性格は変えられなくても行動は変えられる|与えられた環境で最大限努力してみよう!
ハートビーツ 代表取締役 藤崎 正範さん
Masanori Fujisaki・福岡県北九州市出身。高校卒業後、電気通信大学に入学。大学在学中に運用管理のアルバイトを始めたことをきっかけにITインフラサーバ業界に入る。2年間のフリーのインフラサーバエンジニアを経て、2005年ハートビーツを設立し、現職
まだ長期的なビジョンはなくても、まずは目の前のことに一生懸命取り組んでみよう
大学在学中にハートビーツという会社を起業しました。今でこそ経営者として活動していますが、大学に入るまで3浪していて、挙句の果てに学部を10年もかけて卒業したという、なかなか他の方にはおすすめしない経歴となっています。
3浪もしてしまったのは、医者になろうと国立の医学部を目指していたからですが、残念ながら2年目でも合格することはできませんでした。浪人3年目は、友人が組み立ててくれたパソコンでインターネットを閲覧する毎日を過ごしました。
そんな浪人中に古本屋で出会ったのが、外山滋比古氏の『思考の整理学』という本です。もともと本は好きだったので、ネット漬けの毎日でも読書だけはしていました。古本屋でたまたま手にしたあの本との出会いの瞬間は、今でもはっきりと覚えています。
偶然の出会いが思いがけず幸運につながるセレンディピティという言葉を知りました。そして、偶然を楽しんだ結果、思いがけず目の前にチャンスが現れたとしても、即チャレンジしないとチャンスは逃げていってしまう。「幸運の女神には前髪しかない」ということですね。
以降、現在に至るまで一貫して、その考え方が私の人生の指針となっています。
私が働きだした頃は、長期的なビジョンや戦略と呼べるようなものは何もありませんでしたが、意識して目の前のことに一生懸命取り組もうと努力してきました。皆さんも、今目の前のことにぜひ全力を尽くしてほしいと思います。そうすると思いがけない出会いやチャンスが出てくるかもしれません。
サーバ保守のアルバイトと偶然出会い、ITインフラ業界へのめり込んでいくことに
3浪してしまった私は医者になるのは諦め、東京のIT系の大学に進もうと考えるようになりました。理由は、東京に出て一度すべてを一人でやろうと思ったこと、IT系を選んだのはもともと中学生の頃からパソコンが好きで慣れ親しんできたからです。
そうして「東京にあるIT系の国立大学+夜間の大学」という条件のもとで大学を探し、電気通信大学に入学する運びとなりました。
上京して、まず食べるため、学費を稼ぐためにアルバイト先を探していたところ、たまたま友人の紹介でサーバ保守運用の仕事をはじめたというのが、私がITインフラ業界に身を置くこととなったきっかけです。
その仕事を通じて最初に感じた喜びは、何らかの原因で止まったシステムを復旧できたという本当に小さな喜びだったと思います。
そこからさらに、復旧させたことを喜んで感謝してくれる人がいるという喜び、さらにはそのシステムの機能を使っているユーザーの役に立っているという喜びを感じられることがこの仕事の大きな魅力でした。ポジションの領域を超えて責任ある仕事をまかされるようになり、大きなやりがいを感じながらさまざまなことに取り組んでいくことができました。
ある時、「個人で仕事を受けてくれないか」という依頼があり、大学3年の終わりには個人事業主として活動するようになりました。有難いことに依頼は多く、昼夜問わず働いていました。
毎日3時間! 独自の勉強法を続けて実践的スキルアップ
目の前のことには全力を尽くすことを自分なりの指針とし、スキルを獲得するために1日3時間の勉強を続けていました。
朝6時から9時は勉強の時間にあてて、仕事に直結する技術を優先的に習得しました。仕事先に向かう往復の通勤時間に、パソコンと本を開いて勉強することもよくありました。
今はインターネットを検索すればさまざまな情報が出てくる時代ですが、やはり専門書の内容には到底およびません。体系立てた知識を得るには専門書が一番ですから、私自身そこにはお金を惜しみませんでしたし、やはり何かを極めたいのであれば一分野ごとに何冊かの専門書を開くことをおすすめします。
個人事業主として働き始めてからも、ありがたいことに口コミだけでどんどん仕事をいただき、個人事業主2年目にはかなりの額を稼ぐようになっていました。
その頃から、徐々に人出が足りなくなり、「自分の会社を設立するか? 」という考えが頭をよぎり始めました。
顧客を大切にしたい。起業を決断できたのは「絶対投げ出さないぞ」と腹をくくれたから
サーバ保守の仕事で順調にキャリアを築いてきた私でしたが、一つだけ苦い経験があって、それはこれまでに一度だけ仕事を途中で投げ出したことです。理由はどうであれ、コミットしていた仕事を途中で辞めるという選択をしたのは自分でした。
会社の立ち上げを手伝った経験もあるし、個人事業主としてすでに顧客も付いてくれている。口コミでどんどんお仕事をいただいている状態だったので自信はありました。しかし、「会社を経営すると絶対大変なことがあるだろう。大変なことがあったときにまた投げ出してしまうのではないか? 」と考え、すんなりと起業を決心できませんでした。
そんな悩みを抱えながら、私は自分の抱えている悩みは一切話さず、お酒を飲みながらとにかくさまざまな方からお話を聞かせてもらっていました。すると、その中のお一人に「お客さんを全部断って、うちに来ないか」と誘っていただきました。
そのとき、不思議にも「申し訳ありません、それはできません」と即答している自分がいたのです。
この一件を受け、「今私が食べることができているのは、私に仕事を依頼してくださっているお客さんのおかげ。お客さんを切り捨てることなんてできない。恩を仇で返すようなことは絶対にしたくない」と自分の気持ちに気づくことができました。
その後、「よし、何があっても俺は絶対に投げ出さないぞ」と自分の中で腹をくくり、起業に踏み切ることを決意。大学6年目のタイミングでハートビーツを設立し、起業を果たしました。
キャリアを選択していくうえで誰しも迷うことはあると思いますが、「決断する」ということが大事だと今も強く思います。決断の仕方や理由は人それぞれだと思っています。自分の中でしっかりと心の整理をして最後にしっかりと「決断する」ことが一番重要だと考えています。
積極的に人に話を聞きに行き「成長の道筋」をイメージすることが大事
就職活動を進めるうえでは、社会の仕組み、その業界の仕組みを勉強して知ったうえで、その業界で自分が成長していけるか、「成長の道筋」をイメージできるかを意識してほしいと思います。
そのためにとるべき、おすすめのアクションを紹介します。
まず、いろいろな人に話を聞きに会いに行くことです。良いところも大変なところもしっかり見聞きして、業界をリアルにイメージできるようになることです。とくにIT業界であれば、オンライン上にさまざまな情報もあるはずです。オンライン面談などが気軽にできる環境も整備されているので、業界の人にたくさん話を聞くチャンスが溢れています。
そのうえで、自分自身がそこで成長していけるかをイメージしたときに、「成長の道筋」がしっかりと描けるかどうか。その業界、会社の中で進んでいきたい方向性だけでもイメージできるかどうかをよく見極めてほしいと思います。
たくさんの人に話を聞きに行ってもらいたいですが、必ずしっかりと事前準備をしてから臨むこと。業界のリアルな姿をイメージできるようになるために話を聞くのですから、漠然と上っ面の話を聞くだけでは意味がありません。調べられる範囲のことはしっかりと自分で勉強し、自分が何を聞きたいか改めて整理したうえで話を聞くようにしてください。
就職活動でやってほしいこと
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興味のある分野、業界のことを勉強する
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事前準備をおこない、聞きたいことを整理する
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いろいろな人に話を聞きにいき、業界をリアルにイメージできる状態にする
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その業界、その会社で成長していけるか、「成長の道筋」を描いてみる
業界をリアルにイメージできるということは、その業界や会社がもとめている人材像の理解にもつながっていくということも知っておいてほしいです。
もとめる人材像は、業界によって違ってきます。対話する中で、その会社、業界はどんな人材をもとめているかのわずかなヒントでも拾ってくることがとても大切です。
コツをつかめば誰でもコミュニケーション上手になれる
私自身も、面接で学生と話すことがよくあります。漠然と通り一遍の質問をしているだけの場合、こちらもすぐにわかるものです。
「一緒に働きたいな」と思うのは、やはり勉強している人です。そして、初対面のオンライン面談であっても、スムーズに会話のキャッチボールができ、コミュニケーションが丁寧な方です。
なかなか信じてもらえないのですが、私自身とても口下手な人間ですが、会話の中から何かしらの糸口を見つけようと必死になって考え、何か一つつかんだら、そこから一生懸命想像して会話を進めようと努力しています。
コミュニケーションは相手を大切に想う気持ちやテクニックの部分でなんとか乗り越えられるということです。ゴールに辿り着くためにはどういうコミュニケーションをとったら良いかを考え続けることでコツが掴めると思います。
コミュニケーションが上手になる方法
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相手を大切に想って会話する
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何らかの糸口をつかんで想像しながら会話を進める
ゴールを目指すということは、私は理想に向かって進んでいくということだと捉えています。理想に近づいていこうとする活動って、つまりは誇りをもって活動するということではないでしょうか?
どうか誇りをもって自分の目指すゴールに近づいていってほしいなと思っています。
この先、もとめられるのは「自走できる人」
これからの時代、社会で活躍できるのは「自走できる人」であると考えています。
「自走できる人」とは、自分なりに考えて、自分なりの意見をもって自ら行動できる人です。
社会に出れば、リーダーになるときもあれば、フォロワーの立場になることもあるはずです。そのときのポジション・役割の中で、最大限努力してゴールに辿り着こうとする力のある人がもとめられています。
情報格差というのは往々にしてあると思います。立場によって情報が集まりやすい人と集まりにくい人がいるのは確かです。でも、「行動力」と「勇気」があれば、そのギャップは簡単に埋められます。成功やゴールという目標を達成するために、その立場なりにできることを考えて行動を起こすことが大事になってきます。
積極的に行動できる人もいれば、どちらかというと消極的な人、引っ込み思案な人もいるはずです。「ちょっと恥ずかしいな」「私が行くのは立場的に違うかな」というような自尊心はいったん脇に置いて、目標を達成することにこだわって行動できるか。その「行動力」と「勇気」が問われる時代になってきています。
性格は変えられないと思います。でも、行動は変えられます。
今、目の前のことに一生懸命取り組み、自分なりに考えて目標に向かって行動してほしいと思っています。
学生時代にはインターン・アルバイト経験を通して、体験と想像の機会を増やそう
学生時代には学業に手を抜かずに取り組むだけでなく、できれば自分が興味を持っている業種でのインターンやアルバイトに挑戦してほしいです。いろいろなものに触れて、よく観察すること。1つ体験をしたなら、そこから10の想像をしてみてください。そういう体験を増やしていってほしいと思います。
私自身は、偶然出会ったアルバイト経験をきっかけにIT業界にのめり込み、起業へと進みました。就職活動の経験はありませんが、就職活動は間違いなく成長のチャンスです。大変かもしれませんが、大変なことを楽しめる人間は強い。些細な興味で良いので興味のある業種の方に会いに行って話を聞き、ぜひ楽しみながら成長につなげてほしいと願っています。
最後の決め手は、その会社の理念やビジョンに共感できるかです。ただ、自分の方向性と会社の方向性が本当に一致しているかどうかは、実際に入ってみないとわからないのも事実。むしろ「ピッタリの会社だった」ということの方が稀です。
少しズレがある中でも重なっている共通部分を一生懸命見つけ出し、その共通部分を大切にしつつ働いていくことが、大事なのではないかと思っています。
取材・執筆:小内三奈