くいかないことも多々あります。それでも大変であればあるほど、その後の映画の展開は盛り上がりますよね。これまでの人生でしんどいと感じた時は、盛り上がりの前フリだと思って、もしくは主人公が修行している期間だと思ってきました。どうしても少年漫画脳なので、こうなってしまいます(笑)。

会社を創業した当時は25歳。自分で事業をコントロールしたい責任を持って実行していきたいという想いから独立し、夢や理念は溢れるほどありましたが、理想と現実は大きく乖離しており、上手くいかないことばかりでした。

週6日会社に泊まり込んで仕事をしても課題が山積するばかりで、涙が出てくることもありました。しかし、自分の未熟さを認識していたので、ひたすらレベルアップに努めました。自分で自分を諦めることだけはしたくなかったんです。原点に立ち返り、自分がやりたいことを何度も見つめ直しました。その度に大きなモチベーションを得ることもできました。

昨今はさまざまなメディアやSNSなどで大量の情報を得て、色々な人と繋がったり、比較したり。アイデンティティが揺らぎやすくなるからこそ、ありのままで無理をしないことが良いと言われがちです。ほどほどの幸せや手に入る成功、今のままの自己肯定を目指す風潮です。しかし、仕事における自己実現を目指して努力を重ねれば、人生は豊かなものになります。面白くなります。

全国優勝を目指して全力で部活に取り組んでも、優勝できるチームは一つですし、全員がその競技のプロになれるわけでもない。だから部活で努力するのは意味がない。そう思いますか。努力している本人たちに「なんでそんなに頑張るの? 」と聞いたら「優勝したいから」「面白いから」と答えるはずです。そして努力の時間や経験は、確実に人生を豊かにしているはずです。

もちろん折れそうな時には、少し休みましょう。映画、漫画、音楽、恋人、家族――。心を支えてくれるものがあれば、また前に進むことができると思います。

感情を共有することができる仲間と共に働こう

自分の欲求に正直に、自分の人生を映画だと考えてキャリアを進めていくとしても、ずっと1人で生きていくわけではありません。人間は1人で生きていけません。1人で仕事はできないのです。

だからこそ誰かに応援される選択をしたいと思っています。誰かに応援されるというのは、自分の仕事によって誰かが幸せになり、一緒に働く仲間にも喜んでもらうということです。

Beyond cafeで言えば、多くの若者がキャリアに向き合い、変化し成長できることがミッションですから、我々のサービスを利用してくださった若者が幸せにキャリアを築いていることが大切です。

創業からまだそう長い時間は経過していませんが、そう感じられる反響も多くありました。一緒に働く社員も少数精鋭で頑張っており、皆が充実した実感を持って働けているのではないかと、手前味噌ではありますが感じています。

就活生、転職活動中の方がどうしたら一緒に喜び合えるチームで働けるか。他人をコントロールすることはできないので難しい問題ですが、「裏切られても働きたい仲間」かどうかを自分の心に聞いてみることが有効だと思います。自分が望んだ結果が出なくても、この会社・チームでやっていきたいと思うかを、自分自身に問うのです。

今、あなたが気になっている企業が巨大な企業でないのであれば、経営者と考え方が合うかも重要です。経営者にボスの器があるのか、周囲の人から話を聞くのはもちろん、できれば直接本人と会話をして自分なりにジャッジしてみてもよいのでは。新人だからといって尻込みする必要はないと思います。

また、自分の許容範囲を意識するのもよいでしょう。許せることと許せないことを挙げてみて、許容範囲を超えるような環境の会社や職場であれば、そこを去るのも一考です。会社の姿勢チームのカルチャーに違和感を感じながら働き続けるのは、苦痛でしょう。

キャリアを選び、コーリング(天職・使命)へと高めていくのは、自分自身です。仲間をもとめ、応援される選択を重ねながら、それでも自分で決めたという誇りを持ち続けてほしいです。どんな選択も正解です。正解にするのがキャリアなんです。

取材・執筆:鈴木満優子

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